人気ランキング

J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題

J SPORTS IDの登録(無料)はこちら

メルマガ

お好きなジャンルのコラムや
ニュース、番組情報をお届け!

メルマガ一覧へ

コラム&ブログ一覧

サイクル ロードレース コラム 2022年7月7日

【ツール・ド・フランス2022 レースレポート:第5ステージ】パヴェに笑ったものと泣いたもの この先の戦いを予感させたポガチャルのパヴェ適性と契約なしの危機を乗り越えたクラークの喜び

ツール・ド・フランス by 福光 俊介
  • Line
レース後に仲間と勝利を喜ぶサイモン・クラーク(右)

レース後に仲間と勝利を喜ぶサイモン・クラーク(右)

ツール・ド・フランスにパヴェ(石畳)ステージが採用されると、必ず何かが起こる。いや、主催者が大きな出来事をもたらそうとして設定しているわけだから当然といえば当然なのだが、そこで交わる悲喜はその後のレース展開にも大きな影響を及ぼす。

2014年の第5ステージでは、冷雨に身も心も傷ついたクリストファー・フルーム(当時チーム スカイ)が石畳を前にレースを去り、誰も想像していなかったパヴェ適性を披露したヴィンチェンツォ・ニバリ(当時アスタナ プロチーム)がステージ3位でその後のマイヨ・ジョーヌ獲得につなげた。

2018年の第9ステージでは、ジョン・デゲンコルプ(当時トレック・セガフレード)が3人の争いを制し、一方でリッチー・ポート(当時BMCレーシングチーム)がレースを去った。この年頂点に立ったゲラント・トーマス(当時チーム スカイ)は、パヴェスペシャリストである元来の脚を生かして難なくステージをクリア。その後、アルプスでマイヨ・ジョーヌをたぐり寄せた。

ツールのパヴェステージで起きた出来事を挙げればいくらでも出てくるけれど、ひとつ間違いないのは、思いがけないことでマイヨ・ジョーヌのチャンスを完全に逸する危険性が潜んでいること。やっぱり今年も石畳に笑った選手と、泣かされた選手に分かれた。

リール・メトロポルからアランベール・ポルト・デュ・ハイナまでの153.7kmの行程中、パヴェは全11セクション・総距離19.4km。レース半ばから後半にかけて集中しており、主催者にして「大会第1週で最もアクロバティックなチャレンジ」。現地フランスでは“ミニ・パリ~ルーベ”と称し、ステージの盛り上がりを煽った。

実際のところ、「“一発勝負”のパリ~ルーベとは違った展開になるのでは?」というのが現地での見方だった。元祖パリ~ルーベはスペシャリストの競演だけれど、この“ミニ・パリ~ルーベ”は先々のマイヨ・ジョーヌ争いを見据える総合系ライダーをいかにトラブルなく走らせるかがポイントだったからだ。もちろん、自由を与えられるスペシャリストもいるだろうけれど、総合エースを放っておくわけにはいかないチームが大多数のはずである。

このステージに向けては、多くのチームがタイヤサイズ30Cをチョイス。激しい振動に備えて、バーテープも厚めに巻き付けた選手が多かった。どのチームも、念入りな準備を経てレースを迎えた...はずだった。

どんなに準備をしていても、トラブルというものはパヴェにつきものである。もっとも、マイヨ・ジョーヌを着るワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ)は、パヴェセクションを前に落車に見舞われた。「道幅が狭く集団前方で走るにはリスクが大きかったので、タイミングが来るまでは集団後方で走ろうと思っていた」というのにである。無事に集団復帰は果たしたものの、その間には他チームの車両に軽く接触してしまうなど、どこかソワソワしている様子は否めなかった。

視界が遮られるのどの砂埃があがる石畳ステージ

視界が遮られるのどの砂埃があがる石畳ステージ

パヴェセクションが始まると、慌ただしさはいっそう増した。ペーター・サガン(トタルエナジーズ)は石畳の入口で落車し、個人総合上位入りを期待されるベン・オコーナー(アージェードゥーゼール・シトロエン チーム)はメカトラブルに見舞われたまま、後方に取り残された。

