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【ツール・ド・フランス2022 レースレポート:第4ステージ】4カ月前と同じ奇襲から放たれたマイヨ・ジョーヌのワウト・ファンアールトがステージ勝利!同僚ログリッチも驚愕「彼は半分人間で、半分モーターなんだと思う」
ツール・ド・フランス by 福光 俊介マイヨ・ジョーヌでステージを制したワウト・ファンアールト
ツール・ド・フランスを華やかにしたデンマークでの開幕3日間を終え、同国を後にしようとしていた選手・チームスタッフ・関係者に届いた悲しみの報。首都コペンハーゲンのショッピングモールで起きた銃撃事件は、イエローに染まっていたわれわれの心に暗い影を落とした。第4ステージのスタート前には、犠牲者を悼んで1分間の拍手。プロトンの先頭に立ったのはもちろん、9人のデンマーク人選手たちだった。
ダンケルクからカレーまでの第4ステージ。ともに北海沿岸の港湾都市で、直線距離にすると50kmほど。ただ、それではレースをするに短いので、内陸部を時計回りに走ってカレーのフィニッシュラインへと向かう。
ダンケルクといえば、第二次世界大戦における戦闘「ダンケルクの戦い」で有名だ。このとき追い詰められた英仏軍が40万人の将兵をイギリスへと脱出させた「ダイナモ作戦」は、いまなおフランス・イギリス両国の人々にとって抵抗と解放への大きな希望であったと語り継がれている。
また、この街は1955年から続く伝統のレース「ダンケルク4日間」でも知られる。実際のところは6日間で争われているステージレースなのだけれど、それはさておいて今年の大会ではフィリップ・ジルベール(ロット・スーダル)が個人総合優勝。そのジルベールは、この日が40歳の誕生日。ダンケルクの街とは最高の相性だ。
さて、第4ステージも“ファンキーガイ”マグナス・コルト(EFエデュケーション・イージーポスト)が魅せた。アントニー・ペレス(コフィディス)のファーストアタックに乗じて逃げを決めると、6カ所あった4級山岳のうちの5つをトップ通過。はじめのうちは競っていたペレスだったけど、途中で観念したのか、無理にポイントを奪いにいくことはやめた。その代わりに、中間スプリントポイントの1位通過は譲ってもらった。
かたや、メイン集団はペースコントロールを急がず、フィニッシュまで90kmを残した時点で最大7分15秒差まで容認。それから少しずつタイム差を縮めていくが、先頭を走っていたコルトが意識的に集団へ戻る選択をしたこともあり、残り45kmで先頭はペレスひとりに。集団にとっては、労せずキャッチできるムードとなった。
マイヨ・ブランのタデイ・ポガチャル
やがてメイン集団では、各チームが隊列を編成してポジショニングを本格化。おのずとペレスとの差が縮まっていく中、この日最後の4級山岳コート・ドゥ・キャップ・ブランネへ向けて、イネオス・グレナディアーズが主導権を確保した。
決定的な局面は、そのコート・ドゥ・キャップ・ブランネでやってきた。ユンボ・ヴィスマがイニシアティブを奪うやいなや、ネイサン・ファンホーイドンクとティシュ・ベノートが猛然とスピードアップ。あっという間に集団がいくつにも分断された。2人のペースは収まることはなく、気が付くと最前線にはマイヨ・ジョーヌを着るワウト・ファンアールトとヨナス・ヴィンゲゴーのユンボ・ヴィスマ勢、そこへ一矢報いようと粘るアダム・イェーツ(イネオス・グレナディアーズ)だけしか残っていなかった。
ユンボ・ヴィスマの奇襲。さかのぼること4カ月前、パリ~ニースの第1ステージでも同じようなことがあった。あのときはクリストフ・ラポルト、プリモシュ・ログリッチ、そしてファンアールトが3人で逃げ切った。今回の大きな違いは、上り切る前に後ろの状況を把握したファンアールトが単独でアタックしたこと。後ろにヴィンゲゴーが控えていたけど、ここはマイヨ・ジョーヌを着る自分のために迷わず加速した。
最終盤の下りと平坦区間で後ろは大集団に戻ったが、勢いはファンアールトが上回った。あらゆるチームがアシストを前へ送り出してスピードアップを図った集団に対して、個人タイムトライアル状態になったファンアールト。いまのロードレースシーンなら後者が強い。
そうして、大観衆の待つカレーのフィニッシュへひとりで現れたファンアールト。勝利を確信すると、まるで鳥が羽ばたくように、ここまでの3ステージですべて2位だった“呪縛”を振り払うように、そしてこれまでのプレッシャーから解放されたように、腕を広げてのウイニングセレブレーション。マイヨ・ジョーヌみずから攻撃に出て、勝利をもぎ取ってみせた。
