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サイクルロードレース コラム 2026年9月6日

「自分の走りを信じている」苦難の時期を乗り越えキャリア最高潮へ エンリク・マスのマイヨ・ロホ旅|ブエルタ・ア・エスパーニャ2026

サイクルロードレースレポート by 福光 俊介
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ブエルタ・ア・エスパーニャ

マイヨ・ロホを着た状態で区間勝利したマス

時不再来の機会がめぐってきている。ブエルタ・ア・エスパーニャ2026中盤戦で個人総合首位を走るエンリク・マスモビスター チーム)は、ひときわ得意とする自国のグランツールで大きな成果を挙げようとしている。過去4度のグランツール総合表彰台は、いずれもブエルタで得たもの。3度の個人総合2位と、1回の同3位。そのたびにみずからの走りに満足度を高めてきたけど、今度ばかりは事情が異なる。自身初のブエルタ、そしてグランツール制覇。そして、この大会で12年ぶりとなるスペイン人ライダーによる制覇が近づいてきているのだ。

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ポガチャルの代わりとはいかずとも

確かに、それは思いがけない形で舞い込んできた。8月29日に行われた第8ステージ。それまで驚異的な走りを繰り返してきたタデイ・ポガチャルUAEチームエミレーツ・XRG)が、まさかの落車負傷。レースに戻ることができず、トップの証であるマイヨ・ロホを着たままブエルタを去った。

その日、空位となった首位の座に就いたマス。受け取った緋色のジャージに袖を通すことはせず、あらゆる感情を包み込むようにしてステージに立っていた。

それでも、レースは続く。「僕にタデイの代わりは務まらない」と自身に向けられる見方に複雑な想いを口にしつつも、リーダーとしての責務は果たさねばならない。マイヨ・ロホ旅が始まった瞬間だった。

ブエルタ・ア・エスパーニャ

前待ち作戦がピタッとハマっているモビスター

ポガチャルが離脱するまで、差は明らかに大きかった。もしリタイアしていなければ、そのギャップはさらに広がっていた可能性が高い。現実的に考えれば、マスら総合系ライダーたちは個人総合2位や3位を「勝利に値する」といって喜んでいても不思議ではなかった。しかし、事情が大きく変わった状況で彼らが目指すべきは改めてマイヨ・ロホに。次点にいたマスが、ポールポジションに立った。

その座は大会中盤戦に入っても変わらない。もっとも、コスタ・ブランカを上った第9ステージでは鮮やかに勝利。第2週のヤマ場のひとつとされたカラル・アルトを上った第12ステージでは、優勝こそはならずも総合上位陣による争いで一歩上を行く走り。特に後者はマス自身にとっても会心の出来だったといい、「完璧なレースだった。僕がイメージしていたレース展開の通りになった。望みがすべてかなった」と喜び、自信を深めた。

31歳にしてキャリア最高のレベルに

ブエルタ・ア・エスパーニャ

マスの活躍でスペイン全土が盛り上がる

ブエルタにはめっぽう強い。前述のとおり、合計4度の総合表彰台を経験している。その力があれば、ツール・ド・フランスジロ・デ・イタリアでも上位進出できるのでは?……と見る側は思うけれど、現実はそうもいかない。昨年のツールは途中リタイア、今年のジロは個人総合32位で終わっている。

なぜブエルタにだけ強いのか、理由は分からない。マス本人は「自分でも好不調の波が大きいことは理解している。ただ、メンタルの問題ではない」とのこと。UAEチームエミレーツ・XRGのGMを務めるホセアントニオ・フェルナンデス氏は、過去に指導したことのあるマスの走りに「何も驚きはない。これが本来の姿だ」と現況に太鼓判を押す。メンタルの問題ではない……とはいうものの、やはり自国のレースにモチベーションが高まることは少なからず関係しているのだろう。

チーム状態が良いことも、マスを盛り立てる要素になっている。モビスター チームは、先のツールではどうにもからっきしで、パブロ・カストリーリョやラウル・ガルシアが連日逃げに入って奮闘はしたけれど、勝利にはほど遠かった。それがブエルタではどうだろう。この2人に限らず、他の選手たちも明確な役割を与えられたことでアシストの精度が日々高まっている。キアン・アイデブルックスが第5ステージにリタイアしたことは誤算だったが、いまのところはチームとしてしっかり機能している。

レースリーダーとしての手ごたえも十二分。

「マイヨ・ロホを着て走る毎日が本当に楽しいし、何よりもキャリア最高のレベルに達している感触があるんだ。もしそうじゃないとしても、そこに近づいてはいると思う。かなり自信があるよ」

早くから「スペインの将来を担う」と言われた男は、31歳にしてかつてない大仕事にトライをしている。

12年ぶりのスペイン人ライダーのブエルタ制覇なるか

第12ステージと並んで、大会第2週のポイントに上がっていた第14ステージ。南スペインの名峰パンデラを上った一戦でもマスは終始安定した走り。ライバルたちのアタックにも冷静に対処してみせた。

ブエルタ・ア・エスパーニャ

チームメートに護られているマス

これで、目下のライバルであるフェリックス・ガル(デカトロン・CMA CGM チーム)との総合タイム差は2分6秒、プリモシュ・ログリッチレッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)とは2分10秒差。この後のステージのレイアウト的に、総合争いにおける重要区間は第18ステージの32km個人タイムトライアルになる。走力だけでいえば、ログリッチが上だ。マスも決して悪くはないけれど、ステージ上位に食い込むほど得意としているわけではない。“マイヨ・ロホ マジック”なんてことも考えられるけれど、さあどうなる。

「プリモシュはタイムトライアルの東京五輪チャンピオンだからね。かなり強いよ。もちろんそこは意識してしまうけれど、僕は僕でやるべきことをやるよ。山のステージもあと2つ残っているし、(最終目的地の)グラナダでマイヨ・ロホを着ていれば良いのだからね」

個人総合争いで優位に立ったまま、運命の終盤戦へ。情熱の国・スペインが一層に血をたぎらせる日々が続いていく。

文:福光 俊介

福光 俊介

ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う

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