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サイクル ロードレース コラム 2022年7月12日

笑うマイヨ・ジョーヌの思考回路「勝ちにトライする動きができなかったら失望する」|ツール・ド・フランス 2022

ツール・ド・フランス by 宮本 あさか
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他の選手が苦悶の表情を浮かべる中、うっすらと笑うポガチャル

他の選手が苦悶の表情を浮かべる中、うっすらと笑うポガチャル

笑うマイヨ・ジョーヌ

「本当は自分としては、明日マイヨ・ジョーヌを獲りたかったんだけど……なんとなく流れで勝ちに行っちゃった!」

第6ステージの勝利で早々と黄色に着替えたタデイ・ポガチャルは、記者会見でひどくいたずらっぽく語った。

「少なくともマイヨ・ブラン姿で区間を勝ってくれてよかった」と、すでに正式な受賞者が純白のジャージをまとってシャンゼリゼを走ることを諦めているらしい新人賞スポンサーの、複雑な胸の内を知ってか知らずか。まるで生まれて初めて勝利を手にした少年のように、フィニッシュラインでは大はしゃぎのウィニングポーズさえ披露した。

翌日のラ・シュペル・プランシュ・デ・ベル・フィーユでは、フィニッシュぎりぎりでヨナス・ヴィンゲゴーを抜き去ると、今度は黄色いジャージで人差し指を突き上げた。

「ずっと前からここでの勝利を狙っていた。それに今日はスペシャルな1日なんだ。がん研究のための基金を立ち上げ、特別限定シューズを履いて臨んだ。だからこうして勝利を手に入れられたことを誇りに思うし、なによりマイヨ・ジョーヌ姿で勝てたなんて完璧さ」

こう代表インタビューで1回、各国テレビ局・ラジオ局用のミックスゾーンで最低5回、さらには記者会見で1回、ポガチャルは同じセリフを真摯に繰り返した。また「ヨナスはすごく強かったから、僕は追いつくために全力を出さなきゃならなかった」と、おそらく1年前も渡り合ったライバルに敬意を表するコメントを付け足すことも忘れなかった。

生まれて初めてのグランツールだった2019年ブエルタ・ア・エスパーニャでは、いまだ会見慣れしていなかったせいか、ほとんど「はい」か「いいえ」でしか答えられなかったというのに。もしくは、ぽかん、としたまま黙り込んでしまったり。今でもたしかに決して饒舌なほうではない。それでも、わずか3年で、23歳の青年はチャンピオンとしての品格と責任感を身につけた。

ちなみにポガチャルがツールを制した過去2年間は、コロナバブルにすっぽり覆われていたせいで、代表インタビュー(区間勝者と全ジャージ着用者)と記者会見(区間勝者とマイヨ・ジョーヌのみ)のみ解放されていた。つまり強者たちにとって、フィニッシュ後に束縛される時間は倍以上も増えた。

笑顔のマイヨ・ジョーヌ

笑顔のマイヨ・ジョーヌ

「でもマイヨ・ジョーヌを獲る機会を、自ら拒否するなんてありえない」

昨大会は初日から最終日まで新人賞首位を貫いたポガチャルは、もしかしたら、初日から最終日までマイヨ・ジョーヌを着通すことだって可能だったのかもしれない。開幕個人タイムトライアルでは、区間3位に勢いよく飛び込んだ。第5ステージの石畳では、あらゆる不運を遠ざけるために守備的に走るのではなく、むしろメイン集団から果敢に飛び出して世界中を仰天させた。第8ステージではあわやステージ3連覇さえさらってしまうところだった。

「負けたけど楽しかった!子供の頃の僕は体が小さくて、スプリントはいつも最下位だった。それが今日は3位!もちろん悔しさもあるけど、トップスプリンターたち相手にこの成績なんだから、喜びも大きいよ」

第7ステージ終了後に、「君は誰とも勝利を分け合うつもりはないのか」と厳しく問われたこともある。1回目の休息日のオンライン会見では、第9ステージにチーム隊列を走らせたことについて、カニバル的とも指摘された。

「いつも勝ちたくない選手なんているのかな?でも、自分を『カニバル』だなんて思ってない」

カニバル(人食い)とはもちろん、エディ・メルクスのあだ名のこと。ただ「史上最強の自転車選手」に関しては、実は負けることをひどく恐れていて、だからこそ常に自ら仕掛け続けねばならなかったのだという分析もある。……「勝てなかったら失望する」のではなく、「勝ちにトライする動きができなかったら失望する」という言い回しをしばしば使う現ツール王者の思考回路は、きっと違うのだ。

ラ・シュペル・プランシュ・デ・ベル・フィーユの激坂の未舗装路では、どの選手の顔も、すさまじい努力と苦痛とで歪んでいた。ただ先頭を勢いよく突っ走るイエロージャージのポガチャルだけが、もうもうと立ち上る砂煙の中で、笑っているように見えた。

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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