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サイクル ロードレース コラム 2022年7月14日

【ツール・ド・フランス2022 レースレポート:第11ステージ】ユンボ・ヴィスマによるパーフェクトな計画遂行 マイヨ・ジョーヌ奪取のヴィンゲゴー「一番望んでいるのはジャージをパリまで運ぶこと」

ツール・ド・フランス by 福光 俊介
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ヨナス・ヴィンゲゴー(TJV)

ヨナス・ヴィンゲゴー(TJV)

狙うならこの日だと決めていた。逃げに数人を送り込んで「前待ち」の戦法をとったうえで、本格山岳でエースクラスが繰り返し攻撃する。チームとしては、2人のチームリーダーどちらでも良かった。けれど、よりマイヨ・ジョーヌの可能性があり、落車や疲労による体のダメージが少ない方が優先されるべきであることは、みんな分かっていた。

8人が意思統一を図り、第11ステージに臨んでいたユンボ・ヴィスマ。ついに、ついに...UAEチームエミレーツの、いや、タデイ・ポガチャルの王朝を崩すことに成功。超級山岳グラノン峠でアタックを決めたヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)が、ライバルに大差をつけて頂上のフィニッシュへと到達した。

「スタートからフィニッシュまで、どう動くべきかみんなで計画を立てていたんだ。プリモシュ(ログリッチ)と一緒に、大きな成果を得ようと全力を尽くした。成功するまで多くの時間がかかったけど、チームメートがいたからこその今日のレースだよ」(ヨナス・ヴィンゲゴー)

アルプス3連戦の2日目。30年前に冬季五輪を開催したアルベールビルを出発したプロトンは、中盤以降に上級山岳を立て続けに上る。1級山岳テレグラフ峠(登坂距離11.9km、平均勾配7.1%)の後すぐに、おなじみの超級山岳ガリビエ峠(17.7km、6.9%)へ。標高2642mまで達したら33kmのダウンヒルを経て、最後にそびえるは超級グラノン峠。登坂距離11.3km、平均勾配9.2%の上りは、1986年にベルナール・イノーが絶対王者の地位から陥落した場所でもある。

そして“21世紀の絶対王者”も、この地で屈することになる。

レースは序盤からユンボ・ヴィスマ勢が果敢に動いた。スタートアタックでマイヨ・ヴェールを着るワウト・ファンアールトが飛び出す。そこに乗じたのは、マチュー・ファンデルプール(アルペシン・フェニックス)。幼い頃からシクロクロスで鳴らし、常に世界の頂点を争ってきた2人が、ツール・ド・フランスという舞台でもランデヴー。

レース序盤を沸かせたワウトとマチュー

レース序盤を沸かせたワウトとマチュー

そんな胸アツ展開は30km地点まで続いて、そこからは20人の先頭グループへ。ユンボ・ヴィスマはワウトのほかに、クリストフ・ラポルトを送り込んだ。

結果的に、この2人の先行策が大きな成功を呼び込むことになる。彼らが「前待ち」をしている間、メイン集団ではテレグラフ峠に入ってプリモシュ・ログリッチがアタックして、ライバルに圧力をかける。得意の下りでも持っている能力を生かし、頂上からさらに勢いをつける。これに合わせて、「前待ち」組からラポルトが集団へ。彼が下りの牽引役を引き受ける頃には、ポガチャル、ヴィンゲゴー、ログリッチ、トーマスが他の個人総合上位陣からリードする場面も見られるようになってくる。

先頭グループでは、上位チームの戦術的な動きに関与しない選手たちが抜け出しを企てるようになっていた。ガリビエ峠に入ると、ワレン・バルギル(チーム アルケア・サムシック)が独走を開始。山岳賞のマイヨ・ア・ポワを着るシモン・ゲシュケ(コフィディス)や、ピエール・ラトゥール(トタルエナジーズ)が追走を試みるが、バルギルは彼らとのタイム差を拡大。頂上をトップ通過し、大会の最高標高地点に設けられる「アンリ・デグランジュ賞」の獲得を決めた。

