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サイクル ロードレース コラム 2022年7月4日

【ツール・ド・フランス2022 レースレポート:第3ステージ】23カ月の呪縛を解く会心のスプリント!フルーネウェーヘンとヤコブセン、運命は交錯しながらも2人は前へ進んでいく

ツール・ド・フランス by 福光 俊介
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ディラン・フルーネウェーヘン

表彰台で手を振るディラン・フルーネウェーヘン

やっぱり、ツール・ド・フランスは美しい。だって、開幕から3日間で2つの“復活劇”を見られたのだから。確かに、結果論だといわれても反論はできない。だけど、“あの一瞬”に翻弄された2人が復活劇を演じるのは、ツール・ド・フランスがふさわしい。世界最大の自転車ロードレースであり、世界一美しいレースなのだから。

おおむね平坦なルートで、セオリー通りのスプリント勝負になった第3ステージ。クイックステップ・アルファヴィニルやユンボ・ヴィスマが早くから体勢を整えていた中、静かにチャンスをうかがっていたディラン・フルーネウェーヘン(チーム バイクエクスチェンジ・ジェイコ)がここ一番で最高の加速。マイヨ・ジョーヌを着るワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ)やヤスパー・フィリプセン(アルペシン・ドゥクーニンク)らとの競り合いを制して、2019年大会以来5つ目となるツールのステージ優勝をつかんだ。

「みんなが僕に“レースに戻るべきだ”と言ってくれた。家族も、友人も、チームメートも。2年前のツール・ド・ポローニュのことはいまも悪しき行動だと思っているし、悩まされている。だけど、励ましてくれたみんなのためにも走らないといけなかった。この勝利は妻と息子に捧げるよ。レース後に誰かに声をかけられたかって? ワウト・ファンアールトが“僕の勝ちってことで良いよね?”なんて冗談を言ってきたよ」(ディラン・フルーネウェーヘン)

開幕地デンマークでの3日目。この国では最後となるステージは、同国で唯一ヨーロッパ大陸とつながっているユトレヒト半島が舞台。バイレからセナボーまでの182kmに設定された。スタート地バイレは、デンマークにおけるサイクリングのメッカになっていて、最大勾配19%の上り・キッデスバイは同国のサイクリストなら一度はチャレンジするべき区間だと言われているのだとか。毎年夏に開催されるツアー・オブ・デンマークではクイーンステージの勝負どころにもなっている。その坂はツールでの採用はなかったが、“キング・オブ・サイクリング”と呼ばれる街を出発することそのものが大きな意義があるのだ。

マグナス・コルト

マグナス・コルト

レース前半を盛り上げたのは、今大会の“ファンキーガイ”マグナス・コルト(EFエデュケーション・イージーポスト)。前日に続いてファーストアタックを決めると、今度はひとり逃げで沿道のファンの目を独占。なにせ自国のスター選手が独走しているのだから、沿道からの声援は並のものにとどまるなんてありえない! コルトも笑顔で応えてみせたり、山岳ポイントではスプリントをしたりと充実のパフォーマンス。この日最後となる3つ目の4級山岳通過時には、山岳賞のマイヨ・アポワ堅守を決めて全身で喜びを表現してみせた。

盛り上げ役をコルトに任せたメイン集団は、90.5km地点に設けられた中間スプリントポイントでようやくエンジン始動。コルトの通過から1分45秒後、ファンアールトが先着した。クリストフ・ラポルトの発射から全体の2位通過を決めて、17点を獲得。ポイント賞のマイヨ・ヴェール争いを順調に進めている。

これをきっかけにメイン集団はレース終盤を見据えた動きへと移っていく。数チームがアシストを出しあってペーシングを図って、着実に残り距離を減らす。フィニッシュまで52kmを残したところでコルトが集団に戻ってきたので、そこからは一団で進行。安全にデンマークでの日々を終わらせるべく、プロトンの勇者たちは結託した。

それでも、少しばかりのトラブルは発生した。残り10kmになろうかというタイミングで集団を二分するクラッシュが発生。それからもコーナーやラウンドアバウト通過のたびにバランスを崩す選手が現れては、隊列が乱れた。

危険を回避した選手で迎えた最終局面。主導権を確保したクイックステップ・アルファヴィニルの後ろに、ファンアールトを引き連れたユンボ・ヴィスマ勢が続く。最終コーナーを抜けると残りは800m。ミケル・モルコフ(クイックステップ・アルファヴィニル)の長い牽引ののち、勝負のときを迎えた。

ユンボ・ヴィスマ勢は狙い通りのはずだった。ところが、発射台のラポルトが任務を終えたモルコフと進路が重なってしまい、ファンアールトを孤立させてしまった。予定より早くスプリントを始めざるを得なくなったマイヨ・ジョーヌは、自身から右のフェンス側を閉めてペーター・サガン(トタルエナジーズ)やカレブ・ユアン(ロット・スーダル)の浮上を阻止したが、その逆から伸びてきたフルーネウェーヘンの勢いを食い止めることはできなかった。

