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「仙人のよう」独占インタビューで明かした天才の“境地”。~ワールドカップ2大会出場!オーストラリア代表クエイド・クーパー~
“最強ラガーマン”列伝 ~ラグビーW杯2023~ by 多羅 正崇
「試合に興味はありません」
「勝利にはこだわっていませんでした」
次々に興味深いフレーズが飛び出した。
オーストラリア代表“ワラビーズ”でラグビーワールドカップ2大会(2011、2015)を経験した生粋のスタンドオフ。クエイド・クーパー選手に独占インタビュー。
ラグビーワールドカップ2023 特集ページ
ジャパンラグビーリーグワンでは、2019年より現ディビジョン1(D1)の花園近鉄ライナーズ(花園L)に加入。
2022-23シーズンは、アキレス腱断裂の影響により出遅れてしまい、リーグ戦の出場時間は1分間だった(リーグの入替戦出場条件を満たすため)。
しかし浦安D-RocksとのD1/D2入替戦で本格復帰を果たすと、身長187cmの体躯を活かした激しいディフェンス、ゲームコントロールで、花園LのD1残留に大きく貢献した。
9月開幕のワールドカップ2023フランス大会に出場すれば、2大会ぶり3回目。
しかし型破りなファンタジスタが口にしたのは、意外な言葉の数々だった。35歳になった天才アスリートが辿り着いた境地とは――。
運命のD1/D2入替戦。しかし「勝利にはこだわっていませんでした」
――今季はD1/D2入替戦の全2試合で本格復帰。D1残留に貢献しましたが、個人としてどんな準備をしていたのですか?
(アキレス腱断裂による)長期間のリハビリを終えた後の2試合でもあり、日々の努力を積み上げていくことにフォーカスしていました。試合では、勝利にはこだわっていませんでした。選手のエナジーを上げる役割があるとの認識の下、自分の出せるレベルの高いラグビーをすることだけに集中していました。
――花園Lは2022-23シーズンのリーグ戦で1勝15敗。チームに対してはどんなアプローチをしましたか?
チームに対しては、自分と同じ方向を向いてほしいと思い、リードしていました。メッセージとしては、日々の努力を積み重ねていくことが重要、というものです。同じ方同、同じマインドセットで取り組む選手が多ければ多いほど、チームの力は上がります。
悩んでいる選手に対しては、早く引き戻してあげたいという思いから、ヤル気を引き出したり、エナジーを取り戻すような声掛けを意識してきました。声掛けはいつもしています。
「4、5年前より明らかに強い人間、強い男になった」
――来シーズンもライナーズでプレーしますか?
実は、まだ分からないんですよ。いやいや冗談です(笑)。恐らくここいるでしょう。このチームが大好きなので。
――花園L加入からの4年間で成長した点は?
この4年間を振り返ると、素晴らしい旅路を進んできたと思っています。5年前の自分を思い出してみると、人としても男としてもまだまだ足りないところがありました。今とは全然違う人間でしたね。
近鉄に来てからフォーカスするようになったのは、フィジカリティの部分です。ウエイト・トレーニングもしっかりやるようになりました。
そしてマインドセット。プレシーズンのハードワークを4年間続けられたことが、今のアイデンティティに繋がっています。
またフォーカスしてきたのは習慣を作ること、規律の部分、常に強い男であるということ。その取り組みの継続がラグビーに繋がっています。
ワールドカップで選ばれるかどうか分かりませんが、自分は4、5年前より明らかに強い人間、強い男になっています。
「不確かなものを目標にして準備することは、自分のスタイルではありません」
――9月にフランスでラグビーワールドカップが開幕。出場すれば2015年大会以来ですね。
選ばれるかどうかは分かりません。出場できるか分からない、ワールドカップのような不確かなものを目標にして準備をすることは、自分のスタイルではありません。ただ自分のために日々のトレーニングをする、という考え方です。高いレベルでの準備を続けるだけです。目の前にワールドカップはありますが、日々やることは変わりません。
リポビタンDチャレンジカップ2021 日本vsオーストラリア
――あえて質問させてください。もしオーストラリア代表に選出されたら、どんな役割で貢献したいですか?
貢献できることがあるとすれば、日々の努力の部分ですね。今はオフの期間ですが、このインタビューの前に、ランニングも、ウエイト・トレーニングも終えました。高いレベルでトレーニングを続けています。
ラグビーわんだほー!
