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日本代表は、オーストリア・グラーツでの強化試合でパナマに1対0で辛勝した。だが、終盤に何度か訪れた決定機にも決めきれず、得点はPKによる1点のみに終わり、試合としてはとうてい合格点とは言い難い内容だった。
10月のカメルーン戦、コートジボワール戦に続いて結果的に相手を零封した守備面でも、何度もミスからピンチを招いていた。パナマの前線の選手を捕まえきれない場面が何度もあり、前線にパスが入った瞬間に誰もマークが付いていないような状況が生まれてしまった。
シュートの瞬間に両ウィングバックも含めて最終ラインの選手が体を張ってシュートコースを消していたので失点は避けられたものの、相手がワールドクラスのチームだったとしたら3〜4失点は避けられなかったのではないだろうか。
10月の強化試合を受けて、11月の活動の最大の注目点となっていた攻撃でも、前半はまったく良いところがなかった。
とにかく、ボールの収まりどころがなかったのだ。
DFラインからMFにボールが出ても、柴崎岳は相変わらず不安定でボールロストからピンチを招く場面があり、また、柴崎と橋本拳人の関係性も完成には程遠く、どちらが前に行くのかがはっきりせずに、互いの良さを打ち消し合ったような状態。
中盤が安定しなければ、前線の選手にボールが渡った場面でも、なんとかパスを“つなげている”だけで、パスが回る度に状況が悪化。最終的にはボールを奪われるか、後方にパスを下げてしまうかしかなくなってしまう。南野拓実も良いボールの供給を受けられないので、中盤に下りてきてしまうし、シャドーの久保建英、三好康児もワイドに開いているだけで、南野が開けたトップのスペースを誰も利用できない……。
結局、前半で一番決定的だったのは吉田麻也からのロングボールに南野が抜け出した7分の場面だった。
後半は、MFに遠藤航が入ったことによって、ゲームの展開は劇的に変わった。
所属のシュトゥットガルトでも絶好調の遠藤は、相手の攻撃の起点をつぶしてボールを奪い、また最終ラインからのパスを引き出して、中盤にポイントを作ってゲームを落ち着かせることに成功した。
良いタイミングで、良い態勢でボールを受けることさえできれば、日本の前線の選手の技術も生きる。遠藤からの正確なボールを供給された久保が、一瞬でターンして南野が走り込むペナルティーエリア内のスペースにパスを送り込んでPKを獲得して先制することに成功した。
その後は、相手が前がかりにならざるをえないというお誂え向きの状況で浅野拓磨がトップに入ってスピードでDFラインの背後をかきまわし、鎌田大地が正確なパスを供給してチャンスの山を築いた。
一言でいえば、「遠藤航がその真価を発揮した試合」ということになろうか。
ただ、最初に指摘したような守備のミスや攻撃の連動性のなさ、前半のうちに選手の判断で試合の進め方を変えることができなかった点など、とても褒められたゲームでないのは確かだろう。
しかし、これはある意味で仕方のないことでもあった。
10月のオランダ・ユトレヒトでの2試合に出場機会が与えられなかった板倉滉と三好。そして、コートジボワール戦で決勝ゴールを決めたもののプレー時間は追加タイムも含めて5分ほどだった植田直通といった選手を出場させ、しかも、従来の4バックではなく3バックでスタートするといったように、パナマ戦はいくつもの新しい試みにトライした試合だったからだ。
一方で、10月にその好調ぶりを印象付けていた遠藤や伊東純也はベンチスタートだった(DFの吉田、MFの柴崎、FWの南野の3人はこの試合でも起用されたが、これは「この3人がチームの中核である」という森保一監督のメッセージとして受け止めるべきだろう)。
これでは、コンビネーションが機能するはずもなく、苦戦したのは当然のことだ。
この試合は、「結果」が重要な試合ではない。何も新しいことにトライせずに、ベストメンバーを並べて完勝してみたところで得るものはまったくない。
そして、10月に対戦したカメルーンとコートジボワール、そして11月17日に対戦するメキシコと比較すれば、パナマ戦こそ新しい選手、新しいシステムのテストをすべき試合だったのだ。森保監督の判断は全面的に支持したい。
だが、次のメキシコ戦は、まったく意味が違う。
メキシコは、ワールドカップでも決勝トーナメントに必ず進出する安定した成績を残しているチームであるうが、同時にその先(ベスト8以上)に駒を進めることができないでいるチームでもある。「ベスト8以上が目標」という、いわば日本のライバル的な位置にいる相手だ。そして、10月と11月に対戦出来た4チームの中で最強なのも間違いない。さらに、直近11月14日の試合では日本のライバルである韓国とは点の取り合いを演じた末に3対2で勝利している。
つまり、日本としてはあらゆる意味で「どうしても勝っておきたい試合」なのだ。
メキシコ戦は“テストのための試合”ではない。ベストメンバーを組んで、しっかり分析をして相手の良さを消しながら、勝利を目指すべき試合だ。10月からの3試合を踏まえて、課題も修正して現時点でのベストを尽くす試合にしなければいけない。
いわば2020年の日本代表にとっての“決勝戦”と言っていいだろう。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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