このステージで力を発揮するとみられていたユンボ・ヴィスマも受難の一日になった。ファンアールトの落車に続き、ヨナス・ヴィンゲゴーがメカトラブル。アシストから受け取ったバイクはサイズが大きく、別のアシストが対応したと思ったら、直後にチームカーが追いつき三度のバイク交換。まごついている間に集団との差は広がるばかりである。

さらには、プリモシュ・ログリッチまでもが落車に見舞われた。カメラモトがラウンドアバウト脇のクッション材を引っかけ、コース内に飛ばされたことで避けきれず地面に叩きつけられてしまったのだ。これで左肩を脱臼したログリッチは、みずから肩を戻してからコース復帰。さすがにこれには時間を要し、ヴィンゲゴーらにも追い抜かれてしまった。

彼らを“悲”とするなら、この日“喜”の代表格となったのは、タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)だ。パヴェを走る姿は、もはやスペシャリストのそれであり、集団前方へ姿を現しては攻撃的な姿勢を貫いた。今回のセクション中、最も難易度が高い4つ星のセクション3・ティヨワ=レ=マルシエンヌ~サール=エ=ロジエールでヤスパー・ストゥイヴェン(トレック・セガフレード)が集団から抜け出しを図るや、待っていたとばかりに同乗。総合系のライバルからアドバンテージを得るべく、ステージ狙いのベルギー人ライダーと協調した。

「ツールで勝つことを考えたら、最低限このステージで生き残る必要があった。結果としてそれ以上の走りができたね。良いステージだったよ」(タデイ・ポガチャル)

メイン集団に対して13秒先着し、総合系ライダーではポールポジションを固いものに。あとは、マイヨ・ジョーヌをいつ獲りに行くかになってきた。

それでも、ライバルたちもどうにか遅れを最小限に食い止めた。大きなピンチに陥ったヴィンゲゴーは、タイミングを同じくしてポジションを下げていたファンアールトが合流したことで、集団復帰へ息を吹き返した。加えて、トーマスも同じグループに位置していたことから、イネオス・グレナディアーズも加勢。フィニッシュまで10kmを切ったところでメイン集団へ戻った。双頭体制を組んでいたログリッチは大きく遅れてしまったが、ユンボ・ヴィスマにとってはこの先の選択肢が残されたあたりは不幸中の幸いである。

泥だらけになりながらレースを走り終えたマイヨ・ジョーヌ

泥だらけになりながらレースを走り終えたマイヨ・ジョーヌ

「今日のところはヨナス(ヴィンゲゴー)の総合成績にダメージがなかったことを喜ぶしかないね。チームみんなで彼を集団に戻そうと力を尽くしたことは、僕にとって誇らしい」(ワウト・ファンアールト)

大多数の走行系ライダーがメイン集団でステージをクリアしたが、ログリッチやオコーナー、アレクセイ・ルツェンコ(アスタナ・カザクスタン チーム)は前線復帰がかなわず。ログリッチらと同時にクラッシュしていたジャック・ヘイグ(バーレーン・ヴィクトリアス)は、負傷度合いが大きくリタイアを余儀なくされた。

つい後回しにしてしまったけれど、この日は逃げた選手たちがそのままステージ優勝争いを演じたのだった。そのうちのひとり、タコ・ファンデルホールン(アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)がスタート前に語った「逃げた方が楽に走ることができる。仮に追いつかれても集団の人数は少ないだろうし、何より集団内でのポジション争いを避けられるメリットがあるから」との読みが的中した。

序盤に形成された6人の逃げは、消耗戦になるメイン集団を尻目に着実に残り距離を減らした。最終盤は4人の争いになって、ニールソン・ポーレス(EFエデュケーション・イージーポスト)が残り1kmでアタック。これに釣り出される形でエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(トタルエナジーズ)が追いかけたものの、残り400mでポーレスを捕まえると同時に失速。ファンデルホールンとのマッチスプリントを制した、サイモン・クラーク(イスラエル・プレミアテック)がツール初勝利を挙げた。

