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サイクル ロードレース コラム 2022年7月2日

【ツール・ド・フランス2022 レースレポート:第1ステージ】4カ国にまたがる3週間の旅の始まり。デンマーク本来の姿である“雨”を味方につけたランパールトの頬をつたった涙

ツール・ド・フランス by 福光 俊介
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涙を流して勝利を喜ぶイヴ・ランパールト

涙を流して勝利を喜ぶイヴ・ランパールト

待ちに待ったツール・ド・フランスが始まった! 毎年、3週間だけやってくるロードレース界最大のお祭りにして最高峰のドラマ。きっと今年も、われわれは驚きと感動に満たされることだろう。とにもかくにも楽しい毎日。日本で観戦するみなさん、寝落ちは厳禁ですからね!

さて、2022年大会の開幕地はデンマーク・コペンハーゲン。長く「世界一の自転車都市」と評され、市民の半数近くが通勤・通学に自転車を活用しているという。市内の道路にはもれなく自転車専用レーンが設置され、日本の道路事情では考えられないようなスピードで飛ばしていくサイクリストの姿も見られる。それでいて、自転車が関係する事故は世界で最も少ないとのデータもあるというから、国を挙げての自転車施策が大きな成功をもたらしていると言っても良いのだろう。

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によって、2年待たされたコペンハーゲンでのツール開幕。そんな街で見られるトップライダーの競演は、人々に大きな刺激を与える、デンマークの夢を賭けた壮大なプロジェクトでもあるのだ。

開幕一発目のステージは、13.2kmの個人タイムトライアル。街の中心部を発着点とするコースは途中、サイクリストでにぎわうクイーンルーズ橋を走り、リトルマーメイド像やチボリ公園といった名所を巡るルート。コーナーが多くテクニカルではあるが、おおむね平坦のTT巧者向けのレイアウト。

ただ、この日は時間とともに強まる雨が“追加要素”となった。もっとも、デンマークでは年間の半分が降雨だというから、まさにこの国本来の姿と言えよう。

前日の予報ではレース途中の時間帯で雨が降り出すとされたことから、総合系ライダーやTT巧者の多くが前半スタートを選択。大会3連覇がかかるタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)も、このステージの優勝候補筆頭と目されたフィリッポ・ガンナ(イネオス・グレナディアーズ)も、打倒ガンナに燃えるワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ)もみんな、前半出走。2年前の悔しさを忘れていないプリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)に至っては絶対に雨を避けたいと、チーム一番手でのスタートを選択したほどだ。

しかし、ふたを開けてみるとスタートラインについた全選手がほぼ同条件。レース開始約1時間半前に降り出した雨は、何なら各チーム一番手の選手が走り出す頃にピークだったのではないかと思える格好に。この時間帯に走ったマチュー・ファンデルプール(アルペシン・ドゥクーニンク)が一時的にトップに立ち、ログリッチも数秒差で何とかまとめたものの、結果的にステージ優勝には届かず。2日前のチームプレゼンテーションでは自国民の大歓声に涙したヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)もトップには立てなかった。

偶然か必然か、全体の64~66番出走にガンナ、ファンアールト、ポガチャルが“集結”。ウェットな路面にコーナーでタイヤを滑らせ落車する選手も出ている中、彼らは苦心しながらも好タイムをマークした。ガンナは中間計測こそ少し遅れを取ったが、得意のコース後半で加速。フィニッシュ時点で暫定トップに立つ。

惜しくも2位で第1ステージを終えたワウト・ファンアールト

惜しくも2位で第1ステージを終えたワウト・ファンアールト

続いてコースへ繰り出したファンアールトは、大会直前に痛めた膝の心配を吹き飛ばす走りでガンナのタイムを5秒更新。このステージで最も勝利に近いとされた現役世界王者を数分でホットシートから追いやった。次に走り出したポガチャルはファンアールトとの差を2秒にとどめ、3週間を見据えるうえでは上々の走り。

この時点で、「勝負あり」と見る向きも強かった。前述したように、有力どころが前半スタートに集中していたし、雨でウェットな路面コンディションも変わらないし...。でも、ロードレースというものは、最後の最後まで分からない。それは、2年前のツールで十二分に心得たはずなのだけれど...。

