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【ツール・ド・フランス2022 レースレポート:第17ステージ】出走4人のUAEチームエミレーツが猛攻 タデイ・ポガチャルが今大会3勝目「ステージ優勝しなければいけないと分かっていた」
ツール・ド・フランス by 福光 俊介タデイ・ポガチャル
追う者の意地とでも言うべきか。出走4人のUAEチームエミレーツがレースを通して主導権を握り続けた。あとは、絶対エースのタデイ・ポガチャルが一番にフィニッシュできれば、最後のワンピースがはまる。マイヨ・ジョーヌ奪還を目的としていた集団コントロールは、やがてステージ優勝することが使命へと変わっていった。
1級山岳ペイラギュードの飛行場滑走路へとフィニッシュした第17ステージ。最後は、個人総合トップを争うポガチャルとヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)の一騎打ちになり、ポガチャルに軍配。マイヨ・ジョーヌは奪えずとも、ステージを獲ってみずからの、そしてチームの強さを誇示した。
「4人しかいないチーム状況でステージ優勝。自分たちが成し遂げたことを誇りに思うよ。みんなが全力を尽くしたレースだったし、ステージ優勝をしなければいけないと分かっていたんだ」(タデイ・ポガチャル)
マイヨ・ジョーヌの奪還を目指すポガチャル、そしてUAEチームエミレーツに激震が走ったのはレース前のこと。ここまで...いやシーズンを通してポガチャルを支える山岳アシストのラファウ・マイカが出走できなくなった。前日、山岳の上りでチェーンが切れ、その際に右大腿四頭筋に必要以上の負荷がかかったのだという。診断の結果、肉離れ。それでも走れると信じ、ホームトレーナーでペダリングを試したけど、脚を回せなかった。
これにはさすがのポガチャルもショックを受けた。いつだって強気を崩さない彼だけど、レーススタート前にマイカの未出走に問われると、落ち込みを隠せなかった。
「本当に悲しい。彼が走れるかどうかトライしていた様子を僕は見守ったんだ。ダメだと分かった瞬間にここからが大変だと思ったよ。4人でもやるしかないけど...戦術は変えないといけないね」(ポガチャル)
それでも、レースは進む。ツールでおなじみのペイラギュードへ向かう日だ。129.7kmと、ロードレースステージとしては今大会2番目の短さ。しかも1級3つ、2級1つのカテゴリー山岳が中盤から終盤にかけて詰め込まれたとあれば、短時間勝負とはいえタフなレースになることは容易に想像がついた。
やはり、リアルスタートから火が点いたように次々とアタックがかかった。そのどれもが決まらず、ただただプロトンはハイスピードで進んでいく。最初の1時間は50.7km。ここから先は急峻なピレネーの山々だというのに、こんなに飛ばして大丈夫なのか。
逃げが決まったのは、山岳地帯に入ってから。1つ目の1級山岳コル・ド・アスパンで15人ほどの先頭グループが形成された。その中には、前日に遅れを喫し個人総合9位に順位を落としてしまったロマン・バルデ(チーム ディーエスエム)の姿もあった。さらに、頂上まで4kmのポイントでティボー・ピノ(グルパマ・エフデジ)と、個人総合トップ10返り咲きを狙うアレクセイ・ルツェンコ(アスタナ・カザクスタン チーム)が先行を開始。次の上りである2級山岳ウルケット・ダンシザンまで2人逃げは続いた。
タイミングを同じくして、メイン集団ではUAEチームエミレーツのペーシングが本格化していた。マルク・ヒルシから始まり、ウルケット・ダンシザンではミッケル・ビョーグが集団を牽引。前を行く選手たちとのタイム差を1分台にとどめて、いつでもポガチャルが勝負できる態勢を整える。
そこからの下りを終えて、3つ目の上り1級山岳コル・ド・ヴァル・ルーロン=アゼで集団はさらに勢いを増した。先頭ではピノとルツェンコが追走メンバーに捕まり、代わってアンドレアス・レックネスン(チーム ディーエスエム、ノルウェー)がバルデの前待ちを兼ねてひとり飛び出していたが、あっという間にメイン集団が彼らをパスした。この頃にはUAEチームエミレーツはブランドン・マクナルティを前へ送り出し、それについていけたのはポガチャル、ヴィンゲゴー、ゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ)だけ。やがてトーマスも遅れ始め、3人はひたすら前に突き進んでいった。
