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フィギュアスケートの楽しさと教えることの難しさ。それを両立させるためにコーチには何が必要なのか? 長野五輪代表選手を経て、若くして指導者への道を歩んだ田村岳斗コーチにその秘訣を伺いました。
佐々木:改めてコーチになって、選手時代と一番違うことはなんですか?
田村:選手時代にやってしまった事は何年経っても変わらないので、そこはいつも反省ばかり。コーチになってからはだいぶ目と頭を使うようになったかな。
今は選手たちが結果を残してくれているから自信につながっているけれど、自分の考えがすべて一番正しいとは思っていません。世間ではおっさんと言われる歳になったけど、コーチとしてはまだ若造(笑)まだまだやらなければいけない事はいっぱいある。ルールも少しずつ変わっていて、そうした変化に対応しながら、なんとかやっている。
織田信成さんが選手の時、頭二つでトリプルトウ+トリプルトウ、トリプルアクセル+トリプルトウと跳んで、2つ目まるまる点数がカットになったけど、今度またルールが変わって、その場合のトリプルアクセルの点が生きるみたい。当時はトリプルアクセル+トリプルトウを跳んで0点。
佐々木:当時、僕達も新採点の恐ろしさ、難しさを再認識するきっかけになりました。
田村:織田さんが選手に復帰すればおもしろいのに(笑)!織田さんはリオの取材に行って3週間もリンクから離れていたのに、この前もトリプルアクセル跳んでいたし、4-3も跳んでる。見えないところで陸でしっかりやっていたと思います。
佐々木:すごいですね!今の採点システムだと、試合中にジャンプがどう判定されているのかわからずにダウングレードされたりします。滑りながらさっきの回転は認められたのか?これはどうなるだろう?って迷うことはありますね。
田村:宇野選手が世界ジュニアの時にそういう事があったって聞いた事がある。表記が2回転か3回転か4回転かで、次にやる事が変わってくるから。
佐々木:そういう時、コーチとしてはどうするのですか?
田村:僕らも迷う。まずはそういう状況にならないように準備するのが一番。万が一そうなった場合に対応できるように試合中も自分がどういう失敗をしたかを冷静に判断しなければいけない。本当は失敗してもきりかえたいし、いいイメージを持ちたいのに、演技中に自分のミスを分析しなければいけない。
佐々木:今の男子選手は、すごくレベルが上がっていますよね。ジュニアでもすごい事をやっている選手がいるみたいで、自分としてはもっと滑りたい気持ちもあるけれど、辞めてよかったのかなと思っちゃってる自分がいます(笑)。ただ、これからはフィギュアスケートのショーに挑戦したい気持ちがあって、声も掛けてくれる方もいます。その一方で、コーチになりたい気持ちも強く、その修行を早く積みたいという気持ちもあります。でもその両立はかなり難しいものがあるかなと。岳斗先生はどうしていたんですか?
田村:僕の場合は、年間を通してアイスショーをずっとやっていたわけではないので、氷の上で練習ができない分は陸でしっかり身体を動かしていた。それをしないとケガをするし、体重も戻せなくなると思ったから。ただ、どちらかと言えば、僕はもともとショースケーターというよりは、コーチの比重がかなり大きい。静香のフレンズオンアイスと2014に羽生選手に呼んでもらったぐらいかな。すごく光栄なとこばかり。
佐々木:僕は、コーチになりたいという気持ちはすごく強いのですけど、でもまだ身体が動く内に、滑りたいという気持ちも強いんです。ただプロとしてやるからには、僕が滑ってお客さんを呼べるのか、呼び続けることが出来るのかというシビアな話にもなります。
田村:お客さんを呼べるかどうかは考えなくていいと思う。それは主催者側が考えているから。主催者側が呼べると思ったら出演依頼をもらえるだろうし、自分で売り込んでもいい返事をもらえると思う。それよりも僕が考えていたのは全ての公演でベストを尽くす事。そのために練習、準備の段階でアイデアもカラダも自分の限界を上げておく事。僕たちスケーターにとっては5公演のうちの1公演であっても、お客さんにとっては決して安くないチケット代、住んでいる場所によっては交通費、宿泊費も考えると一生に一度、最初で最後の1公演かもしれない。僕は観客席の中というか奥まで入り込んで演技していた事があるんだけど、そうするといつもは照明でよく見えなかったお客さんの顏がよく見えた。高校生か大学生かおそらく学生さんだろうなというお客さんもいた。この1公演のために学業の合間に一生懸命アルバイトしてくれたのかな、借金してまで観に来てくれてる人もいるかもと思うと、手なんか抜けない。 指導者としての考えは別にあります。選手を引退して1年目、2年目ぐらいの時に、滑れる時は滑って、動けなくなったらそれからコーチをやればいいというアドバイスをたくさん受けた。ただその考えはプロスケーター、指導者どちらにとっても中途半端だと思っていた。僕はコーチになるためには学ぶべき時に学んだ方がいいと思っていた。「指導者とはあなたが考えているほどあまいものではない。でも荒川さんはあなたにとって特別な存在なんだから呼んでもらえるうちはそこだけはできる限りがんばったら。」濱田先生にそう言ってもらった。人それぞれだけど、若くて意欲がある内にやった方が吸収できる事も多い。もちろん滑る事も楽しいのもわかる。両立するのはすごく大変だけど、その覚悟があるなら挑戦してもいいと思う。
佐々木:本日はアドバイスも含めてどうもありがとうございました!
田村 岳斗
1979年生まれ 青森県八戸市出身
1998年長野オリンピック フィギュアスケート男子シングル代表。全日本選手権は2度の優勝の経験を持つ。現役引退後、濱田美栄コーチの下で指導者への道を歩む。濱田コーチとともに、関西大学フィギュアスケート・コーチとして、宮原知子選手を始め、女子ジュニアの注目選手を次々と輩出。好評連載中のJ SPORTSオフィシャルブログ「田村岳斗-華麗なる舞-」にも注目!
J SPORTS 編集部
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