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サッカー フットサル コラム 2024年4月30日

「7番の左サイドバック」の正当な継承者。鹿島アントラーズユース・佐藤海宏が手にしたキャプテンとしての初勝利【NEXT TEENS FILE.】

土屋雅史コラム by 土屋 雅史
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鹿島アントラーズユース・佐藤海宏

タイムアップの笛が聞こえてくると、ようやく選手たちに笑顔が広がる。そんな歓喜の中で、安堵に近い表情を浮かべて奮闘したチームメイトを労っていたのは、小さくないプレッシャーと戦い続けている、キャプテンマークを託された背番号7だった。

「3試合勝てなくて、自分自身勝つことに対しての焦りも正直ありましたし、1つ勝ったら良い雰囲気に持っていけると思っていたので、その中で勝てたというのは今後の自信にも繋がりますし、このぐらいやれば勝てるという基準は得られたのかなと。これをベースにしながら、練習から手を抜かずに、常に100パーセントでやりながらも、サッカーを楽しむことが大事だなと思います。でも……、ホッとしました」

5年ぶりにプレミアリーグの舞台に帰ってきた、鹿島アントラーズユースのキャプテン。佐藤海宏は開幕4試合目にして、聖地・カシマサッカースタジアムで手にした今シーズン初白星の味を、じっくりと噛み締めていた。

いわゆる強烈なリーダーシップで、チームを牽引していくタイプではない。「自分はあまり強く言うタイプじゃないというか、ガーガー言うようなタイプじゃないんですよね」と本人もその自覚はある。だが、鹿島アントラーズの名を冠するチームのキャプテンを務めるのであれば、やらなくてはいけないことはハッキリしている。

「自分が良いプレーをすることも大事ですけど、それだけではキャプテンをやらせてもらっている意味がないと思うので、去年よりも周りを見たり、他の選手のことを気に掛ける意識は増えたかなと感じています。ただ、もうちょっと強く言う場面も増やしていいかなって。練習の中でもっと要求の声が増えていったら自然と雰囲気も上がると思いますし、それを自分が意識しながら、周りに伝えていければいいなと思います」

高円宮杯プレミアリーグ特集サイト

1年時から公式戦の出場機会を掴み、年代別代表にも招集されるなど、着々と成長を続けてきた佐藤だが、今年の年初には想いを新たにするような出来事があった。それは同期の徳田誉と松本遥翔が来季からトップチームへ昇格するという発表だ。

「2人とも結果を残して、代表にも多く参加している中で、身近にいるからこそ意識しようとしなくても、自然と意識しますし、遥翔に関しては逆サイドですけど同じポジションなので、ライバルというか自分も負けたくない気持ちは持っています。でも、プレーを見ていても良い意味で見習えるというか、2人から学べることもありますし、自分もプレミアを通して結果を残していくことで、トップに上がる可能性も広げられるはずなので、1試合1試合を大事にしていきたいなと思います」。プレシーズンにはトップチームのキャンプにも参加し、改めて自身の昇格への意欲を掻き立てられた。

そのためにもプレミアリーグを戦う日常へと高いモチベーションで挑んできたが、開幕からの3試合は2分け1敗。なかなか白星が付いてこない。「アントラーズというクラブは常に勝利を、優勝を目指してやっていかなければいけないというのはいつも言われています」と口にする佐藤の心に、焦りの感情が渦巻いていたことは想像に難くない。

迎えた第4節。会場は今季2度目のカシマサッカースタジアム。ホームゲームということで、この日はユースの彼らに“援軍”が訪れた。スタンドに集結したのはアカデミーのジュニアユースとジュニアの選手たち。太鼓、フラッグ、そして、声。ピッチの選手に後輩たちの声援が降り注ぐ。

「自分も小さい頃はプレミアの試合の応援に来ていましたし、チームでの応援がなくても、時間がある時は試合を見に来たこともありました」。ジュニアからアントラーズでプレーする佐藤にとっても、プレミアリーグは憧れの舞台。さらにこのスタジアムでプレーするのであれば、やらない理由はない。

鹿島ユースは2点を先行したものの、終盤に差し掛かって横浜FCユースに1点を返される。「失点した時に時計を見たら80分ぐらいで、まずそこからの10分が長くて、もうワンプレーワンプレーが切れるごとに何度も何度も時計を見て、そのたびに『まだこれだけしか進んでないのか……』と思いました」(佐藤)。耐える。みんなで懸命に耐える。1分が、1秒が、いつも以上にとにかく長く感じられる。

「早い段階で足が攣っちゃったんですけど、応援があったから踏ん張れましたし、走れたと思います」。スタンドから送られる後輩たちの声が、佐藤の止まりかけている足を、一歩前へ、一歩前へと、踏み出させてくれる。そして、とうとう試合終了を告げる主審のホイッスルが耳に届く。

「終わった瞬間はホッとした気持ちが一番大きかったですね」。ピッチとスタンドで戦い切り、アカデミー全体で掴んだ今季のプレミア初勝利。試合後にみんなで飛び跳ね、歌った“オブラディ”が、聖地のスタジアムに響き渡った。

『アントラーズの7番』と言えば、左サイドバックのイメージがある。相馬直樹に新井場徹。クラブ史に残るレジェンドが付けてきた番号だ。そんな伝統の7番を、佐藤は2年生だった昨シーズンから背負っている。

「去年は“パンフレット”を見て初めて知ったんですけど、その時は『間違えたんじゃないかな』と思って(笑)、ビックリしました。でも、今は結構気に入っていますし、『サイドバックで7番ってカッコいいかな』って。今年も7番を付けさせてもらっているので、愛着が湧いてきていますし、やっぱり『アントラーズの7番』には伝統があると思います」。カシマスタジアムのタッチライン際を駆け上がる左サイドバックには、やはり『7番』が良く似合う。

初勝利は手繰り寄せた。いよいよここからが反撃の時。佐藤が言葉に力を込める。「ヤナさん(柳澤敦監督)も言っていたんですけど、勝つためにはこのぐらい全力のエネルギーを出さないと勝てないということがわかりましたし、そこがプレミアの厳しさだと思うので、今日の勝ちを通していろいろなことが得られたかなと。今後もこれ以上のものを出して、上位に行けるように頑張っていきたいです」

「海のように広い心を持ってほしい」という由来の名前を持つ、2024年の鹿島ユースを束ねるキャプテンであり、7番を背負った左サイドバック。その先は輝く未来へ続くと佐藤海宏が信じている扉の鍵は、いつだって自分の手の中にある。

 

文:土屋雅史

土屋 雅史

土屋 雅史

1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。

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