われわれにそんなことを思い出させてくれたのは、105番目に出走したイヴ・ランパールト(クイックステップ・アルファヴィニル)だった。6.7km地点に設定された中間計測こそトップから5秒差で目立たぬ存在だったが、多くの選手が慎重に走っていたコース後半を攻めに攻めた。その勢いは最後まで衰えることはなく、フィニッシュタイム15分17秒で走破。それまでトップだったファンアールトを5秒上回ってみせた。

「今日のコンディションからして、トップ10に入れれば良いと思っていた。確かに調子は良かったけれど、こんなことが起きるなんて想像すらしていなかった。勝因は…恐れずにコーナーを攻めたことだと思う」(イヴ・ランパールト)

その通り、直線部分の平均スピードはファンアールトを下回っていたが、コーナースピードで他を圧倒。テクニカルなコースレイアウトに加えて、雨というコンディションを考えると、アベレージスピード51.821kmは驚異的な走りだったといえるだろう。

ホットシートに腰を下ろしてからは、たびたびおどけていた彼だけれど、最終走者まで見届けて勝ったことを確認すると人目をはばからず涙、涙、涙…。ちょっと落ち着いたところでポディウムに上がったけれど、キャリア初めてのマイヨ・ジョーヌに袖を通してやっぱり涙、涙、涙…。フランス放送局のインタビュー中にチームマネージャーのパトリック・ルフェヴェルが姿を現すと、また涙、涙、涙…。ツール出場3回目、31歳がやり遂げた大仕事。達成感とともに、新型コロナ感染で直前にメンバー外となった親友のティム・デクレルクへの思いも去来した。頬を濡らしたのは雨よりも、涙の方が多かったに違いない。

最終的に、ランパールトから5秒差でファンアールトが2位、同じく7秒差でポガチャルが3位。総合系ライダーでは、ヴィンゲゴーが15秒差の7位、ログリッチが16秒差の8位。まだまだ始まったばかりで、その差も小さいとはいえ、大会初日からポガチャルが最終的なマイヨ・ジョーヌ争いのポールポジションに立ってみせた。このあたり、今後のレースの流れにどう反映されるだろうか。

新型コロナに翻弄された過去2大会を忘れ去ろうとするほどに、いつになく華やかに始まったツール・ド・フランス。熱気あふれるデンマークでの旅は、もう少し続く。第2ステージは、終盤にデンマーク最大の橋「グレートベルト・リング」を通過する。全長18km、常に海からの強風が吹いているというこの区間は、プロトンに何らかの影響を与える可能性が高い。そこにはどんなシナリオが待っているのだろうか。

雨の中多くの観衆が選手たちの走りを見届けた

雨の中多くの観衆が選手たちの走りを見届けた

●ステージ優勝、マイヨ・ジョーヌ、マイヨ・ヴェール イヴ・ランパールト コメント
「本当に信じられません。こんな結果が待っているとは思ってもいなかったし、どのようにして勝ちに結びついたのか、まったく理解ができていません。スタートする前はトップ10入りできれば良いと思っていたけど、世界トップクラスのライダーたちに勝つことができました。私はベルギーの農家の息子で、こんなことができてしまうなんて考えたことはありませんでした。うれしくて、胸が張り裂けそうです。

路面は濡れていましたが、コーナーのたびに“イヴ、タイヤを信頼して攻めるんだ”と言い聞かせながら走りました。2位に5秒差をつけられたのは、それが理由だと思います。

この勝利を実感できるのは、ツールを終えて家族のもとへ帰った時でしょうね。自分がしたことをとても誇りに思うし、ポディウムにいる間はチームのことや(新型コロナ感染でメンバーから外れた)ティム・デクレルクについて考えていました。彼とは親友で、一緒にツールを走れないことがとてもさみしいです。もちろんこの勝利には満足していて、マイヨ・ジョーヌに袖を通せたことも光栄に感じています。」

●ステージ2位 ワウト・ファンアールト コメント
「このタイムトライアルに集中していました。それだけに、2位という結果は残念でなりません。気持ちを切り替えて明日に備えるしかないですね。できればマイヨ・ジョーヌを着用したいです。この先のステージでボーナスタイムを得て、イエローのジャージに袖を通すことができればうれしいですね。」

