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【ツール・ド・フランス2022 レースレポート:第13ステージ】逃げ・アタック・スプリントのひとり舞台! 夢かなえたマッズ・ピーダスン「勝つことがみんなへの恩返し」
ツール・ド・フランス by 福光 俊介マッズ・ピーダスン(TFS)
偶然か必然か、彼が大仕事をやってのけるときは3選手によるスプリントになることが多い。2019年のロード世界選手権もそうだった。そしてこの日も...。
ツール・ド・フランス2022第13ステージは、レース前半に形成された逃げグループから、3選手によるステージ優勝争いへ転化。1日を通して重要な局面を生み出し続けたマッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード)が最後もモノにし、ツールでは初めてのステージ優勝を勝ち取った。
「一緒に逃げてきた他の5人と最後までもつれるのはどうしても嫌だったんだ。あのままだったらきっと最終盤のコントロールができていなかったと思う。3人に絞ったことでレースがはるかに楽になったよ。やっと...やっとツールで勝ったよ!」(マッズ・ピーダスン)
大会第2週の始まりとともに進んだアルプス3連戦を終え、プロトンは次の激戦地・ピレネー山脈へと移動を始める。ル・ブール=ドワザンからサンテティエンヌまでの192.6kmには、3級と2級、合わせて3つの山岳ポイントが控える。主催者によれば平坦ステージとのことだが、これが果たして平坦と言えるのかは...レース展開が証明することだろう。
アルプスで我慢を強いられた選手たちが、リアルスタートから果敢に動いた。いの一番に飛び出したのは、結果勝利を収めるピーダスンだった。ほかにも逃げたい選手がたくさんいたから、ピーダスンに限らず無数のアタックが出てはつぶされ、逃げが決まったのは30.4km地点にポイントが置かれた3級山岳の上りだった。
フィリッポ・ガンナ(イネオス・グレナディアーズ)のアタックをきっかけに活発になったプロトンは、一時的ながらいくつにも分散した。プリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)やクリストファー・フルームが(イスラエル・プレミアテック)が後方に取り残される場面もあったが、逃げが決まったのを機に鎮静化。アルペシン・フェニックスやロット・スーダルが集団のペーシングを担って、“いつもの平坦ステージ”がツールに戻ってきた。
沿道に詰めかけた多くのファン
ガンナ、シュテファン・キュング(グルパマ・エフデジ)、マッテオ・ヨルゲンセン(モビスター チーム)が逃げグループを形成し、さらに4人が合流。その前には19人が追走、という場面もあったのだけれど、さすがにそれは集団も許さないし、もっとも19人だと人数が多すぎて意思統一が難しい。やがて7人となった逃げでは、ピーダスンとともにトレック・セガフレードからクイン・シモンズがジョイン。数的優位を作りつつ、ピーダスンでの勝利にフォーカスしてシモンズができるだけ牽引時間を長くとった。
とはいっても、メイン集団も2分30秒前後のタイムギャップで続いていたから、その差だけ見れば後ろの選手が有利に思えた。ところが、情勢が変化したのは残り80kmを切った直後のこと。左コーナーでカレブ・ユアンが落車。それまで集団のペーシングをしてきたロット・スーダルにとっては想定外の事態である。これによって、メイン集団を率いるチームがなくなった。ユアンが集団に戻る頃には、タイム差は3分30秒近くまで広がっていた。
この状況を嫌ってチーム バイクエクスチェンジ・ジェイコがコントロールを引き受けたものの、リーダーチームのユンボ・ヴィスマにとっては前を行く選手たちは脅威ではない。チーム バイクエクスチェンジ・ジェイコの動きを見張りつつも、特段協力はしなかった。
