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ラグビー コラム 2018年6月27日

長く短く縦へ ~ジョージア戦。ベンゲル。三原脩~

be rugby ~ラグビーであれ~ by 藤島 大
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ラグビー日本代表

豊田スタジアムの観客席の傾斜はワールドクラスだ。鋭く高く、芝のグラウンドを深く見下ろす構図が成立する。先の日本代表とジョージア戦、実況解説席からも30人のそのつどの配置が、チェス盤のごとく俯瞰できた。あらためてラグビー競技には「縦のスペース」がたくさんあると思った。

ボール保持者の背後に控える人員が、防御ラインに対し、時間や距離や角度の「ずれ」をつくると、面の出足が乱れ、衝突の点の前後に空間を創造できる。「秩父宮みなとラグビーまつり」のブランビーズ戦におけるサントリーは見事だった。そうしたボール周辺での短距離の「縦」のみならず、もっと根源的に、広大なスペースは常に縦長に広がっている。横には渋滞していても、そうであればあるほど縦はすいているのだ。

当然ながらラグビーは手にボールを抱えて走ってかまわない。何m、何歩以上と制限する規則もない。サッカーのようにボール保持者をただちに前後左右から「囲む」のは難しい。前方がフリーならどこまでも進める。だから守るほうはまんべんなく最前線を封じなくてはならない。構造的に背後は薄くなる。

そこをキックで攻略する。ジャパンは、肉弾戦を好むジョージア陣めがけて、しぶとく蹴り続けて、ぶつかり合いの機会を削り、まさに「ボーナスポイントはいらない」(イタリア戦前のジェイミー・ジョセフHC)テストマッチらしい勝利を手にした。貫禄としたたかさで上回った。28-0。価値ある完封だった。

試合が進むにつれ、キックの応酬のさなか、タイミングを待って、赤白に桜のジャージィがランを仕掛け、タッチラインとタッチラインの真ん中あたりにラックをつくり、そこを起点にパスで攻めたら大きくゲインできるように映った。急勾配のスタジアムのおかげでよくわかる。ジョージアはそこが弱そうだった。ぐっと構えないとタックルの力も出ない感じだ。

もちろんジャパンは分析で知っていただろう。選手も感覚でつかんでいたに違いない。雨のコンディションもあり、あえて「見ている人にとってはつまらない試合だったかもしれないが、これが勝つラグビー」(試合後のリーチマイケル主将)を貫いた。まったく正しい。

ラグビー日本代表

ここで述べたいのは、縦の空間は相手の防御前線の背後のみならず、こちらが自陣深くから走り出して、最初のタックルを浴びるまでのスペースも意味することだ。自分たちの防御ラインの背後に広がる領地に敵を呼び寄せ、ポンとラック、サッと展開、この仕掛けの手順を反復練習しておくと、敵陣に築かれた人壁にぶち当たるより、案外、インゴールへ迫れそうだ。

ボールを手にした重層的ライン攻撃でも、背後への大小高低のキックでも、自陣ゴール前からのキック捕球後のランでも、タックルの波が届かないという一点で、縦のスペースはアタックの味方なのである。

と、ここまで書いて、ジョージア戦でやけに「縦」が気になったのは、サッカーのワールドカップの影響だと気づく。連日のテレビ観戦で確かめられる。つくづくフットボールは縦なのだ。意思のこもらぬパスで横に逃げると、向こうが一流であれば、その瞬間に失点や敗北に近づく。ひいきチーム、たとえば日本代表のボックスめがけて、どーんと放り込まれ、丸い球がふわっと跳ねたりすると本能レベルで危機を覚える。ボールを足元におく者の背番号のあたりから、ゴールラインに垂直に誰かが駆け上がったら、たとえパスがつながらなくても、そのうちにいいことがあると信じられる。深く縦に下げるバックパスも、相手ゴール近くで横方向に詰まるよりは、むしろ次の展開の可能性に結ばれそうだ。

アーセナルのアーセン・ベンゲル監督は、1995年度と翌年度途中までJリーグの名古屋グランパスを率いた。そのころの選手に話を聞くと、指導法は実に簡潔で、ことに強調したのは「ボールを止めるのに、ぴたりと足に収めるな」。わずかでも必ずゴールへ向かって止めろ。わかりやすい。大きな絵図での縦。戦法での縦。その前提となる「小さな動作の縦」。ここにも普遍はありそうだ。

プロ野球の不朽の名将、三原脩は、1950年代後半当時の常識を外れ、二番打者に強打の人材を求めた。「スピードを一番出しやすいのが流線型という理論を野球にあてはめられないか。打順だ」。それが根拠である。二番が高くないと流線形にならない。いささか強引な理屈づけ。しかし、こういう大胆な仮説は勝負では強い。フットボールのフィールドは縦長なのだから「縦のスペース」を長短に駆使せよ。理にかなっている。

藤島大

藤島 大

1961年生まれ。J SPORTSラグビー解説者。都立秋川高校、早稲田大学でラグビー部に所属。都立国立高校、早稲田大学でコーチも務めた。 スポーツニッポン新聞社を経て、92年に独立。第1回からラグビーのW杯をすべて取材。 著書に『熱狂のアルカディア』(文藝春秋)、『人類のためだ。』(鉄筆)、『知と熱』『序列を超えて。』『ラグビーって、いいもんだね。』(鉄筆文庫)近著は『事実を集めて「嘘」を書く』(エクスナレッジ)など。『 ラグビーマガジン 』『just RUGBY 』などに連載。ラジオNIKKEIで毎月第一月曜に『藤島大の楕円球にみる夢』放送中。

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