人気ランキング

J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題

J SPORTS IDの登録(無料)はこちら

メルマガ

お好きなジャンルのコラムや
ニュース、番組情報をお届け!

メルマガ一覧へ

コラム&ブログ一覧

サイクル ロードレース コラム 2011年7月16日

【ツール・ド・フランス2011】第13ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
  • Line

3度目の正直、ではなく、5度目の正直さえ叶わなかった。第1ステージのゼロkm地点でロングエスケープを切ったのをきっかけに、ジェレミー・ロワ(FDJ)は着実にエスケープ距離を積み重ねてきた。その距離、通算約660km!しかも長い逃げだけでなく、最終盤のアタックにも挑戦してきた。第12ステージではトゥルマレ先頭通過で名誉あるジャック・ゴデ賞も手に入れた。しかし、どうしても区間勝利だけは手に入らなかった。

ピレネー3連戦の中日は、「難関山岳ステージ」とは言ってもコースの終盤に大きなオービスク峠がドン、と構えているだけ。細かい起伏が続くため、さすがにピュアスプリンターには苦しいが、区間勝利は決してヒルクライマーだけに許された贅沢ではなかった。きっと自分にも何とかできるに違いない……と考えた多くの選手たちが、スタート直後から激しいアタック合戦を繰り広げた。ロワもその1人。「ボクはチャンピオンじゃないから。遠くから飛び出すしかないんだ」と語ったように、スタートから50km地点で大きな一発を繰り出した。そこに9選手が合流すると、マイヨ・ジョーヌのトマ・ヴォクレール(チーム ユーロップカー)が統制するプロトンは静かに減速。あっさり大逃げを許容し、10人はステージ優勝に向けて走り出した。

オービスク峠の登坂口で真っ先に加速を切ったのは、世界チャンピオン「アルカンシェル」ジャージで先頭集団を華やかに彩るトル・フースホフト(ガーミン・サーヴェロ)。ここでもロワが激しい努力で追いつくと、登坂半ばでフースホフトを振り払って、単独で山を登り始めた。

「2分くらいならば遅れてもいいと計算していたんだよ」。濃霧と、鈴なりの観客に囲まれながら、ロワが山頂を先頭通過した頃、フースホフトはこんな風に考えていたという。実際、ブエルタ3年連続山岳賞ダヴィ・モンクティエ(コフィディス ルクレディアンリーニュ)が1分半ほど、さらに過去パリで2度のマイヨ・ヴェールに輝いているフースホフトが2分ほどの差で山を越える。そしてフースホフトの計算は見事に当たった。「小さい頃からの自転車遊び、そしてスキーのおかげで下りは得意なんだ。それにボクは下りでは5m先を見ない。むしろ50mから100m先を見て、道の地形や危険をあらかじめ察知する」と語った下り後者は、まずは山を下り切る前にモンクティエをとらえた。さらに残り3kmのアーチをくぐった瞬間に、協力的ではなかったモンクティエを振り払うと、フースホフトは全てを賭けて加速した。

「計算できないものなんて世の中に何もない。ただ力が足りなかっただけ」と、フランスの最高学府でエンジニアの国家免状を取得したロワは悔しがる。ラスト2.5kmまで必死に努力し続けてきたロワだが、もはや何も出来なかった。王(フランス語でロワ、綴りはRoyではなくRoi)は破れ、雷神(北欧神話の神、トール)が槌を振り下ろした。

フースホフトにとってはツール個人通算9勝目。今ツールはチームタイムトライアルを制し、マイヨ・ジョーヌさえ7日間着用した。大成功の2011年大会であと1つ足りないものは区間勝利だけと語っていたが、フィニッシュラインを先頭で越えた世界チャンピオンは、これで欲しいものを全て手に入れたことになる。