「今日何もせずに終えるのは絶対後悔すると思っていた。やれるだけのことはやったよ。この先の目標? 個人総合はさすがに厳しいので、山岳賞を狙おうかな。明日の走り次第だね。総合もそうだけど、山岳賞争いにも重要な1日になるだろうから」(ワレン・バルギル)

バルギルのはるか後ろを走っていたメイン集団では、ログリッチとヴィンゲゴーが交互に攻撃を開始。これにポガチャルも応戦したものだから、一気に活性化。一時は、この3人にゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ)だけしか残っていない、というシチュエーションも発生した。

出入りが慌ただしくなる中でも、ユンボ・ヴィスマは粛々と、“計画”を実行していた。ガリビエ峠を上り終えたところで、「前待ち」組の最終兵器ワウトが集団の合流を待っていた。

「逃げに入るのは予定通りだった。序盤はマチュー(ファンデルプール)と一緒に走ることを楽しんだよ(笑)。映像も写真も、良いものが撮れたんじゃない? 中間スプリントポイントを1位通過してからは、チームでマイヨ・ジョーヌを獲ることに集中した。今日のレースに備えていたからね。絶対成功させないといけないと思っていたよ」(ワウト・ファンアールト)

ヴィンゲゴーらが合流すると、今度はその後ろのグループで走っていたログリッチの引き上げまでやってのけたマイヨ・ヴェール。後方に取り残されていたダヴィド・ゴデュのためにグルパマ・エフデジのアシスト陣がかなりの力を使っていたことも幸いしたとはいえ、残り20kmでメイン集団が再編成された時点で残っていたユンボ・ヴィスマのメンバーは4人。ヴィンゲゴー、ログリッチ、ワウト、そしてステフェン・クライスヴァイク。かたや、ポガチャル擁するUAEチームエミレーツは、ラファウ・マイカがペーシングすべく前へ上がってきたが、それまでに断続的にポガチャルを孤立させる局面を作ってしまっていた。

それでも、マイヨ・ジョーヌは戦える自信に満ちていた。グラノン峠へ向けて集団牽引に励むユンボ・ヴィスマ勢の後ろで、イエローをまとう男はバイクカメラにおどけてみせる余裕まであったのだ。

王者のそんな姿を知ってか知らずか、チャレンジャーチームは狙い通りの展開に漲っていた。ワウトが役目を終えると、クライスヴァイクが上りの前半を引っ張ってお膳立て。その間にナイロ・キンタナ(チーム アルケア・サムシック)やロマン・バルデ(チーム ディーエスエム)が飛び出したが、チームのエースが最後にやるべきことは揺らがなかった。

そして、運命の瞬間はフィニッシュ前5km地点で訪れる。

勾配が厳しくなる区間を狙ってヴィンゲゴーがアタックすると、マイヨ・ジョーヌは動けなかった。マイカが慌てて引きを担うが、それにもついていけない。完全に“ゾーン”に入ったヴィンゲゴーは、前を走っていたバルデとキンタナを労せずパスすると、最後の4kmを独走。かたや、ポガチャルはトーマスのアタックを許し、追ってきたアダム・イェーツ(イネオス・グレナディアーズ)、ゴデュにもかわされてしまった。マイヨ・ジョーヌの前部をオープンし、苦しさに顔をゆがめる姿は、これまでわれわれが見たことのない衝撃的な王者の姿だった。

2週間前、コペンハーゲンのステージで感涙した男は、あのとき受けた大歓声を力に変え、フォーカスし続けてきたこの日に爆発させた。ツールでは初めてのステージ優勝だけど、ウイニングセレブレーションは後回し。とにかく、ライバルとの差を少しでも広げておくことを最優先した。

「終わるまでマイヨ・ジョーヌに手が届いていることには気づいていなかった。ジャージを受け取った今も半信半疑なくらいさ(笑)。ガリビエ峠でアタックしたときに、ポガチャルがすぐについてきた。“これは強いな”とすぐに分かったんだ。だけど、何が起きるかは終わるまで分からないし、こうしてトライしないと勝てないことも改めて実感しているよ。やってみて良かったよ」(ヴィンゲゴー)

