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サイクル ロードレース コラム 2022年7月17日

【ツール・ド・フランス2022 レースレポート:第14ステージ】モンテ・ジャラベールの激闘再び 妻と娘を思い勝利したマシューズ「僕がプロライダーである理由を証明したかった」

ツール・ド・フランス by 福光 俊介
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両手を広げてフィニッシュするマイケル・マシューズ

両手を広げてフィニッシュするマイケル・マシューズ

これぞ意地と意地のぶつかり合い。これまでいくつもの名勝負が生まれてきた激坂クロワ・ヌーヴは、今年も激闘の地となった。プロトンきっての“上れるスプリンター”マイケル・マシューズ(チーム バイクエクスチェンジ・ジェイコ)が、アルベルト・ベッティオル(EFエデュケーション・イージーポスト)との競り合いを制し、実に5年ぶりとなるツールのステージ優勝をつかんだ。

「これは僕のキャリアのワンストーリーになりそうだよ。これまで浮き沈みが激しかったからね。最高のシーンを妻や娘に見せたかった。また1つ、夢がかなったよ」(マイケル・マシューズ)

ツール一行は翌週に待つピレネー決戦へ向けて、着々と進行している。前日フィニッシュ地のサンテティエンヌをスタートし、マンドを目指す第14ステージ。計5カ所のカテゴリー山岳だけじゃなく、無印の上りもあって、終始アップダウンの連続。とりわけ、最後に上る2級山岳クロワ・ヌーヴ坂は登坂距離3kmながら、平均勾配10.2%、最大16%の急坂だ。初登場だった1995年にはフランスの英雄ローラン・ジャラベールが制していて、以来この上りには「モンテ・ジャラベール」との別名もついた。ただ、それから4度のツール登場で、フランス人選手たちがことごとく跳ね返されているという事実もあるのだけれど...。

迎えたレースは、ここ数日と同様に逃げたい選手たちで活性化。リアルスタートしてすぐに18人が先行する局面があったものの、これは集団が容認せず。そうしているうちに3級山岳が始まったものだから、集団のいたるところで中切れが発生。前日の落車で傷んでいたカレブ・ユアン(ロット・スーダル)にとどまらず、同様にクラッシュでの痛みを抱えながら走るプリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)も後方に取り残された。

その事態を知ってか知らずか、アタックする面々の中にはマイヨ・ブランを着るタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)の姿が。さすがにリーダーチームも黙っているわけにはいかず、マイヨ・ジョーヌのヨナス・ヴィンゲゴーとマイヨ・ヴェールのワウト・ファンアールトのスペシャルジャージコンビがみずから引き戻しに走った。

3賞ジャージを纏う3人が並ぶ

3賞ジャージを纏う3人が並ぶ

そんなことを繰り返しながら、40km地点を過ぎて23人の先頭グループが組まれた。総合最上位は、トップから15分46秒差の13位につけるルイス・メインチェス(アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)。さほど危険性がないと分かったところで、ユンボ・ヴィスマは集団統率を開始。レース全体が落ち着いたので、集団復帰を急いでいたログリッチも無事に戻ってこれた。

先行を容認された23人は、あっという間にタイム差を10分台に乗せた。山岳賞のマイヨ・ア・ポワを着るシモン・ゲシュケ(コフィディス)もここに乗り込めたので、ポイント貯金に勤しんだ。メイン集団とのタイム差は十分。早い段階でこのメンバーからステージ優勝者が出ることが決定的になった。

そんなグループの均衡を破ったのはマシューズだった。残り52kmで飛び出しを図ると、しばし独走。他の逃げメンバー間でこれを追うべくアタックが散発して、5kmほど進んだところでルイスレオン・サンチェス(バーレーン・ヴィクトリアス)、フェリックス・グロスシャートナー(ボーラ・ハンスグローエ)、アンドレアス・クロン(ロット・スーダル)が追走パックを形成。フィニッシュまで40kmを残したところでマシューズに合流した。

先頭4人と追走選手との差は30秒前後で推移。追う側からたびたびアタックがあったものの、どれも前線合流にはつながらない。懸命に逃げ続ける側では、下りでクロンにアクシデント。バイクトラブルが発生し、そのままコースアウトしてしまった。そこから3人逃げになったものの、後ろからの追撃をかわし続けた。

タイム差15秒で、最後の難所モンテ・ジャラベールを迎える。ここでもまた、マシューズが動いた。上り始めてすぐにサンチェスとグロスチャートナーを引き離すと、この日2度目の独走。大歓声を受けながら、激坂を駆けた。

