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イタリアを征服しフランスに乗り込むヴィンゲゴー。ダブルツールへ視界は良好|ツール・ド・フランス直前コラム vol.6
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか2023年のヴィスマは異なる選手で三大グランツール完全制覇の偉業を成し遂げた
2021年大会以来5年連続、ただ2人だけで、ツール・ド・フランスの総合上位2席を分け合ってきた。2026年7月、その頂上決戦は、これまで以上に高いレベルで実現するのかもしれない。
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タデイ・ポガチャルはいまなお自らのピークを更新し続け、5月のジロ・デ・イタリアを制したヨナス・ヴィンゲゴーハンセンは、ついにあの事故を完全に乗り越え、心身ともにキャリア最高の状態でマイヨ・ジョーヌ争いへと向かう。
リーダーとしての覚醒と、ヴィスマの黄金時代
2020年ブエルタ・ア・エスパーニャ(右から2番目がヴィンゲゴー)
初めてのツールは、一介のアシストとして臨んだはずだった。2020年の秋、ブエルタ・ア・エスパーニャでプリモシュ・ログリッチのマイヨ・ロホ獲得に尽くしたヴィンゲゴーは、翌2021年の夏もまた、あくまでエースを支える側の1人として迎えた。
ところが大会序盤にログリッチが落車し、その影響でレース現場を去ると、状況は一変する。第11ステージ、どこか控えめな24歳が、秘めた才能を世界へ解き放った。同僚ワウト・ファンアールトが独走勝利へ突き進むなか、モン・ヴァントゥの山道で鋭いアタック。ポガチャルを一時は引き離すほどの加速で、エースとしての資質を示した。ほんの3年前まで水産加工場で働いていた青年は、最終日のパリでは、総合表彰台の上から2番目に立っていた。
そして1年後、自身にとってはもちろん、40年近い歴史を誇るチームにとっても初めてとなるツール総合制覇をつかみ取る。
チームメイトたちの献身と、知略を結集したチーム戦術。「標高」と「暑さ」が苦手だったポガチャルに対して、ユンボ・ヴィスマ(当時)は標高2600m超のガリビエへ向け波状攻撃を展開。敵をさんざん引きずり回した末に、ヴィンゲゴーがマイヨ・ジョーヌを奪い取った。後のピレネーのオタカムでは、ファンアールトの脚質を超越したアシストも光った。
翌年もヴィンゲゴーは王座を譲らなかった。4月末のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュで左手首を骨折し、調整が遅れたポガチャルを、7分29秒差で退けた。この差は、両者の対決においては、現時点では最大のものだ。
この2023年は初めてグランツール連戦にも挑戦した。フランス一周の勢いそのままにスペインへ乗り込むと、自らのツール連覇を支えてくれたセップ・クスを総合優勝に導き、同年のジロ覇者ログリッチと揃ってヴィスマによるグランツール年間完全制覇、さらにブエルタ総合表彰台完全独占という歴史的快挙を成し遂げた。
絶望からの再起、不屈のエースはさらに進化する
その勢いは、もはや誰にも止められないかのように思えた。2024年シーズンの開幕直後には、2つのステージレースを圧倒的な強さで制した。
だが4月4日、イツリア・バスクカントリーの第4ステージで、運命は暗転する。プロトンの大半をなぎ倒した大落車に、ヴィンゲゴーも巻き込まれた。鎖骨骨折、肋骨骨折、気胸、さらに肺の穿刺創。生命の危機さえ感じ、入院中には引退も考えたという。
幾度となく名勝負をくり広げているヴィンゲゴーとポガチャル
それでも事故からわずか2ヶ月後、ヴィスマの絶対的エースとしてツールの開幕地に姿を表した。中央山塊の過酷なアップダウンステージでは、ポガチャル相手にたった1人で鬼気迫る追走を展開した。ついには一騎打ちスプリントへ持ち込み、フォトフィニッシュの末の涙の復活劇──。こうして手にした総合2位の座は、本人にとっては「勝利」に等しかった。
堅実なレース運びと緻密なチームワークを武器としてきたヴィンゲゴーは、2025年に入ると、新たな一面を見せる。春先からチーム一丸となって積極的な攻撃を繰り返し、自らもアグレッシブな走行スタイルを身につけた。しかし肝心のツールでは、やや空回り。ポガチャルを疲弊させ、不機嫌にさせることには成功したが、一瞬たりとも総合首位の座を脅かすことはできなかった。
ツール閉幕後、ポガチャルが2ヶ月後の世界選手権連覇に照準を定めた一方で、ヴィンゲゴーはブエルタ行きを選択する。いまだライバルが袖を通したことのないマイヨ・ロホを、いち早く獲りにいった。
これは、わずか4週間の間隔でグランツールを連戦しながらも、両大会で高いパフォーマンスを維持できることを改めて証明するものでもあった。そして、この経験によって、ジロとツールの同一年参戦という野心は、より現実的な目標へと変わっていく。
王座奪還への助走、運命の第6ラウンド
ポガチャルはあらゆる栄光を貪欲に追い求め、2026年春のミラノ〜サンレモで、自身4種類目となるモニュメントタイトルを射止めた。対するヴィンゲゴーが過去3シーズンで出場したワンデーレースは、たったの2つ。むしろシーズンの大半をステージレース転戦と高地合宿に費やし、ひたすらグランツールに専念してきた。
今年ついに初制覇を果たしたパリ〜ニースは、2026年ツールの開幕チームタイムトライアルに向けた予行練習も兼ねていたはずだ。初出場・初優勝を遂げたボルタ・ア・カタルーニャでは、やはりツール開幕2日間の舞台となるモンジュイックの丘で、実戦経験を積んだ。
2025年ツール・ド・フランス
初めてのジロ・デ・イタリアさえもまた、終わってみれば本人の言葉通り「ツールへ向けた最高の調整」となった。チーム ヴィスマ・リースアバイクは狙いをつけた日に、計画通りにステージを支配した。アシストたちは定められた役割に従って集団を牽引し、ついにはリーダーを5度の独走勝利へと解き放った。5月のイタリアに、ヴィンゲゴーの敵はいなかった。
それは自転車競技史に名を刻む偉業でもあった。ツール総合2勝、ブエルタ総合1勝に続くジロ総合制覇により、史上8人目のグランツール3戦制覇を達成。現役では唯一の存在となった。
マリア・ローザに感激の涙を流し、その記録に誇らしさで胸を一杯にしたヴィンゲゴーにとって、なにより大きかったのは、たしかな手応えを得られたこと。
「あの落車から元のレベルに戻るまで2年もかかった。でもようやく今、あの頃と同じ、いや、それ以上の状態に戻ることができた。ツールではさらに『その先のレベル』へ進めるだろうと感じてる」
エースとしてもアシストとしても絶大な戦力となるワウト・ファンアールトの、負傷欠場は痛手かもしれない。ジロ閉幕直後には、監督人事を巡る小さな動揺もあった。それでもジロ制覇を支えた頼もしいアシスト3人──山岳アシストのセップ・クスとダヴィデ・ピガンゾーリ、そしてキャプテン役ヴィクトル・カンペナールツ──に加え、ツールでは総合力にすぐ得れるマッテオ・ジョーゲンソンも、側に控えている。
今こそが自分史上「最強」だと断言するヴィンゲゴーは、自信を胸に、7月4日(土)のツール開幕を迎える。ポガチャルに挑む6度目の夏。ツール史上屈指の一騎打ちの物語に、また新たな章が刻まれる。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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