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フィギュアスケート2018-19シーズンに向けて、J SPORTSでおなじみ田村岳斗コーチにインタビュー。4年後の2022年北京オリンピックに向けた最初のシーズン。コーチとしての意気込みやルール改正のポイントや橋大輔選手の競技復活までお伺いしました。
Q いよいよ2018-19シーズンが始まります。今シーズンは、オリンピック後1年目のシーズンとなりますが、4年後も見据えた上で、コーチとしてどのような気持ちで臨みますか?
オリンピックは目標の一つですが、そこだけを見ているわけではありません。選手は試合ごとに戦いがあり、出る試合ひとつひとつをしっかりと戦っていくのみです。
選手たちは近畿ブロック、中四国九州ブロック、西日本、全日本ノービス、全日本ジュニア、全日本選手権といった大会を目指していますし、代表レベルの選手なら、世界選手権や世界ジュニア、四大陸選手権、グランプリシリーズ、グランプリファイナル、チャレンジシリーズもあります。日本のフィギュアスケートのレベルは高いので、ちょっとでも気を抜いたら順位があっという間に下がります。
代表になるどころか、各カテゴリーの全日本まで進むだけでも大変です。4年間あるからといって、気を抜くことはできません。
Q 今シーズンからルールが変更になりました。多くの変更点がありましたが、どんな印象を持ちましたか?
大きな変更点としては、男子のフリーの演技時間が4分30秒から30秒短くなって4分になったことと、8つのジャンプが1つ減って7つになったことです。選手が楽になると普通なら考えるかもしれませんが、僕は逆にきつくなるのかなという印象です。ジャンプが1本減ったら、結局削るジャンプはいちばん得点の低い簡単なジャンプになると思います。これまでの1/8が1/7になった分、失敗してはいけないというプレッシャーも増えるでしょう。ジャンプ1本跳ぶのに30秒もかからないので、つなぎの部分で体力を回復する時間も減るうえに、プログラムはより高いクオリティを求められることになると思います。密度の高いプログラムを観られますが、選手はかなり大変です。
また、一つのエレメンツの出来栄え評価(GOE)の加点減点がこれまでプラス・マイナス3の7段階評価だったのが、プラス·マイナス5の11段階になりました。7段階のときだとプラス3が並ぶとすごいという感覚でしたが、今シーズンはその感覚を捨て、意識を切り替えて評価の内容を見ていかなければいけません。
Q 4回転ジャンプの基礎点が大きく減って、繰り返せる4回転ジャンプが2回から1回になりましたが、それによって戦い方に変化があると思いますか?
基礎点が下がったのは残念ですが、これだけ多くの選手が跳んでくるとコンポーネンツスコアとのバランスをとるためにそうなるのかなと思います。回数制限に関しては影響ないと思います。4回転を跳ぶ選手が減ることはないと思います。今のトップ選手は10年前の選手の3回転と同じぐらいの感覚で4回転を跳んでいます。それに2種類持っている選手はほとんどが3種類、4種類目の4回転を手に入れるつもりでやってくるでしょう。
例えば羽生選手で言えば、平昌オリンピックにこのルールでも彼は勝っていたと思います。彼は質の高いトリプルアクセルが跳べるのにフリーで「2種類まで2回」を4回転で使ってきた。トリプルアクセルは1発。彼のトリプルアクセルは高確率で4回転の基礎点を軽く上回る得点を獲得できるはず。ルールが変わったといっても彼のトリプルアクセルが完璧にきまればGOE +5では足りないぐらいだと僕は思っています。
4回転をすでに3種類以上跳べている選手、1種類の選手に関しては、それほど影響がないでしょうし、4回転以外のところでも安定して高い点を取れるトリプルアクセルの技術は、新しいルールにおいても強いと思います。
Q 女子でもロシアのトゥルソワ選手など4回転を跳ぶ選手が出ていますが、将来的に4回転ジャンプは必要になってくると思いますか?
チャンピオンになるためにはシニアでもいずれは必要になるでしょう。それが4年以内なのか10年後なのかはわかりません。しかしジュニアですでに試合で跳べる選手がいるという前提で、どう戦うかが重要だと思っています。もちろんこっちも大砲は欲しいですが、「練習で跳べた」ぐらいのレベルでは4回転ありきで考えるのではなく、まず現状のエレメンツ、プログラムの完成度を上げていくのが第一条件だと思っています。
ないものを加えていくことも重要ですが、長期間シニアでも使える技にするためにはカラダ作りも含めると時間がかかると思っています。普段の取り組みと並行しながら、トリプルアクセルだったり、4回転だったり、新たなチャレンジをしていければという考え方です。プログラムトータルのバランスを崩してまで組み込む必要があるかはコンディションや試合、その選手のポジションにもよると思います。
Q 今シーズンの男子を語っていただく前に、フィギュアスケート界にとって残念なニュースがありました。デニス・テン選手が不幸な事件でご逝去されました。それについて一言お願いいたします。
こんな事件がなければ、少なくとも10年先まで彼のスケートを見られたかと思うと残念でなりません。あと10分、あと5分ずれていれば... 彼の場合、世界的にもファンが多く、カザフスタンではスケートファンからだけでなく尊敬を集めていました。一見クールに見えますが、彼の印象はとても無邪気で、スケートの技術では、ジャンプ、スケーティングスキル、表現力も含めていろいろなテクニックをバランスよく持っていました。
彼を失ったことは、フィギュアスケート界にとって本当に大きな損失です。彼の分も僕たちは精一杯生きていかなければいけないと強く思いました。この場を借りて、心からご冥福をお祈りいたします。
Q それでは今シーズンの男子についておうかがいします。橋大輔選手の復帰が大きな話題ですが、初めて聞いたときはどんな感想を持ちましたか?
