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【ツール・ド・フランス2022 レースレポート:第8ステージ】マルチな脚と柔軟な思考 ワウト・ファンアールトが上りスプリントで完勝「グリーンジャージのためにこのステージは大事だった」
ツール・ド・フランス by 福光 俊介今大会2勝目のワウト・ファンアールト
マルチな脚は、考えをも柔軟にさせる。ポイント賞「マイヨ・ヴェール」を目標にすると公言してツール・ド・フランスに乗り込んでいるワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ)が、今大会2つ目のステージ優勝。鮮やかな緑を身にまとうため、あらかじめこのステージにマークを記していた。
「グリーンジャージを自分のものにする意味でも、ポイントが多めに稼げるこのステージは大事だった。今日の結果にはとても満足しているよ」(ワウト・ファンアールト)
“ミニ・パリ~ルーベ”の第5ステージ、“アルデンヌクラシック風”の第6ステージ、激坂グラベル「ラ・シュペール・プランシュ・デ・ベルフィーユ」を上った第7ステージと、ドラマが満載だった3日間を終えて、プロトンは今大会4カ国目となるスイスへと向かう。激動の日々から逃げるため...というわけではないけれど、スイス入国デーには、逃げの選手にもチャンスが生まれそうな丘陵ステージが用意されていた。
この日は驚きから始まった。3人の逃げが決まった直後、リアルスタートから9kmのところでメイン集団に大規模落車が発生。半数以上が足止めを食った中には、マイヨ・ジョーヌのタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)も含まれた。レースリーダーをエスコートし集団へと戻したアシスト陣は、後続選手の復帰を待つよう集団全体に呼びかけた。それを無視していたのか、話が聞こえなかっただけなのか、いつまでも牽引をやめなかったフィリッポ・ガンナ(イネオス・グレナディアーズ)が彼らに怒られてしまったのは、ちょっとしたご愛嬌。
落ち着きを取り戻した集団は、先行する3人との差を最大でも3分30秒にとどめ、じわりじわりと迫っていく。フィニッシュまで100kmを残したところでその差は1分台となり、集団はいつでも追いつける状態に。逃げていたうちの1人、フレデリック・フリソン(ロット・スーダル)はこの状況を嫌い、残り55kmで集団にみずから戻った。
着々とフィニッシュへの準備を進めるメインプロトンでは、ティボー・ピノ(グルパマ・エフデジ)にハプニング。残り48kmで落車し、すぐに立ち上がって走り出したと思ったら、今度は補給を掲げて選手を待っていたトレック・セガフレードのスタッフと衝突。顔に相手の腕が入ってしまったピノは、さすがにバイクを降りて悶絶。沿道のファンに抱えられて何とかバイクに乗り直したけど、彼の場合ツイていないときはとことんツイていない。
プロトンを牽引するUAEチームエミレーツ
そんなこともありつつ、集団は最終盤へ向けて着々と準備を進めた。やがて逃げはマティア・カッタネオ(クイックステップ・アルファヴィニル)を引き離した、フレッド・ライト(バーレーン・ヴィクトリアス)、ただひとりに。最後の上りへ入るところまで粘ったライトだけど、集団はステージ狙いやエースのポジション確保に急ぐチームによってペースが上がっていて、勢いは一目瞭然。残り3.5kmでレースがふりだしに戻ると、ボーラ・ハンスグローエやUAEチームエミレーツ、ユンボ・ヴィスマがプロトンの主導権争いを始めた。
スイスはローザンヌ、IOC(国際オリンピック委員会)の関連施設群に設けられたフィニッシュまでは、4.8kmの上り。残り2kmから最大勾配12%の区間に入るが、そこでイニシアティブをとったのはUAEチームエミレーツだった。前日に続き、ラファウ・マイカがポガチャルのために献身的な牽引。誰にも前を獲らせず、マイヨ・ジョーヌをベストなポジションへ引き上げた。
この段階で最前線に生き残ったのは約30人。2番手に位置したポガチャルの後ろには、個人総合2位につけるヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)がピッタリとつき、さらにはファンアールトやマイケル・マシューズ(チーム バイクエクスチェンジ・ジェイコ)といった上れるスプリンターの姿も。
そして迎えたスプリント。バンジャマン・トマ(コフィディス)が早めの仕掛けで導火線に火を点けると、マシューズやポガチャルが腰を上げる。彼らをマークしていたファンアールトは失速したトマに進路をふさがれ、加速が遅れてしまう。
しかし、数日前に“半分モーター、半分人間”と評された男は、局面を打開する臨機応変さも兼ね備えていた。慌てず騒がずタイミングを待つと、ラインが開いた一瞬を見逃さずペダルに力を込めた。緩やかな右コーナーの外側を進むほかなかったが、ここ数日のヒーローだったポガチャルを、そしてこのステージにチャンスを見出していたマシューズを、労せずかわしてみせた。
表彰台でサムズアップするワウト
「いや、本当は大変だったんだよ。だって、僕の前にはポガチャルとマシューズがいたんだから。彼らと勝負するのはいつだってタフなもの。だけど、フィニッシュ前は比較的フラットで、僕に合っていると感じていたんだ。思っていた通りだったよ。」(ファンアールト)
昨年は山岳逃げ・個人タイムトライアル・スプリントと、異なるスタイルで3つの勝利を挙げた。そこで今年である。第4ステージでは最後の11kmを独走し、このステージでは上りスプリント。早くも違う勝ち方をしているわけで...。今大会3勝目があるとしたらどんな勝ち方をするだろう。平坦スプリントでも、山岳逃げでも、個人タイムトライアルでも、もっといえば去年のようにパリ・シャンゼリゼでだって...。いやいや、3勝目にとどまらず、4勝目、5勝目だって十分に、十二分にあり得るではないか!