ヴィンゲゴーの鬼気迫る姿には、ステージ2位だったキンタナも驚かされたという。

「調子が良かったから、この結果には納得しているよ。ステージ優勝したかったけど、ヴィンゲゴーはスーパーだった。あれを見たら今日は仕方ないと思うよ」(ナイロ・キンタナ)

終わってみれば、ヴィンゲゴーとキンタナとは59秒差。ステージ7位に沈んだポガチャルは、2分51秒もの差をつけられてしまった。当然ながら、首位陥落である。レースを終えて飄々とローラー台でクールダウンするヴィンゲゴーと、ハンドルに顔をうずめてなかなか立ち上がれなかったポガチャル。両者のコントラストがここまでくっきりするとは。

「最後の上りはどうしようもなかった。ユンボ・ヴィスマはとても戦術的で、彼らの攻撃を押さえるのは困難を極めた。あの戦い方は素直にすごいと思わされた」(ポガチャル)

絶対王者までもが尻尾を巻いたユンボ・ヴィスマの戦いぶり。ヴィンゲゴーと双頭体制だったログリッチはこの日、アシストにシフトした。長くエースを張っている男だけに悔しさはあるだろうけれど、不満はない。彼までもが、ヴィンゲゴーの強さに脱帽したのだ。

「彼の走りから多くのことを学んだよ。チームにとっても、もちろん僕にとっても最高の1日だ。最後、どうやってポガチャルを引き離したのかをヨナス(ヴィンゲゴー)に直接聞いてみるよ。彼と交代で攻撃していた時は成功できるか不安だった。でも、あれがあったから今日の結果になったのだろうね」(プリモシュ・ログリッチ)

レース直後に苦悶するポガチャル

レース直後に苦悶の表情を浮かべるポガチャル

ユンボ・ヴィスマの選手たちはもとより、観ている側も興奮させられたチーム戦術。プロトン最強チームがいよいよ、マイヨ・ジョーヌを守る側に立つ。翌日に控えるラルプデュエズが、彼らにとって最初のテスト。新たなマイヨ・ジョーヌホルダーはもう、その気だ。

「個人総合2位も素晴らしいのだけどね。それは去年経験しているから...。今度はマイヨ・ジョーヌなんだ。このジャージをパリまで運びたい。いま一番望んでいることだよ」(ヴィンゲゴー)

まさかの大敗で、マイヨ・ジョーヌからマイヨ・ブランに着替えることになったポガチャルだって黙っていない。レース後はヴィンゲゴーを祝福し、ポディウムでも笑顔を見せたけど、いつもの強気な発言にさらなる力がこもったように感じる。

「まだ何も終わっていないからね。確かに僕は今日、約3分失ったけど、明日3分を取り戻したら良いわけだからね。どうなるか見ていてよ」(ポガチャル)

ラルプデュエズを前に、マイヨ・ジョーヌを着るヴィンゲゴーから個人総合2位に浮上したバルデまでは総合タイム差2分16秒。さらに6秒差でポガチャルが続いている。まぁ確かに、1ステージでひっくり返せるタイム差ではある。アルプス3連戦の最終日、また何か大きな出来事が起きても不思議ではない。加えて、7月14日はフランス革命記念日。バルデやゴデュら、同国期待の選手たちが果敢に動くことだろう。誰も想像つかないようなシナリオが、そこにあるかもしれない。

●ステージ優勝、マイヨジョーヌ ヨナス・ヴィンゲゴー コメント
「言葉にならないくらいうれしいよ。これこそが夢見ていたものなんだ。ツール・ド・フランスのステージ優勝とマイヨジョーヌを同時に手にできて最高の気分だ。

今日のレース展開は早くから計画していたものだった。とにかくレースを難しくしたかったし、成功すれば僕やプリモシュ(ログリッチ)が有利になるだろうと思っていた。うまくいくまではかなりの時間がかかったけど、これまでにない最高のレースができたよ。」

