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【ツール・ド・フランス2022 レースレポート:第21ステージ】ヨナス・ヴィンゲゴーがマイヨ・ジョーヌ初戴冠! 最後の最後までチーム一丸の勝利を示す「もっと、もっとツール・ド・フランスで勝ちたい」
ツール・ド・フランス by 福光 俊介チームみんなでフィニッシュするユンボの選手たち
最後までチームの勝利であることを示し続けた。マイヨ・ジョーヌがただひとり前を行くのではなく、最後まで残った4人の仲間と並列に。さらには、途中で去った仲間のゼッケンを掲げて。13番は“きっちりと”逆さにするチームメートへの配慮までしてみせて。
雨のコペンハーゲンで始まったツール・ド・フランス2022は、隣国ベルギーやスイスにも足を延ばし、ときに熱波に苦しめられながらも、“フランス一周”の旅を終えた。切り離されることなく走り続けられた135人の勇者たちが、パリ・シャンゼリゼに帰還を果たした。前日の個人タイムトライアルで個人総合争いは決着しており、アルプスとピレネーそれぞれで強さを発揮したヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)が初優勝。シャンゼリゼ通りに設けられたポディウムで、エトワール凱旋門をバックにマイヨ・ジョーヌを正式に戴冠した。
「自分でもすごいことをしたと思っているよ。ツール・ド・フランスに勝ったんだ! もう、これから何だってできるような気がしているよ。」(ヨナス・ヴィンゲゴー)
いつも通り、パレード走行で始まった1日。個人総合争いはもう終わっているし、他の賞レースも受賞者が決定している。なのに、マイヨ・ヴェールがファーストアタックを打っているではないか! チェックに行っているのはマイヨ・ブランとマイヨ・ジョーヌ!?
というのは、最終日のパレードならではのパフォーマンス。今大会の主役となった3人のショーなんて、こんな贅沢もうできないかもしれない! ヴィンゲゴー、ワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ)、タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)、2022年大会を語るうえで外せないスーパースターが魅せてくれたのだ。観る側も楽しまなくちゃ!
そんなワクワクに満ちたパレードでは、チャンピオンチームであるユンボ・ヴィスマの選手たちによる記念撮影も。もちろん中心にはマイヨ・ジョーヌがいるけれど、彼だけが目立つのではなく、みんなが横一列に並び、途中離脱となったプリモシュ・ログリッチ、ステフェン・クライスヴァイク、ネイサン・ファンホーイドンクのゼッケンも掲げる。頂点へあと一歩まで行きながら届かなかった一昨年から始まった、ユンボ・ヴィスマのツールでのリベンジロードは、ついに終着地へ。みんなでたどり着いた高みであることを、パリまで残った5人が体現した。
逃げるパフォーマンスを見せた3賞ジャージ
普段は室内ラグビー場として稼働し、2024年パリ五輪では競泳と水球の会場を予定する「ラ・デファンス」を出発後、ヴェルサイユ城やノートルダム大寺院を見て、パリ最古の橋ポンヌフをわたる。そして、ルーヴル美術館のガラスのピラミッドの前を通って、シャンゼリゼ通りへ。
さながらパリ観光を行ったツール一行は、最後の最後に少しばかりのレースへ向かった。6.8kmのコースを8周回。厳密には115.6kmのステージなのだけれど、半分近くをパレード走行したから、残りの距離で“レースに挑む”という具合。ユンボ・ヴィスマを先頭にシャンゼリゼに入り、コントロールラインを通過すると同時にゴングが鳴った。
いつものことながら、逃げ狙いのアタックがなかなか決まらない。1周ごとに先行するメンバーが変わるような流れが続き、4周目でようやく5人が15秒ほどのリード。メイン集団ではスプリントを狙うチームが牽引していたから、前とのタイム差はほとんど開かない。残り2周までマキシミリアン・シャフマン(ボーラ・ハンスグローエ)とヨナス・ルッチ(EFエデュケーション・イージーポスト)のドイツ人コンビが先頭で粘ったけど、集団は計ったように最終周回の鐘が鳴ると同時に2人をキャッチ。勝負はスプリントへゆだねられることに...。
と思いきや、新たなアタックが。それも、個人総合3位を確定的にしているゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ)とポガチャルではないか!
