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松長根悠仁
――プレミアリーグファイナルの試合前はどんな心境でしたか?
「『みんなとやれる最後の試合だな』『この日が来ちゃったな』と思っていました。そこまでの1週間も普段と変わることなく、いつも通りの準備をしていたら大丈夫だろうなとは考えていました」
――チームメイトの雰囲気はいかがでしたか?
「そこまで緊張している感じはなかったですけど、『最後だね』みたいな話はしていましたね」
――国立競技場の雰囲気はいかがでしたか?
「応援も凄く聞こえてきましたし、結構広々とした感じだったので、テンションは上がりましたね(笑)。国立という場所でしたけど、凄くホームの雰囲気を作ってもらって、最初にグラウンドに入っていった時に『いよいよ始まるんだな』ということを感じました」
――ユースの選手が個人のチャントを作ってもらえるって凄いですよね。
「みんな喜んでいましたけど、自分はちょっと集中していて聞こえなかったんです(笑)」
――ファイナルの試合自体の印象はいかがでしたか?
「良くも悪くも自分や大関(友翔)、高井(幸大)が違いを見せられなかったから、ああいう試合になってしまったかなと思います。自分はゲームをチーム全体で支配して、相手に何もさせないようにしたいと思っていたんですけどね」
――思ったよりも相手が出てこなかった印象もありました。
「もっと前から来ることを想定していましたけど、ああやってちゃんと構えても守備ができるのは凄いというか、『こういう戦い方もできるんだな』とは感じていました。実際には想定外でしたけど、そこまで『ヤバいな』という感じはなかったと思います」
――そんな中で前半44分にフロンターレへ先制機が訪れます。あのPKを蹴ることになった経緯を教えていただけますか?
「まず、プレミアの最終節の青森山田戦で(五木田)季晋がPKを外していて、季晋がボールを持っていた時に、GKコーチのガミさん(浦上壮史コーチ)から『オマエが蹴れ』と言われたので、『よっしゃ!』と思って、蹴りに行きました」
――それまでに公式戦でPKを蹴ったことはありましたか?
「小さい頃はありましたけど、もうU-15の時ぐらいからはなかったです。意外と言えば意外でしたけど、前々から『PKはオマエで行くぞ』みたいなことは言われていたので、自信もありましたし、全然ビビってはいなかったです」
――あのキックのシーンを振り返ってください。
「最初は“パネンカ”で行こうとしていたんです。結局ああいう大舞台だと『真ん中に蹴った方が入るかな』と考えていたんですけど、外したら味方に申し訳ないなと思って、普通に蹴りました(笑)」
――最初は“パネンカ”を考えていたんですね(笑)
「そうです。ワールドカップを見ていて、ああいう大舞台でインプレーのPKだと、真ん中にどっしり構えるキーパーってあまりいないじゃないですか。なので、『パネンカで行こうかな』と思っていました」
――TV中継でもゴール裏からPKを決める映像がありましたね。
「自分が見た景色と違って、『思ったより危なかったな』と(笑)」
――あのPKの直後に追い付かれて、後半には続けて2失点してしまいましたが、あのあたりの失点の流れはどのように感じていましたか?
「ああやって立て続けに失点することはあまりなかったんですけど、ああいう舞台で立て続けの失点だったので、『あれ?』という感じはありました。でも、ビハインドのゲームも今まであったので、そこまでダメージはなくて、『点を獲りに行こう』と思っていました」
――福井太智選手に決められた3失点目は、どう振り返りますか?
「あそこは自分は右に誘って、身体を入れて取ろうとしたんですけど、映像で見ると誘う必要はなくて、普通に自分から見て左を切っていれば、高井もキーパーもいたので、何ともなかったと思うんですけど、あの瞬時の場面でああいう選択をしてしまった自分に、試合が終わった後は凄く腹が立っていました」
――試合が終わった後に大関選手が「ナガネに『よくやったよ』と言われたら、感情が抑えられなくなった」と話していましたが、その時の心境を教えてください。
「やっぱりシーズンの最初は(トップチームに合流していた)高井もいなくて、大関と自分でチームを引っ張っていこうとずっと話していましたし、自分たちがチームを引っ張ってきた自負もあったので、そこで泣いている大関を見て、自分も泣くのはあれなので、『頑張ったよ』って言いました。自分も泣きそうでしたけど、そこは我慢しました」
――ファイナルでは負けてしまいましたが、そこまで行ったのはリーグ戦の素晴らしい結果があったからです。2022年のプレミアリーグ、いかがでしたか?
「見ている方々が思っているよりも、難しかったですね。スコアだけ見れば『圧倒してるね』とも言われていましたけど、そこまで自分たちの中でもゲーム内容を含めて圧倒している感じはなかったですし、最後のところで防げただけで、結構失点しそうな危ない場面もあったので、スコアほどの内容は伴っていないと思っていて、『プレミアって難しいな』と感じていました」
――去年はプリンスリーグを戦っていたわけですが、そこと比較したプレミアリーグの対戦相手はいかがでしたか?
「プレミアリーグの相手は本当に強度が高くて、90分激しいですし、1人で突破できてしまう選手もプレミアには多いので、そこの強度に最初は戸惑った部分はありました。能力の高い選手が多かったので、そこでマッチアップすることで自分が『1試合1試合成長しているな』と、『身になっているな』ということは感じていました」
――前半戦は8連勝もありましたが、結果が出ていることに対する手応えはいかがでしたか?
「それはありましたけど、あまり自分は8連勝している感じがしていなくて、負けてはいないけれど、1試合1試合を勝っていっているという感じでした」
――今から振り返って、キーポイントになったゲームはどの一戦でしたか?
