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サイクルロードレース コラム 2026年9月11日

マスがタイムトライアルで首位死守。大逆転をねらうログリッチが2位浮上。最速タイムはキュング|ブエルタ・ア・エスパーニャ2026 レースレポート:第18ステージ

サイクルロードレースレポート by 山口 和幸
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ブエルタ・ア・エスパーニャ

TTスペシャリストのキュングが区間勝利

ブエルタ・ア・エスパーニャは9月10日、エル・プエルト・サンタ・マリアからヘレス・デ・ラ・フロンテーラまでの32.1kmで第18ステージとして個人タイムトライアルが行なわれ、モビスター チームエンリク・マス(スペイン)が首位を守った。レッドブル・ボーラ・ハンスグローエプリモシュ・ログリッチ(スロベニア)が33秒挽回し、史上初の5勝目に望みを繋いだ。この日の最速タイムはチューダー プロサイクリングチームのシュテファン・キュング(スイス)。

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マスが王者にふさわしいかを試される時

ここまで全ステージを完走してきた選手が時差スタートで出走し、ゴールまでの独走タイムを競う個人タイムトライアル。今大会は2回実施され、大会初日のモナコで第1ステージとして距離9.4kmの個人タイムトライアルが行なわれている。1回目の個人タイムトライアルを僅差で制して、まずは総合1位のリーダージャージを手中にしたタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ・XRG)は、第8ステージで落車リタイアしてもういない。

舞台はイベリア半島のほぼ最南端。アフリカ大陸に肉薄するジブラルタル海峡の西に位置するので、コースから見えるのは地中海ではなく、大西洋だ。個人タイムトライアルのコースはほぼ平坦で、テクニカルな部分もない。それだけに選手の実力がそのままタイムとなって現れるはずだが、波が立たない地中海とは異なり、大西洋から吹く風は天候によってはやっかいだ。11.7km地点と22.1km地点に中間計測ポイントがあり、選手やレースを見守る人たちに状況が伝えられる。

総合1位はマス。デカトロン・CMA CGM チームのフェリックス・ガル(オーストリア)が2分06秒遅れの2位、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエのプリモシュ・ログリッチ(スロベニア)が2分10秒遅れの3位だ。個人タイムトライアルは総合成績の最下位選手から1分間隔で出走。ベスト20からは2分間隔となる。

ブエルタ・ア・エスパーニャ

キュングは圧巻の走り

注目のひとつはヤングライダー賞争いだ。最後から6番目に6分14秒遅れの総合6位ヤコブ・オムルゼル(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス)、5番目に5分44秒遅れの総合5位オスカー・オンリー(英国、ネットカンパニー・イネオス)がスタートする。オンリーは第4ステージからヤングライダー賞トップを堅持するが、オムルゼルは最難関の第12ステージで優勝し、30秒差でオンリーを追う。若い2人のつばぜり合いは2027年以降のグランツールの総合優勝争いにも関わってくる可能性があるだけに目が離せない。

キュングが2024年最終日に続くTT制覇

最終到着地グラナダまでのステージは残り4つ。その中でも第18ステージは32.1kmの個人タイムトライアルで、総合成績に影響する重要なレースとなる。この種目を得意とする選手たちがステージ優勝をかけて走る戦いとともに、総合優勝候補たちはマラガ県とグラナダ県で行われる最後の2つの山岳ステージを前に、自らの実力を試すことになる。

第17ステージまでを完走した149選手が、スタート地点の闘牛場を次々と出走していく。先陣を切って14時07分にスタートしたのは総合149位のマティアス・ノルスゴー(デンマーク、リドル・トレック)。注目のログリッチは16時51分、ガルが16時53分、そして最後にマスが16時55分にスタートする。

英国のタイムトライアルスペシャリスト2選手は早いスタートだった。スーダル・クイックステップのイーサン・ヘイター(英国)、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエのカラム・ソーンリー(英国)だ。とりわけヘイターは初日のモナコでポガチャルに僅差で勝利を奪われていて、リベンジに燃えていた。ヘイターはまず35分54秒の暫定トップタイムを叩き出したが、すぐにソーンリーが35分25秒でフィニッシュし、トップに立った。

好調なスタートを切ったUAEチームエミレーツ・XRGのジョアン・アルメイダ(ポルトガル)は、最初の中間チェックポイント(11.7km地点)でソーンリーに3秒近い差をつけてトップに立った。しかし、2番目のチェックポイント(22.1km地点)で0.27秒遅れとなり、最終的にはゴールで6秒差をつけられた。最終的にアルメイダはステージ3位だった。

ブエルタ・ア・エスパーニャ

ログリッチがスタート

タイムトライアルに強いキュングは11.7km地点でアルメイダより1秒遅れ、ソーンリーを1秒上回るタイムで通過。キュングは中盤でペースを上げ、22.1km地点でソーンリーより11秒速いベストタイムを記録。ソーンリーは最終区間で速かったが、キュングはゴールラインまで粘り、ソーンリーを3秒上回る35分22秒(平均時速54.4km)でゴールした。チーム ヴィスマ・リースアバイクワウト・ファンアールト(ベルギー)は力強いスタートを見せたが、失速して最終的に20秒遅れの5位でゴールした。

