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【ツール・ド・フランス2022 レースレポート:第15ステージ】ライバルも脱帽の勇気と勝負勘 ツールで初めてのステージ優勝飾ったフィリプセン「チームとともにこの瞬間を迎えられたことが最高にうれしい」
ツール・ド・フランス by 福光 俊介悲願のステージ勝利を掴んだヤスパー・フィリプセン
記憶を頼りにした。最終コーナーからフィニッシュラインまで、そう長くないことは昨年走って把握していた。その時はステージ3位。今度はきっちり勝ち取ってみせた。
カルカッソンヌにフィニッシュラインが敷かれたツール・ド・フランス2022第15ステージ。200km超えの長距離ステージで第2週は締めくくり。スプリンターによる勝負は、ヤスパー・フィリプセン(アルペシン・ドゥクーニンク)がワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ)、マッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード)との競り合いを制した。
「昨年の経験があったし、最後のレイアウトは分かっていたよ。でも最終コーナーでポケットされてしまって...。どうなるかと思ったけど、マッズ(ピーダスン)を追い抜けて良かったよ」(ヤスパー・フィリプセン)
南仏を熱波が襲っている。40度近くまで上がる気温は、人々を苦しめるだけでなく、自然災害も引き起こしている。フランス南部の各所で山火事が発生していて、レースには直接影響していないものの近場でも消防隊が出動する事案が。ツールは夏の風物詩といえど、この暑さは度が過ぎてはいないか。
選手たちも大変だ。大なり小なりレース結果に反映されている印象があるし、実際に大会第2週は激動だった。第11ステージでのマイヨ・ジョーヌ交代劇は、暑さも一因だったはず...との見方はいまだに消えていない。
第15ステージに話を戻すと、リアルスタートから残り10km地点までの補給が可能になるなど、酷暑対応の特例が認められた。この日は、昨年に続くカルカッソンヌでのスプリントフィニッシュ。とはいっても、前後半1つずつある3級山岳を前線で越えることが条件にはなってくるけれど。実際に、この上りで遅れたスプリンターの一部は集団復帰を果たせぬままレースを終えている。
レースを前に、今大会を盛り上げてきたマグナス・コルト(EFエデュケーション・イージーポスト)とサイモン・クラーク(イスラエル・プレミアテック)に新型コロナウイルス感染が確認され、出走しないことが発表された。また、落車負傷を押して走ってきたプリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)も回復を優先させるため、ここで離脱を決断。4連覇がかかるブエルタ・ア・エスパーニャに照準を定める構えだという。
迎えたレースは、リアルスタート直後にマイヨ・ヴェールのワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ)が飛び出した。ここにニルス・ポリッツ(ボーラ・ハンスグローエ)とミッケルフレーリク・ホノレ(クイックステップ・アルファヴィニル)が同乗。しばらくはワウトだけが引っ張っている状態だったが、やがてポリッツとホノレが協力し始めるとメイン集団との差は拡大。集団は止まっていたわけではなかったけど、地脚に長ける3人が逃げたとあれば、そう簡単に追いつくことはできない。40km地点では2分ほどの差になった。
ワウト・ファンアールト
ただこの直後、ワウトがチームカーと何やら相談を始める。観る側としては、「今日は何をしてくれるのか」と期待が膨らんでいたところだけれど、彼は集団へと戻る判断を下し、ポリッツとホノレに先を行かせたのだった。
メイン集団は、スプリントを狙うアルペシン・ドゥクーニンクやチーム バイクエクスチェンジ・ジェイコがペーシングを担って、先頭2人を常時射程圏にとどめる。