「正直調子があまり良くなかったんだ。あの3人についていったら、どこかで限界が来てしまうと悟った。フィニッシュラインを目標にするなら、後ろのグループで走るべきだと判断したんだ。消耗を感じた瞬間? ミッケル・ビョーグが牽引していた2つ目の上りかな」(ゲラント・トーマス)
条件はそろった。マイヨ・ジョーヌに少しでも近づくなら、この山で仕掛けるべきであることは理解していた。頂上まで200m、その先の下りでの加速も見据え、ポガチャルが勝負に出る。しかし、ヴィンゲゴーは動じなかった。冷静にアタックを封じ、ポガチャルの背後から離れなかった。
「タデイ(ポガチャル)がいつアタックしても対応できるよう準備はしていたからね。UAEチームエミレーツはとても強かったけど、僕には何の問題もなかったよ」(ヨナス・ヴィンゲゴー)
これでポガチャルが狙うべきものは一択になった。マイヨ・ジョーヌをそう簡単には引き離せない。ならば、ステージ優勝にシフトする。ペイラギュードに入っても、マクナルティに牽引を任せ、フィニッシュ前の勝負だけに集中した。
マクナルティに牽引されて進むポガチャル
「チームメートに報いるにはステージ優勝をするしかないと思った。2つの山を一緒に越えてくれたブランドン・マクナルティはもちろん素晴らしかったし、ミッケル・ビョーグはいつからクライマーになったんだ?と思うほどの走りだった(笑)。ジョージ(ベネット)、ラファウ(マイカ)、ベガール(ラエンゲン)、マルク(ソレル)...押しつぶされそうな悲しみを抱えながら大会を去った彼らのためにも、勝利を届けないといけなかったんだ」(ポガチャル)
残り1.2km、ポガチャルが意識的に減速し、ヴィンゲゴーに前を行かせる。マクナルティの後ろで、2人は見合いながら最終局面へと進んでいった。そして最後の350m。ペイラギュードの飛行場滑走路は、フィニッシュライン直前で最大勾配16%に達する。直線に入ってすぐに前へ出たポガチャルに対し、ヴィンゲゴーも残り200mで加速して応戦。すかさずポガチャルが後ろを押さえると、最後の100mで再び先頭へ。そのままフィニッシュラインを越えた。
「持っているものすべてを出し切ったよ。本当に、本当に全力を尽くした。明日のこと? いや、まずは今日のことを喜びたい。チームのみんなが僕に自信を与えてくれたんだ。感謝してもしきれないよ」(ポガチャル)
最後までポガチャルを支えたマクナルティは、文句なしのステージ敢闘賞。今季は早くからポガチャルのアシストを務めると公言し、ツールの開幕を待ちわびたアメリカンは、ようやく迎えた“自分の日”に喜びで顔をほころばせた。
「とても楽しい時間だった。山岳最終アシストの難しさやテクニックを学ぶ良い機会にもなったしね。今日は特別な1日だよ」(ブランドン・マクナルティ)
自身の、そしてチームの勝利に喜ぶ2人の一方で、ヴィンゲゴーも最後まで踏み切ってポガチャルと同タイムフィニッシュ。ボーナスタイム分の4秒が総合タイム差に反映されるが、大きな痛手ではないことを強調する。
ポガチャルとヴィンゲゴー最後の一騎打ち
「ステージ優勝できなかったことは残念だけどね。あの急坂フィニッシュは僕よりポガチャル向きだよね。僕はあれ以上できることはなかったよ。それに、失ったタイムは4秒しかない。まったくもって失望するような結果ではないね」(ヴィンゲゴー)
終わってみれば、トップ2とステージ4位にまとめたトーマスとは2分以上の差がついた。総合タイム差では、ヴィンゲゴーとポガチャルが2分18秒。ヴィンゲゴーからトーマスまでは4分56秒。個人総合4位以下の選手は7分以上の差がついており、マイヨ・ジョーヌ争いはこのステージで主役争いを演じた2人に絞られたと見る向きが自然だろう。実際問題、山岳ステージはあと1つ。ここのほかに総合成績が大きく動くとするなら、第20ステージの個人タイムトライアルだけである。この2人の力を考えると、よほどのトラブルがない限り大幅なランクダウンは考えにくい。
