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豊田スタジアムの観客席の傾斜はワールドクラスだ。鋭く高く、芝のグラウンドを深く見下ろす構図が成立する。先の日本代表とジョージア戦、実況解説席からも30人のそのつどの配置が、チェス盤のごとく俯瞰できた。あらためてラグビー競技には「縦のスペース」がたくさんあると思った。
ボール保持者の背後に控える人員が、防御ラインに対し、時間や距離や角度の「ずれ」をつくると、面の出足が乱れ、衝突の点の前後に空間を創造できる。「秩父宮みなとラグビーまつり」のブランビーズ戦におけるサントリーは見事だった。そうしたボール周辺での短距離の「縦」のみならず、もっと根源的に、広大なスペースは常に縦長に広がっている。横には渋滞していても、そうであればあるほど縦はすいているのだ。
当然ながらラグビーは手にボールを抱えて走ってかまわない。何m、何歩以上と制限する規則もない。サッカーのようにボール保持者をただちに前後左右から「囲む」のは難しい。前方がフリーならどこまでも進める。だから守るほうはまんべんなく最前線を封じなくてはならない。構造的に背後は薄くなる。
そこをキックで攻略する。ジャパンは、肉弾戦を好むジョージア陣めがけて、しぶとく蹴り続けて、ぶつかり合いの機会を削り、まさに「ボーナスポイントはいらない」(イタリア戦前のジェイミー・ジョセフHC)テストマッチらしい勝利を手にした。貫禄としたたかさで上回った。28-0。価値ある完封だった。
試合が進むにつれ、キックの応酬のさなか、タイミングを待って、赤白に桜のジャージィがランを仕掛け、タッチラインとタッチラインの真ん中あたりにラックをつくり、そこを起点にパスで攻めたら大きくゲインできるように映った。急勾配のスタジアムのおかげでよくわかる。ジョージアはそこが弱そうだった。ぐっと構えないとタックルの力も出ない感じだ。
もちろんジャパンは分析で知っていただろう。選手も感覚でつかんでいたに違いない。雨のコンディションもあり、あえて「見ている人にとってはつまらない試合だったかもしれないが、これが勝つラグビー」(試合後のリーチマイケル主将)を貫いた。まったく正しい。
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