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サッカー&フットサル コラム 2026年8月5日

チームが纏う圧倒的熱量が巻き起こしたビッグサプライズ!近大附属の「真夏の大冒険」が持つ本物の価値【インターハイ決勝 近畿大学附属高校×静岡学園高校マッチレビュー】

土屋雅史コラム by 土屋 雅史
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全国決勝まで「真夏の大冒険」を繰り広げた近畿大学附属高校

「いやいや、もうエグかったです!大阪大会で全国を決めた時よりも嬉しかったですね。僕らにとっては初めて経験する全国大会で、もう雑草魂というか、カテゴリーが大阪府の1部だろうと、代表経験者がいなかろうと、みんなでやればこうやってプレミアの相手を倒せるんだということを証明できたという達成感が凄く満ち溢れて、誇らしかったですね。もうドーパミンがヤバかったですし、なんかゾワゾワしてきて、凄かったです!」

一気に紡ぎ出した1つ1つの言葉から、抑え切れない興奮が伝わってくる。インターハイ3回戦。プレミアリーグに所属する昌平高校を向こうに回し、2-1で勝利を収めた試合後。取材エリアに現れた近大附属高校の寺師悠斗監督のテンションは、こちらが圧倒されるほどに高かった。

そもそも激戦区の大阪を勝ち上がり、夏の全国出場を勝ち獲ったのも13年ぶり。普段は府1部リーグを戦っており、トップレベルのコンペティションを経験している選手もほとんどいないようなチームが巻き起こした、プレミア勢撃破のアップセット。ただ、その指揮官が語ったマインドセットの仕向け方が、非常に興味深い。

「今日は相手のドリブルに対しての対応がカギだったので、昨日のミーティングでハイエナの狩りの映像をちょっと見せました(笑)。もう奪うんじゃなくて、噛みついて、離さんぞというイメージです。1枚目が行ったら、2枚目も来て、ハイエナの守備をしろというのを意識させて。『もう今日のオマエらは腹を空かせたハイエナや』というマインドセットで試合に入りました」(寺師監督)

その徹底の仕方も“ハイエナ並み”のしつこさ。キャプテンの藤川澄生は笑顔でこんなことを明かしてくれる。「ミーティングで映像を見た後に、グループLINEで『もう1回見ろ』と同じ動画が送られてきて(笑)。試合中にも映像がよみがえってきました」。効果てきめん。昌平という獲物に対し、噛みつきまくった近大附属の粘り強い守備は、70分間の中でも際立っていた。

「もう僕らは失うものがないので、ここに楽しみに来ていますし、ハイエナのようにハングリーに生きているので(笑)、次ももう群れで戦って、誰かがアカンかっても次が出てきて、出てきて、出てきてというのを、とにかく全員で体現して、大人も子供も親も、みんなで一丸となって日章さんを飲み込んでいきたいです」

準々決勝の日章学園高校戦に向けて、寺師監督はそう言い切った。スタンドを埋めたメンバー外のサッカー部員の大声援も含めて、とにかく熱量の総量の高さもインパクト十分。高校サッカーらしい素敵なチームというのが、率直な印象だった。

 

「ずっとインタビューしていただいている中で、『奇跡』とか『ミラクル』とかって言っているんですけど、もうそれもアイツらに申し訳ないなっていうぐらい、威風堂々と凄く迷いなくプレーしてくれていますし、アイツらと繋がり合っている感じもあるので、凄く自信を持ってやってくれているなというのは感じますね」

3回戦の時より遙かに増えた報道陣に囲まれながら、その人はやはり笑顔を浮かべる。インターハイ準決勝。同じ関西勢の滝川第二高校にPK戦で競り勝ち、決勝進出を決めた試合後。取材エリアに現れた寺師監督は、誇らしげに“アイツら”を称えていた。

準々決勝の日章学園戦は、後半アディショナルタイムの決勝点で劇的勝利。彼らがこの大会のビッグウェーブに乗ってしまっていたことは間違いない。ただ、この日の70分間はむしろ近大附属が押し気味に試合を進めながら、守り切られた形でPK戦に突入していたのだ。