そんなプロトンに緊張が走ったのは、フィニッシュまで70kmを切った直後だった。集団前方で数人が絡む落車が発生。これに巻き込まれたのがワウトとステフェン・クライスヴァイクのユンボ・ヴィスマ勢だった。ワウトはすぐに走り出したけれど、クライスヴァイクは痛みのあまり座り込んだまま。肩を痛めて救急搬送。マイヨ・ジョーヌのヨナス・ヴィンゲゴーとしては、この日1日だけでログリッチとクライスヴァイク、2人の山岳アシストを失ってしまった。
「重要なチームメートを失った。とても強い2人がいなくなるのは、まったくもって良い気分じゃない。不利な要素ができてしまったね」(ヨナス・ヴィンゲゴー)
さらに10kmほど進んだところで、マイヨ・ジョーヌも落車に巻き込まれてしまった。これにはアシスト陣もいったん脚を止めて、集団復帰に力を使う。その甲斐あって、さして時間はかからずに集団へと戻ったヴィンゲゴーだったが、左半身を部分的に打撲してしまった。
そうこうしているうちに、この日2つ目の3級山岳へとやってきた。上りに入るとトレック・セガフレードがペースを上げて、スプリンターを振り落としにかかる。これでファビオ・ヤコブセン(クイックステップ・アルファヴィニル)やカレブ・ユアン(ロット・スーダル)はたまらず後方へ。同様に後ろへと下がっていたディラン・フルーネウェーヘン(チーム バイクエクスチェンジ・ジェイコ)は、前日に勝利を収めたマイケル・マシューズの好アシストによって、頂上通過後の下りで前線へと戻っている。
この間には、先頭を行く選手も替わった。ポリッツとホノレに代わって前へ出たのは、バンジャマン・トマ(コフィディス)とアレクシー・グジャール(B&Bホテルズ・カテエム)の2人。特にトマはコース近くの街で生まれ育っているから、このステージはどうしても派手に決めたかった。
「どうなっても良いという気持ちで全力を尽くしたよ。一緒に逃げたアレクシー(グジャール)も協力してくれて感謝している。今日の走りは自分を褒めて良いと思っているよ」(バンジャマン・トマ)
30秒前後の差で逃げ続ける2人に、メイン集団はかなり手を焼いた。スプリントを狙うチームもあれば、マイヨ・ジョーヌの危険回避を図って前線を固めるようなチームも。どこが統率をとるわけでもないから、逃げあるのみの先頭2人をなかなか捕まえられなかった。
残り4.5kmでグジャールが逃げをあきらめたことで、集団のチャンスが広がった。独走力のあるトマだから、数秒後ろに大きな塊が迫ってこようとも前を走り続けられたけど、それもフィニッシュ前450mで限界。大人数が彼を飲み込むと、そのまま勝負はスプリントへとゆだねられた。
最終局面で優位に立ったのはトレック・セガフレード。最後のコーナーで、ヤスパー・ストゥイヴェンのリードアウトからピーダスンが放たれる。その番手につけたのはワウト。さらに数人後ろから加速したのはフィリプセン。
この3人が横一線に並んでフィニッシュへと飛び込んだ。接触しそうになるほどの近距離で三者が競り合った。よく見れば、フィリプセンが2人にバイク半分の差をつけて一番にフィニッシュラインを通過している。念願のツール初勝利だ。
「何度もトライしてきて、やっとこの日を迎えられたよ! ツール・ド・フランスでいつ勝てるのかずっと考えてきたからね。チームとともにこの瞬間を迎えられたことが最高にうれしいよ。僕はそれが可能だと思っていたし、あとは適切な瞬間と機会にめぐり合うだけだった。今日がまさにその日だったよ!」(フィリプセン)
この数年ですっかりトップスプリンターの一員になったフィリプセン。意外にもこれがツールで初めてのステージ優勝だけど、ライバルも脱帽の勝ち方だったよう。ワウトが解説する。
「最後の左コーナーの内側を突くなんてすごい勇気のいることだよ。僕の視界に入ってきたときに驚いたんだ。あれができるのはベストなタイミングを計ることのできるライダーだけだよ。あの時点で僕は負けていたんだ」(ワウト・ファンアールト)
第3ステージ以来となったスプリントによる優勝争い。例年と比較してスプリンターのチャンスが少ない中でレースをモノにするには、つまるところ並外れた勇気と勘が必要であるということだ。
ちなみに、昨年この街でマーク・カヴェンディッシュの勝利をお膳立てして、自身も2位に入ったミケル・モルコフ(クイックステップ・アルファヴィニル)は、熱中症の影響で200kmをソロライド。結局タイムアウトに終わり、前回と今回とで天国と地獄を味わうことになった。