●マイヨ・ブラン タデイ・ポガチャル コメント
「何が起こったのか分からない。ガリビエまでは順調だったからね。ただ、ユンボ・ヴィスマの攻撃が強すぎて、最後の上りで脚が動かなくなってしまった。本当に苦しかった。今日は最高の日ではなかったけど、もう終わったこと。明日はきっと良い走りができるだろうね。パリまでレースを続けてすべてをささげたいし、悔いなくツールを終えたい。

ユンボ・ヴィスマの強さが際立ち、僕たちがレースをコントロールするのは不可能だった。チームの人数的(6人)にも厳しいことは否定できないよ。
でもまだ何も終わっていないよ。今日は3分近くタイム差をつけられたけど、明日僕がそれを実行する番だよね。やってみるよ。」

●個人総合3位に浮上 ロマン・バルデ コメント
「総合成績を狙ううえでは大事な1日だった。今日の立役者はクリス(ハミルトン)だよ。僕を前へ引き上げてくれたり、上りのペースをコントロールしてくれたりと、彼なしではここまでの成果は得られなかったよ。明日も大事なステージなので、集中力を切らさないようにしないとね。」

●山岳で好アシストぶりが光る ステフェン・クライスヴァイク コメント
「当初はプリモシュを中心にレースを難しくしようと考えていたんだ。僕たちはポガチャルにプレッシャーをかけていたと思うし、実際に作戦は成功した。彼がとても強いことは誰もが分かっていると思うけど、それでもひとりですべて対処しようというのは難しい。僕たちはヨナスを信頼していたし、今日最後の上りは彼向きだった。

先々のプランは明日のステージを走ってから考えるとするよ。いずれにせよ、ジャージを守る準備はできているよ。」

第11ステージ結果
ステージ結果

1 ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク/ユンボ・ヴィスマ)in 4h18'02"
2 ナイロ・キンタナ(コロンビア/アルケア・サムシック)+0'59"
3 ロマン・バルデ(フランス/チーム ディーエスエム)+1'10"
4 ゲラント・トーマス(イギリス/イネオス・グレナディアーズ)+1'38"
5 ダヴィド・ゴデュ(フランス/グルパマ・エフデジ)+2'04"
6 アダム・イェーツ(イギリス/イネオス・グレナディアーズ)+2'10"
7 タデイ・ポガチャル(スロベニア/UAEチームエミレーツ)+2'51"
8 アレクセイ・ルツェンコ(カザフスタン/アスタナ・カザクスタン チーム)+3'38"
9 ステフェン・クライスヴァイク(オランダ/ユンボ・ヴィスマ)+3'59"
10 ワレン・バルギル(フランス/チーム アルケア・サムシック)+4'16"

個人総合時間賞(マイヨ・ジョーヌ)
1 ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク/ユンボ・ヴィスマ)in 41h29'59"
2 ロマン・バルデ(フランス/チーム ディーエスエム)+2'16"
3 タデイ・ポガチャル(スロベニア/UAEチームエミレーツ)+2'22"
4 ゲラント・トーマス(イギリス/イネオス・グレナディアーズ)+2'26"
5 ナイロ・キンタナ(コロンビア/アルケア・サムシック)+2'37"
6 アダム・イェーツ(イギリス/イネオス・グレナディアーズ)+3'06"
7 ダヴィド・ゴデュ(フランス/グルパマ・エフデジ)+3'13"
8 アレクサンドル・ウラソフ(ロシア/ボーラ・ハンスグローエ)+7'23"
9 アレクセイ・ルツェンコ(カザフスタン/アスタナ・カザクスタン チーム)+8'07"
10 エンリク・マス(スペイン/モビスター チーム)+9'29"

ポイント賞(マイヨ・ヴェール)
ワウト・ファンアールト(ベルギー/ユンボ・ヴィスマ)

山岳賞(マイヨ・アポワ)
シモン・ゲシュケ(ドイツ/コフィディス)

ヤングライダー賞(マイヨ・ブラン)
タデイ・ポガチャル(スロベニア/UAEチームエミレーツ)

チーム総合時間賞
イネオス・グレナディアーズ in 124h37'03"

敢闘賞
ワレン・バルギル(フランス/チーム アルケア・サムシック)

文:福光 俊介

福光 俊介

ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う

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