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サイクル ロードレース コラム 2022年7月8日

【ツール・ド・フランス2022 レースレポート:第6ステージ】驚異の上りスプリントで勝利のポガチャル「僕には明らかに勝負できる脚があった」 ライバルたちは若き怪物の弱点探しの日々に

ツール・ド・フランス by 福光 俊介
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マイヨ・ジョーヌに袖を通したポガチャル

マイヨ・ジョーヌに袖を通したポガチャル

もはや、彼に死角はないのだろうか。

ここ2年、ツール・ド・フランスで勝ち続けるタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)が、3連覇を目指す今大会で早くも“始動”した。いや、前日のパヴェステージでトップギアに入れていた感があるから、このステージはオーバー・トップギアに入ったといえようか。アルデンヌの丘陵地帯を走り、最後は短い急坂でのスプリントで“圧勝”してみせた。

「最後の2回の上りで誰もが脚にきていた。そんな中で、僕には明らかに勝負できる脚があった。この勝利は本当にうれしいよ」(タデイ・ポガチャル)

石畳を駆けた第5ステージを“北のクラシック風”というなら、この第6ステージは“アルデンヌクラシック風”。ベルギー南部・ワロン地域のバンシュをスタートし、フランスへと戻ってロンウィーにフィニッシュする219.9kmは、今大会の最長距離。スタート地バンシュは、これまで多数の国際レースを開催するロードレースと縁の深い街。アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオのスポンサー、ワンティ社のグループ拠点も置かれている。

そんな街を出発し、レース前半のうちにフランスへと戻ると、この日最初の3級山岳を越えつつ丘陵地帯を進行。終盤は4級と3級のカテゴリー山岳を立て続けに上ると、最後はフィニッシュ地ロンウィーへの1.6kmの登坂。中腹で11%に達する丘は、2017年大会の第3ステージでもフィニッシュに採用されている。そのときは、ペーター・サガン(当時ボーラ・ハンスグローエ)が勝利を収めている。

この日はまず、スーパースターの凱旋で始まった。ベルギーが生んだ“半分人間・半分モーター”のワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ)が、第2ステージ以降着続けるマイヨ・ジョーヌで自国民を魅了した。いつもはスタート前のプレゼンテーションに合わせてチームバスを出る彼だけど、このステージばかりは事情が違う。いつもより早めに姿を現すと、取材対応の時間を長めに割きつつ、イエローをまとう自らの姿をバンシュに集まったファンに披露した。

スタート地点でできうる限りのもてなしを目の肥えたファンにしていた彼だけど、“サービス”はそれだけにとどまらない。リアルスタートからアタックとキャッチが続く中、誰よりも目立つイエローが果敢に攻め続けた。その殊勝さが実って、75km地点でメイン集団からリードを奪うことに成功。国境越えが69km地点だったのでベルギー国内でトップを走るには間に合わなかったけれど、クイン・シモンズ(トレック・セガフレード)とヤコブ・フルサン(イスラエル・プレミアテック)を引き連れながら、プロトンのリーダーみずから最前線を走り続けた。

逃げるワウト・ファンアールト

逃げるワウト・ファンアールト

「マイヨ・ジョーヌを着る最後の日だと思っていたから逃げてみることにしたんだ。今日を心から楽しみたいと思っていたし、応援してくれるみんなに何かを残したいと思ってね」(ワウト・ファンアールト)

彼にとっては、マイヨ・ジョーヌとの別れの儀式でもあったのだ。「ワウトのことだから…」と、逃げ切りを期待した人もいただろうけど、さすがに今回はメイン集団の勢いが勝った。残り11kmまで逃げ続けて、このステージでのミッションは達成。ファンを喜ばせたうえに、きっちりと敢闘賞もゲット。これからは、当初の目標であるマイヨ・ヴェールの獲得と、総合を狙うヨナス・ヴィンゲゴー、プリモシュ・ログリッチのサポートに集中する。

終盤にかけて集団内では落車が出始め、ポジション争いが活性化していく中、主導権を奪い合ったのはチーム バイクエクスチェンジ・ジェイコ、ユンボ・ヴィスマ、イネオス・グレナディアーズといったチームだった。特にチーム バイクエクスチェンジ・ジェイコは、5年前のロンウィーで2位だったマイケル・マシューズを勝利に導きたかった。

残り6kmを切ってアタックしたアレクシー・ヴィエルモ(トタルエナジーズ)を最後の1kmまで泳がせて、いよいよ勝負のとき。上りの途中で現れる2つのヘアピンカーブでリズムを崩さないことがカギだ。

フィニッシュへ向けて真っ先に仕掛けたのは、前日に落車し左肩を脱臼したログリッチ。リベンジとばかりに残り400mで仕掛けるが、すぐさまチェックしたのは同胞のポガチャルだ。

