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10戦中優勝は8回、2位が2回。
今季のW杯男子は、ミカエル・キングスバリー(カナダ)が圧倒的な強さを発揮し、3戦を残してW杯総合優勝を決めた。かつてここまで1人勝ちをしたシーズンはなかったはずだ。19歳という若さで、史上初の快挙をなし得ている最中と言っていい。早くも2014年ロシア・ソチ五輪の金メダルまでも…といった雰囲気である。
どのスポーツでも、その競技のレベルや質をも変えてしまう革命児がときおり現れる。ミカエル、通称ミックは、確実にそのひとりと考えられる。
そこで、今回のコラムではこれまでの革命児的な存在の選手にスポットを当ててみたいと思う。
モーグル界最大のヒーローであり、’90年前後に抜きんでた力を発揮したのがエドガー・グロスピロン(フランス)だ。他の誰よりも次元の違うスピードでモーグルを高速化させ、ダフィー・ツイスター・スプレッドなど当時最高難度だったトリプルエアをとてつもない勢いで飛んだ。「誰よりも速く、誰よりも高く」というスタイルで、’92アルベールビル五輪金メダル、世界選手権優勝3度、W杯総合優勝4度、W杯通算28勝など、いまだ誰も超えていない記録を残している。
「これぞ型破り」な選手と言えばジョニー・モズレー(アメリカ)だ。彼はルールまでも変えてしまう男。’98長野五輪、当時加点要素ではなく、フォームの乱れとも判断されかねなかったグラブ(スキーを手でつかむ)をトリックに加えた「ミュートグラブ360」を大舞台で披露し、見事に金メダルを獲得。長野五輪後、グラブは加点要素としてルール化された。
その4年後。’02ソルトレークシティ五輪では、なんとロデオ720を飛んで見せる。当時、オフアクシス(体軸を傾ける)エアは採点基準になく、頭がスキーより下になるジャンプはルールとして認められなかった。それを、体軸を水平まで傾けるというぎりぎりの線でチャレンジ。結果は4位とメダルこそ届かなかったものの、自国開催五輪を最高に盛り上げた。そして、これまた後に、頭がスキーより下になるジャンプが認められというエアのルール大改革の引き金になったのだ。
’06季には、まだW杯出場経験のない男が、突如トリノ五輪金メダル候補として現れた。18歳だったアレキサンダー・ビロドウ(カナダ)、通称、アレックスだ。この男、現在でも最高難度のエアと言われるダブルフル(後方伸身1回転2回捻り)を武器に、コーク1080とセットで飛ぶことがすでに各国のコーチや選手の間に知れ渡っていた。驚異の新人としてシーンに登場したアレックスは、W杯出場3戦目で早くも優勝。「モーグルでダブルフルを飛ぶ男」として、新時代の幕を開けた。以降、コーク1080の完成度などに難がありやや伸び悩むが、決め技をダブルフルとバックフリップに切り替え、ターンに磨きをかけた’09季にW杯総合優勝。翌’10季は、バンクーバー五輪でカナダ初の自国開催五輪での金メダリストとなり、英雄となった。
モーグルW杯の歴史の中で、大きな変化を生みだした革命児として、以上の3人を挙げてみた。わずか20数年で、まるで違うスポーツかの如く、モーグルは進化を重ねてきた。そしてその最先端、ダブルフルやコーク1080など超高難度のトリックを、完璧に操ることでミックはいまや負けない選手となっているわけである。
ただし新王者も、完全にトップに立った気分ではないだろう。今季はスポット参戦にとどめ、充電の上、ソチ五輪を目指すアレックスは、今後最大のライバルとなる。’11季W杯&世界選手権王者、ギルボー・コラ(フランス)も、ケガからの復活があるはずだ。
今季はミックの完全独走になったW杯。しかし、復帰するであろう2人と新王者の力関係はこの先どうなるのか?今から興味津々だ。ソチ五輪まで続く見込みの三強物語。今後ますます白熱し面白くなっていくはずだ。
STEEP
スキー・スノーボードの本質を追いかけるWEBメディア。90年代からフリースタイルスキーを追う編集部による、モーグルW杯の見どころを紹介。サイトでは様々な情報を更新中。https://steep.jp/
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