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「ついにやったぞ、伊藤みき!」
すでに多くのメディアで報道された通り、W杯第9戦猪苗代大会デュアルで伊藤みきが初優勝を果たした。里谷多英、上村愛子に次ぐ日本女子3人目。男子では坂本豪大、附田雄剛しか達成していない。いわゆる長野五輪出場組でない選手による初の世界制覇であり、日本モーグル界が待ちに待ったものであった。今回は、里谷と附田の引退セレモニーが行われた直後の出来事だっただけに、単なる偶然ではない因縁的なものを感じさせる。
伊藤は現在25歳。W杯参戦80戦目の快挙だった。
W杯初参戦は'04季猪苗代大会で16歳だった。本格参戦を始めたのは'06季から。総合18位の結果を残し、18歳でトリノ五輪出場も果たした。'08季からはファイナル進出の常連になり、'09季最終戦ノルウェー・ヴォス大会で3位と、W杯初表彰台を達成する。そして、その勢いで挑んだ世界選手権猪苗代大会では、シングル4位、デュアル2位という大活躍を見せたのだった。デビュー以来、急上昇ではないが常に右肩上がりで、世界のメダリストになった。
ところが'10季バンクーバー五輪はシーズン前の怪我などが影響し、12位に留まる。'11季も予選落ちを多く味わう苦しい戦いだった。
再浮上は'12季からだ。最終戦でW杯自己最高の2位を記録するなど表彰台2回。特にデュアル戦において、女王ハナ・カーニー(アメリカ)に2度も勝ったことが光った。
そして今季、上位争いを続けついに優勝。今回はW杯ランク1位のジャスティン・デュフォーラポイント(カナダ)を準々決勝で撃破しての快進撃だった。
常に自分の滑りを出来る安定感に加え、今季は「ウェアのサイズを変えるほど筋力アップした」と力強さが備わった。さらに表彰台に乗る機会も増えると思われる。
また猪苗代大会は、伊藤みき以外の日本勢も奮闘した。シングル戦予選で1位村田愛里咲、2位上村愛子、13位市村美樹、14位星野純子、15位岩本憧子と5人が予選突破。特に村田は非常に難しい第1エアでバックフルを使用した上、タイムも27~28秒の選手が多い中、ただ1人25秒台という圧倒的なスピードを計測。予選1位に加え、ファイナル1でも2位の快走だった。ファイナル2(スーパーファイナル)では転倒し、最終順位は6位だったが、近いうちの優勝を予感させる内容だった。
日本勢活躍の中、ハナ・カーニーはまたしても猪苗代での勝利はならなかった。シングルでもデュアルでも第一エア着地ではじかれ、優勝を逃したのだ。デュアルでこそ3位だったものの、'04季の初来日以来9戦出場して勝ち星なし。前回コラムで予想していたが、W杯屈指の急斜面、リステルスキーファンタジア・ダフィーコースはやはり女王にとって鬼門のようだ。
男子も、急斜面の攻略はやはりなかなか苦労していたようだったが、むしろそれが見せ場だった。
シングル戦で優勝したミカエル・キングスべリー(カナダ)は、ミドルセクションで暴走気味になったターンをぎりぎりで抑え、第2エアを予定していたコーク1080からコーク720にとっさに切り替えた。その緊迫感は、手に汗握るものだった。
シングル3位、デュアル2位のアレックス・ビロドウ(カナダ)は、急斜面でミスは見せたが、それ以上にスピードが度肝を抜いた。
そんな中、うまく難斜面を攻略していたのが、ブラッドレイ・ウィルソン(アメリカ)であり、シングルで自身初の表彰台、デュアルで初優勝を果たした。男子では難斜面ダフィーコースとの戦いに、モーグル本来の持つ迫力を満喫できた大会となった。
さて、そんな難しさから猪苗代の大会バーンは、今や世界に知られる名物バーンとなっている。前半は斜度が35度前後もある難斜面であることに加え、'88季からW杯が行われている伝統バーン。
そんなバーンをアレックスは
「アルペン競技における名物コース、キッツビューエル(オーストリア)のようなもの」
と評している。
今回は付随コラムとして、名物モーグルW杯会場の話を加えておこう。
最近のモーグルW杯のレギュラー会場には、ルカ(フィンランド)、レイクプラシッド(アメリカ)、ディアバレー(アメリカ)などが挙げられる。
そして、3月に世界選手権が開催されるノルウェー・ヴォス、W杯第10&11戦のスウェーデン・オーレ、最終戦のスペイン・シェラネバダが、これまた個性あふれる会場だ。
ヴォスは、ソルトレーク五輪で金メダルをはじめ五輪メダルのすべてを持つ、カーリー・トゥローの故郷。フィヨルド観光の中継地になるレイクサイドリゾートであり、最近はスカイダイビングなどエクストリームスポーツのメッカだ。
オーレは、北欧最大のスキーエリア。湖に向かって滑る爽快なコース設定が特徴。ノルウェー国境とも遠くない山間部ながら、麓のタウンが栄える華やかなリゾートだ。
シェラネバダは、一見スキーとは無縁に思われる情熱の国、スペイン・アンダルシアのスキー場。車で1時間の麓の町グラナダは、日本でもよく知られるフラメンコのメッカだ。W杯コースから少しのぼった山頂からは、視界が良ければモロッコ、つまりアフリカも望める環境でもある。
3月の世界選手権&W杯のモーグル3会場は以上の場所であり、いかにさまざまな場所が舞台になっていることがわかっていただけただろうか?こんな意味でも、W杯放送を楽しみにしてほしい。
そしてその中でも、最も気になるのは2年に一度のビッグイベント、世界選手権が行われるヴォスはどんなコースになるかだが…。
前回ヴォスで行われた'11季W杯は、長さ245m、平均斜度27度だった。きれいな一枚バーンであり、今回も高速バトルが予想される。となると、キングとクイーンにアドバンテージがあるか!?いや、'09季W杯では上村愛子が優勝し、伊藤みきが初表彰台に立った場所であり、日本勢にも縁起がいい。
ちなみに前回ギルボー・コラ(フランス)が勝った以外、最近シングル戦では男女通じてW杯ランキング1位の選手が勝てないというジンクスはある。何が起こるかわからないのが、世界選手権である。
STEEP
スキー・スノーボードの本質を追いかけるWEBメディア。90年代からフリースタイルスキーを追う編集部による、モーグルW杯の見どころを紹介。サイトでは様々な情報を更新中。https://steep.jp/
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