人気ランキング

J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題

J SPORTS IDの登録(無料)はこちら

メルマガ

お好きなジャンルのコラムや
ニュース、番組情報をお届け!

メルマガ一覧へ

コラム&ブログ一覧

サイクル ロードレース コラム 2022年7月3日

【ツール・ド・フランス2022 レースレポート:第2ステージ】23カ月前の悪夢を乗り越えツール勝利にこぎつけたヤコブセン マイヨ・ジョーヌを失ってまでもチームが欲していたものとは

ツール・ド・フランス by 福光 俊介
  • Line
ヤコブセンがステージ勝利

ヤコブセンがステージ勝利

23カ月前、世界中を震撼させたフィニッシュラインでのクラッシュ。それは、ロードレース界だけでなく社会事象としても取り上げられ、コース外へと飛ばされたライダーの姿は多くの人の目に触れることとなった。

あれから、その選手は何度と手術を受け、長いリハビリをこなし、整復が必要とされた顔や歯も限りなく元の姿に戻った。一時は危険視された命を取り留めたことが何よりの救いで、プロライダーとしての生活よりも“ひとりの男性”として歩みを取り戻すべきであると、人々は彼を後押しした。

だけど、本人は誰よりも強い意志で、トップシーンへ戻ることを信じ続けた。あのクラッシュシーンを見た多くの人が彼の復活をイメージできずにいたというのに、彼だけは常に明るく努めて、戦線に戻ることへのポジティブな姿勢を失わなかった。

ファビオ・ヤコブセン。すべてを乗り越えた男の真の強さは、2022年のツール・ド・フランスが始まって2日目で証明された。

「信じられない瞬間を迎えたよ。確かに、トップレベルに戻るために長いプロセスを経たし、僕だけではなく多くの人々が犠牲を払ってくれた。その時間が無駄ではなかったことが、いまはっきりしたのではないかな。だけど...この瞬間をイメージしたのは大けがをした時からではないんだ。自転車に乗り始めた10歳のときからだから、15年間だね。ツール・ド・フランスで勝つことを、僕は15年間夢見ていて、それがいま実現したんだよ!」(ファビオ・ヤコブセン)

ツール・ド・フランス第2ステージは、ヴァイキングによる歴史が宿り、今ではデンマークきってのロックンロールの街と言われるロスキレをスタート。同地や首都コペンハーゲンがあるシェラン島を後にして、西のフュン島へ海峡を渡るコース設定。前日のコペンハーゲンでの個人タイムトライアルと同様に、とにかくデンマークの魅力を凝縮したルーティングだ。同国最大のビッグブリッジ「グレートベルト・リンク」を渡るし、プロトンが到達するフュン島は童話作家ハンス・クリスチャン・アンデルセンの故郷。彼が少年期を過ごし心をはぐくんだ自然が、この日は優しくプロトンを迎える。

4人逃げで始まったレースは、自国開催に燃えるマグナス・コルト(EFエデュケーション・イージーポスト)が果敢にアタック。今大会最初のカテゴリー山岳として立て続けに登場した3つの4級山岳をすべて1位通過。目の肥えたデンマークのファンを喜ばせる。

途中には、デンマーク勢きってのヒーローであるマッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード)の出身地・ホルベックを通過。このステージの優勝候補にも挙げられる元世界王者は、沿道の歓声を受けてモチベーションを高めた。

山岳賞を狙って動いていたB&Bホテルズ・カテエムの2人、シリル・バルトとピエール・ロランは作戦失敗に終わって早々とメイン集団に帰っていった一方で、コルトとスヴェンエリック・ビーストルム(アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)の北欧コンビは逃げ続けることを選択。中間スプリントポイントでは、コルトがビーストルムに先を譲って円満にレースを先行。メイン集団も高得点をかけてスプリンターが動き出したこともあり、先頭2人の数十秒後には到達。ここはカレブ・ユアン(ロット・スーダル)が先着して全体の3位通過。前日2位で、この日は繰り上げでポイント賞のマイヨ・ヴェールを着るワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ)が4位で通過した。

