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【ツール・ド・フランス2022 レースレポート:第19ステージ】フランスに今大会初勝利をもたらしたのは“スーパーヘルパー”クリストフ・ラポルト! チームメートの声に奮起「チームがフランスに勝利をもたらすことを最優先してくれた」
ツール・ド・フランス by 福光 俊介マイヨ・ジョーヌと抱き合って喜ぶラポルト
力強く、そして鮮やかに。乾坤一擲のアタックは、大人数のプロトンに3週間を走ってきて消耗している事実を明確に告げるものだった。この大会、ときにワウト・ファンアールトを、ときにヨナス・ヴィンゲゴーを支えた“スーパーヘルパー”クリストフ・ラポルト(ユンボ・ヴィスマ)が数少ない“自分のための走り”を実行し、またとないチャンスをモノにした。
平坦路を進んだ第19ステージ。セオリー通りであればスプリントとなっていたであろう1日は、終盤にきて情勢が一変。先頭で粘る3人に手を焼くうちに崩れ始めたメイン集団を尻目に、ラポルトは残り1.2kmで前線合流。そして最後の600mでアタックを決めて、自身初めてとなるツールのステージ優勝を挙げた。
「チームは今日、僕を信頼してくれたんだ。このステージならワウト(ファンアールト)も勝っていたと思う。だけど、フランスに勝利をもたらすことをチームが最優先してくれたんだよ。これは本当にすごいことだと思うね。この国のファンや僕の家族が幸せになれるなら、こんな素晴らしいことはないよ!」(クリストフ・ラポルト)
由々しき事態だった。今大会開幕以来、フランス、スペイン、イタリア、「ロードレース大国」3カ国の選手からステージ優勝者が出ていないのだ。大会が進むにつれて、現地でも「今年のフランスとスペインの選手は期待外れ」との見出しで報道がなされるまでに。ヴィンゲゴーとタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)のマイヨ・ジョーヌ争いで盛り上がる一方で、地元フランス勢に対する“がっかり感”は日増しに強まっていた。
残り3ステージである。彼らのチャンスは3回しかない。ただ、それはツールを走るすべての選手に同じことが言える。今年の戦いぶりからすると、彼らが勝てる可能性はとてもではないが、高いとは言えなかった。
ピレネーでの山岳3連戦を終えたプロトンは、第3週では初めてとなる平坦ステージに臨んだ。カステルノ・マニョアックからカオールまでの188.3km。ここまで急峻な山々を駆けた選手たちにとっては、翌日に控える個人タイムトライアルを前に“移動ステージ”としておきたいところだけれど、どうもそういうわけにもいかない様子。地域柄、風が強く、この日は進行方向に対して追い風。ハイスピードのレースになると予想された。
美しいヒマワリ畑を駆け抜けるプロトン
その見立て通り、レースはみるみるうちに残り距離を減らしていく。ファーストアタックから先行し続けた選手たちは、十分なリードを得られぬまま中盤まで進んだ。30km地点でデモ隊がコースをふさいでいたため足止めを食ったりと、集中力を削ぐような厄介な要素も選手たちに降りかかった。
タイム差は大きくても1分30秒。常に大集団が後ろに迫っている状況に、逃げていた5人中4人が耐えられなかった。残ったのはクイン・シモンズ(トレック・セガフレード)だけ。それでも、2カ所ある4級山岳を越えたところで集団へと引き戻された。フィニッシュまでは、35km残した段階だ。
「ミッションとしては小さすぎるものだったね。でも可能性はゼロじゃないと思っていたんだよ。メインプロトンには内心“後ろに下がってくれよ...”と思っていたさ。まぁ、でもそうもいかなかったんだよね。」(クイン・シモンズ)
せめてものプライズとしてステージ敢闘賞を贈られたシモンズに代わって、新たな3人逃げが生まれた。フレッド・ライト(バーレーン・ヴィクトリアス)、アレクシー・グジャール(B&Bホテルズ・カテエム)、ヤスパー・ストゥイヴェン(トレック・セガフレード)。シモンズに続いてストゥイヴェンが逃げるトレック・セガフレードは、エースのマッズ・ピーダスンの状態が良くなく、スプリントで真正面から勝負するのは厳しい状況にあったという。
彼らの動きに乗じて、一度ポガチャルもアタックを企てたけど、ここはワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ)がチェック。攻撃が決まらなかったとはいえ、どんな形でもチャンスとあらばタイム奪いに行こうという姿勢には、観る者として頭が下がるばかりである。
メイン集団は、スプリントフィニッシュを狙うロット・スーダルやチーム バイクエクスチェンジ・ジェイコ、トタルエナジーズなどが牽引を担って、逃げる3人を自由にはさせない。30秒ほどの差をキープして、最後の10kmまでやってきた。