「もう、スプリントではリスクを冒したくなくてね(笑)。チームとして仕掛けないといけないステージだと考えていたんだ。上りの入口で理想的なポジションに引き上げてもらって、あとはどこで動くか探るだけだった。上っている間はとても苦しかったけど、チームカーからの無線で集団が崩れていると聞かされたから、勝負しようと決めた。ヨナス(ヴィンゲゴー)とアダム(イェーツ)と3人で逃げるべきか少し悩んだのだけれど、残り10kmだったので思い切っていくことにしたんだ」(ワウト・ファンアールト)
表彰台に上ったワウト・ファンアールト
これぞ、21世紀の「ダイナモ作戦」ではないか! ダンケルクとカレーで場所も違うし、戦時中の話に例えるのもどうかとは思うけれど...。でも、一番苦しい局面でアシスト陣がペースを上げて、無尽蔵のスタミナとパワーを有するエースを加速させる...そんな姿はどこかダイナモに通ずるものがあると言えるのではないだろうか。これをお膳立てしたラポルトもしたり顔である。
「これは僕たちの得意分野と言えるね。2~3分全力で踏み続けることに長けているメンバーがそろっているんだ。パリ~ニースで同様のチャレンジをしたけど、今日の方が強いメンバーで実行できたと思っているよ」(クリストフ・ラポルト)
一方、ファンアールトの“ダイナモ”に屈したメイン集団。マイヨ・ジョーヌの歓喜から8秒後にヤスパー・フィリプセン(アルペシン・ドゥクーニンク)が集団の先頭を獲り、ガッツポーズをしてみせたけど、結果は2位である。
「勝ったと思ったのだけど、5秒後に違うことに気が付いたんだ。前方でワウトが喜んでいるのが見えて...がっかりだよ」(ヤスパー・フィリプセン)
実のところ、現地ではスタート前からスプリンターにも太刀打ちできるコースかどうかで意見が二分し、北海から吹く風次第では集団分断があるのでは...とも言われていたステージだった。終わってみれば“マイヨ・ジョーヌ劇場”。少なくとももう1日、そのストーリーは続くかもしれない。
そう、大注目のパヴェステージがやってくるのだ。第5ステージは、153.7kmの行程中19.4kmが石畳の路面。11あるパヴェセクションは、レース半ばから終盤にかけて集中する。天気は晴れ予報だけれど、であれば砂塵が舞う激しい1日になることだろう。
パリ~ルーベを彷彿とさせるコースは、シクロクロスで世界を席巻したファンアールトには絶好の舞台。もう一度、“ダイナモ”ぶりを発揮するか。そこに待ったをかけようと、マチュー・ファンデルプール(アルペシン・ドゥクーニンク)も腰を上げることだろう。春のクラシックで予行演習を行った王者タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)だって...。先々のマイヨ・ジョーヌ争いを見据える総合系ライダーにとっては、大きな取りこぼしが許されないステージでもある。
●ステージ優勝、マイヨ・ジョーヌ、マイヨ・ヴェール ワウト・ファンアールト コメント
「今日はチームとして何かを試みるべきだと思っていた。ネイサン(ファンホーイドンク)とステフェン(クライスヴァイク)が良い位置へ引き上げてくれて、さらにネイサンはペースアップもしてくれた。チームカーからの無線で集団が崩れていると聞いたので、全力でアタックしてみようと思ったんだ。ヨナス(ヴィンゲゴー)とアダム(イェーツ)を待つべきか悩んだけど、フィニッシュまで10kmしかなかったので自分ひとりで行くことにした。
マイヨ・ジョーヌは着る人に翼を与えてくれるね。確かに最後の上りはタフだったけど、何もしなかったらスプリント勝負になっていたと思うので、苦しい思いをしてでも独走を試みて良かったと思っているよ。すべてはチームメートのおかげだし、このステージは僕にかかっていたんだ。
明日のステージ? 僕自身はもちろん、チームにも自信がある。クラシックの経験が豊富なメンバーがそろっているし、ただの1日で終わらせるつもりはないよ。今日と同じように、本当のチャンスが待っていると確信しているんだ」
●ステージ2位 ヤスパー・フィリプセン コメント
「調子が良かっただけに、この結果はとても残念。最後の上りで集団後方に位置してしまい、下りでポジションを戻すので精いっぱいだった。それもあってワウトが先行していることを把握できていなかったし、無線の調子が悪く、勘だけで走っているような状態だったんだ。勝ったと思ったけど、そのあとにミスに気付いたよ。確かにおもしろい写真にはなるのだろうけど...こんな結果は望んでいなかったし、ちょっと恥ずかしいよ」
