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夏の全国王者が手繰り寄せた2試合続けての逆転勝利。2024年を『昌平の年』にするためのリスタート 高円宮杯プレミアリーグEAST 昌平高校×尚志高校マッチレビュー
土屋雅史コラム by 土屋 雅史夏の全国王者・昌平高校は2試合続けての逆転勝利!
「本当に力が付いてきましたよ。慌てることもないですし、こうすれば点が獲れる、こうすれば逆転できるというシナリオとかイメージが選手の中にもできていると思いますね。シーズンの最初とは全然違います」
そう口にするのは、今シーズンから昌平高校を率いている玉田圭司監督。プレミアリーグEAST第14節。尚志高校と対峙した一戦は、39分にワンチャンスを沈められて先制を許したものの、前半終了間際にセットプレーから坂本航大が同点弾を決めると、終盤の82分には4人が絡んだ完璧な崩しから、キャプテンの大谷湊斗が決勝ゴール。見事な逆転勝利を収めてみせた。
昌平は前節の前橋育英高校戦でも、勝負強さを発揮している。前半のうちに2失点を喫して苦しい展開を強いられた中で、後半に入って山口豪太と三浦悠代がゴールを重ね、90分に長璃喜が劇的な決勝点をゲット。2点差を跳ね返して勝点3を奪っており、つまりは2試合続けて逆転で白星を手繰り寄せているというわけだ。
ただ、大谷が「勝負強いというのはいいと思うんですけど」と前置きしながら、続けて「ここ2試合は前半で失点してしまってからスイッチが入る感じなので、そこは改善点かなと思います。ちゃんと前半から飛ばして、点を獲って勝ちたいですね」と言及するあたりにも、チームが共有している高い意識が窺える。
より強い向上心を纏うきっかけになったのは、この夏に味わった日本一の経験だ。福島で開催されたインターハイ。1回戦から登場した昌平は順調に勝ち上がると、桐光学園高校と激突した準々決勝も2点差を追い付き、PK戦で粘り勝ち。さらに準決勝では同じプレミア勢の帝京長岡高校を撃破し、初めて進出した決勝でも神村学園高校に2度のリードを許しながら、最後はエースの鄭志錫が土壇場で逆転ゴールを叩き出し、悲願の全国制覇を成し遂げた。
「一番の収穫は自信ですね。試合をこなすごとに、自分たちの課題が毎試合毎試合見つかって、それをどんどん克服していった先に優勝があったので、1人1人が凄く成長しました」。玉田監督はインターハイで得られたものについて、真っ先に“自信”を挙げている。
この日の尚志戦でもセンターバックに入り、安定したパフォーマンスを披露していた鈴木翔の感想も印象深い。「LAVIDAの時に1回全国準優勝はしたんですけど、優勝となると全然景色が違いますね。やっぱり価値のあるものだと思いますし、最高でした」
2021年の年末に開催された『高円宮杯 JFA 第33回全日本U-15サッカー選手権大会』で、昌平の下部組織に当たるFC LAVIDAは決勝まで進出。最後はサガン鳥栖U-15に敗れて準優勝に終わったものの、その日のスタメンは鈴木を含めた7人が尚志戦のスタメンと同じ顔ぶれ。いわば今回の日本一は“3年越し”のリベンジ達成という側面もあったのだ。
昌平高校を率いる玉田圭司監督
今季から昌平の指揮を執っている玉田監督は、インターハイの6試合を経た選手たちの変化を、敏感に感じ取っていた。「まずは戦うとか、1対1で負けないというところは凄く見えましたね。『ここで勝てばオレらは絶対に優位に立てる』と。そこで勝るかもしくは互角ぐらいに戦えれば、ウチが絶対にやれるというのは感じましたし、それを自分の身体で感じたことが大きいですね。やっぱり言葉で伝えるよりも、自分たちで感じることの方が頭にも残りますし、身体も覚えているんですよ」。真夏の貴重な体験が、チームを一段階先のステップへと進めてくれたことは間違いない。
とは言いつつ、彼らもまだ高校生。ビッグタイトルの獲得がすべてプラスに転じるとは限らない。「ちょっと燃え尽きた感じはあったと思います」と鈴木が話せば、「正直、練習の雰囲気もフワッと入ってしまったり、強度が低くなってしまったこともありましたし、フェスティバルでも圧倒された試合もあったので、気の緩みもあったのかなと思います」とは大谷。インターハイ後はどの対戦相手も“日本一のチーム”を倒そうと高いモチベーションで向かってくるのに対して、少し受けて立つような試合が目立っていたという。
ワールドカップにも出場した指揮官が、そんな緩んだ空気感を見逃すはずもない。「玉田さんから『もう日本一は過去のことだから、またしっかりイチから選手権とプレミアを獲るためにやっていこう』と言われて、そこで湊斗を中心に改めて選手で話し合いました」(坂本)。自信と過信は紙一重。気を引き締め直して挑んだプレミアリーグの後半戦で、いきなり連勝スタートを切れたことが、彼らに“謙虚な自信”を持つことの大事さを、より教えてくれたと言ってもいいだろう。
玉田監督も“日本一の監督”という立ち位置については、指導者としての手応えにも繋がったようだ。「メチャクチャ自信になりました。自分がやってきたことがこうやって優勝に繋がったことは凄く嬉しいですし、自信にもなってきますし、そうするとより課題も見つかって、こうすればもっと良くなるという意欲にも繋がるので、非常に良かったですね」。課題を見つけ、成長を促し、結果に繋げる。今年の昌平は監督を筆頭に、このサイクルがしっかりと機能している。
インターハイ、プレミアリーグ、高校選手権。高校年代三冠を手にする権利は、彼らだけが持ち合わせている。それでも、まず大事なのは次の1試合。「常に目の前のことに対してしっかりやらないと、4か月後にどういう姿になっているかというのは見えないでしょうし、日々の積み重ねの先で良い結果が待っているのかなと。まあこういうプレッシャーも僕は好きなので、そういうプレッシャーも楽しみながら、選手をリラックスさせる状況を作りながら成長していければいいなと思います」(玉田監督)
キャプテンの大谷の言葉が、選手たちの今を過不足なく代弁する。「日本一になったからこそ、『また日本一になりたい』という気持ちもあるので、1回獲っただけではまだ全然足りないですね。選手権も獲ったら『今年は昌平の年だったな』と思われるので、プレッシャーもありますけど、しっかり県予選を勝ち抜いて、日本一に向かって1試合1試合油断せずにやりたいです」
夏の日本一は、さらなるタイトル獲得への渇望感を連れてきた。再開したプレミアリーグではいきなりの2試合連続逆転勝利と、確かな進化の跡を感じさせている。残された二冠への意欲も十分。2024年を『昌平の年』にするためのリスタート。逞しさを増した彼らが続ける進撃は、そう簡単に止まらない。
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逆転弾を沈めてポーズを決める昌平高校のキャプテン・大谷湊斗
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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