最初に聞いたときは、「なにそれ?」でしたが、ただ、発表する前から、とても熱心に練習していて、ショーの練習にしてはずいぶん競技者寄りにこだわっている部分があると感じていたので、競技者復帰の発表を聞いて、そういうことだったのかと納得しました。
Q 橋大輔選手のチャレンジはとても勇気のいる決断だったと思いますが?
発表があった後、「水くさいぞ!なんで一緒にやろうって誘ってくれなかったの? 」と言ったら、「やります?」と返されました。もちろんやらないけど、誘ってほしかったと、彼には文句を言っておきました(笑)。面倒くさい中年は嫌われるらしいので今後気をつけます(笑)。
僕が競技引退したときのことを思い返すと、辞めた直後は体が動きますし、気持ちも軽くなった事もあり、まだいけるんじゃないかという気持ちになりました。5年ぐらいは別の立場で試合に行っても、自分が出ていたら何位だったか得点を計算したりしていました。今はさすがにもうないですけどね。そういう気持ちは誰にでもあると思いますが、実績のある選手ほどやりにくい事を彼は決断しました。彼がやると言う以上、ぜひ応援したいし、手伝えることがあれば力になりたいと思っています。
Q 橋選手の復帰は、他の選手にも大きな影響を与えそうですね。
彼のように一瞬にしてその場の雰囲気を変えられる影響力があって実績もある選手がブロック予選から出るとなれば、見に来る人も増えて、他の若い選手たちを見てもらう機会にもなります。たくさんの観客が入ることで選手みんなのモチベーションが上がるでしょうし、橋選手は若い選手のお手本にもなります。大会を見て、フィギュアスケートをやりたいという男の子がさらに出てくるかもしれません。その子たちが未来の世界チャンピオン、オリンピックチャンピオンになる可能性もあります。
彼は自分のための復帰と言っていましたが、それでフィギュアスケート界が活気づけばとてもいいことです。結果としてみんなのためになっているような気がします。「自分の思い通りにいくほど簡単な世界ではない事」「過去の実績は一緒に戦ってくれない事」は彼が一番よくわかっているはず。
冷静に考えれば4年のブランク、競技スケーターとしては、けして若くはない32歳。それでも彼はやると決めた。そんな状況でも僕はワクワクしてしまう。どんな結果になっても僕はすでに楽しい。一番影響を受けているのは僕かもしれない(笑)。
Q もし、橋選手が勝ち抜けば、3人のオリンピックメダリストが全日本で見られる可能性がありますね?
おそらく全日本史上初ですね。羽生選手、宇野選手、そこに橋選手が入れば、僕も見たい! 3人ともオリンピック、世界選手権のメダリスト、スターが本気で国内選手権をするような機会はめったにない、というか世界初?3人がケガなく健康な状態で戦う全日本をぜひ見てみたいですね。今回の全日本選手権は順位最優先ではない部分にも注目しています。羽生選手は獲るべきタイトルは全て獲った。モチベーションが下がってもおかしくない状況で4アクセルという目標を自らブチ上げた。これが彼の強さでしょう(健康第一でお願いします)。
橋選手は完全に自分との闘いです。最終組トップ6。彼の実績からすると控えめな目標にみえますが、カラダはおそらくボロボロです。冷静に今の自分を見ている。最終組トップ6には本当に大きな意味があります。あの緊張感の中で自分がどこまでできるのか?6人だけが感じられる雰囲気にもう一度身を置きたい。本当にそれだけなんだと思います。
どんな結果になっても今回の復帰によって少なくとも僕の中で橋大輔というスケーターの評価が下がる事はないです。近くでみているからよくわかるけど、言葉以上の姿勢、取り組みです。スポーツですからもちろん順位はつきますが、高いレベルでのそれぞれの選手の生き様が観られる全日本選手権になると思います。
他にも、今年の世界選手権で大活躍した友野一希選手がいて、オリンピックを経験した田中刑事選手がどのように成長したかも気になります。チームの中村優も、素晴らしい選手たちがいる最終組で戦って欲しい。そうなると、僕の立場だと他の選手の滑りはゆっくり見られなくなってしまうのですが(苦笑)。今シーズンの男子は、見どころがたくさんある戦いになりそうです。
※本文内容と写真は関係ありません。
J SPORTS 編集部
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