これで俄然優勢になったのが逃げていた選手たちだ。この日最後のカテゴリー山岳である3級の上りでシモンズが仕事を終えると、それまで脚を残してきたピーダスンも先頭交代に本気で加わる。ガンナ、キュングといった今をときめくタイムトライアルスペシャリストが乗っていたのもプラスに働いた。もっとも、ピーダスンからすれば彼らをうまく利用しない手はなかった。
そんな2人の脚を使うだけ使ったピーダスンは、残り12kmで賭けに出た。上り基調を利用してアタック。一番恐れていたガンナとキュングを引き離すことに成功した。ついてきたのは、フレッド・ライト(バーレーン・ヴィクトリアス)とユーゴ・ウル(イスラエル・プレミアテック)だった。
「フィニッシュが近づいているのに6人も残っているのは、さすがに多すぎると思った。アタックに成功したのが大きかった。勝因はまさにあの瞬間だと思う」(ピーダスン)
普段はスプリントにも挑めるだけの脚をもつ男である。一緒に逃げてきたライトも、ウルも強い選手だけれど、フィニッシュ勝負になれば勝つ自信があった。残り3kmでのライトのアタックも、難なくチェック。あとは、最後にきっちり決めるだけだった。ファーストアタックを打ち、ステージ優勝争いのメンツを絞り込むアタックを繰り出し、最後はスプリント。パーフェクトなまでの“ピーダスン・デー”の完成である。
「調子が良いことは分かっていたんだ。デンマークで勝てなかったことはとても悔しかった。近いうちに勝てるかな、と思っていたけど、第1週はチャンスをすべてフイにしてしまって...。でも今日、すべてが報われたよ。最高の気分だ!」(ピーダスン)
前に出たウルのスピードに合わせつつ、背後についたライトの動きにも目を凝らす。そして残り250m。スプリントのキレが違った。夢にまで見ていた、ツールのステージ優勝をつかみ取った。
両手を突き上げてフィニッシュするマッズ・ピーダスン
「最高のプライズを手にしたよ! 今大会のチーム目標がステージ優勝だったからね。この1勝でみんな安心できる。これで楽になれるよ」(ピーダスン)
3年前のロード世界選手権では、大雨を苦にするどころか、それをアドバンテージにまでしてマイヨ・アルカンシエルをたぐり寄せた。あの頃はそれほど名が知られていなかったから番狂わせとまで言われたけれど、その後の活躍はアルカンシエルホルダーに恥じないもの。本人いわく「山はからっきし」とのことだけど、スプリントでも、逃げでも結果を残している。
「自転車に乗り始めた頃から、僕の夢のためにたくさんの人が時間を使ってくれた。勝つことがみんなへの恩返しだと常に思っているんだ。地元の人たちがどれだけのの仕事をしてくれたか...世界トップの舞台で走っている僕の姿を見てみんな喜んでくれていると思う」(ピーダスン)
正面からぶつかり合ったから、負けても素直に祝福できた。2位で終えたライトは、フィニッシュしたその脚で、ピーダスンにおめでとうと伝えに行った。
「上りで仕掛けることをイメージしていたけど、正直なところ脚がなかったんだ。だからスプリント勝負に切り替えたのだけど、ピーダスンの力は違っていたよ。でも、僕からすれば今日のステージで逃げに乗れたことが大成功。ピーダスンのような選手と勝負できたこともこれからの自信になるだろうね」(フレッド・ライト)
メイン集団はというと、追い上げを図ったチーム バイクエクスチェンジ・ジェイコがフィニッシュまで15kmほど残したところであきらめたことにより、ユンボ・ヴィスマが指揮権を行使。大人数を統率し、サンテティエンヌのフィニッシュラインへとやってきた。最後の直線では申し訳程度のスプリントが始まって、ここもユンボ・ヴィスマがマイヨ・ヴェールのファンアールトを前線へ押し出してレース完了。結局、ライバルチームに前を行かせなかった。
「逃げメンバーの名前を聞いた時点で、“今日は彼らに行ってもらって良いかな”と思っていたんだ。チームとしては追う必要がなかった。ベストな戦術だったと思うよ。残り15kmまでは前に追いつくと信じていたチームがいろいろと取り組んでいたけど、僕たちは逃がそうが追いつこうが、正直どちらでも構わなかったんだ」(ワウト・ファンアールト)
