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2021年1月16日(土)開幕の「トップリーグ2021」担当レフリーに迫るインタビュー企画。
今回は、現役A級レフリー最多となるトップリーグ担当133試合のレジェンド、戸田京介レフリー!
愛知県出身の戸田レフリーは、1970年4月5日生まれの50歳。保健体育の教諭だが現在は岐阜県庁に務めており、岐阜を拠点に全国へ足を運んでいる。
愛知県・高蔵寺高時代はサッカーの国体代表。しかし岐阜大在学中にラグビーを始め、キックが得意なフルバックとしてプレーした。
小学校教諭だった25歳でB級レフェリー試験にトップ合格し、着実にステップアップ。トップリーグでは’16年9月にレフリー担当通算100試合を達成した。
戸田レフリー
レフリー歴25年目になる’21年シーズンは、A級レフリーでは最年長50歳。日本ラグビー・レフリー界のレジェンドがトップリーグ2021、思い出の試合など、軽妙な“戸田節”で大いに語ってくれた。
日本最高峰トップリーグは「インターナショナルなリーグに」
――1月16日(土)にいよいよトップリーグ2021が開幕します。
W杯日本大会の成功もあり、ボーデン・バレット(サントリー/ニュージーランド代表)など世界的に有名な選手がやってきました。トップリーグがインターナショナルなリーグになってきていることは事実ですね。
また’23年W杯フランス大会の抽選があり(取材時は12月中旬)、選手にとって’21年シーズンのトップリーグは再スタートでしょう。
リーグとしても日本最高峰として、今後さらに成長していかなければいけません。ぜひ注目してほしいなと思います。
戸田レフリー
――戸田さんは最年長50歳のA級(トップリーグパネル)レフリーとして臨みますね。
若い頃に比べればアジリティは落ちてきています。ただ身体を動かすことは好きなので、長良川を走ったり、金華山を登ったり、自転車通勤をしたり、生活の中に運動を取り入れて鍛えています。ただ若い頃と同じ身のこなしは難しいので、選手とぶつかったりすることはあるかもしれませんね(笑)。
ブレイクダウン判定へのこだわり。選手と衝突の危険も。
――素朴な疑問なのですが、どうしてレフリーは選手とぶつからないのでしょうか?
いや、僕はけっこうぶつかるんですよ(笑)。注目度の高い試合でもコケたり、ぶつかったりしていて、他のレフリーより多いはずです。
――よく選手とぶつかる理由があるのですか?
タックルが起きたあとにラックに移行するわけですが、そこで起こるブレイクダウン(ボール争奪局面)の攻防にはすごくこだわりがあります。ブレイクダウンにできるだけ近い場所、説得力のある場所から見て判定をしたい。どうしても近づきたいんですね。
僕はラグビーの選手時代、遠くにいたレフリーに反則を吹かれて「そこにいて見えるのか」と思ったことがありました。だからこそ僕は、そこで吹かれたら文句を言えない、という位置で判定をしたい。
そうして選手に近くなると、どうしても当たる確率が多くなるんですね。
――屈強なラグビー選手と激突するのは危険ですね。
以前、千葉で開催されたトップリーグの試合で選手とぶつかってアゴがズレたことがありましたね。
背後から選手がぶつかってきたのですが、首がむち打ちになって、つんのめったところに相手側の選手のタックルがアゴの右側に入り、アゴがずれて、アゴの左側が割れました。
噛み合わせが悪くなって食べられなくなり、試合があった12月24日のクリスマスイブから1月7日まで、豆腐の生活ですよ。正月にやっと「絹ごし豆腐」から「木綿豆腐」を食べられるようになりました。(笑)
大学でラグビーを始めた理由。「半年待つから」
――そもそもサッカーの国体選手だった戸田さんが、どうして大学でラグビーを始めたのでしょうか?