●マイヨ・ブラン タデイ・ポガチャル コメント
「ユンボ・ヴィスマが攻撃したとき何をしていたかって? 集団の中でポジション争いをしていたよ。自分がそうなることは想定していたのだけど、それ以上にファンアールトの強さは桁違いだった。今日一番強かったし、ステージ優勝にふさわしいよ。あのような攻撃ができるのがユンボ・ヴィスマというチームだし、本当に強い選手たちがそろっている。正直言うと、僕はあのとき前を追おうとしていたのだけど、ヴィンゲゴーが前から下がってきたのを見て無理はしなかったんだ」
●ファンアールトの勝利を祝福 プリモシュ・ログリッチ コメント
「ワウトはクレイジーだよ! 半分人間で、半分モーターなんだと思うよ(笑)。これ以上の結果は期待していなかったし、最高の走りだったね。彼とチームメートであることを本当に誇りに思うよ。最後の上りは彼の近くにいたのだけれど、誰よりも強くてついていくことができなかったんだ」
●メイン集団内でフィニッシュ ダヴィド・ゴデュ コメント
「不安もあったけど、どうにか落ち着いてステージを走り終えたよ。スプリンターチームがコントロールしていたけど、そのまま最後まで行くとは思っていなかった。ワウトがアタックしたとき、僕は前から50番目くらいの位置にいて、ケヴィン(ゲニエッツ)が近くにいてくれた。彼が上りで導いてくれたおかげでメインプロトンで走り切ることができたんだ。
明日のパヴェにはみんな緊張していると思う。スペシャリストでさえ、パリ~ルーベとの違いを感じていると思う。怖いけど行くしかないよね。ユンボ・ヴィスマとイネオス・グレナディアーズがコントロールすると予想しているけど、僕たちにもシュテファン(キュング)というスペシャリストがいる。彼はツール・デ・フランドルやパリ~ルーベで3位に入っているんだ。大事なのは良いポジションでパヴェへ向かっていくこと。その点では自信があるし、不安はないよ。やってみるだけさ。」
第4ステージ結果
1 ワウト・ファンアールト(ベルギー/ユンボ・ヴィスマ)in 4h01'36"
2 ヤスパー・フィリプセン(ベルギー/アルペシン・ドゥクーニンク)+0'08"
3 クリストフ・ラポルト(フランス/ユンボ・ヴィスマ)ST
4 アレクサンダー・クリストフ(ノルウェー/アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)
5 ペーター・サガン(スロバキア/トタルエナジーズ)
6 ルーカ・モッツァート(イタリア/B&Bホテルズ・カテエム)
7 ダニー・ファンポッペル(オランダ/ボーラ・ハンスグローエ)
8 ユーゴ・オフステテール(フランス/チーム アルケア・サムシック)
9 マイケル・マシューズ(オーストラリア/チーム バイクエクスチェンジ・ジェイコ)
10 バンジャマン・トマ(フランス/コフィディス)
個人総合時間賞(マイヨ・ジョーヌ)
1 ワウト・ファンアールト(ベルギー/ユンボ・ヴィスマ)in 13h02'43"
2 イヴ・ランパールト(ベルギー/クイックステップ・アルファヴィニル)+0'25"
3 タデイ・ポガチャル(スロベニア/UAEチームエミレーツ)+0'32"
4 マッズ・ピーダスン(デンマーク/トレック・セガフレード)+0'36"
5 マチュー・ファンデルプール(オランダ/アルペシン・ドゥクーニンク)+0'38"
6 ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク/ユンボ・ヴィスマ)+0'40"
7 プリモシュ・ログリッチ(スロベニア/ユンボ・ヴィスマ)+0'41"
8 アダム・イェーツ(イギリス/イネオス・グレナディアーズ)+0'48"
9 シュテファン・キュング(スイス/グルパマ・エフデジ)ST
10 トーマス・ピドコック(イギリス/イネオス・グレナディアーズ)+0'49"
ポイント賞(マイヨ・ヴェール)
ワウト・ファンアールト(ベルギー/ユンボ・ヴィスマ)
山岳賞(マイヨ・ア・ポワ)
マグナス・コルト(デンマーク/EFエデュケーション・イージーポスト)
ヤングライダー賞(マイヨ・ブラン)
タデイ・ポガチャル(スロベニア/UAEチームエミレーツ)
チーム総合時間賞
ユンボ・ヴィスマ in 39h09'52"
敢闘賞
アントニー・ペレス(フランス/コフィディス)
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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