安全にレースを終えたメイン集団。個人総合上位陣に変動はなし。ヨナス・ヴィンゲゴーのマイヨ・ジョーヌ旅はまだまだ続く。この日ばかりは、ジャージキープよりも同胞の勝利の喜びの方が大きかったようだ。
「1つの大会でデンマーク人選手が3勝なんてすごくない? それも、勝つべき選手がきっちり勝っているんだよね。逃げを行かせて良かったかって? 大事なのは総合成績だから、今日のレースは何も問題なかったよ」(ヨナス・ヴィンゲゴー)
大会第2週は週末を迎える。次のステージはサンテティエンヌからマンドまでの丘陵コース。終始アップダウンが続くルートは、3級山岳4つ、2級山岳1つ。加えて無印の上りも...。とりわけ、最終登坂は登坂距離3km・平均勾配10.2%、最大勾配16%の激坂。総合系ライダーにとっては、下手をするとライバルにタイムを奪われかねない、油断大敵なコースといえよう。そして最後は、山頂から1.5km先のマンド・ブルヌー飛行場の滑走路でステージを終える。
●ステージ優勝 マッズ・ピーダスン コメント
「大きな喜びと安心を手に入れたよ。シーズンインからの目標がツールのデンマークステージで勝つことだったんだ。一生懸命やってきたのにそれがかなわず、本当に悔しかった。だけど、もともとはツールで勝つことそのものが僕の夢だった。それが実現してとても感激しているよ。
デンマークの人々の熱狂はすさまじかった。フランスに入ってからも同じような感覚があって、なぜかというとデンマークからの応援団がたくさん来ているからなんだよね。僕たちの国にはクライマー、スプリンター、アタッカー、いろんな選手がいる。ただただ運だけでここまで来ているわけじゃないから、この成功にはより大きな価値があると思っているんだ。」
●マイヨジョーヌ ヨナス・ヴィンゲゴー コメント
「マイヨ・ジョーヌを着る僕に注目が集まっている? それを期待していたからね。驚きはないし、とてもうれしいよ。誇らしいし、それがツール・ド・フランスというものだからね。
今日はデンマークにとって記念日だよ。美しいね。マッド(ピーダスン)の勝利には大満足だよ。一昨日僕もツールで初勝利したけど、その喜びって言葉に言い表せないくらいなんだよね。いまきっと、マッドが同じ気持ちでいると思う。
今日はエネルギーを温存することを最優先した。集団スプリントになるような展開はチームとして望んでいなかったんだ。明日に備えられたよ。短い急坂は得意分野とは言えないけど、うまく1日を終えたいね。」
●マイヨ・ブラン タデイ・ポガチャル コメント
「簡単なステージではなかったけど、走りそのものには満足しているよ。暑さはみんな同じ条件だからね。個人的には調子が良いし、脚の状態も上々だ。明日の上りについてはこの後予習するよ。レースを走る自分自身の姿もイメージできるんじゃないかな。」
●マイヨ・ヴェール ワウト・ファンアールト コメント
「序盤からハイペースのレースだった。山岳を走った影響がそれなりに残っていたので、逃げを狙うことはしなかった。そもそもレースの最前線を走る必要が今はないからね。暑さもレースを難しくしているね。
僕たちのチームはきっちりオーガナイズされているよ。時間を計算してコールドドリンクや氷を受け取っているからね。明日? 逃げに有利なステージだと思うけど、終盤の急坂が難しそうだね。」
●ステージ2位 フレッド・ライト コメント
「ピーダスンに勝つには彼以上のスプリントをしないといけないわけだからね。そんなに簡単にできるものではないよ。彼はメジャーレースでいくつも勝っている選手なんだ。
彼のアタックにも驚かされたよ。正直言うと、ヨルゲンセンかキュングが攻撃するのではないかと思っていたんだ。その時点でイメージと異なっていた。それに私よりはるかに強かったしね。次のチャンスは勝ちたいね。」
●ステージ3位 ユーゴ・ウル コメント
「ピーダスンが強かったよ。僕としてはあれ以上の対応ができなかった。彼のアタックについていけただけでも良かったんじゃないかと思っているよ。だから満足できる3位だね。」