ただ、そこはモンテ・ジャラベールである。簡単に勝負を決められるわけがない。追走グループで息をひそめていたベッティオルが、猛然とマシューズに迫った。残り3kmでついに追いつくと、その勢いのままアタック。数メートルながら、マシューズとの差が開いた。

「追いついたときには“やった!”と思ったよ。これでいけると。アタックも決まったと思った。まさかマシューズにまだ脚が残っていたとはね」(アルベルト・ベッティオル)

ここから驚異の粘りを見せたのがマシューズ。しばしベッティオルとの差をキープしつつ、頂上目前でベッティオルに再合流すると、「さっきのお返し」とばかりにカウンターアタック。ベッティオルに反応する力は残っていなかった。

マシューズを含めた逃げ集団

マシューズを含めた逃げ集団

「僕が単なるスプリンターではないことを示したかったんだ。第2週では今日しか僕のチャンスはないと思っていたので、絶対に決めたかった。僕だって今日みたいな走り方ができるんだよ! 勝つためにどれだけの犠牲を払わないといけないか、身をもってチームのみんなに伝えたいと考えていたんだ」(マシューズ)

マンド名物の滑走路フィニッシュへたどり着いたときにはベッティオルとは十分な差。残り200mで勝利を確信し、両腕を大きく広げてのウイニングライドを決めた。

早くから上れるスプリンターとして台頭し、数々のタイトルを手にしてきたマシューズ。丘陵コースにも強いことから、ワンデーレースにも活躍の場を広げる。ツールでは2017年にマイヨ・ヴェールを獲得。その時に挙げた2勝以来、5年ぶりのステージ優勝である。

「チームとしては昨日から明日にかけての3ステージを1つのブロックと考えているんだ。最低でも1勝を挙げようとみんなで意思統一している。これで目標達成。明日もう1つ獲れたら最高だね」(マシューズ)

これで、フランス人選手はマンドで5連敗となった。2015年の第14ステージで勝利に迫りながら、ロマン・バルデ(当時アージェードゥーゼール・ラモンディアル)と牽制しすぎるあまりスティーヴ・カミングス(当時MTN・クベカ)に優勝をさらわれてしまったティボー・ピノ(グルパマ・エフデジ)は、リベンジに燃えていたけど結果3位。最終盤に追い上げたものの、前の2人には届かず。苦い記憶を消し去ることはできなかった。

「がっかりだよ。一緒に逃げていたメンバーは最高だった。顔触れを見たときに逃げ切れると思ったよ。シュテファン・キュングもよく走ってくれた。でも、フィジカル的にも戦術的にも足りなかった。まだステージが残っているから、ポジティブに走り続けるしかないね」(ティボー・ピノ)

ステージ優勝争いとは対照的に、静かに進んだメイン集団。メインチェスとのタイム差調整のために、ユンボ・ヴィスマが残り20kmを前にスピードを上げて、モンテ・ジャラベールに到達した頃にはヴィンゲゴーのマイヨ・ジョーヌは安全圏に戻った。

ところが、そこまでに脚を使ったユンボ・ヴィスマのアシスト陣は、急坂に入ると同時に一斉に後ろへと下がってしまった。マイヨ・ジョーヌが単騎になったのを見て、UAEチームエミレーツが主導権を握った。

そうしてやってきた首位攻防。集団の人数が絞られてきた残り3kmでポガチャルがアタック。ヴィンゲゴーもすかさずチェック。これで他の総合上位陣を後ろに追いやると、両者のマッチレースとなる。もう一度ポガチャルが仕掛けたけど、ヴィンゲゴーは引き下がらない。最後まで2人の形勢は変わらず、“恒例”となったポガチャルのスプリントもヴィンゲゴーが封じた。

「タデイ(ポガチャル)が攻撃に出ることは分かっていたからね。何度でも仕掛けてくるであろうことは覚悟できていたよ。僕が逆の立場でも同じことをしていたと思う。もしかしたら明後日の休息日にも僕を攻撃してくるかもしれないね(笑)」(ヨナス・ヴィンゲゴー)

数度の攻撃もジョークのネタにされてしまったポガチャルだけど、チャンスとあらばトライしていく姿勢は変えないつもりだ。

「今日も試してみようと思っていたよ。もう少し上りが長かったら違った戦術で走ったと思うけど、このステージも悪くはなかった。今日のような走りを続けていきたいね。逃げ? いや、あれはワウト(ファンアールト)が前を走る選手との差を詰めようとしていたから便乗しただけなんだ。逃げに入っていたらワクワクするレースになっていただろうね。でもさすがにユンボ・ヴィスマがそれを許してくれるわけがないよね」(タデイ・ポガチャル)