メイン集団に狂いが生じ始めたのは、ちょうどこのタイミングだった。先頭3人が粘っていたとはいえ、タイム差が縮まらない。もがくようにして踏み続けるスプリンターチームのアシスト陣の近くには、淡々と脚を回すマイヨ・ヴェールの姿が。その後ろには、マイヨ・ジョーヌ、そしてラポルトの姿があった。
ワウトがラポルトのアシスト? いつもとは逆の集団ポジショニングだ。ここまでの戦い方やコースレイアウトからすれば、ワウトが狙いに行くのが自然な流れ。ただ、このステージばかりは、違った。
「実は僕の状態が良くなかったんだ。だからクリストフにトライしてもらおうと思った。“今日は君の日だよ”と僕から告げたんだ」(ワウト・ファンアールト)
チームとして1つ目のミッションであった、「残り3kmまでにヴィンゲゴーを安全圏に送り込むこと」は、ファンアールトがコンプリート。次なるミッション...。
ラポルトでフィニッシュを狙うこと。
今大会のヒーローの1人であるワウトに背中を押され、そしてチームからの励ましを受けた29歳は、初のツール勝利に向けて勝負に出た。まごつく集団は先頭3人にすぐには追いつきそうにない。ならばと、残り1.2kmでブリッジを試みた。タイミングを同じくして前ではライトが単独アタック。それを追ったストゥイヴェンに、ラポルトは乗っかった。
フランスの期待に応えたラポルト
「コーナーでスピードを上げたら後ろとの差が広がっていたんだ。ならばと、そのまま先頭を目指すことにした。追いつきたくて思い切って踏み込んだよ」(ラポルト)
上り基調の最終局面に誰もが勢いを失う中、ラポルトだけはもう一段階ギアを残していた。最後の600m、ストゥイヴェンとライトを立て続けにパスすると、あとはフィニッシュラインへまっしぐら。後ろでは、ようやくスプリンターたちが腰を上げていたけど、ヤスパー・フィリプセン(アルペシン・フェニックス)が1秒差まで迫るのがやっとだった。
「自分の結果は全然考えていなかったし、このツール・ド・フランスには満足できていた。それなのに、このチームはステージ優勝を狙うチャンスまで僕に与えてくれるんだよ。過去2回の出場時とは状況がまったく異なる。良し悪しは別として、いま置かれている境遇は本当に信じられないよ」(ラポルト)
ファンアールトを支えるクラシックのアシスト要員としてユンボ・ヴィスマに加わった今季。昨年まではコフィディスでエースクラスの役目を担っていたけど、プロトンきってのスーパーチームからオファーが来て飛び上がって喜んだ。すっかり自信をつけると、アシストとしての働きを超越し、ときにみずからも勝ちに行けるだけの強さを発揮するまでに。このツールでも、平坦に山岳に、大車輪の働きぶりだ。
「彼が加わってすぐに気が合ったんだ。今では最高の友人だよ。ツールだけではなく、春のクラシックでも僕のためにたくさんの仕事をしてくれた。だから今日こそは自分のために走ってほしいと思ったんだ。彼ならやってくれると思っていたよ」(ファンアールト)
大好きな仲間たちに背中を押されてつかんだ勝利。同時にそれは、今大会で初めてとなるフランス人選手のステージ優勝。難産の末にようやく迎えた歓喜のとき。ここまで地元ライダーに厳しかったフランスのメディアも、今回ばかりはラポルトをヒーローとして立てることだろう。
メイン集団はラポルトから1秒差でのフィニッシュ。個人総合上位陣のほとんどがこの中でレースを終えた。終了直後は集団で中切れが発生していたと判定され、ステージ5位のポガチャルと同13位のヴィンゲゴーとに5秒の差が生まれていたけど、再判定の結果同タイム扱いになった。
マイヨ・ジョーヌを争う2人の差は、3分26秒。
いよいよ、次のステージですべてが決まる。40.7kmの長距離個人タイムトライアル。全体を見通すとフラットだけど、終盤の2つの登坂区間がどう影響するだろうか。残り5.4kmからのマジェス坂(登坂距離1.6km、平均勾配4.7%)、そして最後は残り1.8kmからのオスピタレ坂(1.5km、7.8%)。道幅の狭い古くからの道や、岩壁のトンネルを抜けた先に、その答えが用意されている。
主催者によれば、トップタイムは49分台とのこと。ステージ優勝の行方とともに、個人総合トップ2の走りに全世界の注目が集まる。両者ともタイムトライアルは苦にしていない。走力、ここまでのレース展開を総合して考えるならば、マイヨ・ジョーヌがそのまま突き進むのではないか。全出走選手がフィニッシュしたとき、ツール・ド・フランス2022の覇者が事実上決定する。
●ステージ優勝 クリストフ・ラポルト コメント
「キャリア最高の日かって? そうだね。だけど、パリ~ニースの第1ステージで勝ったことも忘れられない。どちらか選べと言われると難しいけど、やっぱりツール・ド・フランスかな。そうだね、今日は最高の日だよ!