【インタビュー動画】クエイド・クーパー(花園近鉄ライナーズ)インタビュー
1分だけプレーしてと言われたとしても、練習台になってと言われたとしても、80分間プレーしてと言われたとしても――そのための準備は出来ています。年齢を重ねるとだんだんスローダウンしていく人が多いかと思いますが、私は年齢に関係なく、さらに上を目指して日々を過ごしたいと思っています。
若手選手も多いワラビーズ。「ロールモデルの役割を果たせたら」
――現在のオーストラリア代表をどう見ていますか?
若手が多いチームという印象を持っています。
私はワールドカップの決勝まで行った経験があり、3位で終わった年もあります。そういった経験を今となって振り返ってみると、当時の自分は選手としても人としても、今ほどのレベルにはありませんでした。今は規律ある生活をしており、チームに貢献できるだけの力を持っています。
今のワラビーズには若い選手が多いので、ロールモデルのような役割も果たせるのではと思っています。35歳の選手であっても、レベルの高いマインドセットで日々を過ごせるのだと感じてもらい、それがチームの力に繋がれば嬉しいです。
リポビタンDチャレンジカップ2021 日本vsオーストラリア
――ちなみにオーストラリア代表のエディー・ジョーンズHCと会話はしましたか?
しっかりと喋ってはいないです。日常会話程度ですね。
――過去出場した2011年大会、2015年大会の思い出は?
2011年のニュージーランド大会は、いま考えてみると厳しかったですね。当時の自分のレベルという意味でも、キャリアという意味でも、です。私はあの大会後にメディアにすごく叩かれました。苦い思い出が残っています。
2015年のロンドン大会は役割が大きく変わりました。怪我明けで、プレーではあまり貢献できませんでしたが、大会自体は楽しみました。やはりワールドカップはこれ以上ない大会で、楽しかったです。
2019年大会は出場していませんが、日本にいて、出場しない者として楽しみました。次のワールドカップ、もしチャンスを与えられるのであれば、自分は人としても選手としても、メンタルもフィジカルも準備ができています。チャンスを与えられたら、目一杯楽しみたいと思います。
「試合に興味はありません」。クーパーにとって最も楽しい「チャレンジ」とは
――ワールドカップで対戦したいチーム、選手はいますか?
マッチアップとか、どのチームと対戦したいかとか、そういった事にあまり興味がないんです。
もともと、私は試合にも興味がありません。
私にとっては、日々のチャレンジの方が楽しいのです。休み明けの月曜日の朝に来て、練習をする――きついんですが、それをハイレベルにできるかどうか、というチャレンジの方が自分にとっては楽しいです。
考えてみてください、試合で頑張ることは簡単なのです。年間365日あってリーグワンのリーグ戦は最大15試合です。
そこに照準を当てるのではなく、平凡な一日、月曜日から金曜日まで、練習が憂鬱な日もあるなかで――そんな日に自分がどれだけ練習することができるのか。
リポビタンDチャレンジカップ2021 日本vsオーストラリア
ワールドカップという大舞台で頑張ることも簡単です。最大8試合しかなく、何万人もの人が観てくれて、喜んでくれて、褒めてくれる。そうした舞台で頑張ることはとても簡単です。ただ今の私にとっては、誰も見ていないグラウンドで、雨が降ろうが、寒かろうが頑張れるのか――そこにチャレンジすることの方が楽しいのです。
ワイルドな風貌だが、最後まで落ち着いた声色で、独特な価値観を淡々と語ったクエイド・クーパー選手。取材したスタッフの一人はその姿を「仙人のよう」と表現した。本稿筆者も穏やかな口調の中に、同様の凄味を感じた。
最後、日本のファンへ向けては、「スタジアムで応援してくれる人も、テレビで応援してくれる人も、いつもサポートをいつも感じています。ありがとうございます」と感謝を口にした。
ますます迫力を増すファンタジスタが、今後どんな姿を見せてくれるのか。9月開幕のワールドカップフランス大会で、その勇姿、プレーがみられることを願ってやまない。
多羅 正崇
スポーツジャーナリスト。法政二高-法政大学でラグビー部に所属し、大学1年時にスタンドオフとしてU19日本代表候補に選出。法政大学大学院日本文学専攻卒。「Number」「ジェイ・スポーツ」「ラグビーマガジン」等に記事を寄稿.。スポーツにおけるハラスメントゼロを目的とした一般社団法人「スポーツハラスメントZERO協会」で理事を務める。
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