「とても悲しいよ。このレースから離れないといけないなんてね。でも、クリスティアン・プリュドム(大会ディレクター)が言ってくれたんだ。“君は勇敢だった”ってね。それで十分救われたよ」(ミケル・モルコフ)
暑さもあり、クラッシュもあり...で、ただの移動ステージとはいかなかったけれど、ヴィンゲゴーはマイヨ・ジョーヌのキープに成功。個人総合トップで第3週へ向かうことが決まった。チームメート2人が大会を去ったことで、ユンボ・ヴィスマはタデイ・ポガチャル擁するUAEチームエミレーツと同数の6人で大会最終週に挑むこととなる。
クライスヴァイクとログリッチを失ったユンボ・ヴィスマ
「ヨナス(ヴィンゲゴー)は僕に大丈夫だと言っていたよ。落車のダメージはないみたい。それよりもチームメンバーの数が同じになったよね! 来週、きっとおもしろいことになるよ!」(タデイ・ポガチャル)
不利な要素と語ったマイヨ・ジョーヌと、おもしろいことになると不敵に笑うマイヨ・ブラン。これが追われる者と追う者のメンタルの違いなのだろうか。すべては、最後の1週間で分かる。
その前に休息日。南仏のギラギラした太陽を楽しむ余裕はないかもしれないけれど、アルプスの山々と暑さに消耗した体を休める大事な、大事な1日。もちろんライダーも、スタッフも、われわれ取材陣も、ゆっくりと時間を送りたい。もちろん日本で観戦しているみなさんも...運命の最終週に備えて、どうか睡眠時間を確保できますように。
●ステージ優勝 ヤスパー・フィリプセン コメント
「フィニッシュを把握していること以上に、マーク・カヴェンディッシュに戦う必要がないことが今日は大きかったね(笑)。改めてツールに勝つことの難しさを実感しているんだ。正直、ここまで時間がかかったと思っている。本当は一昨日のステージを狙っていたけど、レースの流れを引き寄せることができなかった。その分、今日はとてもうまくいったよ。
ツールでのトップ3フィニッシュが8回もあったの? やっと勝ったんだ...これで安心できるよ。たくさんの苦しみを強いられたけど、我慢していれば今日のような日が来ると僕は分かっていたよ。
今日のステージは、これまでのキャリアの中でも5本の指に入るほどの暑さだった。レース中は水と氷で体を冷やし続けていた。でも、最後まで走り切れると思うよ。今日の勝利にしばらくは浸りたいし、暑さも問題ない。マチュー・ファンデルプールのリタイアでチーム全体にプレッシャーがかかっていたけど、これまで経験したことのない緊張感からも解放されそうだ。彼がいなくたってこのチームは強い、それが証明できて本当にうれしいよ。」
●マイヨジョーヌ ヨナス・ヴィンゲゴー コメント
「ちょっとした落車だよ。大丈夫。体の左側に小さな傷があるのと打撲をしているけど、落車ってそんなものだからね。一緒にクラッシュしたティシュ・ベノートも大丈夫だと言っていたよ。
それよりも、クライスヴァイクとログリッチを失ったことの方が問題だ。僕にとっては信頼できるチームメートなんだ。本当に残念だよ。チーム戦略を変えないといけなくなってしまった。明らかに不利な要素になっているけど、1つ間違いないのはパリまで戦うつもりだということだよ。」
●マイヨ・ブラン タデイ・ポガチャル コメント
「明日が休息日でホッとしているよ。冷たいシャワーを浴びて、しっかり寝て、あとは明日のインタビュー設定がそれほど多くないことを願っているよ。
ヴィンゲゴーの状態については分からない。いずれにしても落車は望ましいことではないね。でも彼は普通にペダリングをしていたと思うし、彼からも大丈夫だと聞かされたよ。
ユンボ・ヴィスマとUAEチームエミレーツはともにチームメンバーが6人になったね。最終週はどうなるだろうね。おもしろいことになってきたよ!」
●マイヨ・ヴェール ワウト・ファンアールト コメント
「同じ日に2人のチームメートを失うと、ツール・ド・フランスそのものが変わるようなもの。戦略を大幅に変更することはないにしても、何らかの影響は出てきても仕方がない。今日は特に運が悪い1日だった。