総合優勝争いの有力選手の中では、ログリッチが完璧な走りでキュングから19秒遅れ、ステージ4位に入った。これにより総合2位に返り咲き、ステージ26位と沈んだガルは総合3位(+3分01秒)に後退した。最終走者のマスはキュングから52秒遅れの12位と、これまでの自身のタイムトライアルの中で最高の走りを見せ、総合成績でログリッチに1分37秒差をつけて首位を守った。

ヤングライダー賞トップのオンリーはこの日1分11秒遅れの17位と強さを見せ、オムルゼルとの差を30秒から57秒に広げた。

こうしてステージ優勝はキュングに。2024年の最終日マドリードでの個人タイムトライアルに続く自身2度目のグランツール優勝だ。チームにとっても、5日前にマルコ・ブレンナー(ドイツ)が優勝して以来、今大会2度目の勝利となった。

「ここで優勝できて本当にうれしい。今日は表彰台に一人で立っているけど、これはチーム全体の勝利。舞台裏で一生懸命働いてくれたチームメートに感謝したい」とキュング。

「32.1kmのレース全体を通して、勝利を築き上げてきたと思う。スタートから集中力を維持する必要があった。これほど速いタイムトライアルでは、致命的なミスは許されない。そして、これほど速いペースでは差をつけるのも難しいもの。2つ目の登りを終えた後、少し苦戦した。そこでいくつかのコーナーも読み間違えてしまった。しかし、その後はリズムを取り戻すことができた。私にとって、そこが勝敗を分けたポイントだったと思う」

ブエルタ・ア・エスパーニャ

うねる道路を疾走する

「チューダーにとって2度目の勝利は本当に大きな意味がある。マルコ・ブレンナーがシエラ・デ・ラ・パンデラで優勝したのも最高だった。今回のブエルタ・ア・エスパーニャではルームメートなので、僕たちの部屋はとってもいい結果になった。表彰台には僕たちしか立っていないけど、舞台裏では本当にたくさんの人が懸命に働いてくれていることを知ってほしい。特にタイムトライアルの分野では、パートナー企業と協力して懸命に取り組んでいるイノベーションチームがある。だからみんなに感謝したい。そしてもちろん、2月に怪我をした後、僕を復帰させてくれたすべての人にも感謝している。この勝利をたくさんの人たちと分かち合いたい」(キュング)

マスと総合2位ログリッチの差は1分37秒に

マスは東京五輪のタイムトライアル金メダリスト、ログリッチに33秒しか遅れなかった。総合成績で1分37秒の差をつけて、マイヨ・ロホを維持している。これまで「勝利への執着心が足りない」と地元紙に報じられることもあったが、この大会で最高の栄冠をつかもうとしているのは明らかだ。

「いい気分だよ、正直言ってすごくいい。僕たちはタイムを失わないように心がけたんだ。最初のタイムチェックでは19秒だったけど、26秒、39秒となり、それから34秒まで縮めた。だから、うん、満足しているよ」とマス。

「いや、1分37秒のアドバンテージはそれほど大きくない。まだ本当に重要な日が2日残っているし、グラナダでの最終戦もある。だから、集中力を保ち、一生懸命に取り組まなければならない」

この日のゴール、ヘレス・デ・ラ・フロンテーラは2014ブエルタ・ア・エスパーニャの第1ステージとしてチームタイムトライアルが発着した町で、ブエルタ・ア・エスパーニャでスペイン人選手が総合優勝した最後の年の開幕地でもあった。

「そう、アルベルト・コンタドールだ。当時僕は子どもだったけど、彼は僕のヒーローだった。13歳か14歳で彼はあらゆるレースで優勝していたからね。だから、僕にとってここでマイヨ・ロホを着たことはとても大きな意味があるんだ」

ブエルタ・ア・エスパーニャ

乾いた大地が続く

翌日はゴールまで標高差1200mを駆け上がる第19ステージ。序盤は平坦なステージだが、ペニャス・ブランカスへの最終登坂を前に、ロンダ山脈の急勾配が選手たちの脚に大きな負担をかける。逆転を狙って逃げを仕掛ける絶好の機会かもしれない。さらに第20ステージは獲得標高5000m超の山岳区間。大会はいよいよ大詰めで、最終日となる13日にグラナダに凱旋する。

山岳賞リーダーを守るバーレーン・ヴィクトリアスのサンティアゴ・ブイトラゴ(コロンビア)は、「クライマーである私たちが結果を出す番。最後まで攻め続け、戦い抜く。戦術的に非常に難しく、非常に長いステージが2つ。みんな疲れているけど、いい結果を出したいと強く思っている」と臨戦態勢。

この日9位以内に入ったことで、あとは完走するだけでポイント賞が獲得できるファンアールトは、「今後のステージで優勝のチャンスがあるかもしれないセップ・クスとヨルゲン・ノードハーゲンのアシストに集中できるのがいい」とコメント。

第81回ブエルタ・ア・エスパーニャ、残るは3ステージだ。

文:山口和幸

山口 和幸

ツール・ド・フランス取材歴30年超のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、東京中日スポーツ、ダイヤモンド・オンライン、LINEニュース、Pressportsなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)、講談社現代新書『ツール・ド・フランス』。青山学院大学文学部フランス文学科卒。

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