きっと多くのフランス国民が今日のような日を待っていたのだと思う。お待たせしました!という感じだね。大会終盤まで待ってもらうことになったけど、きっとみんな幸せなんじゃないかな。
ユンボ・ヴィスマで走るようになって、すべてが変わった。今日の勝利も、このチームじゃないと成し得なかったと思っているんだ。ここに至るまでが本当に大変だったんだよ。この2カ月、ツールのために高地トレーニングを行って、クリテリウム・ドゥ・ドーフィネを走って、それから少しだけ自宅で過ごしてツールへ。家族と離れて過ごすのは本当にさみしいし、それまでの自分と比較すると大きな変化なんだ。準備、栄養、装備、すべてが計算されているチームはこれほどまですごいのか...と思わされたよ。このチームは世界の一流ライダーがそろっている。その中に僕がいるということは、大きな自信になっているよ。チームメートのおかげで今日は勝つことができた。これまでにない経験をさせてもらえて、心から感謝しているよ。
ユンボ・ヴィスマの今大会6勝目、7勝目はあるかって? 可能だと思うよ。すでに5勝していてみんな満足しているけど、まだチャンスはあるだろうね。ワウトが個人タイムトライアルに意欲的だし、ヨナス(ヴィンゲゴー)も得意にしている。あと、ワウトは去年シャンゼリゼで勝っているからね。その再現はあるかもね。ワウトのようなチャンピオンと一緒に走れるのはとても楽しいよ。ヨナスだってツールの王者に近づいている。このチームはすごいリーダーが控えているんだ。」
●マイヨジョーヌ、マイヨ・ア・ポワ ヨナス・ヴィンゲゴー コメント
「僕たちにとって最高のツール・ド・フランスになっているよ。イエロー、グリーン、水玉、たくさんのジャージとステージ優勝。明日また、そこに1つ加えられると良いね。僕はベストを尽くすし、パリまでイエロージャージをキープしたい。もちろんまだ決まったわけではないよ。
明日の個人タイムトライアルはリスクは負わずに、自分のリズムで行くよ。ステージ優勝はワウトが狙ってくれるし、勝つんじゃないかと思っている。
2年前の個人タイムトライアルの日? 娘が生まれるから病院にいたよ。そこでレースを観たんだ。すごいレースではあったけど、チーム内ではそんな話にならない。今回とはコースレイアウトが異なっていて参考にならないしね。重要なのは、マイヨ・ジョーヌを守るためにすべてを捧げること。明日は全力を尽くすよ。」
●ステージ2位、マイヨ・ブラン タデイ・ポガチャル コメント
「ハイスピードで過ぎた1日だったね。最初のうちは物足りなさを感じていたけど、しばらくして楽しく走れるようになった。フィニッシュはとてもハードだと聞いていたので、全力で踏み込んだよ。バイク交換したのはパンクしたからで、集団復帰は特に苦にはならなかったよ。
明日の個人タイムトライアルは...、きっとみんな疲れているよね。もちろん僕もそう。何ができるか分からないけど、全力を尽くしてみるよ。コースチェックは2回行っていて、レイアウトや路面状況も把握できている。何といっても最後2つの小さな丘だね。あれはみんな苦しむんじゃないかな。」
●マイヨ・ヴェール ワウト・ファンアールト コメント
「彼(ラポルト)のポテンシャルはこんなものじゃないんだよ! 僕の大事な友人でもあるから、今日の勝利は本当にうれしいよ。
昨年は個人タイムトライアルとシャンゼリゼでのスプリントで勝ったけど、また同じことができるかというと、それは分からない。でもチャレンジする価値はあるよね。いずれにしても、この先手にする成功はすべてボーナスだよ。」
●ステージ3位 アルベルト・ダイネーゼ コメント