ヴィンゲゴーとポガチャルの総合タイム差は変化なかったものの、3位以下との差は少しずつ開いた。やはり、この2人の力が抜けていると見るべきだろうか。その真相は、第3週までお預けだ。

というのも、第2週最終日の第15ステージは平坦ステージなのだ。前後半1つずつ3級の上りはあるけれど、セオリー通りならばスプリントで勝負が決まる...というのが主催者の見立てだ。予想外の展開が起きないとも限らないけど...。

いい加減、スプリンターチームはここまでのステージで歯がゆい思いをしてきただろう。なにせアルプスやリーダーチームの逃げ容認で出る幕がなかったからだ。そろそろ、フラストレーションを力に変えて大爆発といきたいところ。そのためには、アシスト陣の働きは不可欠。もっとも、スプリンターの多くがここまでの山岳や丘陵でかなりの消耗を強いられているのだ。アシスト陣がどれだけ身を粉にして働けるかも、ステージ結果に反映されることだろう。

●ステージ優勝 マイケル・マシューズ コメント
「ツール・ド・フランスは特別なレースで、出場するすべてのチームと選手が勝利を目指して走っている。だから、勝つためのチャンスはそう多くはないんだ。今朝、妻と話す機会があって、勝つためにはリスクを冒してでも、誰も予想していなかったことをしないといけないとアドバイスしてくれたんだ。つまりは、僕にとっては逃げることを意味していて、それが実際にうまくいった。

レース中は常に妻や娘のことを考えていた。彼女たちは一年中僕のためにたくさんの犠牲を払ってくれているのに、僕は彼女たちに何もしてあげられないんだ。最後の上りでベッティオルに抜かれたときに、彼女たちの顔が思い浮かんだよ。勝負をあきらめたくなかったし、娘に僕がプロライダーである理由を証明したいと思って全力で走ったつもりだ。彼女が僕のことを誇りに思っていると良いな。

今日一番苦しかったのは最後の2km。ここまで逃げてきた以上、勝たないといけないと思っていた。20人以上の逃げメンバーの中にはクライマーもいて、このままだと勝てないんじゃないかとも感じた。ただ、妻の言葉が頭にあって、スポーツディレクターのマット・ホワイトからの無線も耳に入っていた。彼は僕にぴったりのコースであると何度も言ってくれて、そのおかげで自信をもって走ることができたんだ。2人の言葉は魔法じゃないかと思うくらいだよ。」

●マイヨジョーヌ ヨナス・ヴィンゲゴー コメント
「彼のアタックには驚かなかったけど、レース序盤に攻撃してきたときは僕が集団の後ろにいて対応が遅れてしまったんだ。追わないといけなかったけど、幸い消耗するほどのものではなかった。

最後の上りでも彼は強かったね。でも僕は彼についていくことができた。今日はそれで十分。みんなピレネーのことを離したがるけど、ちょっと気が早いよ。明日のステージを終えて、休息日を迎えてから考えるよ。

暑い1日だったけど、それがレースに影響することはなかったね。僕は暑いのが得意。スプリントはしないのかって? 彼は僕から数秒取り戻したいと思っているからトライしているのだろうけど、僕はそれをチェックできていれば問題ないと思っている。

ポガチャルとの戦いを楽しんでいるよ。住んでいる場所も違うし、連絡先も知らないけど、互いの走りの良さはリスペクトしあっている。彼は尊敬に値する人物なんだ。」

●マイヨ・ブラン タデイ・ポガチャル コメント
「僕の作戦? ヨナス・ヴィンゲゴーとユンボ・ヴィスマにできるだけストレスを与えていくことだよ。経験上、マイヨ・ジョーヌを着ることによるプレッシャーが計り知れないものであることは分かっているんだ。

ユンボ・ヴィスマが集団コントロールをしている間は、僕も含めてチームみんなエネルギーを温存できた。どこで攻撃すべきかを見定めていたよ。ユンボ・ヴィスマが僕を恐れているかは分からないけど、少なくとも彼らが僕をよくチェックしていることは分かっているよ。」

