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タデイ・ポガチャルがラスト100kmでプロトンから飛び出しトリプルクラウン達成【Cycle*2024 UCI世界選手権大会 男子エリートロードレース:レビュー】
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかトリプルクラウンに輝いたタデイ・ポガチャル
最高にクレイジーで、本人曰く「愚か」で、なによりタデイ・ポガチャル(スロベニア)らしいやり方で。ラスト100kmでプロトンから飛び出し、残り51.6kmで完全にひとりになった。歴史に名を刻む偉大なるチャンピオンにふさわしい、大胆で、勇敢な独走勝利。大本命ポガチャルが狙い通りにマイヨ・アルカンシェルを射止め、37年ぶりのジロ&ツール&世界選手権同一年制覇=トリプルクラウンに輝いた。
「馬鹿げたアタックだった。いったいどうしてなのか分からないんだけど、とにかく計画していたわけでも、熟慮した上でもない。自分自身でも愚かだと思ったよ。でも調子は良かったし、最終的には上手く行った。だから、結局のところは、それほど馬鹿げた行動でもなかったというわけさ」(ポガチャル)
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世界57か国から集った精鋭196人が、273.9kmの長旅へと漕ぎ出した。秋の冷たい雨にたたられ続けた2024年世界選手権だったが、最終日の男子エリートは、幸運にも好天に恵まれた。
チューリッヒの周回に入る前のライン区間で、まずは6人が逃げを作り上げた。来るべき巨大な一撃に備えるためだろうか。先頭に選手を送り込んだのは、スイス、ポルトガル、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、ルクセンブルクという強豪国ばかり。残り188km、1回目のフィニッシュライン通過時には、後方のプロトンとは5分35秒差をつけた。
メイン集団では、2大本命擁するスロベニアとベルギーが、精力的にコントロールに勤しんだ。とりわけベルギーのエース、レムコ・エヴェネプールは、周回1周目にヴィクトル・カンペナールツに厳しいテンポを刻ませた。わずか1周=26.85kmでタイム差を2分14秒も縮めてしまうほど、TT巧者の勢いは凄まじかった。ただエヴェネプールによると、あくまで「下りの加速で集団にどれほどのダメージを与えられるか」を確認するため。テストは1周回で終了し、「だっていまだ道は遠かったから」……と、再び制御モードに切り替えた。
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【ハイライト】UCI世界選手権大会 男子エリート ロードレース|Cycle*2024
落車リタイアしたジュリアン・アラフィリップ
3周回目で攻撃の波が起こった時も、スロベニアとベルギーは揃って上手く対処した。1週間前の個人タイムトライアルで好走を見せたジェイ・ヴァイン(オーストラリア)が前へと走り出た。やはり世界選2冠ジュリアン・アラフィリップが落車リタイアし、作戦変更を余儀なくされたフランスからは、パヴェル・シヴァコフが動いた。イタリア、ドイツ、アメリカ、デンマーク、英国、ノルウェーからも次々と飛び出していく。もちろんスロベニアはヤン・トラトニクを、ベルギーはローレンス・デプルスを、きっちり前へ送り出した。同時にメイン集団の主導権も一時的に放棄した。
出来上がった10人の第2集団に、つまり強豪と呼ばれる国で逃げに乗り遅れたのは、実は攻撃のきっかけを作った張本人のスペインと、ディフェンディングチャンピオンのマチュー・ファンデルプール擁するオランダだけ。ところがオランダは頑なに追走作業を引き受けなかった。そもそも今レースここまでも、オレンジ軍団は極めて控え目に立ち回っていた。オランダメディアの報道によると、どうやらファンデルプールは「ポーカーゲーム」を決め込んでいたらしい。必ずしも脚質向きではないコースだからこそ、自分では動かず、心理戦を繰り広げるつもりだった。
それでも4周回目の最初の上り、ベルフシュトラーセ坂でカスパー・アスグリーン(デンマーク)が攻撃に転じると、ようやくオランダのウィルコ・ケルデルマンが張り付いたが……むしろスロベニアが突如として主導権をむしり取る。この春のジロではUAEの一員としてポガチャル総合制覇に尽くしたドメン・ノヴァクが、恐ろしい勢いで坂を駆け上がった。続くウィトコンの坂道では、先のブエルタで史上最多総合4勝目を祝ったプリモシュ・ログリッチが高速牽引。小さな謀反を封じ込めつつ、スロベニア代表の唯一絶対のエースを前方へと解き放った。フィニッシュまで、いまだ100kmも残っていた!