一方のロワは人生最後のツールを戦うモンクティエにも追い越され、区間3位でゴール地にたどり着いた。山岳賞マイヨ・ア・ポワ・ルージュも、今大会2度目の敢闘賞ドサール・ルージュも、大きすぎる失望を癒すことなど出来なかった。「がっかりだ。この気持ちを上手く消化できないよ。苦渋を飲み込めない。今日もまた失敗だ」。副賞ジャージはパリで獲得しなければ、単なる一過性の飾りにしか過ぎない。一方の区間勝利は一生涯の勲章となる。「ブラヴォー」の声にも笑顔になれないほど、ロワの落胆は大きい。「この敗北をいい思い出にするためには、あと数日は必要だろうね」

前日のレースを大いににぎわせた総合争いの選手たちは、マイヨ・ジョーヌのヴォクレールと共に、この日は何事もなく静かに7分37秒遅れでステージを終えた。ただ連日攻撃的に突き進むフィリップ・ジルベール(オメガファルマ・ロット)だけが、後方集団からアタックを仕掛けると、単独10位でゴール。「平地ではポイント獲得が難しいから、起伏のある日を狙うしかない」と語っていたように、ゴールポイントを6pt手に入れた。また2日前までは総合本命の1人だったアンドレアス・クレーデン(チーム・レディオシャック)が、前日の落車から立ち直ることが出来ずに、ツールから立ち去っている。


●トル・フースホフト(ガーミン・サーヴェロ)
区間勝利

これまで手にしてきたツール区間勝利の中で、最も美しい勝利だよ。だって難しいオービスク峠を越えたし、独走勝利というのはすごく特別なものだし、なによりアルカンシェルジャージを着ての優勝だったからね。すごく感動している。こんな快挙が自分に可能だとは思っていなかった。最も美しい勝利だよ。

上りでは2分くらいならば遅れてもいいと考えていた。でも実際はどれくらい自分が遅れているのか分からなかったんだ。とにかく下りでタイムを縮められると分かっていた。そしてモンクティエに下りの最終盤で追いついた。でもモンクティエは最初こそ協力してくれたんだけど、最終盤はほとんど引かなかくなった。だったら自分1人で最後まで全力を尽くそうと決めたんだ。2位争いのためにスプリントなんかしたくなかった。むしろ全力を尽くして負けたほうがいいと思ったんだ。

何度も言ってるけど、マイヨ・ヴェールはボクの目標ではない。確かにボクにとってジャージ獲りはそれほどの難題ではないかもしれない。今大会は難しいゴール地形が多くて、つまりピュアスプリンターよりはボクの方が簡単にポイントを取れるはずだからね。それでもマイヨ・ヴェールはボクの目標ではないんだ。この10日間を振り返っても、何の後悔もないよ。それにジャージを狙っていないおかげで、プレッシャーが軽減されるんだ。おかげでこうしてロングエスケープに乗れたし、最高に美しい勝利を手に入れることが出来たんだ。

●トマ・ヴォクレール(チーム ユーロップカー)
マイヨ・ジョーヌ

ステージ序盤が一番難しかった。多くのアタックが巻き起こった。時には15人から20人もの大人数が逃げを試みたし、時には総合上位の選手が滑り込んでいた。でも厳しい時間は、エスケープ集団が行ってしまうまで。その後はチームが非常にうまくコントロールした。確かにオービスクは難しかったけれど、それでも上手く進められた。

いつまで守れるか、もう宣言しない。さもないとまた嘘つきになっちゃうからね!明日は正直に言うと、どうなるかまるで分からない。でもチームはここまで大いに力を尽くしてきたから、少し疲れを感じ始めている。もちろんボクらは全力を尽くすし、状況を見ていくさ。明日は間違いなく、リュズ・アルディダンのステージよりも難しい。リュズ・アルディダンだってボクにはすごくすごく難しかった。とにかく、どうなるか見ていこう。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

  • Line

あわせて読みたい

J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題

J SPORTS IDの登録(無料)はこちら

ジャンル一覧

J SPORTSで
サイクル ロードレースを応援しよう!

サイクル ロードレースの放送・配信ページへ