そして、最後の250mで決定的な瞬間が訪れた。2番手につけていたポガチャルがひと踏みで勝負を決めてしまったのだ。猛然と加速するや、それまで一緒にいた選手たちをあっという間に置き去りに。“万夫不当(たくさんの者が向かっていっても勝負にならないほど強い人の意)”とはまさに彼のこと。自分の強さに酔いしれるかのように、フィニッシュライン数十メートル手前で勝利を確信して、ウイニングセレブレーションを決めた。フィニッシュタイム4時間27分13秒は、平均スピード49.376km。これは、ツール史上4番目の速さだった。

ガッツポーズでフィニッシュするポガチャル

ガッツポーズでフィニッシュするポガチャル

「とても調子が良かった。チームも僕をベストポジションへ引き上げてくれた。勝つたびに自分が強くなっていることを実感しているよ」(ポガチャル)

フィニッシュでのボーナスタイム10秒獲得で、マイヨ・ジョーヌも手に入れた。スタート時点で個人総合2位につけていたニールソン・ポーレス(EFエデュケーション・イージーポスト)は、イエロージャージ獲得に向けてアシスト陣をフル稼働させたけれど、若き怪物にあっさりと持っていかれてしまった。

「今日の目標はマイヨ・ジョーヌではなかった。もちろんうれしいことだけど、いまは何よりステージ優勝を喜びたい。ここからマイヨ・ジョーヌをキープしていくかって? それはステージごとに判断していくとするよ」(ポガチャル)

山岳での強さは誰もが知るところで、タイムトライアルで勝てることも昨年示し、パヴェ適性は前日に証明。それでもって短い急坂を一撃で仕留めてしまい...。どこをどうやったら、彼を負かせるというのだろう。その強さに触れれば触れるほどに、ウィークポイントが見えなくなってくる。

ここから、23歳のスロベニアンによる最強伝説に色が加えられていくのか。はたまた、誰かが彼のくすぐったい部分を見つけ出すのか。ひとつ確認しておくと、ツールは6ステージを終えたまでである。まだ15ステージあるのだ。何か、思いがけないことが起きても不思議ではないはずだ。ちなみに、個人総合トップ10には名うてのオールラウンダーがそろい始めている。

何かが起こるといえば、次のステージも見逃せない。ツールではすっかりおなじみになったプランシュ・デ・ベル・フィーユの激坂をまた上るのだ。登坂距離7km・平均勾配8.7%、最後の最後にグラベル区間があって、そこはマックス24%の壁。とにかく、このステージを見てみようではないか。終わった時にきっと、次なる楽しみが見つかっているはずだ。

●ステージ優勝、マイヨ・ジョーヌ、マイヨ・ブラン タデイ・ポガチャル コメント
「ツールで勝つことは毎回美しいものだね。今日はスタートから本当にタフだった。強い選手が多数動いては、集団が追いかけるという流れが続いたんだ。最後成功するかどうかは分からなかったけど、素晴らしいチームワークで僕を最高のポジションへエスコートしてくれたので、仲間の働きに応えたかった。いくつもの上りをこなした後にスプリントするのは大変だったけど、明らかに私は良い脚をもっていた。ステージ優勝できて、マイヨ・ジョーヌも手に入れたので最高にうれしいよ」

●5年前に続きロンウィーでステージ2位 マイケル・マシューズ コメント
「チームとしてよいポジションを押さえることができ、僕のためにみんなが働いてくれた。だから、それに報いる結果をどうしても残したかった。スプリントの感触は悪くなかったけど、ポガチャルが別次元だったよ。彼は第1ステージから強さを発揮していて純粋にすごい選手だと思う。才能のある選手がこの競技を明るくしてくれるし、ファンにとっても喜ばしいだろうね。この先のステージもみんなを驚かせるかもしれないね。」

●マイヨ・ヴェール ワウト・ファンアールト コメント
「心残りなくマイヨ・ジョーヌに別れを告げることができたよ。今日は逃げでレースを進めたいと考えていて、イエローで走る最後の1日を楽しむことを望んでいたんだ。実行できてよかったよ。

逃げている間、集団との差が思うように広げられたかったことは正直残念に思う。UAEチームエミレーツの統率が優れていたし、僕自身も逃げ切るには脚が足りなかった。こればかりはどうしようもないね。

明日は集団内でチームメートのために働きたいと思っているよ。プランシュ・デ・ベル・フィーユに向けて、チームの助けになることが一番だ」

●ステージ3位 ダヴィド・ゴデュ コメント
「ここまでは順調そのものだよ。開幕以降、チームが取り組むべき仕事はうまくいっている。みんな集中できているし、仮に予定通りにいかなくても別の作戦を考えて走れば良いだけのこと。