「おもしろかったでしょ! 右を見たらイネオス・グレナディアーズが加速していて、僕はその反対側から。実は誰か一緒に行かないかと周りに聞いていたんだ。結局ひとりでトライすることになったんだけどね。イネオス・グレナディアーズのアタックは偶然同じタイミングだっただけさ」(タデイ・ポガチャル)
スプリントに向けてスピードが上がっている中だったから、さすがに個人総合上位2人のアタックは決まらなかったけど、真剣勝負の中に思いがけない演出が加わって、プロトンはより活性化。凱旋門を過ぎると直線が下り基調になるから、時速70kmに届こうかというハイスピードで進んでいく。スプリンターチームが主導権を握り、残り3kmでアルペシン・ドゥクーニンク、残り2kmでチーム バイクエクスチェンジ・ジェイコがそれぞれ隊列を成して上がっていく。その態勢のまま残り1kmを過ぎ、コンコルド広場へ。これを抜けると、フィニッシュまで700mのストレートだ。
最高の状況を作り出したかに思えたチーム バイクエクスチェンジ・ジェイコだったが、昨年から再編成されたシャンゼリゼ通りの直線距離は思うようにいかなかったか。牽引役のルカ・メズゲッツが懸命に踏み続けたが、フィニッシュ前250mで限界が来てしまった。今大会2勝目を目指したディラン・フルーネウェーヘンは、早めのスプリント開始を余儀なくされた。
これをうまく利用したのがフィリプセン。フルーネウェーヘンの加速を利用してスピードを上げると、みずからのタイミングでトップギアに入れる。3週間を走り抜いて消耗しきっているスプリンターたちを尻目に、最後は周りを確認する余裕まで。第15ステージに続く今大会2勝目は、ライダーの夢であるパリ・シャンゼリゼでの大勝利になった。
ヤスパー・フィリプセン
「子供の頃からの夢がかなったよ。スプリントまでの流れは理想通りだった。ベストポジションだったし、フルーネウェーヘンが早めに加速したことで自分のタイミングで動くだけで良くなった。美しいシャンゼリゼのコースで勝つなんてね...僕はやったよ!」(ヤスパー・フィリプセン)
昨年のこのステージでは、“最強”ワウトの後塵を拝して2位。人目をはばからず悔し涙を流した。あれから1年。多くのレースで勝利を収めるまでになった24歳は、シャンゼリゼで勝って名実ともにトップスプリンターの称号を手にした。
ときを同じくして、ステージ優勝争いの後ろではイエロー軍団が再び集結していた。とりわけ映えるイエロー(マイヨ・ジョーヌ)と、最高のスピードマンだけが着用を許されるグリーン(マイヨ・ヴェール)が並び、その脇を“ノーマルイエロー”が固める。改めて、チームで勝ち取ったマイヨ・ジョーヌ(マイヨ・ヴェールも!)であることを示すべく、5人は並んで最後のフィニッシュラインを通過。前回この場所で勝っていたワウトは、すでにポイント賞新記録(2015年の同賞システム変更以後)を達成していたし、今回は狙いに行かず、チームとの最終目的地への歩みを選んだ。
「僕にとって、パリで勝つことへのこだわりは不必要だった。マイヨ・ジョーヌとマイヨ・ヴェールを同時に獲得するという目標は昨年の冬に公表して、それが実際に達成されたんだ。今回はもう十分なんだよ。ヨナス(ヴィンゲゴー)がマイヨ・ア・ポワも獲得して、結果として3つのジャージと6つのステージを獲った。僕もチームも、今日勝つことは求めていなかったんだ。個人的には、昨日得た感情を抱き続けたかったしね」(ワウト・ファンアールト)
トップグループから51秒遅れてのフィニッシュになったけど、そこはもう関係ない。ポガチャルとトーマスとの総合タイム差は縮まったけど、これ以上マイヨ・ジョーヌを賭けて争うことはないのだ。ヴィンゲゴーは、「僕を勝たせてくれた」仲間とともに3週間のレースを締めくくった。
表彰台にのぼる3賞ジャージ
「世界最大のレースに勝ったことは紛れもない事実だよ。これはもう誰にも奪わせないからね!」(ヴィンゲゴー)
