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川崎フロンターレがACLに出場するために日程を繰り上げて3月3日に行われた第11節のセレッソ大阪戦。川崎が3対2と逆転勝利を収め、マン・オブ・ザ・マッチには2得点1アシストのレアンドロ・ダミアンが選ばれた。開幕後の数試合を見ると、彼の好守での貢献度は非常に高いものがあるので“当然の選出”ではあったが、それでもこの日の主役は間違いなくC大阪の大久保嘉人だった。
かつて、川崎フロンターレに所属して2013年から3シーズン連続で得点王となった、その等々力陸上競技場のピッチに戻ってきた大久保は、その高いシュート技術を見せつけたのだった。
2017年に川崎を離れてFC東京に移籍。それ以降、2018年に川崎へ復帰、2019年はジュビロ磐田、2020年は東京ヴェルディとチームを渡り歩くが、次第に出場機会も得点数も減って、昨年はついに無得点に終わり、「もう、大久保は過去の人」かとも思われた(……いや、僕がそう思っていた)。今シーズン、古巣のC大阪に戻ったものの、どこまでプレーできるのか疑問視もされていた(……いや、僕がそう思っていた)。
ところが、開幕節の柏レイソル戦でDFラインの裏への飛び出しから「ヘディング」(実際には肩のあたりに当たっていた)で先制ゴールを決めて、動きの良さをアピールしており、そして、中3日で迎えた川崎戦で2ゴールを決めて、川崎のサポーターに健在ぶりを見せつけたのだった。
1点目は、開始わずか5分でのミドルシュートだった。
右サイドのゴールまで30メートル近い位置で坂元達裕からパスを受けた大久保が前を向いた。すると、一呼吸おいてから、大久保はゴール方向にボールを蹴った。まさか、あの位置からシュートを狙うとは僕も思っていなかったし、GKの鄭成龍(チョン・ソンリョン)も思っていなかっただろう。いや、大久保がキックした瞬間も、僕はまだそれがシュートだとは思わなかったのだ。
というのも、大久保が実に軽やかに、柔らかいタッチでボールを蹴ったからだ。
あの距離からシュートを狙うのなら、普通だったら強いインステップキックで蹴ろうとするだろう。だが、大久保は大きなバックスイングもなしに、非常に軽く蹴ったのだ。足とボールが接する時間が長かった。だが、それは狙い済ましたシュートだったのだ。
ボールは思った以上に伸びて、DFやGKの頭上を越えてから落ちてクロスバーぎりぎりに決まったのだ。
あそこからシュートを撃つという意外性と決断力。そして、もちろん正確なキック技術。70%か80%の力でキックする落ち着き……。まさに、ゴールゲッターとしての才能のすべてが凝縮された得点だった。
しかし、川崎もすぐに反撃して、右サイドでパスをつないだ後、山根視来のクロスをレアンドロ・ダミアンがボレーで決めて同点とする。
だが、22分に再び大久保がその技術の高さを見せつけた。
高木俊幸の直接FKが壁に当たって、右サイドに転がった。そのボールを拾った松田陸が山なりのクロスを入れてきた。それに誰よりも早く反応したのが大久保だったのだ。そして、ファーポストのすぐ外側あたりに落ちてバウンドしたボールに左足で合わせて決めた。
これも、落下点を正確に予測して相手より早く回り込み、そして左足で面を作って確実にゴールの枠に飛ばすという技術の粋を集めたシュートだった。
大久保は、後半も何度か決定機を作っており、GKの鄭成龍に阻まれたものの3点目が決まっていてもおかしくはなかった。そして、この38歳のストライカーは85分までプレーして、ピッチを後にした。レヴィー・クルピ監督としては、長いシーズンを見据えてベテランを温存する必要があったのだろうが、1点を追う状況だったのだから、あと5分、大久保をプレーさせてほしかった。川崎にとっては、最も怖い選手だったのだから……。
その川崎戦から中2日で、セレッソ大阪は多摩川を渡って味の素スタジアムに移動してFC東京と対戦した。そして、38歳のストライカーは、再び先発すると、疲れも見せずに躍動。14分にはまたも先制ゴールを決めて見せた。
こぼれ球を拾った坂元がゴール前に浮かした時、ペナルティーエリア内にはFC東京のDFがいただけで、“人口密度”は低かった。滞空時間の長いボールが落ちてくる間に大久保はその“空白のスペース”に、相手DFの周囲を巻くようなコース取りで進入してくる。そして、坂元からのボールに軽く頭を合わせてほんのちょっとだけコースを変えて、FC東京のゴールの中に落とし込んだ。
だが、前半の30分過ぎからはFC東京の動きが改善され、次第にFC東京のチャンスが増えてくる。後半に入っても、DFのジョアン・オマリを入れて森重をボランチに上げたFC東京が押し込んで、そして54分にはC大阪のGKキム・ジンヒョンがバックパスをコントロールミス。FC東京の田川が俊足を生かして、このボールを押し込んで同点に追い付いた。
しかし、大久保のショーはまだ終わっていなかった。同点ゴールが決まった直後の58分、右サイドで坂元とのワンツーで抜け出した大久保は、落ち着いて中央の状況を把握。ゴール前の密集を避けて、マイナスのクロスを送り込んだ。これも、100%のキックではない。転がすように、緩いボールだった。清武弘嗣がこれをスルーすると、走り込んできたボランチの原口力が正確に捉えてエリア外からのシュートを決めたのだ。
裏に抜け出した後の落ち着き。そして、しっかりした状況判断に基づいてスピードをコントロールしたボールを送った判断力。
何か、得点王を取っていた頃よりもさらに進歩した大久保がそこにはいた。
レフェリーに対して、いろいろ文句を言うあたりは、若かりし日の、つまりイエローカード・コレクターとしての大久保を思い起こさせるが、今は食ってかかるような剣幕で文句を言うわけではない。レフェリーとのコミュニケーションを計っているのだ。レフェリーの側も、話しかけてくる大久保に対して、カードに手をやるのではなく、きちんと言葉を返しているのが何ともほほえましい。
フロンターレ・サポーターからセレッソのサポーターに譲渡されたという「ヨシ・メーター」数字はどこまで伸びていくのやら。今年の目標は、「200」か? いや、釜本邦茂氏が日本サッカーリーグ(JSL)時代に打ち立てた、二本のトップリーグでの最多得点記録「202」に置いてはどうだろうか?
3試合で4ゴールを決めた大久保にとっては、控え目な数字にも思えるが……。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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