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今季は五輪、世界選手権のない4年に1度のシーズンで、選手たちにとって、W杯の総合優勝だけが、唯一最大のタイトルとなった。 予定より3戦少ない全10戦が開催され、ペリーヌ・ラフォン(FRA)とミカエル・キングズベリー(CAN)の二強が順当に総合優勝を果たした。ルーキー・川村あんり(JPN)の台頭以外は大きなサプライズはなく、ランキング上位選手の顔ぶれは、ここ数シーズンとそれほど変わらなかった。ただし、ベテラン選手の何人かに、さすがにピークを過ぎた感が出てきおり、それがランキングにも反映されている。さて今回は、2つのテーマでそんな'20シーズンをプレイバックしてみたい。
ラフォンはエアのレベルアップもあり、他選手を寄せ付けず独走を果たした
絶対王者が狙うのは、実は“過去に達成者がいる”W杯10連覇
ひとつ目のテーマは、キングズベリーのW杯総合9連覇という偉大なる記録である。 モーグルのW杯で9年連続総合優勝というのはもちろん世界新記録だ。今後も簡単には破られるとは思えないスーパー大偉業である。だが、フリースタイルスキー全体に枠を広げると、過去に前例があるばかりではなく、なんと10連覇という記録もあるのだ。
フリースタイルW杯の初期は、モーグル、エアリアル、アクロ(バレエ)、そしてこの3種目の総合点を争うコンバインドの4種目があった。また、それとは別に、いまも残っているオーバーオールのタイトル(全種目の総合点でランキングを決める)も当初からあった。
90年代になると各種目の専門化が進み、コンバインドはなくなったが(男子は'97季、女子は'95季まで)、それまでは1人の選手がモーグル、エアリアル、アクロの3つをこなすケースが珍しくなかったのだ。コンバインドの最後の選手のひとりが、長野五輪モーグル金メダリストのジョニー・モズレー(USA)で、彼は'96季まで続けていた。
また一方で、専門化が進む前のオーバーオールは、より多くの種目に出場し、それぞれで好成績を残した選手がおのずとランキング上位に入ることになった。こうしたことから、そんな時代に、コンバインドで9連覇、オーバーオールで10連覇を果たした女子選手がいたのだ。
その名もコニー・キスリング(SUI)。81季からW杯に出場していた彼女は単一種目で傑出した存在ではなく、総合優勝はアクロで3連覇したのみ('90~'92季)。その代わりコンバインドが強く、'84季から'92季まで9連覇を果たしているのだ。これに加え、各種目でもたびたび表彰台に上がることでポイントを稼ぎまくり、オーバーオールでは'83季から'93季まで10連覇を達成している。
ただし、当時は女子のフリースタイル選手そのものが少なく、ましてコンバインドは一大会にエントリーするのが5選手に満たないケースが多かった。キスリングが偉大なるレコードホルダーであることは間違いないが、毎回50選手以上が出場する大会で勝ち続けているキングズベリーの記録と比べることに違和感が残るのもまた事実。記録の重みに差がないと言ったら嘘になるだろう。
いずれにしても、キングズベリーはモーグルだけではなく、オーバーオールでも9連覇を果たしており、来季はモーグル10連覇で世界新記録を更新、オーバーオール10連覇で世界タイ記録の達成を目指すことになる。
キングズベリーはW杯通算優勝回数の記録も更新中。第10戦で63勝となった
日本チーム女子は切磋琢磨で大躍進も、堀島以外の男子に不安が残る
次なるテーマは、今季の日本チームである。
まず、特筆すべきは女子の大躍進だ。最高位2位、総合7位でルーキー・オブ・ザ・イヤーに輝いた川村あんり、秋田たざわ湖で表彰台に上がった星野純子、総合8位の住吉輝紗良、さらには冨高日向子、伊原遥香、柳本理乃と全6選手が一度は6位以内の入っているのだ。
平昌五輪の代表権を1選手しか得られなかった2シーズン前が嘘のような驚くべき結果だと言える。チームメイト同士が刺激しあい全体のレベルアップが図られるという理想的な環境になっている。女子のチームトータルのポイントは817点とカナダ(688点)を上回り、アメリカ(926点)、フランス(896点)に続く3位なのだから見事と言うほかない。
こうなってくると、俄然面白くなってくるのが来季以降の北京五輪の代表枠争だろう。まだなにも発表されていないが、過去の例で考えると、来季のW杯、世界選手権、'22季のW杯序盤戦が北京五輪代表選考の対象レースとなることが予想される。平昌五輪の際に設定された基準は、「8位以内を1回以内」「10位以内を2回以上」「12位以内を3回以上」であったが、いまの日本チーム女子には、それを楽々とクリアしそうな選手が少なくとも枠(最大4)の数より多いのだ。
MOでスーパーファイナルに1度、DMでセミファイナルに2度進出した住吉
一方、男子はどうだったか? 堀島は2シーズン連続総合2位、優勝3回と誇るべき結果を残した。今季はこれまでより失敗の数が減り、高い確率で表彰台に上がり続けた。明らかにシーズンを追うごとに進化を遂げている。キングズベリーにどんどん迫っている。しかし、迫れば迫るほど、その差が浮き彫りのなっている印象もある。
今季、少ないながらも堀島には上位に入れなかったレースが数戦あり、予選落ちでポイントゼロだったこともあった。その点、キングズベリーは優勝できなかった3レースで、必ず2位に入り80点を確実に獲得している。これこそが2人のなかなか埋まらない差なのである。堀島は、男子ではキングズベリーだけが持つ“完全無欠の安定性”を手に入れるべく、これからのオフシーズンを過ごすことになるのだろう。
一方、気になるのは他の男子選手の低迷だ。序盤戦でルーキーの松田颯がスーパーファイナルに進出するなど目立ったが、年明けの北米ラウンド以降は一気に失速。以後、再浮上することはなく、総合23位に留まった。藤木豪心は負傷でシーズン途中で戦線離脱。杉本幸祐が自己ベストのリザルトを残すなど健闘したが、総合では20位と堀島との差は大きい。
日本チーム男子にとって残る頼みの綱は、セカンドキャリアを視野に日本競輪選手養成所に通い、今季は欠場していた原大智だ。養成所の卒業が決まった原は、来季はモーグル選手としての活動の意志を示している。果たして、1年のブランクをどこまで埋められるか?
さて、ご愛読いただいた当コラムはこれにて終了。来季は、通常通りにW杯が開催されることを願いつつフィニッシュとしたい。
全日本選手権ではMO、DMを制覇。日本のモーグル界を牽引する堀島
SNOW JAPANの総合順位
▶女子
7 川村あんり |
8 住吉輝紗良 |
11 星野純子 |
12 冨高日向子 |
17 伊原遥香 |
22 伊藤さつき |
29 柳本理乃 |
44 梶原有希 |
49 福嶌春花 |
▶男子
2 堀島行真 |
20 杉本幸祐 |
23 松田颯 |
37 四方元幾 |
38 藤木豪心 |
51 西沢岳人 |
52 村田優太郎 |
STEEP
スキー・スノーボードの本質を追いかけるWEBメディア。90年代からフリースタイルスキーを追う編集部による、モーグルW杯の見どころを紹介。サイトでは様々な情報を更新中。https://steep.jp/
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