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驚異的なファインセーブに滲んだ日常の努力。前橋育英高校・根岸彗也が見据えるのは小1で志した選手権日本一の景色 高円宮杯プレミアリーグEAST 前橋育英高校×東京ヴェルディユースマッチレビュー
土屋雅史コラム by 土屋 雅史前橋育英高校・根岸彗也
同じミスを繰り返すことは許されない。3年目でようやく掴み掛けている、タイガー軍団のゴールマウスに立ち続ける権利。小さなころから両親に誓ってきた未来予想図を叶えるためにも、ひたすら今の自分を磨き上げ、必ずあのステージへとたどり着いてみせる。
「前節のベガルタ戦は、自分のプレーでチームに迷惑を掛けてしまったところもあって、今日の試合には『絶対にチームを救う選手になってやる』という気持ちで臨んだので、ああいうセーブができたことは良かったと思います」
今シーズンから前橋育英の守護神を託されている、努力できるビッグセーバー。根岸彗也が試合終盤に披露した1本のファインセーブが、チームの勝点1獲得に大きく貢献したことに、疑いの余地はない。
せっかくの今季初勝利にも、その人の中にはワンプレーの後悔が渦巻いていた。アウェイに乗り込んだ第2節のベガルタ仙台ユース戦。前橋育英は4-1で快勝を収めたが、4点を先行していた後半に喫した1失点は、ミドルシュートを沈められたもの。無回転気味の一撃だったとはいえ、根岸はそれを止め切れなかったことが、とにかく悔しかった。
「あれから何回も動画を見て、しっかり振り返りもしましたし、同じミスは許されないので、いろいろ反省もしながら、チームメイトに無回転のシュートも蹴ってもらって、しっかり練習はしてきました」。首脳陣はこの日の東京ヴェルディユース戦でも、根岸をスタメンに指名。背番号12は強い決意を携えて、ホームのピッチへ飛び出していく。
前半41分。前橋育英に大ピンチが訪れる。ペナルティエリアのすぐ外でボールをかっさらわれ、相手のアタッカーと根岸は1対1に。だが、視界の隅で捉えたチームメイトの特徴も考慮して、すぐさま今の自分にできる最適解を導き出す。
「自分の中ではツー(山本翼)が絶対にカバーに入ってくるんじゃないかなと思っていたら、ファー側に走っていったのが見えていたので、自分はニアを消しながら、『ニアに来たら絶対に止めよう』と。あの角度からならファーに強くは蹴れないと思っていましたし、ファーに行ったら絶対にツーがやってくれると信じていました」
チームのキャプテンを務める山本翼も、まったく同じことを考えていたという。「根岸がニアをやられることはほぼないので、『来るならファーかな』と思って、そこを信じて走り込んだらボールが来ました」
ニアを切られたことで、ファーに打たれたシュートを、フルスプリントで戻ってきた山本が懸命に右足で掻き出すと、ボールはポストの内側を叩きながら、ピッチの中に戻っていく。一瞬で共有された信頼関係の勝利。2人で繰り出したビッグプレーで、前橋育英は失点を回避する。
0-0で迎えた後半35分。東京Vユースが獲得したFK。正確なキックが中央に届き、相手の10番がヘディングで合わせたボールがきっちり枠内を捉えるも、宙を舞った12番のゴールキーパーは、信じられない反応で軌道を捻じ曲げ、ボールを弾き出す。
「クロスが上がってきて、10番の選手にフリーで打たれたのは見えていたんですけど、自分としては結構時間があったかなというふうに感じていて、キーパーコーチの山口(晋嗣)さんとの練習でも、フィスティングはかなりやっているので、指先のコントロールも得意です。感触は良かったですね」
お互いにチャンスは作り出しながらも、試合はスコアレスドローで決着。そうなると終盤のビッグセーブは、より大きな価値を持ってくる。「もともとシュートストップは得意なので、シュートへの反応という意味でも良いプレーができたんじゃないかなと思います」。チームの危機を救ったワンシーンに、日常から真摯に重ねてきた努力が滲んだ。
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2年生だった昨シーズンの根岸は、Bチームが参戦しているプリンスリーグ関東2部で出場機会を手にしていたものの、5月の試合中にヒザの前十字靭帯断裂に見舞われ、そこから半年近い戦線離脱を強いられる。
同じ学年で、同じGKの南京佑がAチームでレギュラーを掴み、プレミアリーグで活躍する中で、身を投じたリハビリの日々。焦燥感がなかったと言ったら嘘になるが、もう今できることを全力でやり切るしかないと、腹を決めた。
「京佑がずっと試合に出ていたので、焦りはありましたけど、自分の時間が多かったので、自分に矢印を向けて、食事管理のところだったり、筋トレだったり、できることをやっていましたし、客観的に外からサッカーを見られましたね」
苦しい時間を支えてくれたのは、高校に入って寮生活を始めたことで、普段は離れて暮らしている家族や、毎日の時間をともに過ごすチームメイトの存在だった。「その時期は毎週のように親が千葉から来てくれましたし、それこそ仲間たちがすぐ近くにいてくれて、リハビリも『オマエならできる』と言ってくれたので、それが支えになりました」
実は根岸には、小さいころから宣言していたことがあったそうだ。「小学校1年生の時に両親に『オレは高校サッカーで活躍する』と誓って、それで育英に入ってきたので、自分がしっかりプレーして、いいところを見せることは、親への良い恩返しになるのかなと思っています」
この日も両親は会場に足を運び、息子の姿を見つめていたという。雌伏の時間を経て、サッカーのできる喜びを噛み締めている根岸は、改めて今シーズンへ懸ける想いをこんな言葉で明かしてくれた。
「自分は選手権優勝というのがずっと小さいころからの夢なので、その夢を達成できるように日々の練習から質を上げて、このままスタメンをキープしたいですし、いろいろな人に感謝の想いを伝えられるように、この1年間はしっかり練習に取り組んでいきたいと思います」
努力が必ず結果に結びつくなんて、そんな保証はどこにもない。でも、やらないよりはやった方が自分自身に納得できることは、十分に理解している。前橋育英のゴールに立ちはだかる、背番号12の新守護神。根岸彗也は悔しい経験も、嬉しい経験も、すべてを明日への糧に昇華して、今日もいつものグラウンドで、いつものトレーニングと向き合っている。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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