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【Cycle*2023 UCI世界選手権大会 女子エリート ロードレース:レビュー】ロッタ・コペッキーが悲願のマイヨ・アルカンシエル! トラック競技と合わせ7日間で3枚の“レインボー”でスーパー世界選手権の申し子に
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介今大会で3枚のマイヨ・アルカンシエルを獲得したロッタ・コペッキー
トラック競技から続いた怒涛のスケジュールと、レース内外で浮き沈みの激しかった日々を思い出すと涙がとめどなく溢れた。8月に照準を定め、どんなことがあってもブレずに突き進んできた強い意志は、7日間で3枚のマイヨ・アルカンシエル獲得という形で実を結んだ。やり切ったとの思いとともに、複数の世界女王として歩むこれからに大いなる責任がともなうことを実感する。
イギリス・グラスゴーを舞台に8月3日から熱戦が展開されてきた“スーパー世界選手権”こと、UCI世界選手権大会は13日にフィナーレを迎えた。ロード競技の最後を飾ったのは、「ウィメンズライダー世界一決定戦」女子エリートロードレース。ストロングウィメンたちの戦いは、ロッタ・コペッキー(ベルギー)が今季世界ナンバーワンの呼び声にふさわしい走りで優勝。プロトン全体からの徹底マークに遭いながら、それを打ち破って最後の5kmを独走。トラック競技と合わせて、今大会3枚目のマイヨ・アルカンシエルを獲得した。
「夢がかないました。アルカンシエルが3枚ですものね。これから1年間はこのジャージを楽しみながら走っていきたいと思います。今年はハードなシーズンでしたが、同時にファンタスティックな年にもなりました」(ロッタ・コペッキー)
全行程154.1km・獲得標高2229mのレースは、前半のワンウェイルートから有力国が動いた。後半に待つグラスゴー市街地サーキットがテクニカルかつタフなコースゆえ、先手を打っておきたい各国の思惑が早くから働く。どのカテゴリーもグラスゴーの周回コースに入るとプロトンは散り散りになり、個々の走力がダイレクトに反映していた。逃げがそのまま優勝争いへと転化したケースもあり、それらをチェックしている女子エリート勢は、早めの仕掛けが吉とばかりに策を打ち合った。
特に動向が注目されたのは、コペッキー擁するベルギーと、ツール・ド・フランス ファムを勝ったデミ・フォレリングが控えるオランダ。両国は常に前線にメンバーを送り込んで有利に展開しようと試みる。そこにスイスやイギリス、フランスといった戦力が整うチームが同調。イタリアとドイツがこの動きに乗り遅れたことで、追う側に回る。
J SPORTS サイクルロードレース【公式】YouTube
【ハイライト】UCI世界選手権大会 女子エリート ロードレース|Cycle*2023
一進一退の流れは全体のハイペースを呼び込み、前半唯一の登坂区間クロウ・ロードではマリアンヌ・フォス(オランダ)ら一部の有力選手が後退。グラスゴー入りまでにメイン集団へと戻ったが、やはり大多数がテクニカルコースで再び後ろに取り残されている。
散発的なアタックはいずれもほどなくしてキャッチされ、明確な逃げがないまま市街地サーキットへ。そこからは各国のエースクラスがみずから動くようになっていて、コペッキーやフォレリングを含んだ数人が集団からリードを得る場面も。さすがにフィニッシュまで距離を残しているとあって集団に戻るが、臨戦態勢が整っていることをうかがわせる。
均衡が破られたのは、フィニッシュまで74kmを残したタイミング。序盤から積極姿勢を見せていたエリーズ・シャベイ(スイス)が単独で飛び出して、集団に対し20~30秒のリード。残り5周を切ったところで数人が追走意思を見せるが、そこにコペッキーが加わると大多数が追随。再びペースが緩み、パンクで一時後方へ下がっていた前回女王のアネミエク・ファンフルーテン(オランダ)らが集団に復帰している。
そうこうしているうちに、シャベイはリードを1分30秒まで拡大。アタックとキャッチを繰り返していた集団は、ジャスティーヌ・ゲキエール(ベルギー)、リーアンヌ・マルクス、シリン・ファンアンローイ(ともにオランダ)が統率を図りながらペースアップに努める。残り35kmでファンフルーテンがアタックすると、駆け引きは本格化しコペッキーやフォレリング、マーレン・ローセル(スイス)らも前をうかがう。精鋭メンバーが決まるまでにそう時間はかからず、コペッキー、フォレリング、ローセル、エリザベス・ダイグナン(イギリス)、クリスティーナ・シュヴァインベルガー(オーストリア)、セシリーウトラップ・ルドヴィグ(デンマーク)が、数秒前を行くファンフルーテンを目指してスピードを上げた。
周回コースで独走を見せたエリーズ・シャベイ
残り2周を迎える頃には、先頭を行くシャベイと精鋭グループとの差は20秒まで縮まる。数的優位なオランダがファンフルーテンを牽引役に据える脇から、ルドヴィグやコペッキーが代わる代わるアタック。それをフォレリングやシュヴァインベルガーらがすかさずチェックに走る。この段階でコペッキーの脚の良さは明白で、どの選手も彼女の動きに合わせるようになっていく。ひとり追わされるような状況にコペッキーがイラ立つ場面も。
モンローズ・ストリートの上りでフォレリングが仕掛けたのを機にシャベイを完全に目の前に捉え、最終周回の鐘と同時にキャッチ。ときを同じくしてファンフルーテンがパンクで脱落。優勝争いは7人に絞られた。
消耗戦の様相を呈した戦い。ここまで来ると各選手の脚色が見えてくる。ダイグナンやシュヴァインベルガーが抜け出すと、ローセルとコペッキーがすぐにチェックするが、フォレリングは反応が鈍りがちに。上りで何とか追いついて、カウンターアタックを繰り出すも左脚を攣ってしまった。
