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『今年の“ガクエン”が突き進む「挑戦、改善、成果」という理想的なサイクル 高円宮杯プレミアリーグWEST 履正社高校×静岡学園高校マッチレビュー』
土屋雅史コラム by 土屋 雅史
静岡学園高校が強い。9節を終えたプレミアリーグWESTで6勝2分け1敗と勝ち点20を積み上げ、2位の神村学園高校に4ポイント差を付けて、首位に堂々と立っている。
この日の履正社高校戦でも、前半に志賀小政のクロスをエースの神田奏真がきっちり沈めて先制すると、さらに神田との連携から10番を背負う高田優が華麗に追加点。後半にも途中出場の大平青空がダメ押しゴールを奪う。さらに守備陣もほとんど決定機を作らせることなく、相手の攻撃をシャットアウト。「今シーズンの公式戦ではゼロで抑えた試合が1試合しかなくて、自分たち守備陣としてもそれが一番欲しかったものなので、無失点で勝てたところは良かったかなと思います」とキャプテンを務めるGKの中村圭佑も言及するなど、盤石の勝利をアウェイで収めてみせた。
「点の獲り方が非常に良かったかなと。ちゃんと崩して点を獲っているので、そこは自分たちの良さが今日は出せたのかなと思います」と話した川口修監督が、この好調について語った言葉も印象深い。「最初はいろいろなことができなかったんですけど、毎試合やりながら改善していっているという形です。今年は改善点が出たところをしっかり修正できているんです。そこで少しずつレベルアップできていると」。
履正社戦で“改善”が見られたのは、守備のアラートさだ。前節のサガン鳥栖U-18戦では、シンプルに裏を使われたアタックから先制点を献上。「失点のパターンは決まっているので、そこの対応で『センターバックは裏を取られないようにもっと深く下がれ』と。そういうところを改善しただけです」とは川口監督。水野朔と大村海心のセンターバックコンビは、慎重なラインコントロールから背後のケアも万全。場合によっては中村もエリアをカバーしつつ、相手にスペースを使わせないディフェンスを遂行する。
試合後には中村も「裏を取られて一発で行かれることが続いていて、『それを改善しないと』と言って練習してきて、今回は裏を取られるシーンも少なかったので、そこは改善できて良かったなと思います」と胸を張る。スピードのあるアタッカーを擁した履正社を無失点で抑えたのは、間違いなく“改善”を図った成果。決して偶然ではなかったというわけだ。
この“改善”に着目する上で、今年のチームが有している特徴は見逃せない。ここも中村が普段の練習の雰囲気をこう教えてくれる。「ダメなところをそのまま放置しないというところで、普段から結構言い合うことで、去年以上にかなり強度の高い練習もできています。今年のチームの勝利への執念はかなり強いと思っていて、このまま続けて改善するところは改善してやっていったら、本当に日本一になれると思いますし、みんなも同じ方向を向いてやれているので、プレミアで結果が出ているのはそういうところをしっかりやれているからかなと感じています」。
中盤で違いを作れる高田も、キャプテンに同調する。「圭佑を中心に、練習から『ぬるくならないように』というか、本当に1つのプレーをとってもプレッシャーに行く時は厳しく行くようになって、その中でも改善しながらできていますし、1週間1週間成長しながらリーグ戦を戦っていけているので、そういうところが結果に繋がっているのかなと思います。それってメチャメチャいいことですよね」。ここでも“改善”というフレーズが口を衝くあたりに、その徹底ぶりも窺える。
そのグループが纏っている一体感は、指揮官の彼らに対する認識とも無関係ではなさそうだ。「今年は連携しかないんです。個で崩す力がないので、それしかないんですよ。だから、逆に上に行けば行くほど相手に対策を立てられてしまう可能性もあって、相手に守られても、個の力で1枚剥がしてしまうというところで、本来は局面を変えてほしいんです。今年はそれができないんですよね」(川口監督)。
今年の選手たちも、傍から見れば強力な“個”を持っているように感じるが、今まで数多くのタレントをプロの世界に送り出してきた川口監督にしてみれば、その基準に達するような選手は現時点でいないがゆえに、連携を高めるしかないという捉え方をしているわけだ。
おそらくは選手たちも、その見られ方は把握しているに違いない。だからこそ、個のレベルアップにはもちろん常に取り組みながら、グループとしての戦い方も挑戦と改善を繰り返している。「僕は今年のチームは全員が仲が良いと思っていて、圭佑を中心に練習から厳しくやるところはちゃんとやりますし、マジメな子が多いので、そこはとても良い感じでやれています」という神田の言葉も、試合を見ていると頷けるところが少なくない。
何とも“ガクエン”らしいなとも思う。「自分が一番重要視しているのは個の力なんです」と言い切る指揮官と、それは大前提として理解しながら、組織力の向上にも妥協せずに向き合っている選手たち。『挑戦、改善、成果』という理想的なサイクルのようにも思える形でここまで進んできている静岡学園の今シーズンが、ここから個も組織もどこまで進化していくのかは、とにかく楽しみというほかにない。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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