2016年にワールドチーム所属1年目ながらオランダ王者になるなど、早くから台頭していたフルーネウェーヘンだが、このところは勝っても小さなレースばかりだった。UCIワールドツアーに限定すると、2020年のUAEツアー以来。ツールでは2018年と2019年に2勝ずつ挙げていたが、実に久々に、それも本来の彼の姿であるピュアなスプリントで勝ってみせた。

レース後に涙したフルーネウェーヘン

レース後に涙したフルーネウェーヘン

「残り9kmで落車しかけたのだけれど、みんなが僕を引き戻してくれた。特にアームングルンダール・ヤンセンはユンボ・ヴィスマ時代からのチームメートで、今日も僕のために全力を尽くしてくれた。1日通して風が強く、脚にもきていたのだけれど、スプリント勝負に挑むには十分な状態が整っていた」(フルーネウェーヘン)

フィニッシュ直後にはバイクから崩れ落ちるようにした泣いたフルーネウェーヘン。そこにはたくさんの思いが詰まっていた。なかなか大きなレースで勝てなかったこともそうだが、何より23カ月前の出来事が大きかったはずだ。ツール・ド・ポローニュで引き起こしたファビオ・ヤコブセン(クイックステップ・アルファヴィニル)との接触は、ヤコブセンに命の危機をもたらすほどのものだった。確かに危険走行で、犯罪者だと彼を強く非難する者まで現れた。

“被害者”のヤコブセンは、いまだにフルーネウェーヘンを許していない。このステージで5位に終わった後、自らの気持ちを素直に表現した。

「フルーネウェーヘンは尊敬すべきスプリンターだ。でもそれは過去の話。彼が犯した間違いによって、僕は彼に対する尊敬の念を失った。それが正常な人の心というものだと思う。祝福? 彼が勝ったところで僕は何も変わらないよ」(ファビオ・ヤコブセン)

命にかかわる事態だったのだ。2人の間に、さらには関係者の間に、遺恨が残り続けることは、もうどうしようもない。フルーネウェーヘンが事故後に9カ月の出場停止になったことを、処分が短いといまなお主張する人もいる。

でも…、である。

与えられた処分を受け入れ、プロトンに戻ってきているという事実がある以上、選手たちも、関係者も、さらには観ているわれわれも、ディラン・フルーネウェーヘンという存在を認めなければいけない。そして、ツール第3ステージで勝ったという事実も。いまはただ、その勝利を祝福するときなのだ。

「ツールの勝利はいつだって特別さ。今回に限った話ではないよ。今日も、2018年も、2019年もすべて同じ」(フルーネウェーヘン)

2人のオランダ人ライダーの走りと心理が気になって仕方ないステージとなったが、かたや現在のレースリーダーであるファンアールトはその座をキープ。3日連続のステージ2位。いろいろなレースで2位になっている気がするけれど、とにもかくにもマイヨ・ジョーヌは守っている。

「勝てなかったのは、クリストフ(ラポルト)のサポートを生かしきれなかった自分のミス。でも、今後のステージは難易度が増して、自分に向いていると思うから楽しみだよ」(ワウト・ファンアールト)

なお、終盤に発生したクラッシュの影響で、リゴベルト・ウラン(EFエデュケーション・イージーポスト)、ダミアーノ・カルーゾ(バーレーン・ヴィクトリアス)、ジャック・ヘイグ(バーレーン・ヴィクトリアス)、ギヨーム・マルタン(コフィディス)、ティボー・ピノ(グルパマ・エフデジ)といった総合系ライダーが、フルーネウェーヘンから39秒遅れでフィニッシュ。ここから巻き返しを図っていくことになった。

かくして、開幕地デンマークでの3日間が終わりと迎えた。雨のコペンハーゲンに始まり、2人のオランダ人スプリンターが完全復活を証明。こんなに早く、胸が熱くなるシナリオがあってよいのだろうか。

1日おいて、舞台はいよいよフランスへ。その前に、“ツールご一行”は1000km近い大移動。いつもと違って妙にタフな大会序盤だけれど、みんな元気に第4ステージのスタート地ダンケルクで再会しようと約束をした。

●ステージ優勝 ディラン・フルーネウェーヘン コメント
「僕が良い心身状態でツールに臨めるよう、チームや家族、友人たちが気を遣ってくれたことに心から感謝したい。本当に美しい勝利になったよ。この数カ月間、心身ともに苦しかった。でも、こうして結果を残すことができた。家族の中でも、妻と息子にこの勝利をささげたいと思う。