ステージ3位は悪くないし、ポガチャルだけが別格だったことを思うと、この結果は恥ずべきものではない。むしろ本番は明日だと考えているので、しっかり休んで頭と体をスッキリさせておきたい。成功できるか? まぁ、ポガチャルにチャレンジしてみるよ。明日、新しいツール・ド・フランスが始まるんだ!」

●ステージ4位 トーマス・ピドコック コメント
「逃げにトライしたけど、調子が上がらなかったので集団でレースを進めることにした。それから少しずつ状態が良くなってきて、最後のスプリントにもチャレンジできたよ。

ログリッチの早めの仕掛けには驚いた。僕のポジションも悪くはなかったと思うけど、ポガチャルへのマークが外れてしまったあたりが結果に表れたのではないかな。

ワウト? 彼はもう別世界の選手だね。何と表現したら良いか分からないよ。あんな選手はめったに見られないよね(笑)」

●あと一歩マイヨ・ジョーヌに届かず ニールソン・ポーレス コメント
「今日改めて、EFエデュケーション・イージーポストの選手であることに誇りを感じているよ。チームメートには今日、マイヨ・ジョーヌを着ると約束していたんだ。だから、みんなそのために働いてくれた。最後の最後までは完璧だったんだ。

目標には届かなかったけど、まだ個人総合2位だよ。僕の前を走っているのは、もはや違う世界の選手だよ(笑)」

●レース終盤にメイン集団から遅れる マチュー・ファンデルプール コメント
「うまくいくことを期待してスタートしたんだけどね。正直、今日は何回もリタイアしようかと考えた。少なくとも僕の日ではなかったよ。今日のところは走り切ることができた。だけど、明日も同じ状態なら走り切れないかもしれない。それくらい何かがおかしいし、原因がつかめていない。

確かに、ジロ・デ・イタリアとのグランツール連戦は簡単ではないと分かっていた。でも、こんなことになるなんて思っていなかったんだ。ジロではマリア・ローザのために力を使った部分は大きかったので、それが今に影響している面はあるのかもしれないね。ただ、現状を劇的に変えることはできないから、調子が上がることを信じて走り続けてみるよ。」

第6ステージ結果
1 タデイ・ポガチャル(スロベニア/UAEチームエミレーツ)in 4h27'13"
2 マイケル・マシューズ(オーストラリア/チーム バイクエクスチェンジ・ジェイコ)ST
3 ダヴィド・ゴデュ(フランス/グルパマ・エフデジ)
4 トーマス・ピドコック(イギリス/イネオス・グレナディアーズ)
5 ナイロ・キンタナ(フランス/チーム アルケア・サムシック)
6 ディラン・トゥーンス(ベルギー/バーレーン・ヴィクトリアス)
7 ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク/ユンボ・ヴィスマ)
8 ダニエル・マルティネス(コロンビア/イネオス・グレナディアーズ)
9 プリモシュ・ログリッチ(スロベニア/ユンボ・ヴィスマ)
10 ロマン・バルデ(フランス/チーム ディーエスエム)

個人総合時間賞(マイヨ・ジョーヌ)
1 タデイ・ポガチャル(スロベニア/UAEチームエミレーツ)in 20h44'44"
2 ニールソン・ポーレス(アメリカ/EFエデュケーション・イージーポスト)+0'04"
3 ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク/ユンボ・ヴィスマ)+0'31"
4 アダム・イェーツ(イギリス/イネオス・グレナディアーズ)+0'39"
5 トーマス・ピドコック(イギリス/イネオス・グレナディアーズ)+0'40"
6 ゲラント・トーマス(イギリス/イネオス・グレナディアーズ)+0'46"
7 アレクサンドル・ウラソフ(ロシア/ボーラ・ハンスグローエ)+0'52"
8 ダニエル・マルティネス(コロンビア/イネオス・グレナディアーズ)+1'00"
9 ロマン・バルデ(フランス/チーム ディーエスエム)+1'01"
10 ダヴィド・ゴデュ(フランス/グルパマ・エフデジ)+1'02"

ポイント賞(マイヨ・ヴェール)
ワウト・ファンアールト(ベルギー/ユンボ・ヴィスマ)

山岳賞(マイヨ・アポワ)
マグナス・コルト(デンマーク/EFエデュケーション・イージーポスト)

ヤングライダー賞(マイヨ・ブラン)
タデイ・ポガチャル(スロベニア/UAEチームエミレーツ)

チーム総合時間賞
イネオス・グレナディアーズ in 62h15'57"

敢闘賞
ワウト・ファンアールト(ベルギー/ユンボ・ヴィスマ)

文:福光 俊介

福光 俊介

ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う

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