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ラグビー コラム 2018年5月23日

監督の敗北 ~不正なタックルは何を壊したのか~

be rugby ~ラグビーであれ~ by 藤島 大
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日本大学広報部は、5月22日のコメントで、「つぶせ」は「思い切って当たれ」という意味だと述べた。なるほどラグビーの「殺せ」も「相手をきつい防御で無力化する」や「正当なタックルで激しく倒し切る」のいわば符丁だ。「つぶせ」は「スクラムで壊滅させろ」かもしれない。しかし、そのことは、コーチに「殺せ」と気合いを入れられた選手が、フェアネスの範疇に必ずとどまるチームだから言えるのだ。現実に刑事罰のささやかれるタックルで壊したなら、そこでの「つぶせ」は「意図的に負傷させろ」と重なる。

クラブに「どんなに勝ちたくても、ここから先には踏み出さない」という文化が浸透していれば、まさに、ロッカー室の「つぶせ」は「思い切り当たれ」に等しい。今回の件は残念にもそれとは違った。言葉を封じた指導者が、ひとりずつの青春を私物化した。

今回のような出来事があると、どうしても「勝利への執着」の分は悪くなる。でも競技スポーツとは、もとより勝利を追求するものだ。そうでないと楽しめない。低山でなしにチョモランマ登頂をめざすには厳しい鍛錬、強固な規律、つまり「快くない時間」を経なくてはならない。常に快適なだけでは個人も集団も成長しない。「快」はもろい。

指導者は、ときに試練を課すからこそ、個の尊厳を大切にしなくてはならない。コミュニケーションは酸素だ。スポーツ、たとえばラグビーに真剣に取り組むと、練習を通して、その瞬間にはとても辛く感じるが、あとで省みると、ふと微笑するような経験をできる。いやなこと、そのあとのよいこと、なんとか乗り切りながら、自然にストレスへの耐性を身につけ、苦しいときにもなくさぬフェアネスの値打ちをつかむ。

しかし、今回の日本大学の選手は、何十年か過ぎて、仮に社会的にも私的にも成功できたとしても、なお、このことを「省みる微笑」にはできない。監督の敗北である。

最後に。辛かっただろう記者会見に臨んだ20歳の若者は、きっと、いや絶対に、同じ過ちを繰り返さない。スポーツとは挫折に学ぶ再起の機会でもある。せひ、アメリカンフットボールを、そうはいかぬのなら、それこそラグビーに転じてでも、闘争的スポーツにもういっぺん取り組んでもらいたい。広い世界には、激しく厳しく、なお、きれいで自由なスポーツの場はたくさん存在する。

藤島大

藤島 大

1961年生まれ。J SPORTSラグビー解説者。都立秋川高校、早稲田大学でラグビー部に所属。都立国立高校、早稲田大学でコーチも務めた。 スポーツニッポン新聞社を経て、92年に独立。第1回からラグビーのW杯をすべて取材。 著書に『熱狂のアルカディア』(文藝春秋)、『人類のためだ。』(鉄筆)、『知と熱』『序列を超えて。』『ラグビーって、いいもんだね。』(鉄筆文庫)近著は『事実を集めて「嘘」を書く』(エクスナレッジ)など。 ラグビーマガジン、週刊現代などに連載。ラジオNIKKEIで毎月第一月曜に『藤島大の楕円球にみる夢』放送中。

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