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その後、僕はワールドカップの度にメッシのプレーを見たし、自国開催だった2011年のコパ・アメリカでもメッシの出場する試合は何度も見た。もちろん、全盛期のバルセロナも見た。そして、最後にメッシを見たのは、2022年のワールドカップでだった。
しかし、こうした試合だとプレースピードも上り、強度も非常に高くなる。そして、勝負がかかった試合でもあり、また、メッシだけでなく周囲の選手のことも見ていなくてはならない。
「メッシを堪能する」というわけには行かないのだ。
だが、神戸との試合のようなエキジビションなら、メッシだけを見ていることができる。
勝敗などどうでもいい試合であるし、プレースピードも遅い。もちろん、対戦相手も接触プレーでメッシをつぶしてしまおうなどという無粋な事もしない。
だから、こんな“試合”だからこそ、メッシだけに注目して観戦するという贅沢ができるのである。
登場したメッシは、早速、スアレスとのワンツーでゴール前に抜け出す動きを披露。コンディション不良の中でも一瞬の速さで相手を置き去りにする。
この日のメッシは、両サイドのアタッカーを使うパスも多用した。
たとえば、左のテイラーは神戸陣のペナルティーエリアの深い位置、いわゆる「ポケット」に進出する動きを狙っていたが、メッシは正確なパスでその動きをうまく生かした。
それも、いきなりテイラーに合わせるのではなく、他の選手と短いパスを交換することによって神戸の選手たちの目をそちらに引き付け、そしてテイラーが深い位置に進出するための時間を作ってから鋭いパスを出すのだ。
あるいは、右サイドでサイドハーフのグレゴレやサイドバックのデアンドレ・イェドリンが突破を図ろうとスピードに乗った瞬間、つまり相手選手や観客の目がそちらに引き付けられた瞬間、左サイドにぽっかりと開いたスペースに優しいパスを出す……。
「ああ、そこを見ていたのか!」
見ている方は、思わず感嘆の声を上げるしかない……。
先ほども書いたように、僕はこれまでメッシの出場した試合は何度も見てきているが、メッシのそういったスペースを見る眼、時間をコントロールするプレーをこれほど堪能したのは初めてだったかもしれない。
こうして、“興行”としか呼べないようなイベントではあったが、メッシは十分に僕を楽しませてくれた。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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