「開幕戦の大宮(アルディージャU18)戦ですね。チャンスらしいチャンスもそんなにあったわけではなくて、ピンチも凄くいっぱいあったんですけど、自分たちがU-15の頃だったら、ああいうゲームには絶対に勝てていなかっただろうなというゲームだったので、あの結果に自分たちとしても凄く成長を感じましたし、自信になったと思います。大宮にはU-12でもU-15でもずっと勝てていなかったですし、あの開幕戦で勝てたことが自信になりましたね」
――20失点はリーグ最少でした。シーズンを通じた守備の手応えはいかがでしたか?
「最初は高井がいない中で、信澤(孝亮)と僕でセンターバックを組んでいたんですけど、『高井がいないから失点している』みたいに言われるのは凄く嫌だったので、信澤と一緒に『身体を張ろう』と言っていて、ギリギリのところで抑えていたイメージでした。高井はずっと1年から試合に出ていたので、本人にも自分が守備を引っ張っていくという気持ちはあったと思うんですけど、その高井がいなかったので、『僕が引っ張っていくしかないな』と思って、頑張りました」
――実際に高井選手との連携はいかがでしたか?
「最初にU-18に戻ってきた時は、ACLからの連戦でオフがなくて、結構高井が疲れていたのはわかったので、声を掛けながら、カバーの割合を増やしていました」
――自身の攻撃面での手応えはいかがでしたか?
「徐々に、という感じでした。最初は全然ダメだったんですけど、試合を重ねるごとに相手が見えてきて、ボールを動かせるようになっていったかなと思います」
――縦に打ち込むクサビはチームの攻撃のスイッチになっていましたね。
「最初は全然通せる自信も技術もなかったですけど、大関という凄く良い見本がいて、練習から身体の向きだったり、目線というのは彼が上手で、そこを毎日見ながら真似をして、失敗しながらもそれを繰り返した成果かなと思います」
――アウェイの前橋育英戦でゴールにつながった縦パスは素晴らしかったですね。
「その前の試合で結構自分と高井で縦パスを刺せていて、そこで前育も結構中央を閉めてきて、縦パスのチャンスはあまりなかったので、あまり出さないようにしていたんですけど、後半は相手も疲れてきて、やっとスペースができてきたので、ずっとそれを狙っていた中で、ちょうど良いタイミングで刺せたかなと思います」
――1年間プレミアで戦ってみて、自分が一番成長したと思う部分はどこですか?
「気持ちの部分かなと思っています。自分たちはU-15の頃に凄く弱くて、メンタル的にも失点したらガクンと来てしまうようなチームだったんですけど、今年は1点ビハインドでも折れることなく、そこから逆転もできましたし、そういう粘り強さや気持ちの強さが1年を通じて出てきたのかなと思います」
――そういえば、プレミアの優勝が決まった時に、“優勝フロ桶”をまずは大関選手が掲げて、その次に五木田選手が掲げたじゃないですか。あれは本来、松長根選手の役割じゃないんですか?(笑)
「季晋が点を決めたので、『オマエ行けよ』みたいな感じでみんなに言われてやった感じでしたね。結構自分もやることは考えていたんですけど、『2回目はどうかな?』と思って、やめておきました(笑)」
――長橋(康弘)監督も胴上げできて良かったですね。
「自分は中2から見てもらっていたんですけど、ヤスさんがいなかったらプロになることも、何ならU-18に上がることもできなかったんじゃないかなというぐらい、本当に自分を成長させてくれた存在ですし、ヤスさんのおかげでここまで来られたと思っています。自分が高2のクラブユース選手権で全然良いプレーができなくて、ベンチになった時に、凄く悔しくて泣いていたりしていて、大会が終わった後もメンタルに来ていたんですけど、ヤスさんがオフ期間中にも電話をしてくれたり、僕のことを気にかけてコミュニケーションを取ってくれたので、あの時期は本当に助けられました」
――今シーズンのプレミアでマッチアップして、凄かったなと思った選手はいましたか?
「FC東京(U-18)の熊田直紀選手と、レイソルの山本桜大選手は凄かったです。熊田選手は日本人にあまりいないようなバネのある感じで、ボールがここに来そうだなというストライカーの感覚を凄く持っているなと。山本選手は前期はそこまで怖さは感じなかったんですけど、後期は『ちょっとでも手を抜いたらやられそうだな』という感じがありました。ああいう選手たちと試合ができるのは、毎試合楽しみでした」
――来シーズンからはプロサッカー選手になるわけですが、そこに対する自信はいかがですか?
「まだトップで通用するという絶対的な自信はないですけど、今までも一番下から這い上がってきたところもあるので、そこでも自分は絶対折れないですし、最後は上まで行くという自信はあります」
――ここからどういう選手になっていきたいと思っていますか?
「僕はフロンターレを見て、『サッカー選手になりたい』と思ったので、もっと成長して試合に出て、試合を見てくれる子どもたちにも、自分がそう感じたように、プレーや他の部分で夢を与えてあげられる選手になりたいです」
――1歳から等々力で応援していたという、このフロンターレでプロになるというのはどういう感覚なんですか?
「自分は今まで外から見ていたので、不思議な感覚ですね。ファンやサポーターの方々は熱い試合を見たいはずですし、プレーで熱い気持ちのこもったプレーをしたいと思います」
――来シーズンはEASTの連覇を狙う、今度はファイナルでの日本一を狙う後輩たちにメッセージはありますか?
「次は追われる立場になりますけど、自分たちの代で1,2年生もたくさん試合に出ていたので、その選手たちが『自分がチームを引っ張るんだ』という気持ちを持ってプレーしたら、必ず優勝できると思います。来年もフロンターレは強いですよ」
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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