シクロクロス界が生んだ男のマルチ伝説は、きっとわれわれの想像に及ばないところにまで行くのだろう。少なくとも今大会は、前述した勝ち方もそうだし、彼が欲しくてたまらないマイヨ・ヴェール、加えてヴィンゲゴーとプリモシュ・ログリッチのアシスト...。何でもできる脚があれば、いつでも、どんなときでも、好都合に事を成せる。それは、圧倒的な強さでマイヨ・ジョーヌを着続けるポガチャルでさえも、「彼こそが最強の男なんだ」と指をくわえて眺めているしかないほどに、誰もがうらやむものなのだ。
さて、ファンアールトについて触れられるとつい嫉妬心が顔と言葉に表れてしまうポガチャル。こちらは問題なくイエロージャージをフィニッシュまで運んだ。何なら、ステージ3位でボーナスタイム4秒を獲得し、総合リードを広げることに成功している。
「あと少しでステージ優勝だったのに...。悔しいけど、3位も悪くないよ。ファンアールトやマシューズと勝負できると分かっただけでも満足さ。」(タデイ・ポガチャル)
前日までの2ステージで勝つことへのこだわりをはっきり示した彼だけど、まだステージ優勝への意欲が薄れていないとは...。むしろ貪欲になる一方。もう、ため息ものである。
改めて、マイヨ・ジョーヌとマイヨ・ヴェール、2人の強い意志に魅せられた1日だった。
大会第1週は残り1ステージ。UCI(国際自転車競技連合)の本部があるエーグルを出発したプロトンは、スイスアルプスへ。一度エーグルに戻って、1級山岳パ・ド・モルジャン(登坂距離15.4km、平均勾配6.1%)を上ると、頂上でフランスに再入国。最後は、5kmほど下ってからの4kmの緩やかな上り。その先にあるのは、待ちに待った休息日だ!
●ステージ優勝、マイヨ・ヴェール ワウト・ファンアールト コメント
「残り300mまでは順調だったのだけれど、そこから四方を囲まれてしまい、抜け出せないのではないかと絶望しかけたよ。幸い、目の前が開けたので前にいたみんなを追い抜くことができた。
グリーンジャージを獲得するためには、今日が大事なステージだと思っていた。ポガチャルがイエロージャージを着ながらステージ優勝を狙ってくるので、正直プレッシャーを感じている。ただ、僕はプレッシャーがかかればかかるほど良いパフォーマンスができるんだ。この先も自信をもって走るよ。」
●マイヨ・ジョーヌ、マイヨ・ブラン タデイ・ポガチャル コメント
「勝利には届かなかったけど、レースは楽しめた。スプリントでは少し躊躇してしまったかもしれない。僕を追い抜いたときのファンアールトのスピードには驚かされたよ。そう思うと、ステージ3位でも満足しないといけないね。
僕はいつだって全力を尽くすつもりだよ。幼い頃は体が一番小さかったから、負けてばかりだった。だから、4kmや5kmの上りからスプリントに切り替えられる脚を持てるようになったことがとてもうれしい。マシューズやファンアールトにはまだまだかなわないと思っているよ。
レース序盤のクラッシュはさほど影響しなかった。バイクから落ちてしまったのだけれど、これまでに経験した落車の中で最もソフトなものだったと思う。すぐに集団へと戻ることができたし、何の問題もなかったよ。」
●今大会2回目のステージ2位 マイケル・マシューズ コメント
「第6ステージでタデイ(ポガチャル)に先着されたときはスプリントタイミングを待ちすぎていたので、今日は早めに仕掛けてみた。勝てると思ったよ。チームも僕もベストを尽くしたのに2位…次のチャンスでは勝ちたいね。」
●レース後半にトラブルが連続 ティボー・ピノ コメント
「これがツール・ド・フランスというものだね。落車して集団に戻れるとホッとしたところでトレック・セガフレードのスタッフとぶつかってしまった。僕がもう少し早く彼を認識できていれば、あんなことにはならなかったんだけどね。
いま一番楽しみなのはアルプスのステージ。どんなレースができるのか、自分でもワクワクしているんだ。」
●ステージ4位 アンドレアス・クローン コメント
「ステージ優勝に近づいた実感がある。調子が良いと感じているし、次のステージへの自信にもなったよ。今日から僕のツール・ド・フランスが始まったようなものだ。」
