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サイクルロードレース コラム 2026年6月26日

フランスの期待背負うワンダーボーイ。その名は「ポール・セクサス」|ツール・ド・フランス直前コラム vol.7

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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ポール・セクサス

フランスの期待を一身に受けるポール・セクサス

どんな結末が待っていようとも、その一歩はすでに歴史的だ。19歳9か月10日。第2次世界大戦後の最年少出場記録で、ポール・セクサスはツール・ド・フランスのスタートラインに立つ。

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キャリア初のグランツールは、ひとりの若者にとっては夢の到達点であり、偉大なチャンピオンへの旅路の始まりでもある。世界最大の自転車レースを生んだフランスにとっても、40年以上も待ち続けた新たな英雄譚が、ついに幕を開ける。

Prodige──稀有な才能は、一気に花開いた

「2年前はまだジュニアだった。当時は、こんな未来が待っているなんて想像もしていなかった。時間はあっという間に流れて、なにもかもがものすごいスピードで進んでいる気がする」

幼い頃から両親との山歩きが大好きだった。アルプスで暮らす祖父の影響もあり、やがて自転車に夢中になっていく。

7歳の夏休みを前に、自転車クラブに入った。初めて本格的に挑んだ上りは、1.5kmの坂道。いきなり全力で踏み込んだ。クラブの仲間たちを一瞬で置き去りにし、終盤にはコーチさえ千切った──そんな逸話さえ残っている。

毎年30勝近くを挙げた。ロードでも、シクロクロスでも、年代別フランス王者として君臨した。ジュニアに上がる頃には、同年代の間で早くも「人食い鬼」の異名を取った。フランスの事情通たちは、早くも「ベルナール・イノーの正統なる後継者」と噂を始めた。

だが、世界がセクサスの名を知ったのは、ジュニア2年目の2024年だろう。

年間13勝。春にはリエージュ・ジュニアを制し、その後もスイスやイタリアのステージレースで総合優勝を重ねた。アルプスが舞台のワンデーレースでは、31kmもの独走の果てに、2位に4分以上の差をつけた。18歳の誕生日を翌日に控えた世界選手権タイムトライアルでは、平坦コースでジュニア世界王者の座を射止めた。「石畳」区間が点在する欧州選手権でさえ、3位に食い込んだ。

U23カテゴリー1年目の年齢で、ワールドツアーの一員となった。

ツール・オーヴェルニュ・ローヌ・アルプ

ツール・オーヴェルニュ・ローヌ・アルプでのセクサス

「早熟」の象徴だったレムコ・エヴェネプールの登場以降、突出した才能を持つ若手が、アンダーでの修行期間を経ずにトップカテゴリーへ進むことは特別な選択ではなくなった。セクサスもまた、段階的な成長を待つより、最短距離で頂点を目指す道を選んだ。

Phénomène──若き怪物の誕生

「期待されているのは分かっている。でも、それを意識しすぎることはないし、余計なプレッシャーも感じない。僕は自分のやるべきことをやって、自転車を楽しむだけ」

ワールドツアー最年少選手として迎えた2025年。セクサスは、単に経験を積み重ねたわけではなかった。

4月末のツアー・オブ・ジ・アルプスでは、5日間で3度の区間トップ3入りを記録。大会4日目のバッドデーで総合表彰台争いからは転落したものの、最終日はチームメイトとともに抜け出し、見事なワンツーフィニッシュを演出した。

続くクリテリウム・デュ・ドーフィネでは、大会史上最年少出走者という肩書を、「史上最年少でのワールドツアー大会のステージレース総合トップ10入り」に書き換えた。さらには「アンダー23のツール・ド・フランス」と称されるツール・ド・ラヴニールでは、史上最年少優勝を達成。これはアンダー2年目に同大会を制したタデイ・ポガチャルよりも、1年早い戴冠だった。

そして秋。年齢という物差しさえ意味を失わせる走りを見せる。

19歳になって数日後、初めて挑んだ「エリート」世界選手権。267.5kmという未踏の距離に加え、史上屈指の難コースと謳われたルワンダの山岳コースで、セクサスはフランス勢最高位となる13位に食い込んだ。わずか1週間後の欧州選手権では、ポガチャル、エヴェネプールに続く3位表彰台に飛び乗った。

もはや「プティ・ポール」ではない。同世代最強という肩書でも足りない。プロ1年目が終わる頃には、セクサスはすでに、プロトン最高峰の選手たちと肩を並べる存在になっていた。

