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サッカー フットサル コラム 2024年11月27日

日常を積み重ねた先でたどり着いた指導スタイル。鹿島アントラーズユース・柳沢敦監督が若鹿たちに注ぎ込む情熱の行方 高円宮杯プレミアリーグEAST 鹿島アントラーズユース×前橋育英高校マッチレビュー

土屋雅史コラム by 土屋 雅史
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鹿島アントラーズユース・柳沢敦監督

「やっぱりそうですよね。僕もそう思います」

柔和な笑顔を浮かべながら、ワールドカップにも出場した日本サッカー史に残るストライカーは、こちらの言葉を優しく肯定する。その人は鹿島アントラーズユースを率いる指揮官。柳沢敦監督だ。

5年ぶりにプレミアリーグへと帰ってきた今シーズン。若鹿は快進撃を続けている。19節を終えた段階の順位は、堂々の首位。2位の横浜FCユースとは勝点も得失点差も並んでおり、総得点で上回って、リーグテーブルの一番上に名前を連ねている。

特筆すべきはそのメンバー構成の若さだ。ドイスボランチを任されている福岡勇和と大貫琉偉、リーグトップスコアラーの吉田湊海や前線と中盤を兼任できる平島大悟は1年生。さらに中学3年生の高木瑛人と小笠原央は、ジュニアユース在籍中にもかかわらずプレミアの出場機会を掴むと、どちらもゴールまで記録。とにかく思い切った選手起用が際立っている。

「『学年に関係なくチャンスがある』ということは示してきたつもりです。今は1、2年生が多く試合に出ている中で、そこに対して3年生の刺激もありますし、さらに中学生にも出られるチャンスはあるわけで、それを考えれば競争は激しくなっていると思いますし、みんなが『うかうかしていられないな』という気持ちになるでしょう。やはりアントラーズの哲学でもある『競争と結束』をキーワードにしながら、今のチーム作りに取り組んでいます」

柳沢監督はさらりと口にしたものの、プレミアリーグの舞台でこれだけの若き才能を使いながら、きっちりと結果も残しているのだから、振るってきたその手腕には恐れ入るほかにない。

この日のホームゲームの相手は、4連勝中と波に乗る前橋育英高校。難敵相手の一戦は開始2分でいきなり中川天蒼が先制点を記録。幸先良いスタートを切ったものの、以降は相手のパスワークにやや後手に回る展開を強いられ、守備の時間が長くなっていく。

高円宮杯プレミアリーグ特集サイト

67分にはセットプレーから失点。スコアを振り出しに引き戻されたが、柳沢監督はピッチの選手たちの表情を逞しく感じていたという。「僕は『まだ時間も全然あるし、切り替えられるな』と思っていたんですけど、選手たちも下を向くことなく、ピッチの中で『もう1回行くぞ』と声を掛け合っている状態だったので、『振り出しに戻っただけかな』と思っていました」。リーグ戦もこの日がちょうど20節。いろいろな経験を積み上げてきたチームは、小さくない自信を纏っていた。

86分。右サイドから大貫がFKを蹴り込むと、後半開始から投入されていた吉田が合わせたヘディングは鮮やかにゴールネットを揺らす。「ヤナさん(柳沢監督)からは『守備でハードワークしながら、ゴールも常に狙い続けろ』と言われました」という1年生アタッカーの今季10点目は、そのまま決勝点に。試合後の“クラハ”には選手とサポーターの笑顔が咲き誇る。

「今日はよく『アントラーズらしい』と言われてきたような勝ち方だったと思うんですけど、これはやろうと思ってできることでもないので、ボールへの執着心とか、ゴールに向かっていく姿勢とか、最後まで諦めないところとか、最後のところはそういう1年間の積み重ねが出たのだと思いますし、こういう試合を勝ち切れたのはやっぱり彼らが素晴らしかったと思います」。今季のチームを象徴するような白星に、指揮官も確かな手応えを感じたようだ。

現役時代から日本を代表するようなストライカーにもかかわらず、控えめな人だと思っていた。ミックスゾーンでお話を伺ったこともあったが、穏やかで丁寧な口調が、その性格をよく表しているようにも感じていた。だから、意外だった。テクニカルエリアの一番前に立って、大声で指示を送る姿が。選手のイージーなミスに声を荒げる姿が。全身を使って劣勢のチームを鼓舞する姿が。