これを機に、メイン集団は追撃ムードが高まっていく。先頭の2人との差は縮まるばかり。これにしびれを切らしたビーストルムがフィニッシュまで61kmを残したタイミングでアタックすると、コルトは応じることなく集団へ戻ることを選択。この動きが決め手となったか、ビーストルムはこの日の敢闘賞に選出されている。

しばしビーストルムに先を行かせた集団だったが、残り45kmを切ったあたりから各チームが隊列を組んでポジショニングを本格化。活性化する中でピーダスンがパンク、アレクサンドル・ウラソフ(ボーラ・ハンスグローエ)がメカトラブルで足止めを余儀なくされるが、冷静に対処し集団に復帰。この頃にはところどころで落車が発生したが、レース展開に影響を与えるほどのものではなかった。

着実に残り距離を減らしながら、集団はビーストラムを吸収。いよいよこのステージ最大の目玉、グレートベルト・リンクへやってこようかというところで、集団の慌ただしさが増す。落車が頻発し、リゴベルト・ウラン(EFエデュケーション・イージーポスト)が橋の手前で、前日の勝利で晴れてマイヨ・ジョーヌで出走したイヴ・ランパールト(クイックステップ・アルファヴィニル)は橋に入ったばかりのところで数選手と絡んで、地面に叩きつけられてしまった。

グレートベルト・リンクを走行する選手たち

巨大な橋グレートベルト・リンクを走行する選手たち

戦前の予想では、グレートベルト・リンクで何か大きな出来事が起きるのではないか...と言われていた。海からの横風が名物で、フィニッシュ地ニュボーに住む人にして「何が起きるか見てみようではないか!」というもの。何事もなく終わるわけはない、誰もがそう刷り込まれていたはずだった。

ところが。結論から言うと、何も起きなかった。一番の要因は、海からの横風ではなく、フェン島側からの西風だったから。つまりは、選手たちにとって真向いからの風だったのだ。その風に、集団を分断させるほどの威力はなく、クラッシュで行く先を阻まれたランパールトやウランを待つ空気感もどことなく漂った。実際に、リスペクトされるべき選手たちは無事に集団へと復帰を果たした。

当初の見方を覆す、大集団でのフェン島上陸。橋を渡り切れば、フィニッシュまで残り3km。まさか、まさかで島に入ってすぐに大規模なクラッシュが発生してしまい、思いがけない形での“集団分断”となったが、フィニッシュ前3km以内で適用される救済措置により、後方に取り残された選手の大多数はタイムを失わずに終えられることになった。

そうして迎えたステージ優勝争いは、前線に残った選手たちによるスプリント。クイックステップ・アルファヴィニルが主導権を握り続けて、残り1kmからはマイヨ・ジョーヌのランパールト自らリードアウト。一瞬トレック・セガフレードに先を行かれたが、最後は「真打ち」ヤコブセンが持ち前のスピードとパワーで切り抜けてみせた。フィニッシュ前のレイアウトが、“あのとき”と同じ下り基調で、思わずゾッとさせられたが、今回は大丈夫だった。

「グレートベルト・リンクに達する前からチームは集団前方を固めてくれていた。最終局面もミケル・モルコフがファンアールトの後ろまで引き上げてくれて、良い形でスプリントができた。ペーター・サガンと少し接触してしまったのだけれど、体勢を崩さずに加速できたのがとても良かった」(ヤコブセン)

ヤコブセンと同じタイミングで加速したファンアールトは2日連続の2位。ただ、フィニッシュでのボーナスタイム6秒を獲得し、ランパールトとの総合タイム差5秒をひっくり返した。スプリント、山岳、タイムトライアル…何でもござれのスーパースターは、意外にもこれがキャリア初めてとなるツールのマイヨ・ジョーヌである。

マイヨ・ジョーヌに袖を通したワウト

マイヨ・ジョーヌに袖を通したワウト

「いつこの日が来るかと待ちわびていて、やっと実現したよ。とてもいい気分だ。ステージ2位で悔しさが先行していたけど、冷静になって考えたら“マイヨ・ジョーヌだ!”って思ってね。」(ワウト・ファンアールト)

