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サイクル ロードレース コラム 2022年7月27日

まさに完全無欠。ワウト・ファンアールト、強さの根源「まだまだ僕に出来ないことはたくさんある」| ツール・ド・フランス 2022

ツール・ド・フランス by 宮本 あさか
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ワウト・ファンアール

ワウト・ファンアールト

「僕を魅了し、突き動かすのは、まるで不可能のように見える物事に挑戦すること。試してみなければ、出来ないかどうかなんて決して分からない。それに、強く信じさえすれば、ほとんどすべてが可能になる。だから僕は、同じような実力の他の選手たちよりも、ほんの少し長く粘れるのかもしれないし、それこそ僕が結果を出し続けられている最大の理由なのかもしれない」

大会2回目の休息日にこう語ったワウト・ファンアールトは、2年連続の区間3勝で大会を終えた。1年前が難関山岳ステージ大逃げ、個人タイムトライアル、大集団スプリントでの3勝だとしたら、今年は12kmの独走、急坂少集団フィニッシュ、個人タイムトライアルだった。

さらには区間トップ3入り5回、マイヨ・ジョーヌ着用4日間。ポイント賞は大会2日目から首位独走を始め、計480ポイントでマイヨ・ヴェール獲得。2位以下には約200ポイントの差をつけたし、2018年ペーター・サガンの最多記録477ポイントも塗り替えた。

ヨナス・ヴィンゲゴーのマイヨ・ジョーヌ獲りにも、ワウトは大いに貢献している。5日目の石畳では、自らも落車し、「イエロージャージ喪失を覚悟」しつつも、メカトラで慌てるピュアクライマーを見事に集団へと復帰させた。第11ステージはガリビエ峠からの鮮やかなダウンヒル、さらには最終グラノン峠へ向けての力強い牽引。そして第18ステージでは、最終オタカム峠で強烈なテンポを刻み、ディフェンディングチャンピオンのタデイ・ポガチャルを振り払うと、エースを山頂区間2勝目へと送り出した。

自らの「右腕」の、ツール区間初勝利さえもお膳立て。「君は強い」と繰り返し何度も言い聞かせてきたクリストフ・ラポルトに、第19ステージの残り5kmで、「今日は君の日だ」と耳打ちをすることで。

「山岳ステージを、『ああ、今日は制限時間内にフィニッシュできますように』なんて願いながら走り始めるなんて、僕にとってはひどく退屈なことのように思える。それに3週間のレースのうち3日間だけ勝利を狙う、なんていう走り方もしたくない。今はむしろ毎日毎日やることがたくさんあって本当に感謝しているし、すごく刺激的だ」

ポイント賞でも最多記録を更新

ポイント賞でも最多記録を更新

10人の候補選手の中から、至極当然のように、スーパー敢闘賞にも選ばれた。レース委員長+審査員4人+インターネット投票による結果、文句なしの満場一致だった。

もしもジロ・デ・イタリアだったら、ワウトは中間スプリント賞もダントツ首位でかっさらっているはず。なにしろ個人タイムトライアルを除く全19ステージ中、16区間で中間ポイントを計220ポイント積み重ねている。なんと総逃げ距離687km(procyclingstats調べ)で、細かいルールを無視すれば、フーガ賞だって首位なのだ。

ちなみに山岳賞は首位ヴィンゲゴーからわずか13ポイント差の5位で、ツール期間中に獲得したUCIポイントはヴィンゲゴーとポガチャルに次ぐ堂々3位の795点。冗談半分でかつてのブエルタ・ア・エスパーニャの謎の複合賞に換算してみると、どうやらポガチャル1位8点、ヴィンゲゴー2位9点、トーマス3位25点に続く4位28点……。

まさに完全無欠。「世界最高の自転車選手」と、2022年ツールの最終マイヨ・ジョーヌに言わしめたファンアールトは、果たしてこの先どこへ向かうつもりなのだろうか。

「まだまだ僕に出来ないことはたくさんある。難関峠が立て続けに続く難関山岳コースでは、総合エースたちに着いていくことは出来ないし、ど平坦でイージーな1日の大集団フィニッシュでは、ピュアスプリンターたちに対抗することは難しい。ただし、この2種類の地形の中間のコースなら、すべてが僕向きなんだけど」

こんな風に謙遜するワウトだが、最終週の超級オタカム山頂3位後には、自らのポテンシャルをはっきりと認めざるを得なかった。

ヴィンゲゴーと抱き合うワウト

ヴィンゲゴーと抱き合うワウト

「もしかしたら、僕がいつの日かマイヨ・ジョーヌを狙えるかどうかを判断するための、良いテストになったかな……」

そう、ワウト・ファンアールトの世界では、強く信じさえすれば、すべてが可能になる。

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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