熱を帯びるマイヨ・ジョーヌ争いだけど、その一方では制限時間内で走り切るための戦いもある。前日は胃腸炎に苦しみながら走ったマルク・ソレル(UAEチームエミレーツ)がタイムアウトになってしまったが、このステージでは、ファビオ・ヤコブセン(クイックステップ・アルファヴィニル)がリミット15秒前にフィニッシュ。何とか生き残った。フィニッシュではチームメートやスタッフが待ち構え、時間との勝負に挑んでいたエーススプリンターを全力で鼓舞した。そう、サイクルロードレースには選手ひとりひとりのストーリーが存在するのだ。
ピレネー3連戦の最後は、超級山岳オタカムの高みを目指す第18ステージ。レース中盤で超級山岳オービスク(登坂距離8.2km、平均勾配5.1%)、1級山岳コル・ド・スパンデル(10.3km、8.3%)と立て続けに上って、オタカムでのファイナルバトル。登坂距離13.6kmで、平均勾配7.1%。上りの後半にかけて10%前後の勾配が続く。さぁ、どんなドラマが待っているのか。
追う者と追われる者、それぞれ残した言葉が対照的だ。
「まだ勝つことについては考えていないよ。山だけじゃなくてタイムトライアルも残っているからね。そう簡単に勝てないことは分かっているさ」(ヴィンゲゴー)
「ツールに勝てるだろうと楽観的に構えているよ。明日も難しいステージだね。僕はそこで遅れを取り戻せるのではないかと思っているんだ」(ポガチャル)
レース展開と結果にどう反映されるだろうか。運命の1日が待ちきれない。
●ステージ優勝、マイヨ・ブラン タデイ・ポガチャル コメント
「この勝利が今後へのポジティブな要素になることを信じているよ。チームに残るライダーは4人だけだけど、ステージを進めていくことについては楽観視している。今日、ミッケル・ビョーグとブランドン・マクナルティがとても良い走りをしていたので、今後のステージでも強さを発揮してくれると思う。僕たちの力でヴィンゲゴーを崩せそうな手ごたえはあるよ。
この数日間が不運だったことは確かだ。ラファウ・マイカ、マルク・ソレル、ジョージ・ベネットのようなライダーが残ってくれていたら...と思うこともある。彼らがいたら、きっと山岳ステージはもっと良いレースになっていたことは間違いない。ただ、戦術を変えたとしても目標は常に同じなんだ。
ヴィンゲゴーに勝つ方法? そう簡単に勝てる相手ではないよ。それは分かっている。でも、僕たちの走りが完成されれば彼に勝つことはできると思っているよ。とにかく明日だね。」
●マイヨ・ジョーヌ ヨナス・ヴィンゲゴー コメント
「僕は試されていたね。タデイが何度も仕掛けてきたけど、僕は大丈夫だったよ。最終局面は僕より彼向きのレイアウトだったから、ステージ優勝は当然だと思う。最後の上りでチームメートがいなくなっていたことは理想的ではなかったけど、目的はタデイをチェックすることだけだったから、集中して走れたよ。
明日はもう少しチームメートの力を借りながらレースを進めたいと思っている。セップ・クスはプロトン最高レベルのクライマーだからね。彼を頼りにするよ。」
●マイヨ・ヴェール ワウト・ファンアールト コメント
「数字上マイヨ・ヴェールは大丈夫だと言われたよ。あとはバイクに跨るだけで良いんだね(笑)
今日は脚がなかった。UAEチームエミレーツの強さには驚かされたし、彼らは今日のステージを狙っていたのだろうと思う。特にミッケル・ビョーグは素晴らしい仕事ぶりだったと感じているよ。彼はツール開幕時よりはるかに調子が上がっているし、改めてその強さを知ることになったね。僕が集団からドロップしたときは、個人総合トップ15に位置している選手しか残っていなかったんだ。
いずれにしても、ヨナス(ヴィンゲゴー)がマイヨ・ジョーヌを守ったわけだから、このステージも成功だと思って良いんじゃないかな。」
●マイヨ・ア・ポワ シモン・ゲシュケ コメント
「毎日逃げにトライするモチベーションが、この山岳賞ジャージなんだ。コンディション的には良くも悪くもなかったんだけど、チェーントラブルでポイント加算を逃したことは残念だった。
僕が毎日のように逃げに入れているのはチームのおかげ。明日も同じようにうまくいくことを期待しているよ。ツール・ド・フランスの山岳賞は特別だし、可能性は50%くらいまでは来ていると思う。あとは、個人総合上位陣が明日のステージをどう戦うか次第だろうね。僕もできる限りポイント加算できるように、逃げでレースを進めたいと思っているよ。」
