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日本の選手たちのアジアカップに向けたモチベーションはそれほど高くなかったのだろう。彼らは準々決勝敗退で「すべてを失った」といった喪失感は抱かなかったはずだ。ほとんどの選手はすぐにクラブでの戦いに気持ちを切り替えているだろうし、とくにチャンピオンズリーグのノックアウトステージに出場する選手にとって、それはアジアカップ以上のモチベーションをもたらすはずだ。
つまり、日本代表は様々な要因でチームの状態が上がらないままアジアカップを戦っていたのだ。
森保監督はトレーニングを通じてそうした悪条件を克服できると考えていたのだろうが、実際にはコンディションを上げることに失敗。今後のワールドカップ・アジア予選での戦いの際にも参考にすべきだろう。コンディションの悪いヨーロッパ組よりも、コンディションが良く、モチベーションの高いJリーグ組を起用すべき試合もあるはずだ。
さて、こうしてマネージメントの失敗で惨憺たる結果に終わったアジアカップだったが、まったく収穫がなかったわけではない。
第一の収穫は、上田綺世がワントップとして十分な働きをしたこと。イラン戦でもターゲットとしての役割を果たして守田英正のゴールをアシストした。前線でDFを背負ってボールを収めることができるFW探しは日本代表の最大の課題だったが、どうやら上田中心でチーム作りを進めることが可能になったようだ。
もう一つは、GKの鈴木彩艶が経験を詰めたこと。
U-22世代の鈴木は昨秋からフル代表に抜擢されていたが、昨年出場した試合は日本が一方的に攻撃するような試合ばかりで十分な経験はあ積めていなかった。
そんな中で、いきなりアジアカップで正GKの座を任され、ベトナム戦やイラク戦では失点に絡んでバッシングを受けるという辛い(そして、貴重な)経験をした。
鈴木は試合を積み重ねるとともに落ち着きを取り戻し、イラン戦では鈴木らしいダイナミックなセービングやロングキックのフィードも見せてくれた。
フィジカル能力に優れた鈴木が世界基準のGKに成長してくれることは、2026年のワールドカップで日本が上位進出するためには不可欠のピースだ。だからこそ、森保監督はアジアカップでは(確信犯的に)リスクを覚悟して鈴木にゴールマウスを託したのだ。
将来、鈴木がワールドクラスのGKに成長した際に、「彼が初めて国際試合の洗礼を受けた大会」として記憶されるようになるとすれば、アジアカップ・カタール大会は日本にとって悪い思い出ばかりではなくなるはずだ。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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