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この瞬間がヒストリー ~大学ラグビーの開幕を前に~
大学ラグビーには年限のもたらす魅力がある。ひとりでも卒業を控えたメンバーが含まれていたら、シーズン最終戦ののち、そのチームはもう存在しない。そこで永遠に消える。
全国規模でなく、たとえば関東をふたつに分けたグループのひとつの側のひとつの試合に勝って泣き、負けて涙し、引き分けて首をかしげる。狭い世界の酸素は濃い。あんまり濃くて、ときに息が苦しい。
ラグビー観戦の楽しみは競技レベルの高さだけがもたらすわけではない。国際級プロのひしめくリーグの一方的な攻防より、未熟な若者の大接戦のほうがおもしろかったりする。学生でも最上位グループの大差のゲームよりも下部の好敵手のぶつかる真剣勝負に引き寄せられる。コンタクトをともなうので、スキル、パワー、スピードとは別の要素が必ず引き出される。どのカテゴリーにも「勇敢」や「ひたむき」の出番はあって、同格のそれらが激突すると心は動いた。感動の条件は、部員や指導者の情熱、その帰結としての努力である。
先日、東京大学ラグビー部出身の人物に以下の話を聞いた。1980年代の思い出。
ある日、駒場のグラウンドに関東学院大学の春口廣監督が突然現れた。ざっと3時間、じっと練習を観察していた。いま調べると、リーグ戦1部に初昇格を果たすことになる1982年、もしくは、その翌年の春あたりかと思われる。
そのころの東大ラグビーには独自のスタイルがあった。まさに限られた陣容ながら、低いタックル、複数が組み合って矢じりのように球を乗り越えるラックで奮闘した。82年度の早稲田大学戦は4ー24。トライ数は1対2であった。ちなみに同シーズンの早稲田は対抗戦で明治大学を23ー6で破り、全勝での首位に浴している。
春口監督はヒントを得ようとしたのだろうか。そこにいた東大部員の記憶では「わたしは本気で日本一をめざしている。君たちも高い目標を持ってください」と円陣の前で話した。関東学院は、ひとつずつ階段を昇り、97年度、ついに全国大学選手権初制覇を遂げた。
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