●ステージ4位 シュテファン・キュング コメント
「ステージ優勝が目標だった。ここまでの12ステージはとても苦しかった。ツール・ド・スイスの後に新型コロナウイルスに感染してしまい、体調を崩してしまったんだ。今日になってやっと調子が上がってきた気がしている。でもまだ100%の状態とは言えないから、勝つには足りないものが多かったね。
暑さはそれほど気にならなかった。昨日より涼しかったようにも思うし、風を受けながら走るのは気分が良かったよ。それでもアイシングはしておかないとね。ボトルを何本消費したか? さすがに数えていないよ(笑)」
●ステージ6位 フィリッポ・ガンナ コメント
「トーマス・ピドコックがビッグな勝利を収めたのを見て、僕も続きたかったんだ。逃げに入るためにかなりの労力を割いたよ。でも、ステージ優勝するには力が足りなかった。ピーダスンが今日は一番強かったよ。素晴らしいレース運びで、ステージ優勝に値すると本気で思っている。おめでとうと言ってあげたいね。
ピーダスンのアタック時に何をしていたのかって? 背中のポケットに入っていたジェルを取ろうとしていたんだ。それをしていなかったら彼についていけたのではないかと言われても仕方はないけど、実際はもう難しかったんだ。それは本当だよ。暑さにかなり消耗していたからね。」
第13ステージ結果
1 マッズ・ピーダスン(デンマーク/トレック・セガフレード)in 4h13'03"
2 フレッド・ライト(イギリス/バーレーン・ヴィクトリアス)ST
3 ユーゴ・ウル(カナダ/イスラエル・プレミアテック)
4 シュテファン・キュング(スイス/グルパマ・エフデジ)+0'30"
5 マッテオ・ヨルゲンセン(アメリカ/モビスター チーム)ST
6 フィリッポ・ガンナ(イタリア/イネオス・グレナディアーズ)+0'32"
7 ワウト・ファンアールト(ベルギー/ユンボ・ヴィスマ)+5'45"
8 フロリアン・セネシャル(フランス/クイックステップ・アルファヴィニル)ST
9 ルーカ・モッツァート(イタリア/B&Bホテルズ・カテエム)
10 アンドレア・パスクアロン(イタリア/アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)
個人総合時間賞(マイヨ・ジョーヌ)
1 ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク/ユンボ・ヴィスマ)in 50h47'34"
2 タデイ・ポガチャル(スロベニア/UAEチームエミレーツ)+2'22"
3 ゲラント・トーマス(イギリス/イネオス・グレナディアーズ)+2'26"
4 ロマン・バルデ(フランス/チーム ディーエスエム)+2'35"
5 アダム・イェーツ(イギリス/イネオス・グレナディアーズ)+3'44"
6 ナイロ・キンタナ(コロンビア/アルケア・サムシック)+3'58"
7 ダヴィド・ゴデュ(フランス/グルパマ・エフデジ)+4'07"
8 トーマス・ピドコック(イギリス/イネオス・グレナディアーズ)+7'39"
9 エンリク・マス(スペイン/モビスター チーム)+9'32"
10 アレクサンドル・ウラソフ(ロシア/ボーラ・ハンスグローエ)+10'06"
ポイント賞(マイヨ・ヴェール)
ワウト・ファンアールト(ベルギー/ユンボ・ヴィスマ)
山岳賞(マイヨ・ア・ポワ)
シモン・ゲシュケ(ドイツ/コフィディス)
ヤングライダー賞(マイヨ・ブラン)
タデイ・ポガチャル(スロベニア/UAEチームエミレーツ)
チーム総合時間賞
イネオス・グレナディアーズ in 152h21'50"
敢闘賞
マッズ・ピーダスン(デンマーク/トレック・セガフレード)
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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