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PK獲得の場面で田中のシュートはまずDFの高橋はなの体に当たり、そのボールが石川の手に当たったもの。浦和にとっては不運なPKだった。
高橋の体に当たったボールが至近距離で石川の手に当たったのだから、石川の手が通常の位置にあればハンドの反則は取られないはずだが、石川の手は顔より上に上がっていた。皇后杯ではVARは採用されていないが、たとえVARのチェックが入っても、やはりハンドの判定は覆らなかっただろう。
しかし、PKを取られたことよりも、あのこぼれ球からの田中のシュートに対して浦和のセンターバック2人がしっかりブロックに入っていたことを評価すべきだろう。
浦和の2人のCBは、後半から延長戦にかけて何度も冷静な守備でチームを救った。たとえば、延長後半のアディショナルタイムにI神戸のウィングバック守屋都弥がフリーで抜け出してドリブルで迫った場面があったが、高橋が全力で最短距離を走って正確なスライディングで防いだ。
こうして突入したPK戦を制したI神戸が皇后杯のタイトルを獲得。
I神戸は、現在中断中のWEリーグでも無敗で首位に立っている。そして、そのI神戸を勝点1の差で追っているのが浦和である。
かつての“絶対女王”日テレ・東京ヴェルディベレーザは、選手が大幅に若返り、平均年齢20歳強というメンバーで戦っており、また、徹底してパスをつないで崩すベレーザのスタイルに、カウンタープレスの要素を加える新しい試みに取り組んでおり、チームの完成には遠い。
3月に再開されるWEリーグは、やはりI神戸と浦和の一騎討となる公算が大きい。
浦和には大ベテランの安藤やキャリアのピークにある猶本がおり、清家や塩越柚歩、遠藤優のような中堅。さらに、角田のような新進気鋭の選手も育っており、総合力では浦和が一歩リードしているのではないか。
しかし、皇后杯準決勝ではI神戸が2度先行したのに対して、ちふれASエルフェン埼玉が効率的なカウンターで2度追いついて延長戦に持ち込む健闘を見せ、浦和に対しては広島が互角の勝負を挑んでPK戦に持ち込んだ。EL埼玉はWEリーグで現在10位、広島は8位というチームだ。
プロ化2年目だった昨シーズン以降、WEリーグのレベルアップは著しいが、最近は下位チームがそれぞれ上位に対して抵抗する型を身に着けつつあるようで、上位と下位の対戦でも白熱した試合が多くなっている。
今シーズンの第45回皇后杯は、準決勝、決勝の白熱した試合を通じて、最近の日本の女子サッカーの充実ぶりを実感させてくれる大会となった。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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