●マイヨ・ヴェール ワウト・ファンアールト コメント
「放っておいたら40人くらいが逃げてしまいそうだったんだ。さすがに人数を制御しないといけなかったよ。しかもその中にはタデイ(ポガチャル)がいたからね。彼は一番逃がしてはいけない人物だ。

ヨナス(ヴィンゲゴー)を守ることが最優先だよ。彼こそがプロトンで一番強いライダーさ。彼がトップにいることが何よりの証明だと思わない?」

●マイヨ・アポワ シモン・ゲシュケ コメント
「ジャージよりもステージ優勝にフォーカスして逃げに入った。1日中苦しくて、逃げに入ろうにも疲れてしまっていた。山岳ポイント3点が取れたのはとても良かった。ジャージをキープできるとは思っていなかったからね。この先キープできるか? 大きな挑戦だね。どこまでできるかやってみるよ。」

●個人総合7位に浮上 ルイス・メインチェス コメント
「これは朗報だよ。良い順位だよね。個人的には逃げグループが大きくなることを望んでいたんだ。結局勝てるだけの脚はなかったけど、メイン集団に大差をつけてフィニッシュできたことには満足している。

逃げに入るのは大きな挑戦だった。僕が最前線で走ることを望まないチームが複数あることも分かっているよ。逃げている間もそれは感じていた。でも僕は攻撃したよ。最後まで攻めたからいまの順位に持っていけたのだから大成功だよ。」

●ステージ2位 アルベルト・ベッティオル コメント
「マシューズはステージ優勝に値するだけの走りをしたよ。今日は僕も勝ちたかったし、チームにもう1つ勝利をもたらしたかった。チームスタッフにも約束しているんだ。ステージ優勝するからって。今日は残念だったけど、明日からまたやり直してみるよ。

マシューズは逃げグループの中でも特に強かったし、最後の上りも僕は追いつくので精いっぱいだったのに、彼は長く逃げた末にアタックまでしたんだからね。僕はとてつもなく強いマシューズを目にしたんだ。彼は間違いなく今日の勝者だよ。」

第14ステージ結果
1 マイケル・マシューズ(オーストラリア/チーム バイクエクスチェンジ・ジェイコ)in 4h30'53"
2 アルベルト・ベッティオル(イタリア/EFエデュケーション・イージーポスト)+0'15"
3 ティボー・ピノ(フランス/グルパマ・エフデジ)+0'34"
4 マルク・ソレル(スペイン/UAEチームエミレーツ)+0'50"
5 パトリック・コンラッド(オーストリア/ボーラ・ハンスグローエ)+0'58"
6 ヤコブ・フルサン(デンマーク/イスラエル・プレミアテック)ST
7 フェリックス・グロスチャートナー(オーストリア/ボーラ・ハンスグローエ)+1'06"
8 レナード・ケムナ(ドイツ/ボーラ・ハンスグローエ)+1'12"
9 シモン・ゲシュケ(ドイツ/コフィディス)ST
10 ルイス・メインチェス(南アフリカ/アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)

個人総合時間賞(マイヨ・ジョーヌ)
1 ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク/ユンボ・ヴィスマ)in 55h31'01"
2 タデイ・ポガチャル(スロベニア/UAEチームエミレーツ)+2'22"
3 ゲラント・トーマス(イギリス/イネオス・グレナディアーズ)+2'43"
4 ロマン・バルデ(フランス/チーム ディーエスエム)+3'01"
5 アダム・イェーツ(イギリス/イネオス・グレナディアーズ)+4'06"
6 ナイロ・キンタナ(コロンビア/アルケア・サムシック)+4'15"
7 ルイス・メインチェス(南アフリカ/アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)+4'24"
8 ダヴィド・ゴデュ(フランス/グルパマ・エフデジ)ST
9 トーマス・ピドコック(イギリス/イネオス・グレナディアーズ)+8'49"
10 エンリク・マス(スペイン/モビスター チーム)+9'58"

ポイント賞(マイヨ・ヴェール)
ワウト・ファンアールト(ベルギー/ユンボ・ヴィスマ)

山岳賞(マイヨ・アポワ)
シモン・ゲシュケ(ドイツ/コフィディス)

ヤングライダー賞(マイヨ・ブラン)
タデイ・ポガチャル(スロベニア/UAEチームエミレーツ)

チーム総合時間賞
イネオス・グレナディアーズ in 166h24'21"

敢闘賞
マイケル・マシューズ(オーストラリア/チーム バイクエクスチェンジ・ジェイコ)

文:福光 俊介

福光 俊介

ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う

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