ブエルタ・ア・エスパーニャで山岳賞を獲得し、ジロ・デ・イタリアでもマリア・ローザを着たことのあるクラークだけど、昨年所属したチーム クベカ・ネクストハッシュの事実上の解散が影響し、なかなか今季の所属チームが決まらなかった。イスラエル・プレミアテックから連絡があったのは、年が明けてからのことだった。

「私にもう一度チャンスを与えてくれたこのチームに結果で恩返ししないといけないと思っていたんだ。これ以上ない、最高の結果になったね。今年に入ってからすべてのレースで結果を求めてきたけど、今日がその日だと直感したんだ。」(サイモン・クラーク)

ここにも、“喜”が存在した。逃げていた選手たちにも、メイン集団で激動する展開をこなしていた選手たちにも、パヴェステージならではのドラマがあった。

今大会のハイライトとなりうるステージが終わった。ここからの見どころは何だろう...。いや、次のステージもなかなかのものである。今年最長となる219.9kmのレースは、会期中3カ国目となるベルギーを出発。途中でフランスへと戻って、3級と4級合わせて3つのカテゴリー山岳を通過。フィニッシュ地ロンウィーへの1.6kmの上りは、中腹で最大勾配11%。直前の3級山岳と合わせて、最後の6kmに1日のすべてが集約されそうである。

●ステージ優勝 サイモン・クラーク コメント
「フィニッシュの瞬間は勝ったとは思わなかった。タコ(ファンデルホールン)との差がかなりあるような感じがしていたし、その時にはフィニッシュラインが迫っていた。最後は力の限りハンドルを投げたよ。勝ったかどうかは写真判定が確定するまで信じられなかった。

この喜びは言葉に表せない。パヴェステージで勝てるなんて思いもよらなかった。石畳のコースは4年に一度のペースでツールに採用されているけど、その勝者になれるなんてね。本当に大満足だよ。この大会には逃げでチャンスを得るつもりで参加しているし、チームが僕にトライするよう指示してくれた今大会最初のステージだったんだ」

●マイヨ・ジョーヌ、マイヨ・ヴェール ワウト・ファンアールト コメント
「スリリングなレースだったね。これもツールの一部だと割り切るしかないよ。

クラッシュした直後、僕は怖くなった。チームはいくつもの不運が重なってしまい、今日は難しい1日だった。昨日は最前線で戦えたのに、今日はその真逆。だけど、それを打ち破ろうと戦ったチームを誇らしく思うよ。

マイヨ・ジョーヌについては正直期待していなかった。走っている間はまったく考えていなかったし、それよりもヨナス(ヴィンゲゴー)を前へ戻すのに力を使った。クリストフ(ラポルト)も良い走りをしてくれて、素晴らしい追走だったと思う。望んでいた結果ではないけど、切り替えるよりほかないね。」

●マイヨ・ブラン タデイ・ポガチャル コメント
「チームメートのサポートに感謝している。ストゥイヴェンのアタックに反応したときは、まったく迷いがなかった。メイン集団に対して先着できたことに満足しているよ。

ログリッチのクラッシュには気づいていなかった。集団のいたるところでクラッシュが発生していたので、それをかわすことで精いっぱいだったんだ。」

●落車負傷もレース続行に意欲 プリモシュ・ログリッチ コメント
「レースを続けられたことが何よりの喜びだ。落車直後は肩を戻すために時間が必要だった。耐えがたい痛みだったが、あのような状況下でどうするべきかは理解しているつもり。この結果に対して、自分もチームも責めるべきではないと思っている。まずは回復に充てて、引き続き目標に向かって走っていくよ」

●本領発揮とはいかずトップから3分48秒差でフィニッシュ マチュー・ファンデルプール コメント
「ベストコンディションとは言い難い。正直イライラしている。調子が上がらない原因が分からないので、これから探っていこうと思う。

今日は集団前方で走れるだけの脚がなかった。ここから状態が良くなることを自分でも祈っているよ。ジロとツール、2つのグランツールを走ることは想定通りだけど、イメージしていたレベルには達していないというのが実際のところだ。」