裏を返せば、2日連続の勝利を収めたクイックステップ・アルファヴィニルは、ランパールトのマイヨ・ジョーヌよりも、ヤコブセンでのステージ優勝にフォーカスしていたことがうかがえる。ツールの最高栄誉を失ってまでも、ほしかったもの。もちろん、ヤコブセンがチームのエーススプリンターだから、ということはあるけれど、それ以上に必要としていたものがきっと存在する。

それは、「過去の悪夢を乗り越え、前に進み続けた先にあるものが何だったのか」を証明することだったのではないだろうか。

1つ勝ち、プレッシャーからは解き放たれた。その気になれば、きっと何勝でもできる。それくらい、鮮やかな勝ちっぷりだった。ヤコブセンの快進撃がまさに始まろうとしている。

同時に、ファンアールトのマイヨ・ジョーヌロードもここから幕開け。何でもござれと前述したけど、どこまでイエローをキープするだろうか。ユンボ・ヴィスマには、プリモシュ・ログリッチとヨナス・ヴィンゲゴーという2人のスーパーな選手が控える。マイヨ・ジョーヌをバトンタッチするべきタイミングを図りながら、これからのステージを進めていく。

続く第3ステージで、デンマークでの日々は終わり。本来の舞台であるフランスへの入国を前に、平和裏に1日を終えたいところだろう。コースは平坦。きっと、きっと安全に、それでいてフィニッシュ前は熱く。そんなレースが見られるはずだ。

メダルにキスして勝利を喜ぶヤコブセン

メダルにキスして勝利を喜ぶヤコブセン

●ステージ優勝 ファビオ・ヤコブセン コメント
「命を脅かすクラッシュから2年。長いプロセスだったけれど、多くの人の支えがあってこの日を迎えることができた。勝利をもって彼らに報いることができたのが本当にうれしいよ。

グレートベルト・リンクを渡り終える頃にはベストポジションにいて、ミケル・モルコフがワウト・ファンアールトの後ろまで引き上げてくれた。スプリント時にペーター・サガンと少し接触してしまったのだけれど、体勢を崩すことなく加速できたのが良かった。正直脚が痛かったんだけど、トレーニングの成果が出たんじゃないかな。デンマークの人々の温かい歓迎と応援には心から感謝しているよ」

●ステージ2位、マイヨ・ジョーヌ、マイヨ・ヴェール ワウト・ファンアールト コメント
「マイヨ・ジョーヌを着ることができてとてもうれしいよ。サイクリングの世界で最も象徴的なものであり、ずっと目指してきたものだったけど、今日それが実現した。最高の気分だよ!

フィニッシュ直後はヤコブセンに負けた悔しさの方が強かったけど、冷静に考えて“ステージ2位ということはマイヨ・ジョーヌなのでは?”と気が付いたんだ。このジャージをできるだけ長く守るつもりだし、ユンボ・ヴィスマがとても強いチームであることを証明できたとも思っている。チームメートのおかげでクラッシュを避けることができたんだ。

クレイジーなステージだったかって? 昨年は違った意味でクレイジーだったけど、今日はみんなが互いをリスペクトしながら走っていると感じられたよ。ツールでは珍しい光景だけど、残り5kmは向かい風が強くて時速30km程度でしか走れなかったんだ。」

●ステージ3位 マッズ・ピーダスン コメント
「スプリントはフィニッシュ前200mからだった。今日はファビオが一番強かった。心から祝福したい。

もちろん勝ちたかったよ。でも僕はピュアスプリンターではない。だから3位に満足しないといけないね。フィニッシュ前は混沌としていたから、そんな中でこの結果を出せたことは勝利に匹敵すると思っている。またいずれチャンスがやってくるんじゃないかな。

夢はデンマークで勝つこと。沿道の盛り上がりは想像以上だし、その中で走ることは特別だよ。」

●マイヨ・ブラン タデイ・ポガチャル コメント
「調子よく終えることができたよ。クラッシュが多かったけど、みんな何事もないといいな。チームメートも何人か落車してしまって、クレイジーというほどではなかったけど緊張感のあるステージだった。