決定的なシーンは、残り5.6kmで訪れた。直前の連続コーナーでのルドヴィグが仕掛け、コペッキーが反応。先頭が2人に絞られると、上りを利用して再びルドヴィグがアタック。これを労せず対処したコペッキーが、ここぞとカウンターアタック。さすがのルドヴィグもついていけない。
「ルドヴィグのアタックに対応できた時点で“勝った”と思いました。あとはカウンターアタックを成功させるだけ。自信をもって踏み込みました」(コペッキー)
分厚い包囲網を打ち破って、ついに独走に持ち込んだコペッキー。最後のモンローズ・ストリートの上りもプッシュして後続にダメ押しすると、残りの1.5kmは栄光へのウイニングライド。勝利を確信し、自然と笑みがこぼれた。そして、セレブレーションはいつもと同じように力強く、胸を一度叩いて喜びを表した。
「トラック競技2種目で優勝できましたが、正直ロードレースを勝つのは難しいと思っていました。7日間で3枚のマイヨ・アルカンシエルですよ! われながらクレイジーすぎますね」(コペッキー)
グラスゴー市街地周回コース
今年は2月のシーズンインからタイトルを欲しいままにし、ツールでも第1ステージ勝利から6日間マイヨ・ジョーヌを着用。山岳でも粘って、最終的に個人総合2位とポイント賞のマイヨ・ヴェールを獲得した。今大会に入ってからは、トラック競技でエリミネイションとポイントレースで優勝。優勝候補筆頭に挙げられたロードレースも、しっかりと勝ち切ってみせた。
「レース内外でサポートしてくれたベルギーチーム全体に感謝したいです。特に、序盤で逃げに入ったサンネ・カントと、長く集団を牽いてくれたジャスティーヌ・ゲキエールの2人の働きは本当に素晴らしかった。ゲキエールはシャベイとの差を1分30秒にとどめてくれました。終盤はみずからレースを動かすほかないことは分かっていたので、そこまでの態勢を整えてくれた彼女たちの働きに応えたいと思っていました」(コペッキー)
充実度を深める走りの一方で、競技外では苦難にも直面していた。3月に兄が亡くなったときは、葬儀の日もトレーニングを止めず、すぐにレース復帰。この日のレース後には直接的な言及こそなかったが、涙ながらに当時の様子を振り返っている。
「本当を言えば、自宅で家族と過ごしていた方が良かったに違いありません。でも私は走り続けることにしました。大きな目標に向かって取り組んだ方が、精神的にも安定すると思ったからです」(コペッキー)
UCI(国際自転車競技連合)が初の試みとして開催したスーパー世界選手権。ひとつの都市に多くの競技が会し、いくつもの戦いにファンは魅了された。複数の競技にまたがってアルカンシエルを獲得する選手が生まれたあたりも、この大会ならではの魅力となった。3つの種目で世界女王になったコペッキーは、まさに“スーパー世界選手権の申し子”といえよう。
「短いスパンでトラックとロードをこなせるので、調整がしやすかったですね。いつもだと世界選手権の時期が異なるので、それぞれのトレーニング期間が必要になるのです。今回はツールからの流れでグラスゴー入りできましたし、私はスーパー世界選手権を気に入っていますよ」(コペッキー)
優勝コペッキー、2位フォレリング、3位ルドヴィグ
コペッキーと並んで優勝候補最右翼に挙げられていたフォレリングは、フィニッシュ前で猛追し意地の銀メダル。たびたび見せ場を作ったルドヴィグが銅メダルにそれぞれ輝いた。後塵を拝したとはいえ、今大会のスーパーヒロインに負けたのなら仕方ない。2人の表情は悔しさよりも、充足感が上回った。
「ロッタはレース中、私にずっと怒っていました。“デミ、今しかないよ!”って。実際はファンフルーテンの復帰を待っていたので動きようがありませんでした。でも、それも含めてレースなのです。走り終えてからロッタとはそのことを笑い合いましたよ。彼女がチーム(チーム SDワークス)にアルカンシエルをもたらしてくれたのです。今はそれがうれしいです」(デミ・フォレリング)
併催のアンダー23ではカタブランカ・ヴァシュ(ハンガリー)が最上位となり、同部門のアルカンシエルを獲得。コペッキー、フォレリング、ヴァシュは普段、チーム SDワークスで一緒に走っており、同チームに所属する選手たちはこの大会で合計8つのメダルを獲得。改めて、ウィメンズプロトンの構図を示す格好になった。
長きにわたってトップに君臨したファンフルーテンは、歓喜のコペッキーから2分48秒後にフィニッシュラインへ。2度のパンクに見舞われる不運もあったが、最後は笑顔でアルカンシエルに、そして世界選手権のステージに別れを告げた。
「どんなことがあっても笑って終わろうと決めていました。最終周回を前にパンクしたときも“これを楽しまなきゃ!”と思ったんです。今日のことは生涯忘れないでしょうね。集団内ではみんなが私をリスペクトしてくれました。そのことにも感謝したいと思います」(アネミエク・ファンフルーテン)
日本から出場した與那嶺恵理は42位で、UCIポイント圏内(60位までに付与される)でレースを完了。アンダー23対象だった小林あか里はリタイアしている。
スーパー世界選手権は今後、4年に一度のスパンで開催される。オリンピック・パラリンピックの前年に開催することで、それらの予行演習として意味合いも高まっていきそうだ。自転車競技最高峰の祭典は次回、2027年にフランスで行われる。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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