Sensation──衝撃は、本物だった

「何度も言ってきたように、僕の夢はツールに出場すること。ただ、今年すぐにでもツールを走ることに果たして意味があるのかどうか。すべてはそれ次第だと思ってる」

すでにフランス中のメディアが熱を帯びていた。それは今年なのか。それとも来年以降か。

当の本人は、その問いを急がなかった。2025年シーズン開幕時点で決めていたのは、4月26日までのレース日程だけ。

むしろセクサスが求めていたのは、一日も早いプロ初勝利だった。

シーズン開幕2日目のヴォルタ・アオ・アルガルヴェで、願いはあっさりかなう。ジョアン・アルメイダフアン・アユソ、オスカー・オンリーといった、すでにグランツールでエースを務める実力者たちを、山頂スプリントでまとめて退けた。

ラ・フレーシュ・ワロンヌ

ユイの激坂を制したポール・セクサス

この1勝は、さらなる勝利を連れてきた。2月末のアルデシュ・クラシックでは、42kmの独走で圧勝。4月のイツリア・バスク・カントリーでは区間3勝を挙げ、初日から最終日まで総合リーダージャージを守り抜いた。フランス勢としては2007年以来となるワールドツアー・ステージレース制覇。勢いは止まらない。ラ・フレーシュ・ワロンヌではユイの激坂を制した。いずれの偉業も、大会史上最年少で成し遂げた。

ただティーンエイジャーの真価を測ったのは、世界最強の男だった。ポガチャルが79kmの独走でストラーデ・ビアンケ3連覇へ向かう直前、その後輪に飛び乗った唯一の選手がセクサスだった。リエージュではもう少し長く世界王者にくらいついた。それどころか並走し、ときには前を引く意地さえ見せた。

昨秋のイル・ロンバルディアでは、史上最年少のモニュメントトップ10入りを果たした。この春のリエージュでは、第2次世界大戦後で最も若いモニュメント表彰台選手という、新たな歴史を刻んだ。

Espoir──フランスが託す夢

「失敗なんてないと思っている。誰かに申し訳なく思う必要もない。自分の力を出し切ることができれば、それでいい。仮に2週間で総合争いから外れたとしても、次につながる経験になるだけ。逆に最後までうまくいけば、それはもちろん最高だ」

そして、リエージュから1週間後の5月4日、セクサスの2026年ツール・ド・フランス出場が発表された。

フランスは沸いた。歓迎もあれば、批判もあった。総合争いにはまだ早いという慎重論がある一方で、「区間優勝なら」「トップ10なら」「いや、表彰台だって」とファンの期待は膨らむばかり。

リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ

リエージュでポガチャルにくらいついたのはセクサス

その空気を象徴したのが、発表翌日の『レキップ』紙のタイトルだ。「セクサスには今回のツールで失うものなど何もない。思い切り楽しめばいい。そんな気持ちで走れるのは、きっとキャリアで最後になるはずだから」

1985年のベルナール・イノー以来、フランスはツール総合優勝から遠ざかっている。空白が長すぎるからこそ、時に選手たちの両肩には必要以上の期待がのしかかる。うんざりしたロマン・バルデは外国チームへと逃げ出し、ティボー・ピノの繊細な心は、押しつぶされた。過去2人のツール総合覇者を育てたシリル・ギマールも、「セクサスの才能は本物だが、ツールは早すぎる。数年で燃え尽きてしまうかもしれない」と警鐘を鳴らす。

肝心のイノーは、キャリア戦略としては「ジロに先に出るべきだった」と注文をつけるものの、セクサスの精神状態には1ミリの疑問も抱いていない。「やつは気負わない。そこがいい。周りの期待とかどうでもいいと思っているし、自分を信じている。そのあたりはポガチャルに似ている」。

ツール開幕を前にした最後のステージレース、6月のツール・オーヴェルニュ・ローヌ・アルプで、セクサスは若者らしいミスを犯した。時速70km超のダウンヒルで無茶なラインを選び、道の外に吹き飛んだのだ。それでも満身創痍で100km以上も追い続け、4分近くあった遅れを1分20秒まで縮めた走りで、勝負への強い執着心と、リーダーとしての責任感を改めて示した。

フランスの期待を背負い、世界が見つめる中、19歳の神童は、バルセロナからキャリア最初のツールへと走り出す。22歳の誕生日を迎える前日、ポガチャルは戦後最年少のツール王者となった。セクサスがその記録を書き換えるチャンスは、3回ある。

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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