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無邪気な46歳の新指揮官が身を投じた冒険のはじまり。昌平高校・芦田徹監督が携えるサッカーと生きていく覚悟 高円宮杯プレミアリーグEAST 柏レイソルU-18×昌平高校マッチレビュー
土屋雅史コラム by 土屋 雅史今シーズンから昌平高校の指揮を執る芦田徹監督
そろそろキックオフの時間が迫ってきたころのことだ。前日にはJリーグの公式戦が行われた、この日の試合の舞台となる三協フロンテア柏スタジアムのピッチを横目に、その人は相手の監督に笑顔でこう話しかけた。
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【先行】高円宮杯 JFA U-18 サッカープレミアリーグ 2025 EAST 第5節-2 鹿島アントラーズユース vs. 東京ヴェルディユース
配信期間 : 2025年5月3日午後0:50 ~
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高円宮杯 JFA U-18 サッカープレミアリーグ 2025 EAST 第6節-1 柏レイソルU-18 vs. 川崎フロンターレU-18
配信期間 : 2025年5月5日午前10:50 ~
「ちょっとこっちまでテンションが上がってくるね」
それを見て、思った。「ああ、この人は本当にサッカーが大好きなんだな」って。公立高校の教員の職を辞し、単身で新天地へと飛び込んできた昌平高校の指揮官。芦田徹監督が覚悟を持って身を投じた冒険のはじまりは、サッカーに生きる“仲間たち”と一緒にその幕が上がっている。
「僕も面白かったですよ」。終わったばかりの試合を、芦田監督は開口一番そう振り返る。プレミアリーグEAST第4節。柏レイソルU-18とアウェイで対峙した一戦。とりわけ後半はお互いが決定機を作り合うアグレッシブな展開に。結果はスコアレスドローではあったが、ハイレベルな攻防は見応え十分。スタンドを埋めた観衆からは大きな拍手が送られた。
「たぶん藤田くん(柏レイソルU-18・藤田優人監督)もそうだったと思うんですけど、ドローを望んでいるというよりも、どちらも最後までゴールを獲りに行っていましたよね。そこの部分で僕も何回か『0-0でもいいぞ』と言いかけたんですけど、ゲーム展開的に『ああ、これは違うな』と思って」。打ち合い上等。やり合う気満々。そのあたりにも軸に据えているサッカー観が滲む。
このゲームからちょうど1週間前。ホームに浦和レッズユースを迎えた、EAST第3節の試合前。ウォーミングアップをする選手たちの輪の中心に、芦田監督は立っていた。「アイツらは言わないとタレるので。よく言っているんですよ。『オレが試合するんじゃないんだけど』って(笑)」。そうは言いながらも、選手たちと同じグラウンドに立っている姿は、実に楽しそうだ。
「本当にピュアな子が多くて、サッカーが上手くなりたいと。だから、僕らも働きかけとしては結構簡単で、『上手くなりたいんだったら、これで大丈夫?』と。これだけですよ。『今の行動と自分の思考がマッチしてるの?』って」。サッカーが上手くなるために、自分がどうあるべきか。シンプルだけれど、本質を突くようなフレーズが印象深い。
もちろん週末の試合の結果は、そこからの1週間のテンションを左右するぐらい大事なものだ。だが、そこにすべてがあるわけではない。追い求めるべきものは、その先を想像することで見えてくる。それを芦田監督は『リスク』という言葉を使って、丁寧に説明してくれた。
「彼らに言ったのは、『勝ち負けにかなり一喜一憂しているよね』と。でも、僕らにとっての一番のリスクはリーグの“節”が進んでいっても、1か月後、2か月後、半年後に成長していないことなんです。やっぱりできることをチームで、個人で、1つ1つ増やしていくために、『本当に日常に向き合わないとダメでしょ』ということはかなり言っているので、まだまだそんなところまでは行っていないんですけど、そういう取り組みをチームと個人でやっていくことが理想かなと思います」
今日は昨日より、明日は今日より、明後日は明日より、一歩ずつでも前に進む。試合に勝っても、負けても、引き分けても、出てきた課題を把握し、一段ずつでも階段を上がる。それを積み重ねることでしか、サッカーが上手くなる方法はない。半年後の、1年後の成長を信じ、昌平の選手たちは日常と向き合っていく。
長野生まれの、長野育ち。10年以上の時間をかけて、市立長野高校を全国に出場するまでのチームへと進化させるなど、地元で確立してきたさまざまなものを投げ打って、昨年度のインターハイ王者を率いる決断を下したのだ。中途半端な気持ちでその職を引き受けたはずもない。よりサッカー漬けになった今を、この人はポジティブに楽しんでいるようにも見える。
「やっぱり本当にサッカーを考える時間が凄く濃密ですね。今まで僕は相手のことってほとんど考えなかったんです。自分たちができることを増やすというのを“100”でやっていたんですよね。でも、ここではそうじゃなくて、もちろん相手の良さもわかりながら、自分たちの良さも出すというところの両輪で捉えると、メチャメチャ考えさせられますし、サッカーの在り方みたいなものは1つじゃないなと痛感しています」
「だから、やらなきゃいけない準備は無限にあるんですけど、自分の中では後悔したくないですし、やれることはやり尽くしたいなって。ただ、そこで絶対にブレちゃいけないなと思うのは、やっぱり選手がどうやって成長していくかということで、目の前だけではなくて、その先をしっかり見据えることだけは間違えないようにしたいですし、ウチには良いスタッフがいるので、村松ちゃん(村松明人コーチ)とはいつも『ブレてない?ズレてない?』とか言いながら(笑)、本当にサッカー人としていい時間を過ごさせてもらっているなと思っています」
冒頭の場面でも感じたことだが、芦田監督は良い意味で無邪気な人だと思う。個人的に尊敬している指導者の方が、以前話していた言葉を思い出す。「サッカーの指導者で何かを成し遂げる人って無邪気な人が多いんだよ。無邪気って、読んで字のごとく『邪気がない』ってことで、そういう人が率いるチームはうまく回るんだよね」
今や中学年代屈指の強豪として知られるFC LAVIDAの監督も務め、その指導力に定評のある村松コーチは、「この年齢になって、あの人と出会えたことは本当に大きいと思う」と言い切った。本物は本物を知る。きっとそこに過ごした時間の短い、長いは関係ない。そして、芦田監督が携えている信念は、きっと昌平が大事にしてきたものと過不足なく一致する。
「サッカーにはいろいろな考え方がありますし、僕なんて本当に凝り固まっていた感じもあるんですけど、そういった意味では新しい世界を見させてもらっています。もちろんいいことばかりではなくて、難しいことや苦しいこともいっぱい出てきますけど、それは選手も一緒じゃないですか。だから、選手の苦しみみたいな部分は指導者も一緒だなと思いながら、みんなでともに成長できればいいなと思っています」
自分が信じた道を、選手と、スタッフと、がっちり肩を組み、ひたすら前へ、前へと進んでいく。無邪気な46歳の新指揮官が覚悟を持って身を投じた冒険のはじまりは、サッカーに生きる最高の“仲間たち”と一緒に、その幕が上がっている。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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