失礼を承知で言ってしまった。「あんなにテクニカルエリアで大声を出したり、選手を鼓舞するタイプの人だとは思いませんでした」と。それに対する答えが、冒頭の言葉ということになる。

「やっぱりそうですよね。僕もそう思います。あまりそういうタイプではないですけど、やっぱり言う時は言わないといけないですし、伝え方というのは声のトーンとか大きさも大事で、もちろん内容が一番大事ではあるんですけど、選手になるべく伝わるように、自分の感情が高まっていることも見せられたらとは思っています。そこは一緒に戦っているイメージですね」

「実は選手もそういうところを見ていますし、そういう姿を見ていると『頑張らなきゃ』という気持ちになってくれることもわかってきたので、それが見せかけではなくて、本当にみんなと向き合って、みんなと一緒に試合を戦っているという姿をしっかり見せることができれば、選手たちはそれに付いてきてくれるのかなと信じています」

左から柳沢監督、小笠原満男テクニカルアドバイザー、曽ケ端準GKコーチ。ベンチにはクラブのレジェンドが顔を揃える

今年で指導者の道に足を踏み入れて10年目。さまざまな指導者やさまざまな選手と濃厚な時間を共有してきた中で、たどり着いたのが今の『一緒に戦う』というスタイル。日々のトレーニングから高校生たちと真摯に向き合っている。

もちろん選手たちも、指揮官に対しては大きなリスペクトを払っている。「ヤナさんは一流の選手だったので、吸収する部分が本当に多いですし、フォワードの動き出しや受け方は勉強になっていて、そこはより意識するようになりました。普通はヤナさんに教われるなんてありえないことですし、ここのユースじゃなければ経験できないことなので、それは本当にありがたいと思っています」と話すのは、今季からユースに加入した吉田。キャプテンの佐藤海宏も「ヤナさんは自分からしても特別な人ですけど、『何か悩んでいることがあったら聞くぞ』と言ってくれますし、ちょっとイジってくれたりもするので(笑)、オープンにしてくれている分、良い関係性が築けているのかなと思います」と語るあたりからも、選手との良好な距離感が窺える。

コーチとして2年。監督として4年。高校年代の指導を続けてきたことで、見えてきたものがあるという。「やっぱり練習の中で受ける刺激の積み重ねの先に試合があって、そこでさらに大きく成長することもあるわけで、普段の積み重ねがない状態でいきなり試合にポンと出て活躍しても、本当に獲得できたものが多くないと、長くは続かないですよね。普段の厳しい練習の中で苦労しながら、自分で努力して積み重ねたものが、もちろん出る時もあれば、出ない時もありますけど、それも試合の中で学んでいくことで、ある時にグッと飛躍する時が来るんじゃないかなと思うんです」

「その飛躍を見られた時が本当に嬉しい瞬間でしょうね。今も我慢して、我慢して、努力を積み重ねている選手がいるので、そういう選手には試合に出て活躍して、さらに自信を付けて、次の試合もまた活躍できるように頑張ってほしいなと思います。もちろんみんなに頑張ってほしいですけど、まだまだそれぞれ波があるので(笑)、全員をそういうふうに持っていけたら最高ですね」。そう話して浮かべた笑顔に、指導者としての、また人としての在り方が滲んだ気がした。

今季のプレミアも残りは2試合。次節は3位の横浜FCユースとの上位対決が控えており、その試合に勝ったうえで、2位の柏レイソルU-18が引き分け以下に終われば、鹿島ユースの6年ぶりとなるプレミアEAST制覇が決定する。そんな条件は百も承知。だが、指揮官のマインドにはいさかかのブレもない。

「もう一戦一戦全部勝つしかないと思っていますし、まずは次の横浜FCさんとの一戦が大事なので、そこを勝ったらその次というイメージで、まず考えるべきは目の前の試合ですね。その試合に向けた準備という部分で、結局はトレーニングがすべて試合のピッチに繋がっていくので、いつも『今日の練習でできることを大事にしましょう』と選手には伝えています。すべてはそれの積み重ねですから」

目の前の日常を積み重ねることで、ワールドカップのピッチを踏みしめるまでのキャリアを築いた努力の人。柳沢監督が惜しみなく注ぎ込んでいく溢れんばかりの情熱は、未来のクラブを担うべき若鹿たちが携えている『鹿島のDNA』に、間違いなく刻み込まれている。


 

文:土屋雅史

土屋 雅史

土屋 雅史

1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。

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