落車したときは、プロトン内で誰かが急ブレーキをかけたんだ。ステフェン(クライスヴァイク)はそれを避けられなかったんだ。僕にとっても些細なミスだったよ。ステフェンを集団に戻すために、彼が立ち上がるのを待ったのだけれど、彼は動けずにいたから先に行くことにしたんだ。
逃げ? もう少し大人数で先行できれば良かったかもしれないね。僕を含めて3人しかそこにはいなかったし、無線の調子が悪く、チームカーからの指示が受けられていなかったんだ。彼らが追いついてきたときに、集団に戻ることが得策だという話に落ち着いたから、逃げることを継続しなかったんだ。」
●個人総合3位 ゲラント・トーマス コメント
「スプリントになるのか、逃げによる勝負になるのか半々の確率かなと思っていたんだ。結果的に、スプリンターチームがうまくコントロールできたステージになったね。逃げとの差も大きくはなかったし、楽に走ることができたよ。水と氷をたくさん用意してもらったおかげだね。
ユンボ・ヴィスマにとって、大事な選手を2人欠く状況はきっと苦しいと思う。ログリッチは昨日までの様子を見ていても元気に思えたし、スティーヴン(クライスヴァイク)も調子がよさそうだった。彼らがいなくなることは、チーム力に影響が出るかもしれないね。」
●レース終盤まで逃げ続けた アレクシー・グジャール コメント
「バンジャマン・トマと協力しながら逃げられたよ。実は彼からコースについて聞いていたんだ。彼の近くを走っていれば、何かあるかもしれないとも思っていた。勝てなかったし、逃げ切れなかったので、自分の走りには不満が残っているよ。」
第15ステージ結果
1 ヤスパー・フィリプセン(ベルギー/アルペシン・ドゥクーニンク)in 4h27'27"
2 ワウト・ファンアールト(ベルギー/ユンボ・ヴィスマ)ST
3 マッズ・ピーダスン(デンマーク/トレック・セガフレード)
4 ペテル・サガン(スロバキア/トタルエナジーズ)
5 ダニー・ファンポッペル(オランダ/ボーラ・ハンスグローエ)
6 ディラン・フルーネウェーヘン(オランダ/チーム バイクエクスチェンジ・ジェイコ)
7 フロリアン・セネシャル(フランス/クイックステップ・アルファヴィニル)
8 ルーカ・モッツァート(イタリア/B&Bホテルズ・カテエム)
9 アンドレア・パスクアロン(イタリア/アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)
10 フレッド・ライト(イギリス/バーレーン・ヴィクトリアス)
個人総合時間賞(マイヨ・ジョーヌ)
1 ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク/ユンボ・ヴィスマ)in 59h58'28"
2 タデイ・ポガチャル(スロベニア/UAEチームエミレーツ)+2'22"
3 ゲラント・トーマス(イギリス/イネオス・グレナディアーズ)+2'43"
4 ロマン・バルデ(フランス/チーム ディーエスエム)+3'01"
5 アダム・イェーツ(イギリス/イネオス・グレナディアーズ)+4'06"
6 ナイロ・キンタナ(コロンビア/アルケア・サムシック)+4'15"
7 ルイス・メインチェス(南アフリカ/アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)+4'24"
8 ダヴィド・ゴデュ(フランス/グルパマ・エフデジ)ST
9 トーマス・ピドコック(イギリス/イネオス・グレナディアーズ)+8'49"
10 エンリク・マス(スペイン/モビスター チーム)+9'58"
ポイント賞(マイヨ・ヴェール)
ワウト・ファンアールト(ベルギー/ユンボ・ヴィスマ)
山岳賞(マイヨ・アポワ)
シモン・ゲシュケ(ドイツ/コフィディス)
ヤングライダー賞(マイヨ・ブラン)
タデイ・ポガチャル(スロベニア/UAEチームエミレーツ)
チーム総合時間賞
イネオス・グレナディアーズ in 179h46'42"
敢闘賞
ニルス・ポリッツ(ドイツ/ボーラ・ハンスグローエ)
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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