ポガチャルを追わなかったメイングループ
大多数はピクリとも動かなかった。クイン・シモンズ(アメリカ)とアンドレア・バジオーリ(イタリア)だけが反応するも、両者ともすぐに千切れた。ベン・ヒーリー(アイルランド)も慌てて追いかけたが、無駄だった。それまでポガチャルの後輪につけていたマルク・ヒルシ(スイス)は「単なるテストに違いない」と判断し、エヴェネプールは「自殺行為だ」と考えた。ファンデルプールは「世界タイトルを獲るチャンスをドブに捨てる行為」とみなし、「ポーカーゲームに引っかかった」とほくそ笑んだという。
「飛び出した後、まるで自分で自分の片膝に弾丸を打ち込んでいるようなものだと考えた。そのまま走り続けたことで、もう片膝にももう一発」(ポガチャル)
ポガチャル本人さえ、自らを愚か者だと感じていた。ただインレースモトのタイム差を知らせるホワイトボードで状況を把握したトラトニクが──世界選手権ロードレースでは無線使用は禁じられている──、先頭集団からあえて後退し、自分を待っている姿を目にした瞬間、後悔はきれいさっぱり消え去った。
「ヤンはマシンそのものだった!彼がとてつもなく力強く引っ張ってくれたおかげで、大いなる希望とやる気がわいてきた」(ポガチャル)
91km地点で先頭集団にジョインしたが、ポガチャルはおとなしくその場に留まっているわけにはいかなかった。後方ではベルギーが追走を始めていた。オランダもいよいよ隊列を組み上げた。先頭合流時には1分あったリードは、あっという間に30秒程度にまで詰められた。だからこそトラトニクの最後の牽引を利用して、5回目のベルフシュトラーセ登坂で加速すると、さらに先を急いだ。この夏のツールでポガチャルのマイヨ・ジョーヌ獲りに貢献したシヴァコフだけが、今回はライバルとして、世界チャンピオンへの栄光の旅にしがみついてきた。再びタイム差を50秒にまでこじ開けた。
「タイム差を50秒から1分程度にキープできれば上々だ」と、エヴェネプールはベルギー代表の仲間に伝えていたという。ただ肝心のチームメイトたちは、厳しいコースと速いペースに疲弊し、次々と脱落して行く。ならば残る2人に牽引続行を託す代わりに、自らで動こう。エヴェネプールはこう腹をくくると、残り72km、加速に転じた。そして、これを合図に、ポガチャルに置き去りにされた強豪たちによる熾烈な駆け引き合戦が幕を開けた。ヒーリーとトムス・スクインシュ(ラトビア)、オスカー・オンリー(イギリス)が、一時は先行したこともあった。ただファンデルプールとエヴェネプールを中心に、うんざりするほど攻撃と牽制とが繰り返され、誰一人として決定機を打てなかった。
残り51.6km地点から独走のポガチャル
一方のポガチャルは、残り51.6km、ついにひとりになった。上手く共闘してきたシヴァコフが、6周回目のベルフシュトラーセ登坂中に力尽き、ひたすら孤独に戦い続けるしかなかった。幸いにも残り42kmで、チームカーの同伴が許された。幸いにも沿道から無数の声援が降り注ぎ、いたるところでスロベニア国旗がはためいた。
「頭と脚を使って走り続けた。残り距離を数えては、限界を超えてしまわぬよう心掛けた」(ポガチャル)
後方とのタイム差は、最終周回突入の時点では1分に広がったが、残り17kmでは35秒にまで縮まった。ポガチャルはもはや疲労困憊だったが、追いかけるライバルたちもまた、擦り切れていた。
「距離が250kmを超えた先では、誰もが疲れ切っていて、だから35秒は決して小さくない差だった。最後の坂を上り終えていたから、自分でもタイム差を守り切れると分かっていた。でも最後の10分は、まるで地獄だったけどね」(ポガチャル)
あらゆる感情の波を乗り越え、苦痛に耐え抜き、ポガチャルはついに最後まで先頭で走り切った。ガッツポーズをぐるぐると振り回し、たったひとりで、2024年世界チャンピオンとしてフィニッシュラインを横切った。スロベニアの男子エリート選手としては、史上初めての世界選手権制覇だった。
「子どもだった頃、このジャージを夢見たことさえなかった。単純にツール・ド・フランスや世界選手権へ出場したいと願っていただけ。だから夢が叶ったどころじゃない。それ以上の、とてつもない成果なんだ」(ポガチャル)
ここまでパーフェクトだったポガチャルのシーズンが、もっとパーフェクトになった。ピンクを20日間、黄色を19日間も独占した挙句、今後1年間にわたり虹色ジャージをひけらかす権利を手に入れた。1974年エディ・メルクス、1987年ステファン・ロッシュに続く、史上3人目のトリプルクラウン達成。ちなみにレース後には「史上最強の自転車選手」メルクスから、「もはやポガチャルは俺を超えた」発言も出された!
世界選手権男子ロードレース 優勝ポガチャル、2位オコーナー、3位ファンデルプール
2位争いの集団に生き残ったのは、7人だけだった。昨ブエルタで生まれて初めてグランツール総合表彰台に上がったベン・オコーナー(オーストラリア)が、ラスト1.5kmで思い切って抜け出し、2番目にラインに飛び込んだ。残された小集団でのスプリントはファンデルプールが制し、起伏の多いレースで、幾多の本格派クライマーを退けて手に入れた銅メダルが「純粋に誇らしい」と笑顔を見せた。
4位にはスクインシュがつけ、パリ五輪でTT&ロード両制覇を成し遂げたエヴェネプールは、チューリッヒ世界選はTT優勝&ロード5位で終えた。「この結果に腹を立てたり悲観したりする必要はない。僕らはトライし、ベストを尽くしたのだ」と、胸を張る。
日本の新城幸也は、チューリッヒ市街サーキット1周回目にポルトガルの選手と接触して落車。体を強打したのに加え、バイクが破損し、レース続行は不可能だった。16回目の世界選手権参戦は、無念にもリタイアに終わった。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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