●ステージ7位 バンジャマン・トマ コメント
「勝つための努力は惜しまなかった。自分自身に期待していたよ。残り600mでマイケル・マシューズの後ろに入って勝負どころをうかがっていた。ただ、実際にはフィニッシュ前のレイアウトを完全に把握していたわけではなかった。最後の100mがフラットだと聞いていたけど、実際は300mくらいあった。7位という結果は残念。集団内ではみんながワウト(ファンアールト)を見ていて、どうやって勝つかを探りながら走っている状態だったんだ。」
●山岳賞を守るも逃げに入ることはできず マグナス・コルト コメント
「マイヨ・アポワを着ていたら集団内で目立ってしまうね。逃げようと思ってもみんながついてきてしまうんだ。逃げに入るのが難しくなってきている。明日(第9ステージ)が水玉模様のジャージで走る最後の日になるだろうね。」
●敢闘賞 マッティア・カッタネオ コメント
「スタートした時点から、逃げたところで勝てないであろうことは分かっていたんだ。もしかしたらチャンスがあるかもしれないと思ってトライしたけど、みんなが予想した通りの結果になったのではないかな。僕としてはツール・ド・フランスのポディウムに登壇できたので幸せだよ。どんな理由であってもうれしいもんさ。この特別な瞬間をまた味わえるように努めていくよ。」
第8ステージ結果
1 ワウト・ファンアールト(ベルギー/ユンボ・ヴィスマ)in 4h13'06"
2 マイケル・マシューズ(オーストラリア/チーム バイクエクスチェンジ・ジェイコ)ST
3 タデイ・ポガチャル(スロベニア/UAEチームエミレーツ)
4 アンドレアス・クロン(デンマーク/ロット・スーダル)
5 アルベルト・ベッティオル(イタリア/EFエデュケーション・イージーポスト)
6 アレクサンドル・ウラソフ(ロシア/ボーラ・ハンスグローエ)
7 バンジャマン・トマ(フランス/コフィディス)
8 ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク/ユンボ・ヴィスマ)
9 ボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク/アージェードゥーゼール・シトロエン チーム)
10 トーマス・ピドコック(イギリス/イネオス・グレナディアーズ)
個人総合時間賞(マイヨ・ジョーヌ)
1 タデイ・ポガチャル(スロベニア/UAEチームエミレーツ) 28:56'13"
2 ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク/ユンボ・ヴィスマ)+0'39"
3 ゲラント・トーマス(イギリス/イネオス・グレナディアーズ)+1'14"
4 アダム・イェーツ(イギリス/イネオス・グレナディアーズ)+1'22"
5 ダヴィド・ゴデュ(フランス/グルパマ・エフデジ)+1'35"
6 ロマン・バルデ(フランス/チーム ディーエスエム)+1'36"
7 トーマス・ピドコック(イギリス/イネオス・グレナディアーズ)+1'39"
8 ニールソン・ポーレス(アメリカ/EFエデュケーション・イージーポスト)+1'41"
9 エンリク・マス(スペイン/モビスター チーム)+1'47"
10 ダニエル・マルティネス(コロンビア/イネオス・グレナディアーズ)+1'59"
ポイント賞(マイヨ・ヴェール)
ワウト・ファンアールト(ベルギー/ユンボ・ヴィスマ)
山岳賞(マイヨ・アポワ)
マグナス・コルト(デンマーク/EFエデュケーション・イージーポスト)
ヤングライダー賞(マイヨ・ブラン)
タデイ・ポガチャル(スロベニア/UAEチームエミレーツ)
チーム総合時間賞
イネオス・グレナディアーズ in 86h52'43"
敢闘賞
マティア・カッタネオ(イタリア/クイックステップ・アルファヴィニル)
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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