ファイナル進出の懸かる11メートルのロシアンルーレット。それでも、指揮官から見た選手たちは、不思議なぐらい落ち着いていたという。「もうPKもかなり練習をやり込んでいたので、安心して見てると言ったらちょっと嘘になりますけど(笑)、選手たちの表情を見ていると、凄く堂々とやってくれていたんですよね」。

「やってきたこと、やるべきことをやってるなというのはあったので、スタッフ陣にも『あ、たぶんこれ勝つんちゃいます?』みたいな感じがあって、僕は『ホンマかな……』と1人だけそれに乗れていなかったんですけど(笑)、ホンマに勝ったので、凄かったなと思います」

実際は1人目と、決めれば勝利という5人目と、2人のキッカーが失敗したのだが、6人目のキッカーとして試合に決着をつけた藤川は、「チームとしては外しても味方がいるので、全員が助け合ってやることを意識していましたし、自分自身は意外と緊張していなくて、むしろ楽しさが勝っていて、『絶対決まるな』という自信がありました」ときっぱり。確かにPK戦の最中の彼らからは、極限の状況を楽しむ余裕のようなものが見て取れた。

加えて、ピッチ上の選手を後押しする200人近いトリコロールのサッカー部員、スタンドの大応援団の存在も語り落とせない。準々決勝後には一度帰阪し、再びバスに揺られながら14時間をかけて福島に舞い戻ると、Jヴィレッジスタジアムをスペシャルな“ホーム感”で包み込んだ。

「何でもないワンプレー、ワンプレーで沸くので、松本山雅のホームかのような感じでしたね。選手が1回ヘディングで勝つだけで、1回1人をかわすだけで、『おお!』っていう声が上がるので、なんかアイツらも気持ち良くサッカーできていましたよね」。

「この間の日章戦はそこのパワーが出せなかったので、応援の子たちには直接伝えられなかったんですけど、『やっぱりそういった声援が選手の背中を押すから頼むね』ということを全員の LINE に僕からメッセージを入れさせてもらって、今日も改めてちゃんと応援してくれたので、本当に感謝しかないですね」(寺師監督)

 

3バックの中央を預かる小柄なファイター、森一翔は静岡学園高校との対戦が決まった決勝に向けて、日本一への意欲を隠さない。「誰も近大附属がここまで来ると思ってなかったでしょうし、今日もたぶん滝二が勝つと思われていた中で、僕たちは勢いもあるし、強さもあるし、速さもあるし、どんな戦い方もできるし、何より層が厚いので、誰が出てもいろいろな戦い方ができるという大きな強みがあります」。

「静岡学園は有名で、上手くて、個が強いのはわかっていますけど、僕たちも守備の練習では『個で負けない』ということをやってきたので、決勝戦は緊張すると思うんですけど、自分たちが今までやってきたことを全部出して、絶対に静岡学園を潰したいと思います」

寺師監督も最後の決戦に想いを馳せる。「この『真夏の大冒険』の“ラスボス”が静学さんということで、やっぱりラスボスを倒しに行かないといけないと思うので、今までやってきたチームや大阪のチームの想いを背負って、優勝旗を大阪に持ち帰りたいなと思います」。みんなで夢見てきた日本一までは、あと1勝。

 

「まずはしっかりアイツらを褒めてあげたいというか、称えてあげたいです。ただ、ここを勝ち切れなかった、日本一になれなかったということは、ちゃんと現実として受け止めながら、ここからは選手権予選もまた違った景色での戦いになってくると思うんですけど、基本的には自分たちのスタンスとかやるべきことは変わらないので、それを続けてやっていきたいよねというところは、しっかり伝えていきたいなと思っています」

あと一歩で頂上からの景色を見ることは叶わなかったが、その人は穏やかにそう言葉を発する。インターハイ決勝。後半アディショナルタイムに決勝点を奪われ、惜しくも準優勝となった試合後。取材エリアに現れた寺師監督は、さばさばと終わったばかりの70分間を振り返っていく。