●終盤にメイン集団に復帰、個人総合10位に浮上 ゲラント・トーマス コメント
「うまく立ち回っていたつもりだったけど、大事なところで落車に巻き込まれてしまった。トム(ピドコック)がずっと付き添ってくれたのだけれど、落車をしてから自分がどのポジションを走っているのか分からなくなってしまった。状況が把握できたのは、ヴィンゲゴーがチームメートに牽いてもらいながら集団復帰を目指しているのを見た時だった。一緒に前を目指さないといけないと思って、彼らのグループに合流したんだ。」

●メイン集団でレースを終える ロマン・バルデ コメント
「今日のレースは楽しめたよ。常に集団前方で構えて、チームメートとうまく走ることができた。落車に巻き込まれてしまって前を追わないといけなくなったけど、ユンボ・ヴィスマの牽引が強く、終盤にメイン集団に復帰できた。ポジティブにこのステージを終えられたよ。

ポガチャルは別格だと思うけど、その他の総合系ライダーは横一線だ。今日も多くのオールラウンダーがメインプロトンで走り終えた。これは今後の山岳ステージがエキサイティングになりそうだね。山が待ちきれないよ!」

第5ステージ結果
1 サイモン・クラーク(オーストラリア/イスラエル・プレミアテック)in 3:13'35"
2 タコ・ファンデルホールン(オランダ/アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)ST
3 エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー/トタルエナジーズ)+0'02"
4 ニールソン・ポーレス(アメリカ/EFエデュケーション・イージーポスト)+0'04"
5 マグナス・コルト(デンマーク/EFエデュケーション・イージーポスト)+0'30"
6 ヤスパー・ストゥイヴェン(ベルギー/トレック・セガフレード)+0'51"
7 タデイ・ポガチャル(スロベニア/UAEチームエミレーツ)ST
8 ヤスパー・フィリプセン(ベルギー/アルペシン・ドゥクーニンク)+1'04"
9 ファビオ・ヤコブセン(オランダ/クイックステップ・アルファヴィニル)ST
10 ルーカ・モッツァート(イタリア/B&Bホテルズ・カテエム)

個人総合時間賞(マイヨジョーヌ)
1 ワウト・ファンアールト(ベルギー/ユンボ・ヴィスマ)in 16:17'22"
2 ニールソン・ポーレス(アメリカ/EFエデュケーション・イージーポスト)+0'13"
3 エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー/トタルエナジーズ)+0'14"
4 タデイ・ポガチャル(スロベニア/UAEチームエミレーツ)+0'19"
5 イヴ・ランパールト(ベルギー/クイックステップ・アルファヴィニル)+0'25"
6 マッズ・ピーダスン(デンマーク/トレック・セガフレード)+0'36"
7 ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク/ユンボ・ヴィスマ)+0'40"
8 アダム・イェーツ(イギリス/イネオス・グレナディアーズ)+0'48"
9 トーマス・ピドコック(イギリス/イネオス・グレナディアーズ)+0'49"
10 ゲラント・トーマス(イギリス/イネオス・グレナディアーズ)+0'50"

ポイント賞(マイヨ・ヴェール)
ワウト・ファンアールト(ベルギー/ユンボ・ヴィスマ)

山岳賞(マイヨ・アポワ)
マグナス・コルト(デンマーク/EFエデュケーション・イージーポスト)

ヤングライダー賞(マイヨ・ブラン)
タデイ・ポガチャル(スロベニア/UAEチームエミレーツ、スロベニア)

チーム総合時間賞
イネオス・グレナディアーズin 48:54'18"

敢闘賞
マグナス・コルト(デンマーク/EFエデュケーション・イージーポスト)

文:福光 俊介

福光 俊介

ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う

  • Line

あわせて読みたい

J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題

J SPORTS IDの登録(無料)はこちら

ジャンル一覧

J SPORTSで
サイクル ロードレースを応援しよう!

サイクル ロードレースの放送・配信ページへ