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今週のプレミアムゴールは、チャンピオンズリーグ決勝レアル・マドリード対リヴァプールの後半19分に決まった、ガレス・ベイルの決勝弾!
90分の間に、こんなにいろいろなことが起きるものだろうか。2度を数える悲劇の負傷が両チームを襲い、GKは生涯で二度とないようなミスを犯す。しかし、あっという間に追いついて傷は一時回復するも、どことなくふわふわした心持ちの中、突如として歴史に残るほどのハイクオリティなスーパーゴールが飛び出す。さすが世界最高峰の決勝!とファンを唸らせるも、なんと最後は再びGKの決定的なミス。90分間ジェットコースターに乗っているような気分だった。初めてサッカーを見た人には、毎試合こんなものを期待されては困る、とは言っておきたい。
涙、涙。一時の喜びや舌鼓がレバレッジを利かせ、最後はより一層の残酷な涙。15分ごとに天国と地獄を行き来する、誰にも先が読めない全6回。連続テレビ小説のような90分だった。事実は小説より奇なり、だ。
最初の15分間は一進一退だった。ハイプレッシャーをかけるリヴァプールに対し、レアル・マドリーはイスコを中盤に置き、1枚の数的優位で回避を試みた。しかし、中盤の脱出に成功しても、前線がベンゼマとロナウドのみでサポート不足に陥りやすく、一長一短の構造的な問題から、レアル・マドリーが攻め切るシーンは少なかった。逆にリヴァプールは、ボールを奪って鋭いショートカウンターを繰り出し、特に相手サイドバックの裏をねらい、よりゴールに迫っていた。
とはいえ、この差し引きは、レアル・マドリーにとっては想定内のはず。90分や延長戦を踏まえたゲームコントロールの側面が強かった。ジダンのチームらしい。
しかし、その次の15分間では、このバランスがリヴァプールに傾倒しすぎた。レアル・マドリーは守備時にイスコがサイドハーフに入り、4-4-2のブロックを形成する。攻撃のフリーマンは、守備のフリーホールになりやすく、イスコの箇所からリヴァプールの強力なサイド突破を許した。一長一短のバランスだが、レアル・マドリーは時計の針が進むにつれてデメリットが出るようになり、リヴァプールの攻撃を受けすぎていた。
そんな矢先……。前半31分、サラーの負傷が流れを激変させる。
3トップの並びがララーナ、フィルミーノ、マネに変わると、リヴァプールは守備のスタート位置が一段下がった。それ以前は、3トップが相手ビルドアップの起点にプレスをかけ、その間のコースを中盤3人が切り、4-3-3を保っていたが、サラー交代後は4-5-1気味で、前に押し返すきっかけをつかみにくく、守備ブロックが一段下がっている。
これにより、レアル・マドリーは両サイドバックが高い位置を取り、形勢は変わった。最初は、リヴァプールがあえてペースを落としたのかと考えたが、試合後のユルゲン・クロップのコメントによれば、サラーの負傷で選手がダメージを受け、勢いを失ったことが主因のようだ。スコアレスとはいえ、試合の先行きに不安を覚える、前半終わりの15分間だった。
後半に入ると、リヴァプールはもう一度、高い位置からプレスに行く意識を取り戻す。しかし、一方のレアル・マドリーもアグレッシブに行き、後半3分にはショートカウンターからイスコが決定機を迎えた。ボレーシュートを打つが、クロスバー直撃。この場面は、GKカリウスの飛び出しが利いていた。フリーのイスコに対し、身体で壁を作ってコースを狭め、イスコに難しいシュートを強いた。セーブはしていないが、ナイスセーブだ。
しかし、その3分後。好プレーをしたGKが罠にはまった。相手の裏へのボールをキャッチした後、素早く投げてビルドアップをスムーズに行おうとしたが、近くで気配を殺していたベンゼマが、寸前で足を伸ばし、インターセプトされてしまった。これがタックルであれば、ボールを捕球したGKカリウスへのファウルが成立するが、あくまでもインターセプト。カリウスのスローイングが成立しているので、ファウルにはならない。GKとして、このエリアで特に必要とされる注意力と慎重さを欠いた。ボールはそのままゴールに転がり込み、衝撃の先制点が生まれた。
以前、とあるGKコーチから聞いた話だが、GKのメンタリティは失敗と成功の両方に対して準備されなければいけない。失敗を切り替えるだけでなく、成功に対しても揺れず、一定の自分を保つ努力が必要であると。好プレーから一転、注意不足で底へ落ちた24歳のGKには、その点が足りなかったのではないか。
ところが、ハーフタイム以降、攻撃マインドを取り戻したリヴァプールは、まだ死んではいない。コーナーキックからロブレンが競り勝って頭で折り返し、マネが押し込んで同点に追いつく。後半最初の15分間は、両チームが互角の勝負を演じているように見えた。
いや、果たして、互角だったのだろうか。
その疑念が沸いたのは、次の15分間だ。後半16分、ジダンはイスコに代えて、ベイルを投入。この時間帯まで、ゲームコントロールを重視してきたレアル・マドリー。運動量はリヴァプールのほうが多く、疲労の色も濃い。その時間帯で、コントローラーのイスコから、アタッカーのベイルを投入した。もはやリヴァプールに前半の体力は残っておらず、レアル・マドリーが中盤でボールを持つことが容易になっている。そのタイミングで、イスコ→ベイル。この状況を1-1で迎えたことは、決して互角ではなかった。
そして後半19分、とんでもないスーパーゴールが飛び出す。レアル・マドリーの長い、長いポゼッションの末に、左サイドでマルセロが悠々とボールを持ち、切り返してクロス。ロナウドとベンゼマが前に引っ張り、空いたスペースにいたのが、ベイルだ。周囲の時間を止めたジダンのボレーシュートほど美しくはなかったが、野生と迫力にあふれたベイルのバイシクルシュート。満場一致で、チャンピオンズリーグ史上に残る名シュートだった。
そのベイルが、ベンチスタートだった。他にアセンシオもいる。両チーム共に素晴らしいクオリティーなのだが、全体の戦力としては、やはり差がある。それを強く感じたのが、この15分間だった。
ベイル投入で、ここまでのゲームコントロールの仕上げにかかったレアル・マドリー。一方のリヴァプールは、明らかに疲れの見えるミルナーらを、なかなか下げることができない。後半38分、ようやくエムレ・ジャンと交代させたが、彼は負傷明けでプレーに不安が大きい。リヴァプールは結局、90分間で交代カードを2枚しか使えず、手札に欠けた。やはり、チェンバレンが長期離脱で起用できない苦境が尾を引いた。
そして、最後の15分間。ベイルの虚を突くロングシュートが、再びGKカリウスを襲った。不規則に変化するGK泣かせのスーパーシュートに対し、はじき損ね、ゴールに吸い込まれてしまった。カリウスにとっては最悪の夜だ。そもそもこの舞台にたどり着いたこと、ファイナリストであること事態が素晴らしい栄誉なのに、それさえも忘れ去られる残酷さ。辛い。
しかし、涙に暮れ、許しを請うカリウスに対し、リヴァプールのサポーターが拍手を送った場面は、率直に言って感動した。ロブレンやファン・ダイクらは、試合後インタビューの中で「We win together, We lose together」と口にした。世界最高峰の舞台で、この言葉を体現したことは、これからもファンの記憶に残るのではないか。
清水 英斗
サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー観戦力が高まる~試合が100倍面白くなる100の視点』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。
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