「最初はあまり自分たちのプレーを出せなかったですね」と話したのは藤川。序盤は静岡学園の勢いに押され、なかなかリズムを引き寄せきれず、19分には先制点を献上。ただ、31分には中澄恵大のロングスローから、藤川が同点弾をゲット。前半唯一のシュートを結果に繋げ、1-1に追い付いてみせる。

「ハーフタイムに伝えたのは、『相手は“静学”をやってくるぞ』と。それを出させていたらダメだろということで、『じゃあ、自分たちは自分たちを出さないと』という話をしました」(寺師監督)

後半は“近附らしさ”が随所に滲む。セットプレーを中心に、相手ゴール前に迫るシーンも。終盤には途中出場の川西啓斗も際どいシュートを続けて放つ。だが、延長戦突入を目前に控えた70+5分に、“ラスボス”の後半ファーストシュートがゴールネットを揺らすと、もう近大附属に反撃する時間は残されていなかった。

 

近大附属の守備を支えた3人。左から興山俊士、森一翔、藤川澄生

「まさに『真夏の大冒険』というところで、本当に全員でレベルアップしながら一緒に歩んできた感じは凄くあって、『今日は最後に勝ち切れるかな。コイツらならやってくれるかな』という気持ちが非常に強かった中で、でも、やっぱりそんなに勝負っていうのは甘くなかったなって」

「でも、この景色を見れるのは、日本の高校サッカー界でも数えるほどしかいない中で、今回はこのファミリー全員で、この景色を1試合1試合通して見れたというのは、本当に全員応援をやった意味があったと思いますし、これがまたチームの歴史になって、財産になったのはもう間違いないと思うので、ここで満足することなく、また気を引き締めて、しっかりまたイチからやり直したいなというふうに思います」

近大附属サッカー部の得られた財産について、胸を張ってそう口にした寺師監督は、インターハイの直前に味わった、“自分たちの立ち位置”について、こんなエピソードを教えてくれた。

「インターハイ前に、堺ユースフェスティバルで直前調整の試合をさせてもらったんですけど、ある強豪校の選手たちが僕らを見て、『どこのチーム?』みたいな話をしていたらしいんです(笑)。でも、そういうことを聞くと、やっぱりちゃんと悔しかったんですよね」。

「だから、僕たちって全然強豪でもなんでもなくて、世間一般からすると全国的にもそれぐらいの評価という中で、今回チームとしてここまで来れたというのは、『そういうところに入っていくぞ』という1つの意思表示であって、それを示せたことはメッチャ大きかったなと思っています」。

「決勝で負けたのは『これで満足すんなよ』ということだと思いますし、また次の“章”というか、“次章”がまた始まるぞというところで、彼らにはまたそういうことは伝えられるかなと思うので、またなんかの大冒険が始まるようにしたいですよね(笑)」

 

チームを最後尾から引き締め続けた、ナイスガイを絵に描いたような守護神の興山俊士が、この夏の快進撃についての感慨を問われ、答えてくれた言葉が強く印象に残った。

「やっぱり率直にこの全国大会という大会がメチャメチャ楽しくて、一戦一戦成長している感じが凄くて、特に決勝という舞台は特別感がありました。正直、この『真夏の大冒険』で近附も全国に進出できたかなって。たぶん10泊11日ぐらいの『真夏の大冒険』やったんですけど、もうゴールまで突き進めたかなと思います。あ、今度は近大附属の『冬の大冒険』も見てほしいかなと(笑)」

おそらく彼らは、これから夏が来るたびに、みんなでゴールまで突き進んだ『真夏の大冒険』のことを、必ず思い出す。PKを外したヤツはイジられ、ゴールを決めたヤツは誇らしげにマウントを取り、スタンドから声援を送ったヤツはバス移動の過酷さを、昨日のことのように、少し大げさに振り返ることだろう。それこそ20年後や30年後の真夏の夜。生ビールのジョッキを傾けながら、みんなで語り合える最高の思い出ができたことこそ、あるいは日本一以上に価値のある最高の財産だったのだと気づく日が、きっと来る。

 

文:土屋雅史

土屋 雅史

土屋 雅史

1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。

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