2年前のツールはメンバー選考で名前すら挙がらず、妻の出産に立ち会っていた。昨年は、直前のメンバー変更で補欠から繰り上がって出場するや、いきなりの個人総合2位。すっかりチームの総合エースになって迎えた今大会でマイヨ・ジョーヌ戴冠。見事なまでの大出世である。昨年の活躍時には、水産加工工場で働いていた頃の映像が世界的に広まって話題になったけれど、そんな下積みを経ているあたりも、ファンの心を虜にする。
もちろん、ここをキャリアの頂点にするつもりはない。勝ってみて強く思ったことがある。
「もっと、もっとツール・ド・フランスに勝ちたい!」(ヴィンゲゴー)
ポディウムでの優勝者スピーチでは、「とても大きな瞬間を迎えられて、最高の気分。ツールのデンマーク開幕を実現させてくれてありがとう」と述べるとともに、チームメートや好勝負を繰り広げたポガチャルやトーマスにも感謝を告げた新王者。翌日にはオランダでお祝いパーティーをして、その翌日にはコペンハーゲンへ。そのまた翌日には地元へ帰省して、そのまたまた翌日にようやくゆっくりできそうだという。
ヨナス・ヴィンゲゴー
「お祝いをした後はリラックスできる時間が欲しい。だけど、やっぱりまたツールで勝ちたい。1回だけでは終わらせないからね!」(ヴィンゲゴー)
歴史的な好勝負を演じた“最強の敗者”ポガチャルにして、ヴィンゲゴーについて「これから長くライバル関係にあるだろう」と称した。ヴィンゲゴー25歳、ポガチャル23歳。2人の戦いは、この先長く語り継がれる伝説になるのかもしれない。そうだとしたら、ツール・ド・フランス2022年大会で見たものは序章に過ぎない。ここからどんなストーリーが描かれるのだろうか。われわれをまだ見ぬ世界へ、彼らがいざなってくれるはずだ。
●ステージ優勝 ヤスパー・フィリプセン コメント
「昨年のリベンジだとは思っていないよ。少なくとも前回より僕自身が強くなっていることは事実だね。1年前のシャンゼリゼでは悔し涙を流したけど、今日は世界で一番幸せ者になれたと思っている。この1年、いろいろなことがあった。それらを経て、シャンゼリゼで勝つことができたのは、まさに夢の実現だね。スプリンターにとっては誰もが憧れる勝利だし、僕としてもキャリア最高の勝利だと思う。こんな素晴らしい形でツール・ド・フランスを終えられるなんて、とてもじゃないけど想像していなかったよ。」
●個人総合優勝、山岳賞 ヨナス・ヴィンゲゴー コメント
「自分でもすごいことを成し遂げたと思っているよ。ツール・ド・フランスに勝ったんだ。これから先、僕は何だってできる気がするよ。
世界最大のレースで勝ったことは紛れもない事実。勝ちたいと思って走ってきたよ。だけど、それが本当になるなんてね。すべてはオタカム(第18ステージ)次第だと思っていたんだけど、あの日勝つことができてツールに勝てる手ごたえをつかんだんだ。
今日はたくさんのデンマーク人が集まってくれたね。心の底から感謝しているよ。彼らは3週間にわたって僕を応援し続けてくれたんだ。
レースを終えて娘の出迎えを受けたとき、これで安心できると思った。いまは最高の気分。それに尽きるよ。」
●個人総合2位、マイヨ・ブラン タデイ・ポガチャル コメント
「確かに、このジャージ(マイヨ・ブラン)が僕の最大目標ではなかったよ。でも、ツール・ド・フランスで2位なんだ。満足して良いんじゃないかな。ステージ3勝できたし、3週間の戦いには誇りを持っているよ。
ツール・ド・フランスは子供の頃の夢だった。勝つかどうかは置いておいて、ツールに出場しているという事実をまずは喜びたい。スロベニアからツールに出場する選手がこれほど出るなんて、信じられないことなんだよ。それに僕は個人総合2位。僕の国ではサプライズのようなものさ。」
●個人総合3位 ゲラント・トーマス コメント
「確かに昨年の後半は苦しかった。でもここまで戻ってくることができた。僕のことをキャリアの終わりだと言っていた人たちがいるけど、彼らが間違っていたことを証明できたのではないかな。