昨日のスプリントは満足できるものではなかった。今日も残り9kmでクラッシュによる足止めとなったが、チームメートが僕を前線へ引き戻してくれたんだ。そのおかげで、落ち着いてスプリントへと向かっていけたよ。」

●ステージ2位、マイヨ・ジョーヌ、マイヨ・ヴェール ワウト・ファンアールト コメント
「マイヨ・ジョーヌで走るにふさわしい1日だったよ。デンマークの人々は僕たちを歓迎してくれて、本当にうれしかった。そして、このイエロージャージをフランスへと持っていけることが誇らしいよ。

今日のスプリントは完全に僕のミス。スピードに乗せることができていたのに、大事なところでクリストフ(ラポルト)のサポートを生かすことができなかった。スプリントを始めるのが早すぎたし、その失敗が結果にも表れてしまった。これからのステージで勝てるようトライしていきたい。

これからステージの難易度が上がるけれど、僕にとっては良いことだね。特にパヴェステージ(第5ステージ)が楽しみだ。まだまだ、ツール・ド・フランスは始まったばかりだよ。」

●マイヨ・アポワ マグナス・コルト コメント
「ひとり逃げは予想外だったけど、結果的には良かった。実は逃げ切りも意識したんだけど、さすがにメインプロトンに抵抗することはできなかったよ。でも、素晴らしい瞬間を味わうことができた。昨日マイヨ・アポワに袖を通してから何かを期待できるのではないかと思っていたのだけれど、本当にその通りになったよ。パーフェクトな1日になって、これがきっかけで人生を変えられるのではないかとさえ思っているほどだ。

ツール・ド・フランスはロードレースファンじゃなくても名前を憶えられるほどのビッグイベント。そこで生涯忘れられない時間を過ごしているんだ。誰がそんな思いができると思う?」

●デンマークステージで勝利ならず マッズ・ピーダスン コメント
「言い訳はできないよ。ただただ、勝負に絡むことができなかった。ベストは尽くしたよ。だけど、うまくいくこともあれば、そうじゃないこともある。

デンマークでの3ステージは最高だった。言葉にならないよ。特別な時間だったし、どこを見ても人々が盛り上がっていた。僕たちを最大限サポートしてくれたんだ。プロトン内でも話題になっていたんだ。“ツールがデンマークに来たことは大正解だったよね”って。」

第3ステージ結果
1 ディラン・フルーネウェーヘン(オランダ/チーム バイクエクスチェンジ・ジェイコ)in 4h11'33"
2 ワウト・ファンアールト(ベルギー/ユンボ・ヴィスマ)ST
3 ヤスパー・フィリプセン(ベルギー/アルペシン・ドゥクーニンク)
4 ペーター・サガン(スロバキア/トタルエナジーズ)
5 ファビオ・ヤコブセン(オランダ/クイックステップ・アルファヴィニル)
6 クリストフ・ラポルト(フランス/ユンボ・ヴィスマ)
7 アルベルト・ダイネーゼ(イタリア/チーム ディーエスエム)
8 ユーゴ・オフステテール(フランス/チーム アルケア・サムシック)
9 カレブ・ユアン(オーストラリア/ロット・スーダル)
10 ダニー・ファンポッペル(オランダ/ボーラ・ハンスグローエ)

個人総合時間賞(マイヨ・ジョーヌ)
1 ワウト・ファンアールト(ベルギー/ユンボ・ヴィスマ)in 9h01'17"
2 イヴ・ランパールト(ベルギー/クイックステップ・アルファヴィニル)+0'07"
3 タデイ・ポガチャル(スロベニア/UAEチームエミレーツ)+0'14"
4 マッズ・ピーダスン(デンマーク/トレック・セガフレード)+0'18"
5 マチュー・ファンデルプール(オランダ/アルペシン・ドゥクーニンク)+0'20"
6 ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク/ユンボ・ヴィスマ)+0'22"
7 プリモシュ・ログリッチ(スロベニア/ユンボ・ヴィスマ)+0'23"
8 アダム・イェーツ(イギリス/イネオス・グレナディアーズ)+0'30"
9 シュテファン・キュング(スイス/グルパマ・エフデジ)ST
10 トーマス・ピドコック(イギリス/イネオス・グレナディアーズ)+0'31"

ポイント賞(マイヨ・ヴェール)
ワウト・ファンアールト(ベルギー/ユンボ・ヴィスマ)

山岳賞(マイヨ・ア・ポワ)
マグナス・コルト(デンマーク/EFエデュケーション・イージーポスト)

ヤングライダー賞(マイヨ・ブラン)
タデイ・ポガチャル(スロベニア/UAEチームエミレーツ)

チーム総合時間賞
ユンボ・ヴィスマ in 27h04'48"

敢闘賞
マグナス・コルト(デンマーク/EFエデュケーション・イージーポスト)

文:福光 俊介

福光 俊介

ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う

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