●ステージ3位、マイヨ・ブラン タデイ・ポガチャル コメント
「ツール・ド・フランスの開幕にふさわしいタイムトライアルにすることができました。悪天候でしたが集中できていて、沿道からの歓声を楽しみながら走りました。デンマークのファンは自転車を愛しているのですね。個人的にはコーナーではリスクを冒さず、慎重に走りました。第1ステージを終えて、調子の良さを感じていますし、個人総合成績を意識するうえでも十分な結果になったと感じています。」

●ステージ4位 フィリッポ・ガンナ コメント
「正直、どこに敗因があるのか分かりません。脚の痛みを感じるまでに攻めたつもりだし、直線ではパワーの限りを尽くしました。強いて挙げるなら、コーナーを慎重に行き過ぎたことくらいでしょうか。他のビッグネームと同様に早めのスタートで雨を避けたかったのですが、結果的に雨の中でのレースになってしまいました。同じ条件下で私より速い選手がいた以上、言い訳することはできません。」

●ステージ5位 マチュー・ファンデルプール コメント
「一時的にトップに立ったことに満足しているが、何よりも調子の良さを実感できたことがうれしいです。ガンナやファンアールトに勝つにはTTのトレーニングが不足しているし、それが実際の結果にも現れたと思います。雨を避けようと早めの時間帯にスタートすることを選びましたが、結局のところ雨の中で走ることになりました。

マイヨ・ジョーヌは、今後のステージでチャンスがあれば狙っていきたいです。いまはまずしっかりとレースを進めていくことに集中していきますが、総合トップとの差が大きくなければパヴェステージ(第5ステージ)でマイヨ・ジョーヌに手が届くかもしれません。」

第1ステージ結果
1 イヴ・ランパールト(ベルギー/クイックステップ・アルファヴィニル)in 15’17”(Avg.51.821km)
2 ワウト・ファンアールト(ベルギー/ユンボ・ヴィスマ)+0’05”
3 タデイ・ポガチャル(スロベニア/UAEチームエミレーツ)+0’07”
4 フィリッポ・ガンナ(イタリア/イネオス・グレナディアーズ)+0’10”
5 マチュー・ファンデルプール(オランダ/アルペシン・ドゥクーニンク)+0’13”
6 マッズ・ピーダスン(デンマーク/トレック・セガフレード)+0’15”
7 ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク/ユンボ・ヴィスマ)ST
8 プリモシュ・ログリッチ(スロベニア/ユンボ・ヴィスマ)+0’16”
9 バウケ・モレマ(オランダ/トレック・セガフレード)+0’17”
10 ディラン・トゥーンス(ベルギー/バーレーン・ヴィクトリアス)+0’20”

個人総合時間賞(マイヨ・ジョーヌ)
1 イヴ・ランパールト(ベルギー/クイックステップ・アルファヴィニル)in 15’17”(
2 ワウト・ファンアールト(ベルギー/ユンボ・ヴィスマ)+0’05”
3 タデイ・ポガチャル(スロベニア/UAEチームエミレーツ)+0’07”
4 フィリッポ・ガンナ(イタリア/イネオス・グレナディアーズ)+0’10”
5 マチュー・ファンデルプール(オランダ/アルペシン・ドゥクーニンク)+0’13”
6 マッズ・ピーダスン(デンマーク/トレック・セガフレード)+0’15”
7 ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク/ユンボ・ヴィスマ)ST
8 プリモシュ・ログリッチ(スロベニア/ユンボ・ヴィスマ)+0’16”
9 バウケ・モレマ(オランダ/トレック・セガフレード)+0’17”
10 ディラン・トゥーンス(ベルギー/バーレーン・ヴィクトリアス)+0’20”

ポイント賞(マイヨ・ヴェール)
イヴ・ランパールト(ベルギー/クイックステップ・アルファヴィニル)

ヤングライダー賞(マイヨ・ブラン)
タデイ・ポガチャル(スロベニア/UAEチームエミレーツ)

チーム総合時間賞
ユンボ・ヴィスマ 46’27”

文:福光 俊介

福光 俊介

ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う

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