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ラグビー コラム 2026年7月10日

伊藤龍之介。テストマッチ勝率100パーセント ~ジャパンの新10番、イタリアを破る~

be rugby ~ラグビーであれ~ by 藤島 大
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デビューでイタリアをやっつけた。うらやましい。
正確には「デビューでいまのイタリアをやっつけた」。羨望を超えて鮮烈だ。

伊藤龍之介。21歳。明治大学商学部4年。日本代表の新しき10番である。
攻撃中枢を担う李承信は怪我の手術で外れ、「小村真也も6月19日に、コンディション都合により途中離脱と発表された。」と発表された。かくして機会をつかんだ。

ネーションズチャンピオンシップの開幕節。ジャパンは「アズーリ」ことイタリア代表に
勝った。27-10。本拠の秩父宮ラグビー場の2万強観衆による後押し。相手は「90パーセントの選手は3月以来のゲーム。練習は3、4回」(ゴンサロ・ケサダHC=ヘッドコーチ)。なにかと桜の代表に有利は確かでも、これは国際統括機関のワールドラグビーが新設の公式コンペティションなのだ。遠慮は無用。ただの白星だ。

現在のイタリアは同国史上最強ともされる。本年のシックスネーションズではスコットランドとイングランドを破り4位。もはや最下位が定位置の印象もかすれつつある。ジャパンとの関係で「金星」とはしたくない。それでも国際的には、ささやかなアップセット(番狂わせ)とくくられるだろう。

神奈川の藤沢ラグビースクールで3歳にして楕円のボールと戯れ、國學院栃木高校時代はただちに早熟をうたわれた才能、あらためて伊藤龍之介は「南北対決」の真剣勝負で充実の実力国を破った。うらやましい。そして、えらい。

試合後の記者会見。かつてアルゼンチン代表のスタンドオフで1999年のワールドカップの得点王、イタリアのケサダHCは敗れて正直だった。

「試合前は日本の10番を弱点と見ていました。まだ大学生なのですから。ところがスペースの見きわめが優秀だった」

元名手かつ手腕をうたわれる指導者も見立てをあやまった。伊藤龍之介(なんとなく常にフルネームを記したくなる)その人の実力を前提としつつ、本コラムの責任においてつぶやきたい。「日本の学生ラグビーは悪くないのだよ」。

取材ゾーン。たくさんの録音機に囲まれて、耳を傾けても、なかなか声は遠かった。したがって後刻のメディア掲載からの引用を。

「勝ち切ることができて自信につながった」(日刊スポーツ)

過不足なく、当日の自身のありさまを語り尽くしている。

伊藤龍之介はこの7日前、若手を軸に構成されるジャパン・フィフティーンでマオリ・オールブラックスと対戦している。31-38。前半は24-7だからプレーメーカーとしての悔いはもちろんだ。しかし本人は躍動できていた。臆せずにスペースめざして仕掛け、よく走り、防御の意識を引きつけた。

ただ、身上である「判断をぎりぎりまで延ばす・接触の直前に別の手に切り替える」能力が、ニュージーランドのトップ級の選手との対峙では、まさにスレスレで引っかかった。

J SPORTS 放送情報

当夜。J SPORTSの放送解説をともにした元ジャパン、沢木敬介さんが次の内容を幾度か述べた。

「少し持ちすぎ」

もちろん、往時の日本代表で同じ背番号の慧眼は、それが、この若者の長所とはわかっている。そのうえで「インターナショナルのレベルでは狙われる」。東京サントリーサンゴリアスの新監督は、すぐにでも手取り足取りのコーチングに飛び出しそうだった。

名古屋でのマオリ・オールブラックス戦を終えて伊藤龍之介は報道陣に話した。 

「ボールを長く持てば持つほどプレッシャーがかかる。仕掛けながらも早い選択が必要だなと」

ふつうは体験を重ねて経験となる。けれど優れたアスリートはひとつの体験を経験とできる。対イタリア。1週間前より球ばなれを速やかにする。敵陣でもあえてキックを用いる。マオリ戦での実践と結末はすでに知識や教訓として積み上がっている。ここが非凡なのだ。

昨年の代表活動では李承信が存在を示した。正確なプレースキックはもちろん、なによりコベルコ神戸スティーラーズを頂点へと導いた25歳は強靭だ。筋力にとどまらぬ根源のたくましさ。テストマッチの決闘に最後に残るのは、うまさではない。

では伊藤龍之介は強くないか。いや。7月11日の中立地(オーストラリア・ニューカッスル)でのアイルランド戦、同18日の東京へ帰ってのMUFGスタジアムでの対フランスに出場がかなえば、いま書いた「いや」が証明される。される気がする。

ものすごく速いということは強いということ。2019年のワールドカップ日本大会の英雄で医学界へ走り去ったフィニッシャー、身長175㎝の福岡堅樹が世界に教えた。

172㎝の背番号10は、福岡級の俊足には届かぬまでも、遅いわけではまったくなく、スペースを攻め落とす際のポジショニングは早くて速い。球を受ける瞬間に先手を取れる。強さのひとつだろう。ここのところの意識や習慣は実は防御にも生きる。ボールを持つ大男が小さな東洋人をめがける。でも、やつはすでに目の前にいる。すると、ぶちかましは効かない。

「早め、早めに判断して」。本人の一言である。高校で。大学で。緊迫の接戦のしびれる局面にもあわてず最適解をさぐってきた者の「早め」。そこに価値がある。

文:藤島 大

藤島大

藤島 大

1961年生まれ。J SPORTSラグビー解説者。都立秋川高校、早稲田大学でラグビー部に所属。都立国立高校、早稲田大学でコーチも務めた。 スポーツニッポン新聞社を経て、92年に独立。第1回からラグビーのW杯をすべて取材。 著書に『熱狂のアルカディア』(文藝春秋)、『人類のためだ。』(鉄筆)、『知と熱』『序列を超えて。』『ラグビーって、いいもんだね。』(鉄筆文庫)近著は『事実を集めて「嘘」を書く』(エクスナレッジ)など。『 ラグビーマガジン 』『just RUGBY 』などに連載。ラジオNIKKEIで毎月第一月曜に『藤島大の楕円球にみる夢』放送中。

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