沿道の盛り上がりは昨日に匹敵するものがあった。ハードなステージにあって、気分良く走ることができたのは応援のおかげだね。」

●マイヨ・アポワ マグナス・コルト コメント
「ツールのポディウムは経験済みだけど、それがデンマークでとなれば格別。スタート前から目指すものは明確で、B&Bホテルズ・カテエムの2人がライバルになったけど、うまくポイントを稼ぐことができた。私にとっては特別な1日になって、明日はこの水玉のジャージで素晴らしいステージにしたいと思っている。サイクリングは私たちデンマーク人にとって文化の一部であり、それが沿道の熱気にも表れているんだ。」

●マイヨ・ジョーヌを失うもアシストとして貢献 イヴ・ランパールト コメント
「チームが勝てたことが一番だ。確かに、マイヨ・ジョーヌを失うことは残念だけれど…でも重要なのはチーム。今日は勝つためにできる限りのことをしたし、落車もあって大変だったけれどしっかり走り切ることができた。最後にファビオが決めてくれてとてもうれしいよ。」

第2ステージ結果
1 ファビオ・ヤコブセン(オランダ/クイックステップ・アルファヴィニル)in 4h34'34"
2 ワウト・ファンアールト(ベルギー/ユンボ・ヴィスマ)ST
3 マッズ・ピーダスン(デンマーク/トレック・セガフレード)
4 ダニー・ファンポッペル(オランダ/ボーラ・ハンスグローエ)
5 ヤスパー・フィリプセン(ベルギー/アルペシン・ドゥクーニンク)
6 ペーター・サガン(スロバキア/トタルエナジーズ)
7 ジェレミー・ルクロック(フランス/B&Bホテルズ・カテエム)
8 ディラン・フルーネウェーヘン(オランダ/チーム バイクエクスチェンジ・ジェイコ)
9 ルーカ・モッツァート(イタリア/B&Bホテルズ・カテエム)
10 ユーゴ・オフステテール(フランス/チーム アルケア・サムシック)

個人総合時間賞(マイヨ・ジョーヌ)
1 ワウト・ファンアールト(ベルギー/ユンボ・ヴィスマ)in 4h49'50"
2 イヴ・ランパールト(ベルギー/クイックステップ・アルファヴィニル)+0'01"
3 タデイ・ポガチャル(スロベニア/UAEチームエミレーツ)+0'08"
4 フィリッポ・ガンナ(イタリア/イネオス・グレナディアーズ)+0'11"
5 マッズ・ピーダスン(デンマーク/トレック・セガフレード)+0'12"
6 マチュー・ファンデルプール(オランダ/アルペシン・フェニックス)+0'14"
7 ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク/ユンボ・ヴィスマ)+0'16"
8 プリモシュ・ログリッチ(スロベニア/ユンボ・ヴィスマ)+0'17"
9 バウケ・モレマ(オランダ/トレック・セガフレード)+0'18"
10 ディラン・トゥーンス(ベルギー/バーレーン・ヴィクトリアス)+0'21"

ポイント賞(マイヨ・ヴェール)
ワウト・ファンアールト(ベルギー/ユンボ・ヴィスマ)

山岳賞(マイヨ・アポワ)
マグナス・コルト(デンマーク/EFエデュケーション・イージーポスト)

ヤングライダー賞(マイヨ・ブラン)
タデイ・ポガチャル(スロベニア/UAEチームエミレーツ)

チーム総合時間賞
ユンボ・ヴィスマ in 14h30'09"

敢闘賞
スヴェンエリック・ビーストルム(ノルウェー/アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)

文:福光 俊介

福光 俊介

ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う

  • Line

あわせて読みたい

J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題

J SPORTS IDの登録(無料)はこちら

ジャンル一覧

J SPORTSで
サイクル ロードレースを応援しよう!

サイクル ロードレースの放送・配信ページへ