まず大学のサッカー部があまり強くなくて、張り合いがなかったんですね。
そんな時に友達から借りたバイクで転んでしまいした。修理代の17万円を返済するためにサッカー部に行かずにバイトばかりしていたら、当時の大学ラグビー部の顧問だった松岡敏男先生に声を掛けられました。松岡先生は、筑波大学が(元スコットランド代表の)ジム・グリーンウッドをコーチとして招いた時(※1)、FWコーチとしてチームを支えた方ですね。
※1 筑波大学は1979年、外国人コーチとして元スコットランド代表のジム・グリーンウッド氏を招聘。当時日本ラグビー界としては画期的な「スクリューパス」を導入した。
ラグビー部の顧問だった松岡先生が「最近サッカー部に行ってないな」「将来体育教師になろうとする者が何事か」というので、事情を説明しました。そうしたら残っていた修理代を立て替えてくれたんです。
さらに、そこで松岡先生が「入部まで半年待つから」と言ってくれたことが、ラグビーを始めたキッカケですね。
“戸田レフリー”はこうして生まれた。「本気でやらなければ選手に失礼」
――ではレフリーを始めた経緯を教えてください。
当時、「関西ラグビー協会B級レフリー認定講習会(22府県所属)」は岐阜県で行っていました。ちなみに現在はブロックごと分散して行っています。
グラウンドは飛騨市古川町の数河(すごう)高原でした。が、主催している岐阜県からの受講生がいないのは岐阜県の立場がないということもあって(笑)、ある程度の年齢になると、センスの有無などに関わらず、B級認定講習を受けるよう言われていたんですね。
僕は当時25歳で、結果的にそれがレフリーを始めるキッカケになりました。
――そこからレフリーとしてのキャリアを積み重ねていきます。
僕は小学校教員を8年、中学校教員を2年やりましたが、25歳で資格を取った後の10年間で、幸いにしてレフリーとしてトントンと上がっていくことができました。
レフリーをやっていると、行ったところのない場所――今週は九州に行ってほしいとか、場合によっては韓国、台湾に行ってほしいとか――いろいろなオファーが来るんですね。そうしているうちに、これは本気で始めなければ選手に失礼だと思うようになりました。
ただ海外に行ってほしいとなると、小・中学校は担任もありますからジレンマを感じていました。そこで諸先輩のアドバイスもあり、すでにラグビーがライフワークになっていた教員10年目の夏に、高校教員の試験を受け直しました。
高校教員になればラグビー部を持てるかもしれないし、レフリーを応援してくれる人がいるかもしれない。生徒にもラグビーにも貢献できるはず、と考えたんですね。
戸田レフリー
――実際に高校でラグビー部の監督をしたのですか?
2校目の赴任先だった大垣西高校で4年間、ラグビー部の監督をしました。
ただ赴任1年目は募集停止の状態でした(笑)。そのとき部活認定の条件として提示されたのが「部員を15人揃えるか」「県大会で1勝するか」の2つでした。
その条件を満たすために必死にやりましたね。サッカー部を退部した生徒、問題を起こした生徒を呼んで「ラグビーやらないか」と(笑)。おかげさまで部員も集まり、7人制で東海大会に出場して優勝もしました。良い思い出です。
戸田レフリーにとっての思い出深い試合とは?
――レフリー歴25年目の戸田レフリーですが、“思い出深い試合”は?
