当世競争自動車大祭車夫試し走り

三十巡りもしたら目が回りそうですね。

モタ、お前みたいな者には土台無理話だ。その車夫はな、その車に乗り込むのは初めてだった。平賀源内先生のエレキテルを使って街道の絵を動かしてな、それを見て走った思いをする。シミュレーターだ。それだけで、あらよっと、車に乗り込んですぐさま走った。

ヒラ、平。エレエレ、シュ？

まあ、いい。女将さんも偉いよ。車夫が兜と火のつかない刺し子を持って家出る前に乳飲み子二人を抱えながら、金と石をカン、カンってやって、切火で送り出す。「あんた、頑張んなよっ」ってな。銭形平次親分の女将、お静さんみていな感じだ。

旦那は、それを見ていたように話しますね。

物書きは、【ジャーナリスト見てきたような嘘を言いい】ってな。

ジャーナ、ジャ？

もう、いい。多分今回の走り試しに出るだけでも、多くの金子が要るという話だ。自分でも、そして周りの谷町、しいきの旦那衆も助けただろうな。それを押しても走りたかったのだな。

その車夫は、また走るんですかい？

それは、分からん。異国でもこの大祭は行われるが、そこには、千両箱が飛び交うような金子が当たり前の世のようだ。以前、これに加わっていた、鈴木頭亜久里左衛門殿が「あの世は、人肉を食う魚（ピラニア）のような輩がうようよしておる」と申しておった。車夫がかなりの使い手だったとしても、先のことは分からんのだ。

それは、あっしも同じこと。大八を引くのは速いですが、大八を借りる金子が足りねえ。旦那、お助けください。

モタの大八くらいだったら、なんとかしてやらんでもないが、車夫の将来は、お釈迦様でもわからねえだろうな。おおモタ、その大きな丸々とした瓜をもらおうか。

あいよ、旦那、放り投げますよ。ラグビー瓜です。

なんだ、モタ。こいつは、一本取られたな。

旦那、ワントライですよ！

文：高橋 二朗