●個人総合4位 ナイロ・キンタナ コメント
「スタートからハイスピードのレースになったね。何とか個人総合4位はキープしたよ。明日は僕が勝負できるステージだし、チームもうまくまとまっているから良いレースができるんじゃないかな。目標はパリでポディウムに上がることだよ。」
●個人総合6位に浮上 ロマン・バルデ コメント
「とても嬉しいよ。チームとして目指したことがきっちり果たせたからね。昨日の苦しみから立ち直りたかったから、今日はチャレンジしようと決めていたんだ。逃げに入るかどうかの判断は僕次第だったので、迷わず前を目指したよ。今日は良いレースができたし、明日以降にもつながるのではないかな。」
●ファビオ・ヤコブセンのステージ完走に涙 フロリアン・セネシャル コメント
「いつもと同様に彼と一緒に走っていたんだ。でも上りで彼が遅れてしまい、前へ引き戻すことが僕はできなかった。彼を1人にしてしまったけど、持っている力を最大限発揮したのだと思う。無線を通じて、家族やチームメートのために時間内に上ってきてくれって言い続けたんだ。僕は彼をシャンゼリゼ通りのスプリントに参加させたいと思っているよ。たった数秒だけど、彼は間に合ったんだ。」
第17ステージ結果
1 タデイ・ポガチャル(スロベニア/UAEチームエミレーツ)in 3h25'51"
2 ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク/ユンボ・ヴィスマ)ST
3 ブランドン・マクナルティ(アメリカ/UAEチームエミレーツ)+0'32"
4 ゲラント・トーマス(イギリス/イネオス・グレナディアーズ)+2'07"
5 アレクセイ・ルツェンコ(カザフスタン/アスタナ・カザクスタン チーム)+2'34"
6 ロマン・バルデ(フランス/チーム ディーエスエム)+2'38"
7 ダヴィド・ゴデュ(フランス/グルパマ・エフデジ)+3'27"
8 アレクサンドル・ウラソフ(ロシア/ボーラ・ハンスグローエ)+3'32"
9 ルイス・メインチェス(南アフリカ/アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)ST
10 ナイロ・キンタナ(コロンビア/アルケア・サムシック)
個人総合時間賞(マイヨ・ジョーヌ)
1 ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク/ユンボ・ヴィスマ)in 67h53'54"
2 タデイ・ポガチャル(スロベニア/UAEチームエミレーツ)+2'18"
3 ゲラント・トーマス(イギリス/イネオス・グレナディアーズ)+4'56"
4 ナイロ・キンタナ(コロンビア/アルケア・サムシック)+7'53"
5 ダヴィド・ゴデュ(フランス/グルパマ・エフデジ)+7'57"
6 ロマン・バルデ(フランス/チーム ディーエスエム)+9'21"
7 ルイス・メインチェス(南アフリカ/アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)+9'24"
8 アレクサンドル・ウラソフ(ロシア/ボーラ・ハンスグローエ)+9'56"
9 アダム・イェーツ(イギリス/イネオス・グレナディアーズ)+14'33"
10 エンリク・マス(スペイン/モビスター チーム)+16'35"
ポイント賞(マイヨ・ヴェール)
ワウト・ファンアールト(ベルギー/ユンボ・ヴィスマ)
山岳賞(マイヨ・アポワ)
シモン・ゲシュケ(ドイツ/コフィディス)
ヤングライダー賞(マイヨ・ブラン)
タデイ・ポガチャル(スロベニア/UAEチームエミレーツ)
チーム総合時間賞
イネオス・グレナディアーズ in 203h51'41"
敢闘賞
ブランドン・マクナルティ(アメリカ/UAEチームエミレーツ)
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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