ときめいた試合でいえば、初めて花園(全国高校ラグビー大会)を吹いた試合です。
若いレフリーにとっては花園を吹くことはステータス。本当に神聖なものなんです。僕は26歳で花園に呼ばれて、すごく嬉しかった。盛岡工(岩手)×東海大一(静岡)だったと思います。
ホロ苦い思い出でいえば、’16年度の大学選手権決勝の「帝京大学(○33-26●)東海大学」です。
後半、キックされたボールがインゴールに転がって帝京大学の竹山君(晃暉/現パナソニック)、東海大学の野口君(竜司/現パナソニック)どっちが押さえたかとなった時に、僕は帝京大学が先にグラウンディングしたと思ってトライの判定をしました。(後半24分に24-19でリードしていた帝京大・WTB竹山がトライ)
ただ試合後に、観客席の方にあるテレビカメラから見た時には、東海大学が先に押さえたようにも見えていました。ただインゴール側からの写真を見ると、帝京大学がトライをしたようにも見えます。
今もどちらが正しいか分からないです。見方、捉え方、伝え方によっては受け取り側の感覚も180度変わってしまうのだと思います。だからこそ、正しく、信頼でき、納得できる判定ができる場所にいる、ということは一番大事なのだろうと思いますね。
――帝京大学といえば、帝京大学出身のラグビー芸人・しんやさんをご存じですか? 戸田レフリーのモノマネをしているのですが・・・。
よく知っています。共通の友人がいて、一緒に呑んだこともありますよ。
モノマネをして頂けるのは光栄なことで、「もしよかったらジャージーを着てやってください」とレフリージャージーもプレゼントしました。今もときどき連絡を取り合っています。
レフリーに興味がある皆さんへ。「Give it a try. It's the best seat at the game!」
――ラグビー・レフリーを目指そうか迷っている若者へ、ぜひ戸田レフリーからメッセージをお願いします。
徹夜して語りたいくらいですね。レフリーのどこが魅力か語っていいですか。カタルーニャ(語る~にゃ)地方になっちゃいますよ。(笑)
ここからは真面目に・・・
やはり人は成長することがやりがい、自己実現に繋がると思います。レフリーはそのサイクルが速いんです。
目標を立て、その目標に向かって努力することの大切さ、しかし努力したからと言って必ず良い結果が出るとは限りませんね。その結果を素直に受け入れ、さらに新たな目標に立て努力する…その営みは必ず人を大きく成長させます。僕のレフリー人生はありがたいことにそのサイクルを与えてくれました。
もちろん最初から上手くは吹けません。しかしなぜ吹けなかったのかということを周囲もサポートしてくれますし、自分が本気になれば成長するためのチャンスを頂けるんです。
すぐに試合はありますから、そこで前回の課題を克服するためのチャンスをレフリーとして与えて頂けます。社会人になってから、そういう機会(チャンス)がどれほどあるでしょうか。
――仕事で失敗すると次のチャンスがない場合がありますね。
もちろん僕の立場であれば、代表クラスの選手たちもいて、笛ひとつで試合の内容、勝敗が変わり、場合によってはチームの存続、降格や昇格もかかってくるかもしれない。悠長なことは言っていられません。
ただ、これからレフリーを目指そうと若い人にとっては、そうした猶予があります。
現在はレフリーに対するサポートもシステマチックになり、若いレフリーを応援する体制がものすごくしっかりしています。たくさんのサポートを受けながら自己実現ができる環境が整っているんです。
選手として世界にいけなくても、久保(修平)レフリーのようにワールドカップに行ける人もいます。努力次第でいくらでも先に行けるのがレフリーの世界です。
海外では、このようなレフリーへの誘い文句があります。
「Give it a try. It's the best seat at the game!((レフリーを)やってみろよ。(ゲームの)特等席がそこにあるぜ!)」
レフリーは最高のプレーを目の前で見られる特等席ですよ、レフリーをやってみましょうよ、ということですね。レフリーに挑戦してみると、そこには新たな世界が広がっています。
ぜひレフリーをやってみてください。
文:多羅正崇
多羅 正崇
スポーツジャーナリスト。法政二高-法政大学でラグビー部に所属し、大学1年時にスタンドオフとしてU19日本代表候補に選出。法政大学大学院日本文学専攻卒。「Number」「ジェイ・スポーツ」「ラグビーマガジン」等に記事を寄稿.。スポーツにおけるハラスメントゼロを目的とした一般社団法人「スポーツハラスメントZERO協会」で理事を務める。
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