「最後の数キロはとても苦しかった。今日はチームとしてはうまくいったステージだった。みんな良い流れを作ってくれて、フィニッシュではロマン(バルデ)も前の方にいたからね。ラポルトが飛び出したときはジョン(デゲンコルプ)が追ったんだけど、彼(ラポルト)が強すぎたんだ。結局スプリントで(ヤスパー)フィリプセンに負けてしまったけど、ステージ3位だから悪くない。ジロ・デ・イタリアからのグランツール連戦は難しいけど、チームメートの励ましやツールそのものの経験をとても楽しんでいるよ。次のチャンスは日曜日(シャンゼリゼ)だね。」
●ステージ4位 フロリアン・セネシャル コメント
「ファビオ(ヤコブセン)がスプリントしたいと言っていたのだけれど、思い通りにはいかなかったね。僕がスプリントにトライすることになったけど、リードアウトできるメンバーが不足していて、みずからの力で局面打開するしかなかったよ。ラポルトはとてもうまくやっていたと思う。彼も、彼のチームも強い...それ以外何も言うことはないよ。」
第19ステージ結果
1 クリストフ・ラポルト(フランス/ユンボ・ヴィスマ)in 3h52'04"
2 ヤスパー・フィリプセン(ベルギー/アルペシン・ドゥクーニンク)+0'01"
3 アルベルト・ダイネーゼ(イタリア/チーム ディーエスエム)ST
4 フロリアン・セネシャル(フランス/クイックステップ・アルファヴィニル)
5 タデイ・ポガチャル(スロベニア/UAEチームエミレーツ)
6 アモリ・カピオ(ベルギー/チーム アルケア・サムシック)
7 ディラン・フルーネウェーヘン(オランダ/チーム バイクエクスチェンジ・ジェイコ)
8 ユーゴ・オフステテール(フランス/チーム アルケア・サムシック)
9 ルカ・メズゲッツ(スロベニア/チーム バイクエクスチェンジ・ジェイコ)
10 カレブ・ユアン(オーストラリア/ロット・スーダル)
個人総合時間賞(マイヨ・ジョーヌ)
1 ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク/ユンボ・ヴィスマ)in 75h45'39"
2 タデイ・ポガチャル(スロベニア/UAEチームエミレーツ)+3'26"
3 ゲラント・トーマス(イギリス/イネオス・グレナディアーズ)+8'00"
4 ダヴィド・ゴデュ(フランス/グルパマ・エフデジ)+11'05"
5 ナイロ・キンタナ(コロンビア/アルケア・サムシック)+13'35"
6 ルイス・メインチェス(南アフリカ/アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)+13'43"
7 アレクサンドル・ウラソフ(ロシア/ボーラ・ハンスグローエ)+14'10"
8 ロマン・バルデ(フランス/チーム ディーエスエム)+16'11"
9 アレクセイ・ルツェンコ(カザフスタン/アスタナ・カザクスタン チーム)+20'29"
10 アダム・イェーツ(イギリス/イネオス・グレナディアーズ)+20'37"
ポイント賞(マイヨ・ヴェール)
ワウト・ファンアールト(ベルギー/ユンボ・ヴィスマ)
山岳賞(マイヨ・ア・ポワ)
ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ、デンマーク)
ヤングライダー賞(マイヨ・ブラン)
タデイ・ポガチャル(スロベニア/UAEチームエミレーツ)
チーム総合時間賞
イネオス・グレナディアーズ in 227h39'23"
敢闘賞
クイン・シモンズ(アメリカ/トレック・セガフレード)
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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