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ラグビー コラム 2020年2月5日

明日なきチームの永遠 ~サンウルブズ、開幕戦を制す~

be rugby ~ラグビーであれ~ by 藤島 大
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もうひとつトライの場面を。後半21分。スクラムからの右8ー9、ナンバー8の共同キャプテン、スーパーラグビーにこれで93試合出場のジェイク・シャッツから、寸前に途中交替で入った早稲田大学4年、もちろん初登場のSH齋藤直人へつなぎ、これみよがしでなく自然に前へ出た両CTBのおとりの背中に滑らかなパスを通す。10番、南アフリカA代表のガース・エイプリルがそのままインゴールへ。G成功で34ー13と差を広げる貴重なスコアだった。

上記の両得点には緻密な準備の匂いがする。複雑ではないけれど効果的な仕掛けをいわば粛々と遂行する。ぶつかり合うコンタクトの細部も仕込まれていた。大久保HC以下、沢木敬介コーチングコーディター、ネイサン・グレイ、田村義和、指導陣の努力の成果である。このサンウルブズでは日本のHCが最上級プロのレベルで多国籍チームを率いる。ここにも「おしまいのシーズンの初めて」があった。これから容易でない連戦が待ち受ける。とても楽観はできない。それでも事実としての開幕節勝利に、ますます英語の支配する近年の国際ラグビーにあって、日本に生まれ育ちジャパニーズを母語とするコーチの能力は証明された。

2020年のサンウルブズにはさまざまな背景の個性が集う。まずコーチ席がそうだ。かつて日本代表の不屈のFW、大久保HCは、神奈川の法政大学第二高校ではバレーボール部に所属していた。スクラム担当の田村コーチは青森の弘前実業高校でなんと写真部、卒業後、自衛隊に進んで楕円球と出合い、やがてヤマハの強力スクラムの象徴となった。だからどうなのかと聞かれると困る。ただ、選ばれし者のスーパーラグビー、そのひとつのチームのコーチングスタッフ計4人のうち、ふたりまでが高校では未経験というのは興味深い。ラグビーはいいスポーツなのだ。

写真:谷田部洸太郎選手

ロックの谷田部洸太郎は、この日、いつものようにひたひたと体を張って、オーストラリア代表ワラビーズの主力を複数並べた相手をやっつけた。でも経歴は必ずしもトップ級ではなかった。群馬の樹徳高校入学時、背は「183㎝」に達していたのに体重は「63㎏」のやせっぽち、各運動部の勧誘会、おっかなそうな先生に「お前にはラグビーしかない」と声をかけられて、中学では平凡な陸上部員の新入生は入部してしまう。後年、一流になって、こう語るのを聞いた。「ラグビーという言葉を知らないときにラグビーしかないといわれて」。名言だ。国士館大学時代は2部リーグ暮らし、そこからパナソニックに縁がつながり、ざっと5年の下積みを経て、まずタックルで存在を示し、とうとうここまできた。

愛称ウルブズにはエリートもいる。今季加入のテオはニュージーランド生まれ、もともとは13人制のラグビーリーグで活躍、15人制でレスターにスカウトされ、イングランド代表の道を歩んだ。キャップ18。昨年のワールドカップのメンバーを外れると、それがニュースとなった。17年には栄えあるブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズでもオールブラックスとのテストマッチに名を連ねている。樹徳高校の体育館で何も知らずに運命をたぐった元細身少年とのふいの交錯もまたラグビーならではかもしれない。

福岡のレベルファイブスタジアム、あるいはテレビ受像機の前、谷田部を、布巻を、シャッツを、ペイジを、エイプリルを、齋藤を、テオを、森谷を、フィフィタを、サンウルブズを凝視した者は、その日、ひとつの長き記憶を得た。俺たちに明日はない。そうかもしれない。しかし記憶の「その日」は、明日になっても「その日」なのである。

文:藤島 大

藤島大

藤島 大

1961年生まれ。J SPORTSラグビー解説者。都立秋川高校、早稲田大学でラグビー部に所属。都立国立高校、早稲田大学でコーチも務めた。 スポーツニッポン新聞社を経て、92年に独立。第1回からラグビーのW杯をすべて取材。 著書に『熱狂のアルカディア』(文藝春秋)、『人類のためだ。』(鉄筆)、『知と熱』『序列を超えて。』『ラグビーって、いいもんだね。』(鉄筆文庫)近著は『事実を集めて「嘘」を書く』(エクスナレッジ)など。 ラグビーマガジン、週刊現代などに連載。ラジオNIKKEIで毎月第一月曜に『藤島大の楕円球にみる夢』放送中。

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