この3週間は本当に楽しかった。このツールは僕にとって最高の大会だったかもしれない。確かに2018年には勝っているのだけどね。あのときと同じくらい充実していたと思えるんだ。それに、僕はまだまだ終わるつもりはないからね。」
●マイヨ・ヴェール ワウト・ファンアールト コメント
「家族にツール・ド・フランスの勝利の瞬間を見せられて最高の気分だよ。昨日の個人タイムトライアルの後、シャンゼリゼでスプリントをすべきか考えたのだけれど、正直難しいと思ったんだ。それなら、この瞬間をチームみんなで味わうべきだなと。その選択は間違っていなかったよ。」
●チームのツール制覇に貢献 クリストフ・ラポルト コメント
「春のクラシック、パリ~ニース、クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ、ツール・ド・フランス、すべてがうまくいったね。勝つことが当たり前に感じてしまうこともあるけど、実際はそんなことはないんだ。チームに勢いがないと難しいことだからね。
ヨナス(ヴィンゲゴー)がマイヨ・ジョーヌを獲り、ワウト(ファンアールト)がマイヨ・ヴェール、それにステージ6勝。ちょっと考えられないね。とてつもないことを僕たちは成し遂げたんだ。」
第21ステージ結果
1 ヤスパー・フィリプセン(ベルギー/アルペシン・ドゥクーニンク)in 2h58'32"
2 ディラン・フルーネウェーヘン(オランダ/チーム バイクエクスチェンジ・ジェイコ)ST
3 アレクサンダー・クリストフ(ノルウェー/アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)
4 ヤスパー・ストゥイヴェン(ベルギー/トレック・セガフレード)
5 ペテル・サガン(スロバキア/トタルエナジーズ)
6 ジェレミー・ルクロック(フランス/B&Bホテルズ・カテエム)
7 ダニー・ファンポッペル(オランダ/ボーラ・ハンスグローエ)
8 カレブ・ユアン(オーストラリア/ロット・スーダル)
9 ユーゴ・オフステテール(フランス/チーム アルケア・サムシック)
10 フレッド・ライト(イギリス/バーレーン・ヴィクトリアス)
個人総合時間賞(マイヨ・ジョーヌ)
1 ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク/ユンボ・ヴィスマ)in 79h33'20"
2 タデイ・ポガチャル(スロベニア/UAEチームエミレーツ)+2'43"
3 ゲラント・トーマス(イギリス/イネオス・グレナディアーズ)+7'22"
4 ダヴィド・ゴデュ(フランス/グルパマ・エフデジ)+13'39"
5 アレクサンドル・ウラソフ(ロシア/ボーラ・ハンスグローエ)+15'46"
6 ナイロ・キンタナ(コロンビア/アルケア・サムシック)+16'33"
7 ロマン・バルデ(フランス/チーム ディーエスエム)+18'11"
8 ルイス・メインチェス(南アフリカ/アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)+18'44"
9 アレクセイ・ルツェンコ(カザフスタン/アスタナ・カザクスタン チーム)+22'56"
10 アダム・イェーツ(イギリス/イネオス・グレナディアーズ)+24'52"
ポイント賞(マイヨ・ヴェール)
ワウト・ファンアールト(ベルギー/ユンボ・ヴィスマ)
山岳賞(マイヨ・ア・ポワ)
ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク/ユンボ・ヴィスマ)
ヤングライダー賞(マイヨ・ブラン)
タデイ・ポガチャル(スロベニア/UAEチームエミレーツ)
チーム総合時間賞
イネオス・グレナディアーズ in 239h03'03"
スーパー敢闘賞
ワウト・ファンアールト(ベルギー/ユンボ・ヴィスマ)
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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